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街へデヨウ

 中立国家群南東端の商業国家ツアル。

 帝国側から見れば北西にあり、中立国家群の中で最も帝国寄りの、大隊宿営地に一番近い都市国家である。

 主な産業としては布織物の生産、そして帝国と他の中立国家、皇国との交易の中継地点として栄えている。

 中立国家群は二大国のパワーバランスが崩れないよう立ち回る方針であり、現在は両国が拮抗している為、動く気配はない。

 それ故、大隊の帝国兵が休暇中に訪れることも問題視はされない。


 あれ以降、ルウカお嬢は毎日見舞いに来て、カードゲームだのチェスに似たボードゲームだのを持ち込んだり、流行りのファッションについて小一時間語ったりいろいろやっていた。

 お嬢が配属されたのは、安定感に定評のあるキーメルス少佐率いるスノーメイデン隊だが、放っておいていいのかよ。


「お嬢、軍務で来てるはずなのに、なんで毎日来てるんだよ、暇人か」

「ええ、実は私用に手配されている魔導兵器の最終調整が上手くいっていなくて、待機になっているのですわ。コールです」

「っと、そんな特殊な仕様の機体なのです?あ、それカウンター」

「ええ、量産型第三世代機仕様エルバーンの試作機ですわ。通します」


 エリサ、アンとカードゲームをしているお嬢に尋ねてみる。

 量産型ってエディナ様が帝都で開発してるアレか、いよいよ実用化間近というわけか。


「ういッス、先日自分が大隊に呼び出されたのもその件ッスね。役には立たなかったッスけど。グロウアンドアタック」


 ああ、そういや言ってたな。結局うまくいってないってことか。

 皇国軍も第三世代機を繰り出してきたから、配備急がないとまずい気がするんだが。


「ええ、第三世代機運用中のエリサ中尉とアン少佐にレクチャーしていただいてる事になっていますわ。ガードアンドリターン」

「っと、実用的なことは何も言っていないです。スタンピードエフェクトオールアタック」

「ういッス、せんぱいが優秀だから、あんまり自分らがやる事無いッスもんね。投了ッス」

「ええ、委員長とお話しさせていただいているだけで勉強になりますわ。投了」


 お嬢曰く、細かい所に注意してくる所がクラス委員長っぽいとかで、委員長と呼ばれるようになった。

 正直、意味は全く分からないが。


「っと、私は明日で退院しますけど」


 そう、アンもようやく傷が癒えて、部隊に復帰することになったのだ。

 明日病室を引き払って、明後日は一日休暇、その翌日から軍務再開である。


「ええ、その件なんですけど、せっかくですから空き時間に皆で中立都市まで行きませんこと?」

「中立都市ッスか?一番近い所だと商業都市国家ツアルッスね」

「っと、明日すぐに出て、明後日夜までに戻れば問題ないです。しかし急にどうしてです?」

「折よくその日程で買い出し部隊が、ツアルに向かうのですわ。外出申請を出せば同行させていただけます」


 カードを片付けるのは最下位になったエリサである。

 勝敗の結果はアンがダントツの一位だ。

 

「ええ、もう皆で集まれる機会などそうはありませんし、それに、街を委員長に見ていただきたいのです」


 そうか、お嬢せっかくできた友達と遊びたいんだな……って、俺?


「あ、それ自分も前から気になってたんッス。せんぱい研究所と駐屯地しか知らないッスから。もっといろいろ見てほしいッス」

「っと、そういうことなら賛成です。お兄ちゃんと一緒にお出かけです」

「気持ちはありがたいんだが、いいのか?貴重な休暇を使って」

「ええ、かまいませんわ。私たちも街で羽を伸ばしたいですから」

「っと、実益をかねて一石二鳥です、お兄ちゃんは気にしないでいいです」


 考えてみれば俺もずっと研究所や格納庫、宿営地にしかいなかったから、本格的な街中ってのは初めてなんだ。

 しかもずっと魔導兵器か機動装置の体で自由に動けず、飯や風呂も無く、読書やゲームといった娯楽もない状態で過ごしていた訳だ。

 我ながら、禁欲的な生活を送ったものだ。

 これで今まで寂しさや、何らかの欲求を感じなかったのは、常に誰かが傍にいてくれたおかげだ。

 研究所ではずっとエリサが居たし、先日のエリサ不在時はアンが同居してくれた。

 

「ああ、ありがとう。俺も一緒に連れて行ってくれ。俺もこの世界を見てみたい」


 後で思い返せば、この時初めて俺はこの世界の住人になったのだ。

 かくして俺は3人の美少女と街にお出かけという事態になった。

 体はトライクのままだけどな。


 ルウカお嬢が外出許可を取り、買い出し部隊への同行も許可された。

 俺たち以外にも戦地を離れて休暇を取ろうという奴も何組かいたので、問題ないみたいだ。


 俺たちは買い出し隊と別れると、私服に着替えた3人合流し街に出る。

 エリサは飾りっけのないシンプルなシャツにジャケット、ショートパンツという動きやすさを優先した格好で、ぶっちゃけ普段とあまりイメージが変わらない。

 アンは白いブラウスにタイトスカートというフォーマルな格好で、おおよそイメージ通り。

 お嬢はイメージ通り、フリルのついたふわっとした丈の長いワンピースにショールを羽織って、いかにもお嬢様然とした恰好でイメージ通り。


「君たち、私服は全く捻りが無いのな。特にエリサ、そんな普通にかわいい格好して芸人としてどうよ」

「っと、お兄ちゃん、捻る意味が無いです」

「ええ、委員長、宿営地に持ち込める私物には限りがありますわ」

「ひどっッス!せんぱい、芸人じゃなくて軍人ッス、デートに来ていく服で笑いを取るほど芸に全てをささげてないッス、え、普通にかわいいッスか?いやー、せんぱいこそもっと素直に褒めてくれていいんッスよ、てれてれ」


 きっちりリアクション芸を決めてくれる期待通りのエリサだ。

 俺は背の上に病み上がりのアンを乗せ、速度は少女たちに合わせて人が歩く程度で進む。

 久しぶりにに味わう街の喧騒に歓喜。

 

 趣味の温泉も食べ歩きも、もう味わうことは無いだろう。

 その分楽しく過ごす女の子たちを眺めて堪能するか。

 君たちは俺の分まで長生きして青春を謳歌してくれ、命がけの軍人だけど。


 とりあえず少女たちは公園の屋台でクレープのような片手で食べる甘味を買ってきた。

 食い歩きながら、街を見て回ることにする。


「近隣でドンパチやってる割に、中立都市の中は平和なもんだな」

「ソッスね。ガチで都市の奪い合いやってる東部はともかく、こっちは大きな動きがないッスからね」

「ええ、両大国のパワーバランスが大きく偏らなければ、中立国家群に実害が及びませんから、のんきなもんですわ」


 それを聞いて疑問が湧く。


「な、そもそも皇国とは何が原因で争ってんだ?」

「ええ、ご存じなかったんですの?」

「せんぱいが完成した時ははもう交戦状態になってたッスから」

「っと、お兄ちゃん知らずに戦ってたです?」


 今まで落ち着いて考える暇がなかったからな。


「ええ、ならばせっかくですのでお話しましょう。なぜ二大国に争いが生じたか」


 おお、またしても身ぶり手振り交えて語りだした。

 お嬢オンステージだ。

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