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進撃のオジョウ

 アンが怪我をして動けない間は、俺とエリサが病室に泊まり込み、世話をしていたのだが。

 ある程度回復し、1人で歩き回れるようになった時点で、泊まり込まなくてもいいんだが何故かエリサは帰ろうとしなかった。

 

「っと、エリサ。もう大抵のことは1人でできます、泊まり込まなくていいです」

「いえいえいえ、ここまで来たら退院までビシっとアンの面倒見るッスよ!」


 元々年齢も近いし、性格の相性も良かったのだろう。ずっと一緒に行動してたせいで、プライベートでは呼び捨てで呼び合うほど仲良くなっていた。


 アンは幼少期も士官学校時代も周辺から浮いていて友人がいなかったというから、エリサとは程よい関係が築けて何よりだ。


「それはいいんだけどさ。エリサ妙に手際いいな、他の事は不器用なのに」

「ういッス、実は自分看護兵の資格持ってるんッス」


 おお、ここで意外な特技が発露した。

 何でも士官学校時代に選択していたとか。

 身に着けた技能が活かせるのが嬉しいという気持ちもあるのだろう、エリサは『お嬢様のお世話をする専属メイドさん』プレイを退院するまで続けるつもりらしい。

 と、思っていたらアンの士官学校時代の知り合いという子が見舞いに来た。


「アン、お友達がお見舞いが来ましたッスよ」

「っと、私は士官学校時代は飛び級して、周辺から浮いてましたです。だから友達も話す相手もいなかったです」

「まじッスか?嫌なら帰ってもらうッスけど」

「っと、いえ、通してください、一応会ってみますです」


 以前のアンなら追い返していただろう、エリサの影響でいい方向に変わってきたかな。

 そして入ってきたのは帝国軍制服を着用した、釣り目でちょっときつめの顔立ちをした、金髪をサイドテールにまとめたお嬢様然とした女の子だ。


「ええ、お久しぶりですわセカン少佐。戦場で負傷したと聞いて様子を見にきましたわ」

「っと、誰です?」

「アン……副長の知り合いじゃなかったんッスか?」

「っと、知らない人です」


 それを聞いて、ムッと不機嫌そうな表情を浮かべる女の子。


「ええ、あなたと士官学校の同期だったルウカ・マーカス大尉ですわ!成績一位の座を競い合っていた私をお忘れになったとでもおっしゃるの!」


 マーカスというと大隊長と同じ家名だ、このお嬢も門閥貴族の出身なのかな。

 アンは首をかしげて考え込む。


「っと、同期の方の事はよく覚えていないです。私飛び級して浮いてましたので、同期の方と話したことはほとんど無いです」

「競い合ってたんッスか?たしか副長の世代はアン副長が一位圧勝、敵ナシだったッスけど」

「ええ、成績発表の時は常に二位でしたわ!私たちの名前があたかも戦場で常に背中を預け合うパートナーのように並んでいましたのに、覚えて無いとおっしゃるの!?」


 ああ、なんかゲーセンとかソシャゲのランキングで、ほぼ毎日同順位に名前が並んでて、知り合いでもないのに名前だけよく見てるうちに友達気分になる現象みたいなもんか。

 俺もゲーセンでやりこんだ電装戦士バーチャリオンで、よく名前が並んでいたMTALEって奴には親近感持ってたわ、会ったこと無いけど。


「っと、ごめんなさい。他者の順位までは気にしてなかったです」

「ええ、セカン少佐、あなたに相手にされていないことは薄々感付いていましたが、ここまで眼中になかったなんて思いませんでしたわ」


 かなりがっくりした様子だ、orzみたいな格好してるからパンツ見えてるぞ。


「ええ、貴方は同期の中でも孤高の天才として一目置かれ、周囲の人々を寄せ付けない独特の雰囲気を持ってらしたですものね。当時、生まれの高貴さと才能を鼻にかけ、権力目当てにする寄ってくる取り巻きたちに囲まれ奢り高ぶっていた私は」


 独白はじまったーー!


「ういッス、マーカス大尉、長くなるんならお菓子食べながらでいいッスか?お茶入れるッスよ」

「ええ、どうぞお召し上がりになって。今日は帝都銘菓うまぴーちあ特上味をお持ちしましたのよ」

「っと、それは良いものです、いただきますです」

「ええ、あ、私のことはファーストネームで呼んでいただいて構いませんわ。ファミリーネームだと大隊長のマークス叔父様と混同されることがありますから。で、そこの腋の臭いメイドのあなたは?」

「うぃッス、自分はシルバーフォックス隊のエリサ・サニー中尉ッス。今回は負傷したアン副長のお世話係を命じられ、食事の上げ下げから下のお世話までやらせていただいてるッス」 


 初対面で年下階級下のエリサにも割と気さくに対応してくれてる、意外といい人だな、お嬢。

 そしてお茶を入れるエリサと、お菓子を皿に空けるアン。

 うまぴーちやは、モモのドライフルーツをふんだんに使った甘い焼き菓子で女性兵士に人気がある。

 使っているモモのランクで特上・上・並の3ランクがあり、特上クラスはかなりお高い、俺は食えないんだけどな。


「と、帝都銘菓うまぴーちや特上味、おいしいです」

「もぐもぐ、これ高いんッスよね。あ、続きどーぞッス」

「ええ、コホン。……どこからでしたっけ?」

「っと、『生まれの高貴さと才能を鼻にかけ奢り高ぶっていた私は』の辺りからです」

「ええ、ありがとう、では改めまして」


 律儀にもう一度orzみたいなポーズを取るお嬢、だからスカート短いからパンツ見えるんだって。

 こんなけしからんデザインの制服を押し通すとは、百戦錬磨のグラハム・ブラムド少佐いい仕事しすぎだ。


「ええ、奢り高ぶっていた私は貴女と出会い、その才能と努力に裏打ちされた圧倒的な実力、そして取り入ろうとする下衆な者たちを寄せ付けない気高く誇り高く超然とした立ち居振る舞いに、感銘を受け己の弱さ未熟さを自覚し、そしてあなたに憧れたのですわ」


 エリサとアンはそれを背景に、うまぴーちやをつまみながら、オーディオコメンタリーしてる。


「っと、学費免除の特待生でしたから成績取らないと、援助打ち切られますから努力はしますです」

「ういッス、特待生あるあるッスよね」

「っと、周囲を寄せ付けないというか、周りが年上ばかりで接し方が分からなかっただけですし、周囲も扱いかねていただけです。休憩時間は寝たふりしてましたし、ご飯はいつも便所で食べてましたです」


 それで便所飯か、アンの飛び級エピソードって闇が深いな。


「ええ、そして私は改心し、そんな貴女に近付こうと努力を重ね、権力目当てにすり寄ってくる下衆な輩とは縁を切り、共に切磋琢磨できる友を得、やがて成績二位にまで昇りつめたのですわ!」


 立ち上がってオペラ座の主役のように身振り手振りを交え語るお嬢。

 ごめん、立っててもパンツ見えるわ、俺目線低いから。


「ええ、そして卒業を迎え、貴女は成績首位即戦力とみなされ中尉待遇で入隊、前線で戦功を上げ瞬く間に少佐にまで駆け上がる。一方私は後方勤務で燻り今一つぱっとしないまま時が過ぎ去りましたのですわ」


「っと、今思い返せば昔の自分は色々と態度が良くなかったと省みるべき部分がありますね」

「アンやカリナ隊長みたいな昇進速度が特殊ッスから、ルウカ大尉も卑下することは無いんッスけどね」


「ええ、ですが勇名を響かせる貴女に完全に置いて行かれる形になった私は、肩を並べるために手段は選んでいられません。家の権力とコネを利用し前線へを赴き、有力な部隊へ編入し無理に戦功を上げ階級を引き上げましたわ。そしてマークス叔父様に無理やり頼み込んで実家の権力で軍上層部に圧力をかけ、ようやくあなたと同じ場所にたどり着きましたのですわ!」


 コネと権力フル活用してるやん!改心どこいった。


「ちょっといいかな、お嬢」

「ええ、何故かベッド脇に鎮座されてる機動装置が喋ったですわ!?」

「いや、俺はルイン・リミテッドのサポート装置のダイジローササキ。今は非常持ち出し機能を使ってここでアンの移動のサポートをしている」

「あら、そういうこと。ええ、聞いたことがありますわ。シルバーフォックス隊の第三世代試作機は人間同様の完全な感情と思考を持っていると聞きましたわ、納得ですわ」


 物分かりが良いな、基本的に頭は悪くないはずだよな、成績二位だし。


「な、お嬢、アンと友達になりたくて配属希望して来たのか?」

「ええ、今度こそ関系作りをやり直せるんじゃないかと思いまして。でも全然覚えてもらえていませんでしたし、なんだか昔より雰囲気が柔らかくなっててびっくりしましたわ。良い仲間たちに恵まれたようで……もう私の出る幕はありませんのですわ、ぐすん」

「っと、ルウカ大尉。お見舞いに来てくれたことは嬉しいと思いますし、お菓子もおいしいので改めて良い関係を築こうと努力することもやぶさかではないです」


 地味にお高い菓子が利いてる、やはり菓子にかける金はケチっちゃ生けないな。

 お嬢は嬉しそうに表情を輝かせアンの手を握って感激している。


「ええ、ぜひともよろしくお願いしますわ!」

「あのー、盛り上がってるところ申し訳無いんッスけど、そろそろ時間が……宿舎に戻らないと夕食に遅れるッスよ」

「はっ、ええ、いけませんわ、御注意ありがとうございますわ、サニー中尉」


 いつのまにか結構時間が経ち、外は暗くなりだしていた。


「ういッス、自分の事もファーストネームでいいッスよ」

「っと、私もそれで。お互い様ですので」

「ええ、ありがとうございます、アン少佐、エリサ中尉。では今日は失礼しますわ。ではまた」


 そう言って嬉しそうに手を振って出てゆくルウカお嬢。

 少しズレた所はあるが、悪い人ではなさそうだ。

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