積みすぎたブソウ
俺たちが居るマーカス大隊は、西部戦線司令官マークス・マーカス中将の直轄部隊である。
マーカス中将は門閥貴族の出身で、帝国内部で復権を図る門閥貴族勢力が発言権を増すため金と権力で後押しして今の地位に持ち上げられたのであるが、偶々本人が公平で実務能力はある人物であった為、現場において不具合は生じていない。
現在の西部は周辺の魔族領、中立国家群との関係性もあり、たまに小競り合いがあるくらいで大きな動きはない。
先日の一件は次世代機の情報収集、若しくは強奪が目当てであろうと結論付けられた。
ディライザーに乗っていたアホの女の子が同郷の異世界人っぽかったのはエリサとアン、カリナには話したが上層部への報告は保留となった。
その後しばらくは皇国軍に大きな動きは無かったため、俺たちも出撃の機会は訪れなかった。
アンの様態は順調に回復しており、腹に傷跡は残るが軍務を続けるに支障はない。
エリサはかわいい看護服でアンの治療と看護をしている。
二人はほどよく打ち解けて、仲の良い姉妹か親友のようになっていた。
マシュロは副長快気の祈り歌とやらを、一晩中大声で歌って部隊を安眠妨害したので独房にブチ込まれた。
カリナは雑務、チセは魔導兵器の修繕と改装、と忙しく日々を送っている
そうしてアンが起き上がれるようになった頃、機体の修復も完了した。
予想はしていたが、乗機の配分で揉めることになった。
俺たちは食堂に集められ、隊長であるカリナの権限で受け持ちを言い渡されるのだが。
「あは、エルバーンは指揮官用だから、私専用やね。支援ディガスは修理不能なんで廃棄、代わりに大隊からライブラスが支給。マシュロのルインは撃破されたグレイダンサーズ機の残骸とニコイチして復活、新規支給のルインをアンでどうやね?」
「っと意義ありです。お兄ちゃんに入れて欲しいです」
「はぅあ!?副長、抜け駆けはズルイッス、自分もせんぱいのが欲しくてたまらないッス」
アンは回復してからもナチュラルにお兄ちゃん続行で、俺に対してはかなり甘えた言動をするようになった。
性格が変わったというより、今まで年齢不相応に高い階級と立場に置かれ抑圧されていた本性が、甘えてもいい相手が現れたことで表面化した、とチセは分析している。
退行化してる気がしなくもないが、悪い傾向ではないらしいので受け入れざるを得ない。
周囲のツッコミも無くなったし気にしないことにしよう。
「くふふ、ライブラス、帝国で最も熱く遅く薄い機体ですね。相当な腕前がないと使いこなせませんので、実力者のマシュロ中尉に譲ります」
「ほぅ、骨占いでも……ごめん、ライブラスだけは無しでお願いします」
エリサとアンがルイン・リミテッドの取り合いで、チセとマシュロがライブラスの押し付け合いで揉めた。
「なぁ、なんでそんなにライブラスを嫌がるんだ?重量級高火力の支援機体じゃないのか?」
「くふ、確かにライブラスは固定武装の塊と言われる、重武装機ですよ」
「ほぅ、武装積みすぎたせいで、重くて動きが鈍いだね」
「あは、武装積みすぎたせいで、装甲が削られて薄いやね」
「っと、武装積みすぎたせいで、魔導水容量が足りなくてすぐ弾切れです」
「ういッス、武装積みすぎたせいで、放熱が追い付かなくて全砲門同時射撃できないッス」
なにそれ、積みすぎた武装がまるで活かせない!
「くふ、武装積みすぎたせいで、上半身重くてバランス悪くてすぐこけますよ」
「ほぅ、武装積みすぎたせいで、腕まで砲門になってるからこけるとなかなか起き上がれないだね」
「あは、武装積みすぎたせいで、腕まで砲門になってるから、白兵戦武器持てないやね」
「っと、武装積みすぎたせいで、邪魔になってセンサー類の感度が悪いです」
「ういッス、武装積みすぎたせいで、故障しやすく掃除やメンテナンスがめんどうくさいッス」
納得したけど、そんな機体押し付けんなよ。
「あは、他の部隊が使いたがらないから押し付けられたやね、てへぺろ」
どことなくカリナのテンションがおかしい。
アンとチセも不審に思ったのか、揺さぶりをかけ始めた。
「くふふ、先日聞いた話ですね、ディライザーに手も足も出ず壊滅させられたグレイダンサーズ隊に帝都で新規生産のルインが支給されたらしいですよ」
「っと、私たちと共に戦った陸に転がるマグロ隊にも、失った機体の分に新規生産のルインが補充されたと言ってたです」
「くふふ、で、一番戦功のあった私たちに、破損機体のニコイチと中古の欠陥機、エルバーンはもともと隊長の乗機が返ってきただけで……何かおかしいですよ」
「ほぅ、骨占いでは隠し事豚の角煮鹿カレーコトコトだね」
マシュロまで事態の異常さに気が付いた。
てか、魔道兵器もう1機あったような気がするんだが。
「そういやカリナ隊長の乗ってた重装型ディガスどした?余ってるんじゃなかったのか?」
「はぅあ、実は先日大隊に報告来た時、隊長が重装型ディガスを格納庫でこかして壊したッス」
「あは、こらエリサ、ナンで言っちゃうの!!帝都銘菓うまぴーちや並味あげたやね!」
「しまったッス、巧妙な誘導尋問にひかっかったッス!さすがせんぱい、なんて狡猾な!!帝都銘菓うまぴーちやが上味だったらこんなことにはならなかったッス」
誰も誘導してないけど、エリサから情報漏洩来た。
買収の菓子代ケチると碌なことにならねーな。
「駐車場でぶつけて壊してそのまま逃げる系の人みたいなことすんな。ライブラス押し付けられたのはそれが原因だろ」
「あの時は大変だったッス。他機も巻き込んで大被害が出てマーカス中将が胃痛で倒れたッス」
「あは、それで代わりがないか聞いたら、ライブラスなら使ってもいいって言われてやね」
めっちゃ大事故やん。大丈夫かこの人。
「くふふ、では隊長が責任をもってライブラスを運用してくださいよ」
「っと、意義のある人挙手です」
カスにはカスがお似合いだと言わんばかりの勢いで、多数決でライブラスはカリナ専用機になりました、帝国軍なのに何て民主的。
「あは、はぁ……じゃルイン・リミテッドは今まで通りエリサで、エルバーンはアンに託すやね、これは必要に応じて乗り換えていいから、テキトーにやっといて」
「ういッス、せんぱい、よろしくッス。専用機にならないのは残念ッスけど、せんぱいも副長も大好きッスから共有受け入れるッス」
「っと、お兄ちゃんは1人しかいないので仕方ないです。私はお兄ちゃんの二号さんでいいです」
お前らは何を口走っとるんだ……。
「あは、あと今回から正式に部隊名貰ってきたから」
「そういやマグロとかグレダンとか他の部隊は名称あったのに、ここは無かったな。知っているのかチセ?」
「くふふ、それはエリサ中尉が仮配属でしたからですよ」
隊長はドヤ顔で頷いた。
「あは、今回エリサが昇進して正式にメンバーが揃ったので、名乗ります!第五独立小隊はシルバーフォックス隊やね」
そう言って、手書きの狐の顔を模した紋章のようなものを掲げる。
もしやこれが部隊マークのつもりか?
「隊長、絵ヘタッスね」
「っと、さすがエリサ。私たちが思ってても言えなかったことを平気で言うです。そこに痺れます憧れです」
若手二人の容赦ない辛辣な評価。
カリナが部屋の隅でいじけちゃったよ。
部隊マークは後日、本職のデザイナーが描いたものがいただけました。
ロボモノを書くからには一度はやってみたかったライ○ルマンリスペクトネタです




