看護師のカッコウ
皇国軍の襲撃から一週間が経つ。
あの後、宿営地でアンに治療を施した俺たちは、大隊本陣まで移動することになった。
破壊された機体の回収、捕虜の護送、ケガ人の移送など、俺とエリサは輸送機として活躍したが運ぶものが無くなると手が空き、小隊が再編成されるまで手持無沙汰となった。
アンは軍医に治療を施され、大隊本陣宿舎のケガ人隔離病棟に移された。
幸い命に別状は無いが絶対安静だと言われ、病室で静かに寝ている。
所謂白魔法だの回復魔法だのというものは無いか尋ねたら、近代は神殿関係者のみしか扱えず軍内部に使い手は居ないそうだ。
カリナは細々とした雑務に追われ、チセと整備士たちは魔道兵器の修復作業に追われている。
回収した機体から使えるパーツを移植したり、大破した機体をニコイチしたりで時間がかかるらしい。
マシュロは、宿営地のド真ん中に木製の櫓を作って火を放ち、南の部族に伝わる回復祈願の踊りとやらを踊っているところを取り押さえられ、謹慎房に叩きこまれた。
こいつ実力があるのにずっと昇進できないのは、頻繁にこういう事をやらかしているからだそうだ。
百戦錬磨のグラハム・ブラムド少佐率いるグレイダンサーズ隊は帝都に引き上げとなり、メギル・ギョルイ大尉率いる陸に転がるマグロ隊は、俺たちと同じく大隊本陣で部隊再編成となり、現在は機体修復と雑務処理に忙しく動き回っている。
俺はしばらくルイン・リミテッド本体はメンテナンスされるので、トラに移りアンの傍にいることになった。
手足無き俺にできることはほぼ無いのだが、アン本人の希望でずっと病室で共に過ごすことになったのだ。
数日前、アンの意識が戻り目を開けた時、周囲にいた小隊メンバーに言ってしまったからだ。
「っと、お兄ちゃん……どこ?傍にいてです……」
「あは、アンに兄弟いたっけ?誰の事やね?」
「うぃッス、なんかせんぱいの事みたいッス。最近アン副長にそう呼ばせてたみたいッス」
「くふふ、乗機が少女にお兄ちゃんと呼ばせるとか何プレイですよ」
「ほぅ、回復の祈りが利いただね。骨占いによると変態反対めでたいたいだね」
いや待て誤解だ、なんで俺が強要したみたいになってる。
あとマシュロはまだ謹慎期間中だろ、さっさと隔離房に帰れ。
「くふふ、エリサ中尉不在の間、毎晩一つ同じ機体の中でくんずほぐれつ寝てましたからね。二人の間に深い関係が芽生えやがてそれは禁断の何かに変化ですよ」
「……せんぱい、ちょっと表に出ろッス。お話があるッス」
チセ変な煽りするな、同じ機体の中も何も、俺がその機体そのものじゃねーか。
くんずほぐれつってか、アンの寝相が悪くて一人でいろいろおかしなポーズとってただけだろ、俺は関知していない。
エリサはトラのハンドルを握り、俺を引っ張り出そうとするがアンが手を伸ばし反対側のギリップを握って止めた。
「っと、お兄ちゃん、行っちゃヤです」
苦痛と熱で頭が朦朧としているのか、普段からは考えられないくらい言動が幼児化し、かつ甘えん坊化してる。
これ正気に戻ったら恥ずかしいやつだよ。
「…………あは、エリサ。あのね軍人っていうのは多大なストレスのかかる仕事やね。厳しい訓練、厳格な上下関係、命がけの任務。それらによって削られた心身を癒すため、時に特殊な性癖をはけ口にすることもあるやね。だからこういう時は他人に迷惑が掛からない内は、見なかったフリをするのが大人の対応やね」
カリナ隊長、男子中学生のベッドの下から、特異嗜好のエロ本みつけた母親みたいに言わないで。
そんな「私はあなたの理解者よ」みたいな生暖かい目で見るの止めて。
「あは、特にダイジロは股間に聖剣抜刀研磨機能がついてないし、兄妹プレイで心を癒すくらいは見逃してあげようやね」
そんな機能ついてる魔導兵器あったら怖ぇーよ!
戦場でエレクチオンしたらどうすんだよ、敵味方みんな気まずいよ!
「はぅあ、しかしッス、病室に二人きりでいさせて何か間違いでも起きたらどうするんッスか、傷に触りますッス」
「いや待てエリサ、この文字通り手も足も出ないトライクボディで俺がナニをすると言うのかね」
「アレッスよ、こうシートに跨って前後に擦ったり、ハンドルの突起部分を大事なところに当てて動かしてみたり、副長もそういう事に興味津々なお年頃ッスから」
具体的な使い方提案するな生々しいわ、興味津々なのは前だろ。
アンは年齢の割に身長低くて小柄で痩せてて、エリサは比較的長身で尻と足にボリュームがあるから、年齢差ある的な感じしてたけど、一歳差だろお前ら。
「あは、二人きりや無いやね、エリサがアンの世話係。女子専用看護服も用意したやね」
「自分がッスか?魔導兵器の修理とかどうするんッス?」
「くふふ、エリサ中尉、先日トライク壊した一件お忘れですね?もう奴は関わらせるなとゼビ主任がお怒りですよ」
「ほぅ、骨占いでもエリサ中尉は、看護でビンゴ整備はメンゴだね」
こうして手が空いたエリサがアンの世話係として抜擢された。
そしてエリサはさっそく用意された服に着替えてきたのだが。
「せーんぱいっ!どうッスかにあうッスか?かわいいッスか?」
「はいはい、ギャルゲの学祭イベントでコスプレしたヒロインの一枚絵みたいにかわいいよ」
「言ってることの意味はさっぱり分からないッスけど、褒めてくれてるんッスよね、えへへー」
カリナが用意した帝国軍女子専用看護服というのが、無駄にフリルがついた装飾過剰なピンク色のメイド服だよ。
そういやこいつ、以前もメイドがどーのこーの言ってたし、コスプレ趣味的なものがあったのだろうか。
「自分も女子ッスから、かわいい服が着れて嬉しくないわけがないッス」
軍の正規備品としてどうかとは思うが、若い女性兵士からは意外と評判が良く、着たがっている兵も多いらしい。
エリサは形から入ってその気になったのか、身動きとれないアンのために病室に泊まり込んでかいがいしく世話を行った。
体を拭いたり包帯交換、塗り薬の塗布、食事の世話、起き上がれないので下の世話まで。
「っと、お兄ちゃんに引き続き、エリサ中尉にまで大事なところを見られてしまいましたです」
「せんぱい、遺言聞くッスから表に出ろッス」
誤解だよ。
そして帝国軍女子専用看護服の謎はしばらくして解決した。
「せーんぱいっ!副長の具合はいかがッスか?今日はギョルイ大尉とグドマン中尉がお見舞いに来てくださいましたッス」
容体が落ち着いた頃、陸に転がるマグロ隊隊長と副隊長コンビが謝罪と見舞いに来た。
エリサが促すと、見舞いの花束と菓子を持ったマグロ隊の二名が病室に入ってきた。
「こんにちは、セカン少佐。具合はいかがですかな?先日は我らがふがいないばかりにご迷惑をおかけした、改めて謝罪申し上げたい」
「っと、まだ起き上がれませんので寝たままの姿勢で失礼します。先日の戦闘は全員が最善を尽くした結果で、負傷は私の未熟さが原因です。気に病まれることは無いです」
長居は傷に触るとすぐに帰ったのだが、去り際にグドマン中尉が言った。
「今の帝国軍女子専用傷病者看護服はフリフリかわいいメイド服ですが、6年前までは特にそんなものはありませんでした。傷病者の心に癒しを求める勇士たちが、かわいい女子専用看護服設定を軍上層部に求めましたが、高齢層の女性兵士から反対の声が大きく頓挫しかけましたが、秘密組織『かわいい女子専用看護服推進委員会』が密かに立ち上がり、極秘裏に賛成派を取り纏め勢力を拡大し、決選投票でかわいい派を勝利に導きました。その時委員会を立ち上げ、かわいい女子専用看護服設定すべく暗躍した人物こそ、グレイダンサーズ隊長百戦錬磨のグラハム・ブラムド少佐です。ちなみに私は参謀長を務めさせていただきました」
ま た お ま え か 。




