進化するニトウリュウ
帝国軍マーカス大隊旗下第五独立小隊隊長カリナ・トーアラ。
下級役人の家に生まれた彼女は幼少期に軍の適性検査を通過し、特待生として士官学校へ入り優れた成績を示す。
帝国軍において士官学校新卒は通常少尉として配属されるが、主席卒業生で即戦力と判断された場合は特例を認められ中尉として配属される。
15歳で軍属となった彼女はその条件を満たしていた。
彼女は人並み外れた集中力を持ち、限界まで発揮した時は周囲の時間の流れを遅く感じ取る領域にまで達するという。
その力は戦場でいかんなく発揮され、激戦区東部戦線において初陣から優れた戦果を上げ、一年で少佐にまで昇進、エースの称号と高性能機エルバーンを与えられるまでになる。
近年で最も激しい戦闘となった東部戦線ジャガ渓谷の攻防戦。
敵中に取り残され、負傷者を抱え物資も突きかけた戦場で、彼女は極限の集中力を発揮し、単騎で三個小隊を撃破、味方に一人の脱落者を出さずに生還する。
16歳の少女の容赦ない戦い方は、味方からすら『鬼』と呼ばれるほどであった。
そして長時間の戦闘を終え、本陣に帰還した彼女は、そこで集中力をぷつんと切らす。
格納庫内で盛大に転倒し愛機は大破、さらに他機を巻き込んで将棋倒しにして莫大な被害をもたらした。
今までの戦功を帳消しにするほどの損害は『機体潰し』という称号を彼女にもたらした。
彼女はペナルティとして高級機に乗ることを規制され、重装型ディガスを与えられ西部へ配置換えされる。
そこで一年が経ち、17歳になった彼女は中佐へと昇進し、年齢の近い女性を集めた部隊を任されることになる。
そして現在。
大隊本陣に呼び出された彼女は久しぶりに愛機に乗ることを許され、その実力を発揮する機会に遭遇する。
目前には皇国軍の誇る第二世代最強機スミロド、乗り込むのは凄腕のイドム・ケンカール大佐。
そして第三世代新型機ディライザー、乗っているのはアホだが強い。
エルバーンの武装は左手に大型の盾、右手には標準装備の剣。
有利な状況とは言えないが、敵も破損と消耗が目立ち、決して勝てない戦いではない。
「あは、相手にとって不足はないやね。かわいい部下の仇討ちや、久しぶりに極限集中!イクやね、エルバーン!」
俺はエリサと共に戦場へ目を向ける。
カリナは強敵2機相手だが、相手も消耗している。
なら、まず俺が成すべきことは陥落寸前のチセの救出だ。
「「加速式・燕返し」」
俺は屈みこんだ姿勢から地面を蹴り、一瞬で接近する。
まず双刃刀を縦に振り一撃、右腕を斬り落とす。
そのままくるっと回して反対の刃で横に一撃、胴を薙ぎ払う。
装甲の隙間を抜け、中枢に致命傷を受けたラレヤーは動きを停止する。
魔導兵器の剣は、特殊製法の鉄装甲を破壊するため、斬るより叩き潰す方向で造られているのだが、こいつは文字通り「斬れる」ようにできている。
そして長柄の両端に刃を配したこの武器は、構え直す事なく連続で斬撃を繰り出せる、が。
「エリサ、な、これ、めっちゃ使い難いわ」
「奇遇ッスね、せんぱい。自分もそう思ったッス」
うまく持ちかえればいいけど、振り回してて逆刃の方が自分や味方に当たりそうで怖いし。
回した時、うっかり傍のチセ機に当たりそうになったぞ。
「くふふ、いまのはちょっと刃が顔にかすりそうで怖かったですよ」
まじごめん。分割して、二刀流にして使おう。
「スミロドを倒す」
「跳ぶッス、この距離なら届くッス」
走るより早いな、よし。
俺は跳び上がり、ケンカール機の前に着地する。
「まだ動けるのか、俺様が破壊して動けなくしてから持ち帰りしてやる」
「悪いが、世界一頼りになる子が来てくれたんでね」
「ウッス!せんぱいを一番うまく使えるのは自分ッスよ!」
カリナと強いけどアホの子が乗るディライザー方を見る。
ディライザーは俺の一撃で左腕を損傷して、ハルバードをうまく扱えなくなって、攻撃速度も精度も落ちている。
カリナは大型の盾で上手に攻撃を捌き、大振りの攻撃の隙をついて反撃すら加えている。
凄まじい反応と、豊富な実戦経験に基づく先読みの賜物だ。
「あは、じゃそっちは任せたやね」
俺はケンカール機に向き直る。
こいつもマグロ隊の2機と戦い無傷ではない。
しかし防御のうまさは相変わらず、俺の連撃を捌き中々致命傷を与えられない。
「くそ、早くケリをつけないとアンが心配だ」
「せんぱい、ここで使えるモノがあるッス、実は――」
なるほど、ぶっつけ本番だが、試させてもらおう。
俺は両手の刀を繋げ、双刃形態を取る。
鍔の飾り部分のトリガーを引くと、双刃刀全体が魔力の光に包まれる。
「鍔の中に魔導水が入ってるんッス。トリガーを引いてその魔力を開放し刃に纏わせることで、あらゆるモノを斬り裂くことができるようになるんッス」
「使い難い形状だと思っていたが、必殺技が付いているとは気が利いている、これなら許す!」
俺は双刃刀を振り回し斬りつける。
もはや防御の隙をつく必要すらない。
盾ごと腕を切断し、受け止めた装甲を紙でも裂くかのように両断する。
皇国軍最強を誇るスミロドが、なすすべもなく解体されてゆく。
双刃刀の輝きが失われるまでの、数秒間でスミロドは活動を停止した。
「何だ、あのデタラメな武器は!もうダメだ、撤退するぞ!」
破壊されたスミロドからケンカール大佐が這い出して来る
俺は捕らえようと手を伸ばしたが、カリナに制止された。
「あは、今は急いでるやね。そいつは捕らえても身代金で引き渡しになるから、放っておこうやね」
俺は双刃刀を構え、アホのディライザーに向き合う。
「おい、ディライザーに乗ってる強いけどアホの子、もう一度言う、どけ。俺たちは忙しい、今なら見逃す」
双刃刀の必殺技は一回限り、魔導水を充填しないと使えないんだけど、相手は知らないから脅しにはなる。
「それアホってゆーなぁぁ!私はミチル、宮本道流って名前があるかな。佐々木大次郎、私はあなたを諦めないかな!」
ディライザーのアホのミチルはそう言うと後ろに下がり、ケンカール大佐を掴むと大きくジャンプして去って行った。
宮本?こいつも異世界人なのか?
「ぐっぇ、痛い、強い、俺様潰れる、跳ぶなぁぁぁ、風圧がが、髪がぁぁぁ」
「それうるさいかな、助けたのに文句はないかな!」
ディライザーの機動力に加え、ステルスローブとかいう謎技術もあるから捕らえるのは難しい。
今はそれよりもアンの様態が心配だ。
「エリサ、カリナ隊長。アンが重傷だ。急いで宿営地まで運ぶぞ」
「了解ッス、いつの間にか副長を呼び捨てにしてる件は事態が落ち着くまで保留するッス」
「あは、私の妹分は、そう簡単にくたばらないやね!」
俺たちはマグロ隊からアンを引き取ると、俺の中に入れて運ぶことにした。
戦場の後始末は居残るチセとマシュロとギョルイ大尉に丸投げだ。
引き取ったアンはまだ意識が朦朧としており、額に脂汗を浮かべ苦しそうに呼吸をしている。
「副長、ちょっと狭いけど我慢してくださいッス」
「アンしっかりしろ、すぐに宿営地に帰ってちゃんとした治療をしてやる」
「っと、うん、がまんするです……ありがとう、お兄ちゃん……」
あ、エリサがなんか道端に落ちてる酔っ払いのゲロを見るような目で俺を見てる。
エリサのこんな顔を見たのは初めてだよ!
「……せんぱい、自分が留守にしている間に何が、いや深くは聞かないでおくッス……」
なんかいろいろ誤解してるみたいだから、言い訳ぐらいさせてください。
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