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突撃槍集中砲火大エンジョウ

 新型機の持つ長柄武器ハルバードの間合いの内側に潜り込み、左右二剣の連撃で押し切る。

 その目論見は瓦解しかかっていた。

 新型の防御が巧みで、装甲の隙を狙った急所への有効打が入らない。

 

 そしてこのペースで休まず全速攻撃を続けると、放熱が追い付かずオーバーヒートで動けなくなるだろう。

 新型のスペックは分からないが、守勢に回っている分、熱量に余裕はありそうだ。


「っと、一旦離れます」

「だな、このペースだとこっちが先に動けなくなる」


 俺は両手の剣を同時に叩きつけ、バックステップで後ろに引く。

 新型の追い打ちを迎え撃とうと構えるが、新型はその場で動かずハルバードを構えなおし、拡声器で声をかけてきた。


「それ、キミ、すごいね上等かな」


 若い女性、第五小隊の面々と同世代くらいの少女の声だった。


「っと、皇国の新型ですね。ルイン・リミテッドの動きについてこれるとは驚きです」

「そ、この子はディライザー、皇国軍正規採用第三世代機第一号であたしの専用機。それ、キミも第三世代機だよね?あたしも帝国軍で瞬殺できない機体は初めてかな」


 喋りながら、少しづつ間合いを詰め、ハルバードの鋭い突きを連続で繰り出してくる。

 俺は放熱を優先し、大きく動かず二剣で弾き、受け流す。


「それ、二刀流の魔導兵器なんて初めて見たかな。それさ、随分とカスタマイズしてあるみたいだけど、ルインベースじゃ機体の限界があるんじゃないかな?このまま続けたら第三世代機専用設計のあたしの方が有利かな。なるべくキミは傷つけたくないから投降してほしいかな」


 ルイン・リミテッドは第三世代機の動きに対応できるよう各部を強化、出力増大、魔導水容量増設、駆動ヶ所の増設を行っている。

 だがフレームや魔導機関は量産型ルインベースのもので、完全な第三世代機とは言い難く、排熱や燃費に問題を抱えている。


「っと、あなた達の目的は知りませんが、帝国領内で好き勝手させるわけにはいかないです。それに私たちはまだ本気を出していないです」


 そして、アンは外部に漏れないようこっそりと俺に向かって囁いた。


(っと、ダイジロ、もう一段階、いけますか?)

(大丈夫だ、今のアンなら合わせられる)


 俺の全力高速戦闘は、パイロットと息が合わず少しでもタイミングがずれれば転倒や武器の破損などの惨事を巻き起こす可能性がある。

 エリサとは試験時代からの付き合いなので、呼吸をするかのようにお互いの意志を読み取り行動を合わせられるが、 前回の戦闘ではアンとのコンビネーションに不安があり、使えなかった。


 だがここしばらく、行動を共にし、相互理解を深めた今の俺たちなら行ける!

 というか、先日とうとう寝起きで逆さまになったのアンのはだけた服の隙間から、大事な部分をモロに見てしまった以上、できなくては申し訳がない。


「それ、だったら仕方ないかな。このドラゴンランスでキミのこと貫いてあげる」


 と言ってハルバードを掲げ、全速移動の構えを見せる。

 …………ハルバードだよな。


「あーー、待て。ランスっていうのは騎兵が使う三角錐の突撃槍のことだぞ。お前が持ってるそれはハルバードだ」


 思わず言ってしまった俺の声に反応し、ディライザーの動きが止まる。 


「ハァ?ええーー?ちょ、待っあたしの認識間違ってたの!?ちょ、ケンカール大佐、これってどうかな?ランスって槍のことでしょかな!」

「ああん!?俺様は今忙しいんだよ、話かけんな!ランスは騎兵の槍の事を指すことが多いが、刃がついて振り回しや斬り払いのできる物もあるので一概に三角錐とは限らねーよ、概ね三角型の形状を模している槍をランスと呼称することも俺様の個人的見解では間違いじゃねぇ。しかしお前の武器はどう見てもハルバードだ、それ以外の何物でもない」

「それ、えーー!なに、わかんないかなーーー」


 隊長格2機相手に戦闘してて忙しいとかいう割に、親切丁寧に答えるケンカール大佐、律儀な男だな!

 そして拡声器で戦場に響き渡るその声に、敵味方から一斉にツッコミが入った。


「ぼんじゅーお嬢様。ハルバードは騎兵が手に持ち突撃を行うというランスと同じ運用法もあります。しかしランスと同じ使い方してもハルバードはハルバードとしか呼ばれません。ちなみに私の股間はランスです」

「グドマン君、若い女性相手に嬉しそうにセクハラ発言するものではない。でもハルバードは庇いきれない」

「くふふ、元より長柄と斧頭を組み合わせたものが語源ですね。あなたのそれは、言い逃れできないレベルでハルバードです」

「ほぅ、骨占いでもこの上なくハルバードでおじゃるよだね」


 ラレヤー兵や退避してるルイン兵からすら、ぼろくそに叩かれてんぞ。


「いやもう余裕でハルバード」

「前から密かに思ってたけど、俺の知ってるランスじゃないよな、ハルバードだよな」

「今まで誰も何も言わないからハルバードに見えてるの俺だけかと思って黙ってたけど、やっぱハルバードだったか」

「百歩譲ってポールアックスとかならアリだと思うけどランスはねーわ、ハルバードだわ」

「人の愛機を斧部分で叩き壊しといてランスじゃねーだろ、どう見てもハルバードの仕事」

「しかもなんだよ、ドラゴンどこから出てきたんだよ、ハルバードだろ」


 戦場に妙な一体感。

 そして敵味方から集中砲火を受け、疎外感に晒されたディライザーのパイロット半泣きになってる。


「そうう、うぐっえぐっ……ぐすん……このドラゴンハルバードで……語呂悪い……ハルバードオブドラグーン……言い辛い……いったんドラゴンは離れて、パンサーハルバード……うあああ、思いつかないかな!」

「なんか、かわいそうになってきた……俺の一言が原因でごめんよ」

「っと、ダイジロが謝ることないです。全てこの女の浅慮と無知蒙昧が招いた悲劇です。私ならこんな辱めを受けては生きていられないです」


 ちなみに周囲の機体は戦闘継続中である。

 今の間で十分排熱は済んだ、俺は魔導機関出力を全開にする。


「アン、一段上げるぞ、ついてこい!」

「っと、私は大丈夫です、天才ですので。加速式・燕返し!」


 屈みこんだ姿勢から、ダッシュで間合いを詰める。


「そ、ぐすん……もう名前は後でいいかな、先に倒す、もう許さないかな!」


 ディライザーはハルバード(笑)を突き出して迎え撃つ。

 しかし全開になった俺の速度はディライザーをもってしても取られきれない。

 機体の基本性能は劣るかもしれないが、俺という魂を使った魔導コアは第三世代機をも超越した反応速度持っているのだ。

 

 俺は繰り出される槍先をかいくぐり、ディライザーの腕に左の剣で一撃を加えハルバード(笑)を振るえなくする。

 本体に向けた右手の剣は装甲に阻まれ致命傷を与えられなかったが、俺はそのまま体ごとぶつかり、ディライザーを押し倒し、マウントを取るようにのしかかる。


「これで終わり、投降しろ」


 俺の問への返答は――。


「それ、男の声、やっぱりそこに居るのかな、佐々木大次郎」


 そして俺は失念していた、もう1人高性能機に乗った強敵がいたことを。

 ディライザーの上にのしかかる俺は、他所から見れば座り込んで動けない機体なのだ。


「俺様の前で油断しやがったな、先日の借りは返させてもらうぜ!」


 気が付いた時、マグロ隊の面々で立っている者は居なかった。

 そして俺の正面に立ちはだかるケンカール大佐のスミロドの剣が、俺の正面に突き出される。

 

 機体の重量を乗せたそれはコクピットの装甲を貫き――。

 その切っ先は彼女に到達し、俺の中を鮮血で染め上げたのだった。

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