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未確認機体セッキンチュウ

 迫る皇国軍の一個小隊。

 俺たちは宿営地を離れ、なるべく有利な地形で迎え撃つべく出撃する。

 今回は数で勝るのだが、敵は同等数の友軍を一方的に蹂躙した部隊だ。

 あの凄腕のケンカール大佐が、より戦闘特化した機体で動いているならば、それも納得できよう。

 

 アンは数的優位を生かすため、部分遮蔽のかかる地形の少ない場所を選び配置を進めている。

 前衛に陸に転がるマグロ隊のルイン5機が近接装備で相対し、第五小隊が後衛から指揮と支援射撃という形になる。

 そして敵を迎え撃とうという時、陸に転がるマグロ隊副隊長ハイン・グドマン中尉から全体通信が入る。


「ぼんじゅー、皆さま。撃破されたグレイダンサーズ隊について重要な情報があります」


 第三独立小隊グレイダンサーズ隊。

 百戦錬磨のグラハム・ブラムド少佐率いる猛者揃いの小隊だ。

 彼らの戦いから、敵の手掛かりが見つかったのだろうか?


「今の帝国軍女子制服は膝上のミニスカですが、5年前までは乗馬服ベースのパンツルックでした。制服デザイン変更に際し、高齢層の女性陣から反対の声が大きく頓挫しかけましたが、秘密組織『女子制服ミニスカ推進委員会』が密かに立ち上がり、極秘裏に賛成派を取り纏め勢力を拡大し、決選投票でミニスカ派を勝利に導きました。その時委員会を立ち上げ、女子制服をミニスカにすべく暗躍した人物こそ、グレイダンサーズ隊長グラハム・ブラムド少佐です」


 百戦錬磨のグラハム・ブラムド少佐、いい仕事する人じゃないか!


「ちなみに私はその時委員会の参謀をしていました。以上」


 初めてアンタを尊敬したけど、それ今言うことじゃないよね!


「くふふ、それはともかく敵の反応が近いですね。速度優先で隠密性を捨ててきているようですね。これたぶん正面突破する気ですよ」

「ほぅ、骨占いが凶星接近防御ほんぎょーと出ただね」


 俺も搭載されている魔道探知機で接近する5機の魔導兵器を確認する。

 そして目視できる距離まで近づいたところで、先頭の1機が急加速する。

 量産型ラレヤーが3機、そして皇国軍の高機能機スミロドが1機、そして戦闘の機体はデータが無い。

 

 スミロドは帝国軍の高性能機エルバーンへの対抗機として、皇国軍で開発された高性能機だ。基本性能でラレヤー、ルインを上回るが、コストがかかり生産性も低いので多数は配置されていない。

 逆に言えばスミロドに乗っているのは指揮官かエースか金持ちということだ。


「アン、判別不能な機体がある。新型機か?」

「っと、おそらく。牽制の射撃を行いましょう」


 この距離ではアンの技量をもってしても狙撃で倒すのは無理だ。

 敵の速度を落とそうと、足元に向け牽制射撃を行う。

 チセとマシュロも牽制の為、射程距離の長い魔導砲を撃ち込むが、新型はそれを予測していたかのようにジャンプして回避する。

 いや、回避しただけじゃない。

 新型は魔道兵器の常識を超えた高さと距離で、間合いを一気に跳び越え、前衛のマグロ隊ルインの目前に着地する。


 新型は圧倒的な機体能力で降り立ち、両手に持った武器をこれ見よがしに掲げ持つ。

 機体の高さほどもある長柄の槍の先端に、斧頭と鉤爪をを備えたポールウエポンの最高峰、騎兵や歩兵の武器としてはお馴染みのハルバードだ。

 遠い間合いから斬り、突き、叩き、掻く、なぎ払うと多彩な攻撃を繰り出せ、白兵戦武器としての有効性は剣をも凌駕する性能を発揮する。

 しかし通常の魔道兵器は両手を連動して複雑に動かすことができないので、両手武器はせいぜい大剣や突撃槍を単調な軌道で振り回すくらいで、ハルバードのような多彩で複雑な機能のある武器は扱えないのだ。


 しかし新型は高度から着地した後、バトントワリングでもするかのようにハルバードを器用にくるくると回してバランスを取って態勢を整え、長刀の演武のような鮮やかな動きで、正面のルインの首の根元の装甲の隙間に、斧頭を叩き込み一撃で仕留めてしまう。

 

 そのまま動きは止まらずハルバードを引き抜いて、流れるような動きで隣のルインの頭部に鉤爪を叩きつけ粉砕する。


「な、何だあの新型、3倍の速度か!」

「っと、ダイジロ、あの動き従来機のものではないです!」


 従来機をはるかに上回る速度、飛距離のジャンプ。そして敵の反撃を許さず、硬直せず止まることなく連続で攻撃を仕掛けるあの動きは、俺が全力で動き回った時と同じだ。


「アン、アレはヤバイ。俺たちも近接戦だ、量産型ルインではアレには勝てない」


 俺は魔導銃を収め、両手二剣に持ちかえると腰をかがめ加速姿勢を取る。


「っと、そういえばこの動作、技名を決めたって言ってましたよね?」

「コレで近づいて斬る、一連の動作をまとめて『加速式・燕返し』だ」

「語呂が悪いです」

「異論があれば後で聞こう、先に奴だ」

「っと、分かりました」

「「加速式・燕返し!」」

 

 俺たちは一息に駆け抜け新型に迫る。

 だが俺たちが到着する前に、新型はハルバードの槍先で3機目のルインの魔導機関を串刺しにして破壊していた。

 敵影確認から十数秒、接敵してから数秒で俺たちは数の優位を失った。


 俺は加速した勢いを乗せて新型に近接し、ハルバードの間合いの内側に潜り込み、両手の二剣で斬撃を浴びせた。

 首と腰の装甲の隙間の急所を2ヶ所同時、通常の魔導兵器なら両方一度に防ぐことは不可能。

 しかし新型はハルバードの柄の部分を器用に動かし、くるっと回転させ二撃を同時に弾き返した。

 ハルバードを最大限に振るえる間合いが空くのはまずい。

 俺は密着したまま手を休めず、両手の剣撃を繰り出し続ける。


「っと、ダイジロ、……こいつ強いです」


 額に汗をにじませ呟くアン。その表情にはいつもの余裕は感じられない。


 長柄の武器は真っすぐ突き出せば遠くの敵に届き、振り回せば広範囲に速度を加えた攻撃を繰り出せる。

 その反面、振るえる空間が無ければ威力は半減し、懐に入られれば取れる選択肢が限られてしまい窮地に陥るのだが。


 この新型は間合いの内側に入られ高速連撃を受けているにも拘らず、器用に柄を動かして受け、弾き、場合によっては蹴りや肘を叩きつけ、巧みに攻撃を躱す。

 そして少しでも手を緩めようものなら全力で間合いを開けようとする。


 俺は今まで敵より多くの手数を繰り出すことで、有利に戦ってきたのだが、この新型は俺と同等、いやより大きく重い武器で、二剣を捌いているのだから、そのハンドスピードは俺以上ということだ。


 俺たちが手を離せないでいるうちに、他機も戦闘に突入する。


 高性能機スミロドに相対するのは、マグロ隊の隊長副隊長コンビのルインだ。

 ルインでは分が悪いのか二人がかりでようやく五分。

 剣と盾で巧みに攻撃を受け、喰らう時は装甲の厚い部分で受ける上手い動きをする。

 あの動き、おそらく乗っているのはケンカール大佐。


 そして残る敵は3機のラレヤーを、マシュロ機のルインが前面に出て一手に引き受けている。

 チセ機の支援型ディガスが後方から二門の魔導砲で巧みに援護射撃を行い、1機を沈めたようだがその後戦況は膠着している。


 敵機は全て押さえられているが、味方機の援護は期待できない。

 俺は単騎で目前の強敵を何とかしなければならないのだ。

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