陸に転がるマグロ隊がゴウリュウ
グレイダンサーズの誤字脱字修正
先日の皇国軍との遭遇から一週間が経つ。
小隊のメンバーは人数が減ったため、細々とした事務作業や雑務に追われていた。
人ならぬ身である俺はそれらを手伝えるはずもなく、哨戒任務に出るとき以外は、格納庫でおとなしく待機し、夜には潜り込んできたアンの愚痴や世間話を聞くという日々を送っていた。
敵の狙いも不明瞭だ。
この地域は魔族領域の魔獣対策として配備されており、皇国としては戦略的に無意味である。
むしろうかつに手を出せば、魔族や中立国家群を刺激したり、魔獣の襲来を招き周辺区域の民間人への被害をもたらしかねないのである。
考えられる中で最も可能性の高いのは、俺目当てということなのだ。
新型魔導コア搭載機が量産配備されれば、両国の軍事バランスを崩しかねない。
俺の実戦での戦績を見ればそう言わざるを得ない。
その辺りを鑑みて今後の動向を定めなければならないのだが。
決定権を持つ人物が不在のまま、新たなる敵が出現したのだ。
第三独立小隊グレイダンサーズ。
百戦錬磨のグラハム・ブラムド少佐率いる実戦慣れした部隊である。
特に隊長が搭乗していた魔道兵器エルバーンは少数生産高コストの高性能機で、その戦力は量産普及機ルインをはるかに上回る。
それが哨戒任務中、皇国軍と思われる一個小隊と遭遇し短時間で壊滅させられた。
幸いにも死者は出なかったが、それは短時間でキレイに急所を撃ち抜かれ、魔道兵器が全て行動不能に陥らされたからだという。
「くふふ、大胆なものですね。見てください広範囲探知機に堂々と反応ありですよ」
作戦会議の為、俺はトライクで宿舎の中に出入りしている。
敵はチセの言う通り隠密行動をとる気は無さそうだ。
広範囲探知機に移る敵影は5つ、その進行方向の先は第五小隊宿営地である。
「っと、ギョルイ大尉と陸に転がるマグロ隊が間に合いました」
近場の友軍への救援要請が間に合った。
宿舎前には陸に転がるマグロ隊の魔道兵器量産型ルイン5体と5名の隊員が整列している。
俺たちも挨拶するために彼らの正面に並ぶ。
「マーカス大隊旗下第四独立小隊陸に転がるマグロ隊、救援要請を受け参上いたしました。隊長のメギル・ギョルイ大尉であります、よろしくお願いします」
整列する部隊の先頭で敬礼するギョルイ大尉は、ベテラン兵らしく実直そうな中年の男性だ。
脇に控える副官は、髭を蓄えた生真面目そうな筋肉質の初老の男性である。
「ぼんじゅーお嬢様方。第五小隊副隊長ハイン・グドマン中尉です。ちなみに隊長の異名、人呼んで鼻毛トルネードの由来は三日以上鼻毛処理を怠ると、伸びすぎた鼻毛が三つ編み状に絡まるところからきています」
なにそれすごい!
「ちなみに私が今名付けました」
めっちゃ最近やん、アンタしか呼んでないだろ!
何者だよこの人、と思っていたら我が部隊の変人、マシュロ・マシャロ中尉が一歩前へ出てグドマン中尉の前に跪いた。
「ほぅ、師匠」
「マイ、ドーター」
マシュロの手を取り、妙に渋い声で応えるグドマン中尉。
アンもギョルイ大尉も状況が呑み込めないのか、訝し気な口調で尋ねる。
「っと、マシュロ中尉は知り合いなのです?」
「グドマン君、マシャロ中尉と随分親しいようだが、面識があったのかね?」
「ほぅ、骨占い関係なく全くの初対面だね」
「ぼんじゅー、初めて会いましたな」
変人同士、相通じるものがあるのか?
年齢は親子並に離れてるけど。
「ゴホン、失礼しました第五小隊の皆さん。早急に対策を」
ギョルイ大尉はスルーすることにしたようだ、何という的確な判断力。
「くふふ、さしあたって、行軍速度や探知機の反応から見て伏兵はありませんね。こちらも罠や策略を張り巡らせる時間もありませんし数で勝っているので、宿営地から離れた開けた場所に陣取るのが良いかと愚考しますよ」
「本戦闘における指揮権は最上位階級のセカン少佐に委ねよう。第五小隊は支援機も混じっているので、後方支援を中心に、部隊が揃っている陸に転がるマグロ隊が前面に出て近接戦闘を引き受けるのが妥当であると考える」
ギョルイ大尉は、娘ともいえるような年齢の少女の指揮下に入ることに異論はないようだ。
さすが。あんなのを副官にしているだけあって器がでけぇな。
「っと、分かりました、指揮権は引き受けましょう。ただ今の時をもって指揮下の部隊を連合小隊と称します」
時間がないので、細かい取り決めを手早くすましてゆく。
「敵戦力は未知数です。陸に転がるマグロ隊と同等戦力のグレイダンサーズ隊を正面撃破、と考えると数で勝るとはいえ勝算が高いとは言いかねます」
「心がけよう。前衛が破られた時はそちらのルインにカバーしていただくことになる」
「っと、承知しました」
小隊長同士の話はまとまったようだ。
俺たちは各々機体に乗り込んで出撃準備を開始する。
今回も俺に搭乗するのはアンである。
「っと、一緒に出撃するのは、これで最後です。私の体は良かったです?」
「その言い方、わざとだろ。アンの小さい尻もなかなか味があってよかったぜ」
「セクハラです」
「お前から振ってきたんだろ。今後も休暇やメンテや、アレ、月のもので交替する事もあるだろ。今回限りってわけじゃないさ」
「っと、そうですね、また浮気がしたくなったら抱かれてあげてもいいです」
こう、軽い冗談で緊張をほぐす。
パイロットのメンタルケアを欠かさない俺、マジでロボの鑑。
「っと、……少し前から思っていたんです、ダイジロのセクハラ発言はオッサン臭いです」
「よしてくれ、そんな年齢じゃないぞ、微妙に」
「なら、お兄さんです……っと、そういえば隊長からあだ名を考えておくよう言われていました。生きて帰れたら『お兄ちゃん』って呼びます」
「いや、その呼称は周囲に色々と語弊を招くからやめて」
彼女は悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべると、全体に指令を出した。
「第四第五連合小隊、出撃です!!」
そして同時に全体回線に通信が入る。
「ぼんじゅー、ちなみにこの隊の名前は私が考えました。最初はクッソ面白くない普通の名前でしたので、勝手に書類を書き換えて提出しました」
誰も聞いてねぇよ!




