その名へのハンノウ
発見されたのは皇国軍ラレヤーが5機。
2機が後方に待機し、3機がかりでマシュロ機に近接戦闘を仕掛け捕獲しようとしている。
マシュロのルインは回避と防御に専念し、どうにか持ちこたえている。
敵機はこちらに気付いたようだが、数的に有利と思ったのだろう、逃げようとせず迎撃するつもりのようだ。
「っと、ダイジロ。まずは外部音声で降伏勧告しです」
「了解、応じてくれそうにはないけどな」
アンは頷いてマイクを手に取る。
「っと前方、所属不明魔道兵器に告げます。ここは帝国領です、許可無き活動は禁じられています。抵抗はやめて投降してください」
アンが拡声器を使って警告を発するが、投降の意志は無いようだ。
待機していた2機がこちらに向ってきた。
「くふふ、数で押し切る腹積もりですね、そううまくはいかせませんよ」
「ほぅ、骨占いの結果は待ち人キツツキだね、敵の通信を傍受できただね」
「っと、こちらに流してください」
偵察仕様機の特価装備機能か
『……敵機確認、支援型ディガスと特殊仕様のルインを確認。……接近して迎撃します』
『……は後方の2機を片づけろ。ルインの方は壊すな、捕獲しろ。俺様はこいつを先に潰す』
『了解、ケンカール大佐』
若干ノイズが混じっているが、会話の内容は分かる。
チセは後ろで魔導砲を構え、俺は近接戦闘に備え二刀を抜き放つ。
「っと、敵のリーダーは佐官です。意外と大物です」
「くふ、木立が邪魔で射線が遮られますね、魔導砲は牽制にしか使えませんよ」
「まず手前の2機を片付ける。マシュロならその程度の時間は持ちこたえられるだろ」
戦闘の1機が斬りかかってくる。
振り下ろされた剣を左の剣で受け流し、右の剣を叩きつけるが、盾で防がれる。
今まで戦ってきたテロリストや虫等と違い、正規兵だけあって技量は高いようだ。
俺の両手が塞がったと思ったのか、横に回ったもう1機が剣を大きく振りかぶり、無防備な俺に一撃を浴びせようとする。
近接戦で次の行動に移るまでの硬直時間の隙をつくのは魔道兵器戦の常套手段だが。
「っと、ダイジロ、入れます」
並の魔道兵器なら対応は間に合わないところだが、俺たちは違う。
左の剣をまっすぐに突き出し、胴体の真ん中、胸と腰の装甲の隙間を貫いた。
そのまま剣を横に払い、胴体を斬り裂き、腰をほぼ両断した形になり、敵機は崩れ落ちた。
正面の敵はその間に剣を引き、もう一撃加えようと振りかぶる。
「っと、右は行けますか!」
「振れ!俺なら両手武器を同時に操れる!」
短いやり取りで意思疎通を図る。
アンが鋭い反応で右手の剣を突き出し、俺が補正し敵機の首と胴体の隙間に剣を食い込ませる。
そのまま有無を言わさず首を跳ね飛ばすと、俺たちの前に動く敵機は居なくなる。
「首跳ね、心臓付き、さしずめ裸忍者クリティカルってところか」
「っと、ダイジロが何を言っているのかさっぱり分かりませんが、格好悪い技名はやめて欲しいです」
マシュロ機はまだ3機相手に持ちこたえている。
『……ケンカール大佐、……2機がやられました』
『……やりやがる、やはり情報通りか。生き残りは脱出して闇に紛れて逃げろ、俺様はこのまま交戦し……早いっ!?』
俺は屈みこんだ姿勢から、短距離走のようなスタートを切り、高速でケンカール大佐の隊長機に接近する。
そのまま立て続けに両手の剣で連撃を浴びせるが、ケンカール大佐のラレヤーの剣と盾で受けて防がれた。
「マシュロ中尉、待たせたな」
「っと、隊長機を潰します、マシュロ中尉、そちらの2機の相手を頼みます」
「ほぅ、骨占いの結果は反撃春日の細道だね」
返答の意味は分からないが、アンは了解と解釈したようだ。
先に隊長機さえ落とせば何も問題は無いしな。
俺の速度ならこのまま相手が反撃してくる前に畳みかけて倒せる。
「アン、このまま押し込むぞ」
「っと、両手剣、こんな攻撃をしたのは初めてです。両手の武器を同時に扱えるとは驚きです」
さすが天才の名は伊達ではない、アンは早くも二刀流の使い方を会得しつつあった。
両手の剣で間断なく攻撃し、ケンカール大佐機は防戦一方となる。
しかし、このケンカール大佐は予想以上の手練れだった。
手数で負け、剣と盾で防ぎきれず本体に届いた攻撃は何発もあるのだが、それらは全て隙間の急所を外され装甲の厚い部分で受けられて、決定打を与えられない。
『おい、帝国機。聞いているんだろ!』
傍受していた通信からケンカール大佐がこちらに話しかけてきた。
会話の意志をくみ取った俺たちは、いったん間合いを開け、通常回線で応答する。
「っと、聞こえています。私は第五小隊隊長代理アン・セカン少佐です。降伏の意志があればお聞きします」
「皇国軍特殊部隊イドム・ケンカール大佐だ。この俺様に反撃すら許さんとは、恐ろしい機体だな。そいつは帝国軍の第三世代機か?」
「っと、敵兵に情報を話すと思われますか?まだ抵抗を続けるなら殲滅します」
「怖いお嬢ちゃんだな。俺はなぁ、ただ」
「ダイジロ、敵の目的は諜報です。余計な情報は与える必要ありません、通信は切って片付けましょう」
「おえ!?ま、待て!今ダイジロと言ったな、そこに居るのか、佐々木大次郎が!?」
なに?
いきなり本名を呼ばれて、びびって動きを止めてしまう。
何でこいつ俺の名前を知ってるんだ?
状況が飲めなくなった、いったん通信は切ろう。
「っと、ダイジロ、貴方の名前です?どういうことです?」
「いや、分からん。俺の事知ってるのはアンの他はエリサとカリナ隊長と研究所のエディナ様だけだぞ」
俺たちが対応に逡巡していると、傍受したままの敵の通信が漏れる。
『撤退だ、最悪の予想が当たっちまった。ミチルに知らせなくちゃなんねぇ』
『了解、撤退します』
その言葉と同時に、敵機は小さな球をいくつも前方に投げ、フイルムのようなものを頭から被る。
フイルムは光学迷彩装置のようなものか?周囲の風景に同化し目視しにくくなり、球から大量の煙が噴き出し辺り一帯を覆い隠し、完全に敵の姿を見失ってしまう。
「っと、マシュロ大尉、大丈夫ですか?」
「ほぅ、骨占いではあと一歩ハトポッポゥで取り逃がしただね。魔力反応も阻害で、魔導探知機にも反応無しだね」
「くふ、あのカバーのようなもの、ステルス機能を兼ね備えているのでしょうね。皇国軍、いつの間にあんな技術をですよ」
こうして皇国軍との遭遇戦は幕を閉じた。
破壊したラレヤーのパイロットは1人は逃亡、もう1人は負傷していたため捕虜とする事ができた。
宿営地に戻り隊長へ報告連絡を済ませ、捕虜を空き室に軟禁して、ようやく一息。
しかし、俺の名前を敵が知っているとはどういうことだ?
情報漏れがあったのだろうか?
様々な疑問が頭をよぎるが、これ以上考えても仕方あるまい。
次に遭遇するまでに、情報が入れば良いのだが。




