皇国軍とのカイコウ
エリサたちが大隊本陣に出向して3日が過ぎた。
今頃は到着して、仕事に追われている頃だろう。
俺はその間、トライクに意識を移しアンに引き回され仕事に付き合っていたのだが、手足無き俺にできることは少なく、あまり役には立てなく申し訳ないやらだ。
そして今日は久しぶりの哨戒任務にあたり、ルイン・リミテッドに戻る。
エリサ不在の間、俺の中に搭乗するのは第五小隊副隊長アン少佐である。
ずっとエリサを乗せていたので、女の子が入ってくる感覚にも慣れたと思っていたが、搭乗者が替わるとなんとなく気恥ずかしい。
それに何だろう、エリサ以外の女の子を乗せるのに、そこはかとない後ろめたさとか背徳感的なものが……気にしないでおこう。
「っと、ダイジロ。気分はどうです?どこか痛い所はありませんか?」
「至って良好だ。アンこそ俺の中の具合はどうだい?」
「少々狭いですが、新しいのできゅっとしまった感じがしてとても良いです。さすが名器と云われるだけのことはあります」
「そうか、満足してくれて嬉しいよ」
「っと、ではゆっくり動かしますので痛い所があれば言ってください」
「さすがアン副長は経験豊富だな。動き方が優しくって気持ちいい」
「っと、私を呼ぶ時は敬称付けなくていいです」
エリサは動きが乱暴だからなぁ。
「くふふ、会話だけ聞いてると、これはなかなかクるものがありますですよ」
「ほぅ、骨占いでは魚店同定だね」
傍でマシュロ機の量産型ルインをの整備をしている隊員2人、動作確認してるだけなんだから、変な言い方やめて。
動作確認を始めよう。エリサのようにいきなりコケることはなさそうだ。
走る、止まる、剣を振る。
一通りの動きをチェックして、問題点がない事を確認する。
さすが操縦技術は一流のアンである、基本動作に問題はない。
今回は別動隊の掴んだ情報を基に偵察に出る。
宿営地から北側、中立国家連合付近の森林地帯で、皇国軍の機体らしき反応があったとというものだ。
中立国家連合は、皇国が帝国から独立した後、方向性の違いから皇国から分裂してできた小国家群で、二大国に比べ国力は劣る。
単独では二大国に対抗できるほどの力は持たないが、どちらかに加担すれば二大国の均衡を崩すことができる微妙な戦力バランスを保持しているため、二大国もうかつに手を出せない。
また、二大国間でどちらかに戦況が傾けば、不利な方に加担し均衡を保とうとする方針で、現在西部戦線が均衡状態であるため、現在はどちらにも加担していない。
「くふ、主戦場からは離れた場所になりますので、何を企んでいるか掴むのが目的ですよ」
「この小隊で諜報活動とか隠密活動できんのか?」
「っと、その類の活動はマシュロ中尉の範疇です」
「ほぅ、骨占いは隠密ハチミツパパイヤフルーツだね」
「っと、今回はマシュロ中尉のルインは偵察仕様に換装してもらっています。索敵機能と通信機能が向上しますが、重量増加と放熱性低下で戦力が低下しますので私たちでフォローです。」
なんだと!?
よく分からない人だと思っていたのに、そんな特技があったのか。
あまりにも発言が意味不明な上に皆スルーしてるので、あえて気にしないようにしていたが。
「っと、準備が終われば出立します。総員周囲を警戒しつつ、中立国家群との国境まで森林地帯を抜けます」
「了解。あ、今回は俺が隊長機になるのか」
「くふふ、3機だけですけどね」
「ほぅ、骨占いの結果は、もんじゃ木葉に裏返し、だね」
周辺に魔道兵器の痕跡がないか注意しつつ、マシュロを先頭に前進する。
しばらく進むとマシュロが真っ先に声を上げる。
積み込んだ索敵用の広範囲魔導探知機が、野生の魔獣を補足したのだ。
「ほぅ、森林ワーム。生き残りがいただね」
「っと、駆除します」
マシュロの声と同時にアンが魔導銃を抜き、一撃で頭部を撃ち抜いた。
かなり距離はあったんだが、俺の射撃補正無しでだ。
小銃での近距離射撃しか見たことなかったが、長距離射撃も優秀なようだ。
「すごいな、あの距離を素で当てるのか」
「っと、ダイジロもです。魔導銃の持ち替えから菅の装着、射撃までほぼ一動作。余計な操作に気を取られず射撃に専念できます」
これなら実戦においても不備はなさそうだ。
そして行軍を再開しようとした時、マシュロが先頭に出る。
「ほぅ、骨占いの結果は先んずれば煮物コトコト。穏身呪術で先行するだね」
「穏身呪術?知っているかチセ?」
「くふふ、南の部族に伝わる伝統魔術ですよ」
「そんな特技が!?」
「くふっ、嘘です。偵察仕様装備のステルス機能ですよ」
もっともらしい嘘つくなよ、一瞬信じたじゃないか。
「っと、許可します、先行偵察をお願いします」
俺たちはしばらく待機して、マシュロからの報告を待つ。
この機会に疑問に思っていることを聞いてみるか。
「な、アン副長。マシュロ中尉ってどういう人なんだ?」
「っと、私を呼ぶときは敬称は付けなくていいです。マシュロ中尉はよく分からない人です」
お前にも分からないのか!
「っと、南の少数民族の出身でよく分からない特技を持っています。隊長が言うには『他の隊員にできないことがあれば、マシュロ中尉にまわせ。彼女なら大抵のことができる』だそうです」
「いや、聞けば聞くほど謎が深まるんだが」
「くふふ、オトナのレディにはミステリーがつきものなのですよ」
ほどなく、マシュロが向かった方角から金属音が鳴り響き、信号弾が上がる。
「っと、マシュロ中尉が敵機を発見したようです。私たちもすぐに向かいます」
「くふ、了解」
「出動だな、アン」
森林を抜け音の方へ向かうと、マシュロ機と数体の初めて見るタイプの魔導兵器が剣で交戦している。
「くふ、敵機確認ラレヤー5機ですよ」
「っと、確認。私は近接戦闘を仕掛ける、チセは砲撃支援」
俺はデータベースを検索する。
ラレヤーは主に皇国で使用されている汎用機で、基本性能はルインと同程度。皇国軍では旧型であるディガスからの交代が進んでおり、配属数は帝国軍のルインより多い。
目前の機体は、マシュロ機同様、偵察任務用の装備を付けた機体だ。
「ほぅ、骨占いは戦場ばんばんじょー」
多対一で危機的状況っぽいが、マシュロは意外と余裕ありそうだ。
「くふふ、戦時中とはいえ敵陣深くまで侵入してくるとはね、大胆不敵ですよ」
「っと、できれば捕獲優先です」
こうして俺の初の皇国軍機との戦闘が始まった。




