必殺のトッコウ
女王ワームのブレスを浴びた隊長の重装型ディガスは動けない。
空中で尾の直撃を受けた副隊長の高機動型ディガスは、地面に叩きつけられ手足があらぬ方向に曲がり、全身から魔導水を吹き出し動きを止めた。
「せんぱいっ、助けにっス!」
「跳ぶ、届かせる、行くぞエリサ!」
俺は抱えていた魔族の両機を地面に降ろすと、両手に剣を持ち、ワームへ大きくジャンプする。
「ほぅ、骨占いの結果見るまでもなく、動かさないだね」
マシュロはフジャ機を降ろすと、ルインの両手に魔導砲に持ち、ワームの顔の部分を撃ち抜き動きを止めた。
「くふ、手癖の悪い尾はこうですよ」
チセの支援型ディガスが、肩の魔導砲と両手に持った魔導砲を連射して、尾を撃ち抜き攻撃を封じる。
俺はワームの頭を跳び越える。狙いは胴体中央、両手の剣を交差させ落下の勢いのままワームの体にめり込ませる。
「名付けてクロス斬りッス!」
「名付けて必殺エックスシザーズ!」
そのまま両手を広げ、ワームの太い胴体を真っ二つに斬り裂いた。
二つに分かれたワームは大量の緑色の体液をまき散らしながら暴れまわる。
尻尾の側はすぐに動かなくなるが、頭側はますます激しくのたうち回る。
身動き取れない僚機に当たるとまずい。
「せんぱいっ止まるまで斬ります!あとネーミングセンスッ」
「水残排熱問題無し、このまま連撃だ!お前もネーミングセンスッ」
技名については後々話し合いの必要があるな。
俺はそのまま両手の剣を交互に繰り出し斬り刻んでいく。
砲撃組の射撃が正面からワームの体を削り、その動きを鈍らせる。
俺が最後の一撃を加え、ワームの動きが止まった。
俺たちは手を止めることなく、負傷者の救助を開始する。
チセは魔族3人を機体から降ろし、所持していた医療キットで応急処置を取り行う。
マシュロはカリナを降ろし介抱している。
毒を食らった4人は早めに処置をしたおかげで、命に別状は無い。
俺は倒れ地面にめり込んだままの高機動型ディガスに近寄ると、ひしゃげた操縦席のカバーをひっぺがし、アンを救出した。
「引っ張り出すぞ」
「アン副長、怪我は無いッスか?」
「っと、不覚。おおよそ全身が痛いです」
倒れた時の衝撃だな、幸い骨折などの重傷ではなさそうだが。
「おでこが赤いぞ、かわいい顔してるんだから痣にならないよう治療しとけ」
「っと、君は機械なのに恥ずかしいことを口にする」
「せんぱいっ、上官をナンパしないでくださいッス」
二人同時に怒られた、なにこの理不尽。
「くふふ、魔族のお三方は問題無しね。あと小一時間も休めば普通に動けるようになるよ」
「ほぅ、隊長も問題無しね。鼻と口塞いで毒吸わないようしてただね。骨占いでは休養よーそろーだね」
「然り、ご迷惑をおかけした」
「あは、ごめん、手間かけさせたね。あの毒ブレス、思った以上にきつかったやね」
俺達は穴を掘ってワームの死体埋めると、離れた所で休息を取りながら今後について話し合う。
沼の氏族の巡視隊はすぐに体が動くようになったし、機体はほとんど損傷していない。
報告の為そのまま帰参するようだ。
「然り、世話になった。カリナ中佐、この恩は忘れない」
「あは、それはお互い様やね」
隊長は握手を交わし、別れの挨拶をする。
「然り、この機体ルイン・リミテッドは凄いな。我らの機体を2機抱えての跳躍とワームを屠る驚異的戦闘能力、人間同然の思考と感情、敬意を表するに値する高度なる技術」
「そうなんッスよ、せんぱい凄いんッスよ。自分が育てたッスから!」
「いや、お前は中で座ってただけで、育てられた覚えは無いんだが」
「何でそんな意地悪言うんッスか!愛情の裏返しッスか!」
あえて育てられたというなら、今は帝都にいる研究所の皆様のおかげです。
「あは、我が部隊ながら凄いやね、いろいろと」
「然り、揃って素晴らしい部隊だ。共に戦えたことを誇りとする。ラジャ、フジャ、帰参するぞ」
「りょかいりょかい。第五小隊の皆さん、ありがとございました!」
「ぽふ、ありがとうございました、帰還いーよ」
同世代の女性部隊同士という事で、随分仲良くなっていたので名残惜しみながら、別れを口にする。
こうして沼の氏族巡視隊は去って行った。
俺達も帰還準備をしなければならない。
まず高起動型ディガスを回収し状態を確認する。
「くふ、これは自走は無理そうですよ」
「あは、やっぱそうだね。一番パワーのあるダイジロに運ばせよう。アンもダイジロの中に同乗して」
俺の操縦席の裏側には例のトライクを搭載するためのスペースがあり、小柄なアン少佐ならばそこに乗せていくことも可能だ。
「了解ッス、副長、載ってくださいッス」
「っと、同乗です、おじゃまします」
「いらっしゃい、くつろいでってくれ。エリサ、お茶」
「っと気遣い無用。ダイジロは本当に人間臭いです」
「え、臭い?もしかしてどこか臭ってるッス!?」
「っと、エリサ少尉の腋の事じゃないです。そこはまだ酸っぱいレベル、にがいレベルじゃないなら許容範囲です」
「うわぁぁぁぁぁんッス」
こいつ、腋臭かったのか。
俺、嗅覚無いから今まで気づかなかったよ。
ってか知りたく無かったよ、そんな話。
「くふふ、あちらは何やら賑やかですよ」
「あは、チセ。高起動型ディガスの修理はどれくらいかかりそうやね?」
「動かすだけなら3日。元通りにするには部品の手持ちが足りないですよ」
「あは、やっぱりそうか。アレ、カスタムパーツ山盛りだからやね」
「くふ、大隊本陣に持ち込むか、部品取り寄せで2週間って所ですよ」
「っと、エリサ少尉。戦場で汗を流す軍人であれば致し方ないです。あなたの腋が部隊一過剰であったとしても責める者は居ないです」
「おぅふ、部隊一ッスか……」
「もうやめてあげて!」」
エリサのライフはとっくにゼロよ!
副長、フォローになってないよ!
「副長は、なんというか、爽やかでかわいいッスから。汗臭いのとは無縁そうで、イイッスよね」
確かに、この小柄で無口な銀髪少女は無味無臭感がある
むしろ泥臭い戦場において爽やかさすら感じさせる。
「っと、そんなことは無いです。私は足がちょっと」
そういって軍用のブーツを脱ぎ、小さな足を露にする。
「ぐほぅぇぇぇぇ、にがっッスめちゃにがッス!」
エリサが大変なことになってる。
ってか知りたく無かったよ、こんな情報。嗅覚無くて良かった!
「あは、では帰るやね」
「ほぅ、任務完了。骨占いの結果は順風あんぱん、今日のおやつは特盛万歳、だね」




