想定外のソウグウ
翌朝、小隊はいつもより早めの時間に集合し、出撃準備を始める。
今日の目的は森林ワーム女王種の探索と討伐である。
昨晩チセから俺の身体構造に関する解説を聞いたからか、何となく体が動かしやすく感じる。
前にやった二刀流が中々良かったので、自前できるように剣は二本用意した。
ササキ姓の俺が二刀流使いになるとは妙な気分ではある。
「せーんっぱい、今日はちょっとご機嫌ッスね。自分も嬉しいッス」
表情は出ないはずなんだが、声のニュアンスから感じ取ったのか?
エリサは他人の感情の機微には疎そうだと思っていたんだが、たまに鋭い。
「あは、やろー共、昨晩はよく眠れたか?なら出発やね、気合い入れろっ」
割と軽い調子でカリナ隊長が鼓舞する。
例によってアン副隊長が先行し探索を始める。
昨日同様、何度か森林ワームと遭遇するが、3匹以下の少数ばかりで全てアン副隊長が速攻で殲滅してしまう。
「っと、森林ワーム2発見。処理します」
高起動型ディガスは軽量化の為、魔導水容量も少ない。
その分補助起動装置を搭載し速度を上げているのだが、特にアン少佐搭乗機は速度への割り振り方が極端なようだ。
携行武器は、連射性に優れるが威力も命中精度も低い小銃と、間合いも狭く威力も低い短剣。
まず、高速で接近しながら小銃を連射。
移動しながらの射撃を全弾命中させ、そのまま足を止めず、短剣へ持ち替る。
接敵すると高速で短剣での攻撃を連続で繰り出し、威力の低さを手数と正確さで補う。
「せんぱい、、アン少佐すごいッスね。撃ちながら移動するだけで難しいのに、高起動型の速度で小銃を全部当てるなんて高等技術ッス」
「あは、それができるから、天才ちゃんやね、ウチの副隊長は」
自分より年少の上官の技量に感心するエリサと、自慢の妹分だとばかりに威張るカリナ隊長。
従来機は移動しながら何かをする場合ほとんど補正が働かないので、正確な射撃と感想ができるのはパイロットの技量の高さの証明である。
「くふふ、機動換装いつもながらお見事です。高起動型でアレができる者は帝国軍内でもそうはいませんよ」
「ほぅ、短剣連撃、手数を出してしかも正確だね。骨占いでいい目が出ても、あれはマネできないだね」
そのまま残りの森林ワームを、手早く無駄のない動きで仕留める。
エリサも同等の動きはできるのだが、機体性能と俺のサポートがあった上での事だ。
「っと、殲滅完了。引き続き先行します」
何事も無かったかのように涼しげに告げ、そのまま先行するアン。
これほどの技量があれば、短期間での昇進も頷けるというものだ。
森の奥に入るにつれ、ワームの出現頻度が上がってゆく。
そして帝国領と魔族領域の中間である中立地域まで侵入した場所で、周辺の木々の葉が食いつくされ、大木が倒れ地面が抉れるといった、巨大な何かが通った跡を発見してしまう。
「くふふ、これは決定的ですね。近くにいますよ」
チセが痕跡を確認していると、前方から魔導兵器の外部拡声器の声が響く。
「そこの一軍、止まっていただこう」
前方の木陰から3体の初めて見るタイプの魔導兵器が姿を現す。
いや、これは魔導兵器なのか?
大きさは俺と同様15m程度の、動く鋼の巨人といった様相だが、俺が今まで見てきた魔導兵器とは雰囲気がまるで違う。
帝国魔導兵器の装甲は直線基調でいかにも無機的なロボット感があって俺好みなのだが、現れた3機はいずれも曲線的で有機的なフォルムの装甲を纏っている。異なる技術系統で作られたものだと直感的に悟る。
「我らは沼の氏族巡視隊。私は隊長の衛者ヴァンテス。貴様らは帝国の者か?」
「私たちは帝国軍西部駐屯マーカス大隊旗下第五独立小隊です。私は隊長のカリナ・トーアラ中佐。当区域は中立領域であり、魔族領域ではないので侵入には問題ないはずですが?」
隊長の口ぶりからすると、連中が噂の魔族か?あいつらもロボット使うのかよ。
「魔族ッスね。乗っているのは魔族側の魔導兵器ッス」
「知っているのか震電!」
エリサが小声でこっそり教えてくれる
「士官学校で習ったッス。自分も実物見たのは初めてッスよ。魔族領域外で遭遇するのはレアッス」
俺達が見守る中、お互いの隊長が交渉を開始する。
予想外の状況に、カリナ隊長も緊張しているのか声が高く口調が固い。
「然り。緊急時故の出向なり。貴公らと交戦の意志はない」
「当軍は森林区域での任務中であり、沼の氏族との交戦は望まない。貴殿らの目的を問いたいやね」
「然り。当地にて森林ワームの異常繁殖を確認、実地調査中原因たる女王種を確認。対応を検討中貴公らと遭遇。女王種との接触が危惧される故、状況を伝えるべく引き留めたもの也」
「あは、なるほど。当方も同様の状況也。貴殿は女王種への対処如何にするおつもりか?」
「現状戦力にて正面撃破は困難、故に近隣付近に罠を仕掛け女王種の戦力低下を図り打ち倒す算段である」
「女王種放置は近隣の自然環境及び生態系への悪影響が懸念される。早急かつ確実な討伐が望まれる。当任務に協力を申し出たい。いかがやね?」
「然り、我が権限を持って協力の申し出を受け入れよう」
隊長同士の交渉で、女王ワーム討伐に沼の氏族巡視隊の魔導兵器3体と共闘することになった。
氏族というのは魔族内部の国家の名称で、巡視隊は『沼の氏族』という国家に所属しているとのことだ。
魔族の衛者ヴァンテスはこちらの隊長と同世代の若い少女だ。『衛者』というのは帝国軍における佐官相当の地位に当たる。搭乗機ガオンは魔族の用いる指揮官専用の高級機で基本性能はルインを上回るという。
部下二人も同年代の少女で尉官相当の『騎士』で双子の少女ラジャとフジャ。魔導兵器はバラムというルイン相当の普及機だ。
計8体2個小隊相当の戦力で連携して当たれば、女王種のワームが相手でも対処が可能だろう。
「あっさり国外勢力と手を結んでいいのか?」
「どーなんッスかね。野生の獣相手ッスからあまり大きな問題はないと思うんッスけど」
「んふふ、新兵諸君、そこはおそらく問題ないよ。中立地域で野生種討伐の為、敵対していない国外勢力と協力するのは前例がありまして、何れも揉め事が起きなければ大きく取りざたされることはありません」
「ほぅ、骨占いでも全速全裸まっすぐ街道と出ただね」
そっか、なら良いか。どのみち何かあれば責任をとるのは隊長だし。
小隊の中の一兵器に過ぎない俺は気にしないでおこう。




