新たなるセンジョウ
魔属領の森林付近で大型魔物の出没頻度が上がっている、という報告があったので討伐に向かう。
第五独立小隊は機動性に優れたアン少佐が先行し、次いで隊長機と俺、マシュロ中尉が真ん中、支援機のチセ大尉が後方というのが基本陣形だ。
「あは、前の乗機がブっ壊れてさー、しばらく哨戒サボってたから、そろそろ森林ワームが繁殖して増えてる頃のはずやね」
「はう、予備機体が無かったのは隊長のせいッスか!おかげで家事スキル急上昇、かわいいメイドさんで食って行けるレベルに達しましたッスよ」
「自己評価高すぎだろ、何より品がない、お前は」
ヲタク街のメイド喫茶と違って、この国この時代のメイドって王侯貴族の館で働くガチなヤツだからな。気品と教養がないと務まらないぞ。
話し相手がいるのが嬉しいのか、カリナ隊長は操縦しながらもお喋りを止めない。
べらべら話しながら丁寧に操作し、周囲への注意も怠らない所はさすがエースの力量といったところ。
エリサは足元がおろそかにならないよう俺がフォローしてやる。
後方のチセ大尉とマシュロ中尉も通信機で無駄話をしている。
「くふふ、どうだい?今回の出撃に備え新型のグリスを各部に塗布してみたのよ。動きがスムーズになったよね」
チセ大尉は軍で正式認可の下りていない品を平気で使うマッドな所がある。
「ほぅ、よく分からないね。骨占いの結果は順風万事休すだっただね」
マシュロ中尉は細かいことは気にせず、地方訛りがきつい。
「あは、アンー、こいつ面白いやね。受け答えが完全に人間だわ。何かあだ名つけたいからアイデア出すやね」
「っと、後にしてください」
賑やかな3名と違ってアン少佐の口数は少なく、黙々と任務をこなす。
「カリナ隊長、随分とにぎやかですけど、いつもこんな感じですか?」
「あは、ウチはこんなもんやね。あんまピリピリしすぎてても疲れるだけだし。この周辺はめったに皇国軍も現れないし。あは、仮に現れたとしても大規模な衝突は、中立国家連合を刺激するからなるべく起こさないようになってるやね」
「ああ、それでこの地域はあんまり戦況が動いてないのか」
「あは、魔族領域に隣接してるし、人相手より魔物相手の方が優先レベル高いやね」
いろいろ話をしているうちに、前方のアン少佐が足を止める。
「っと、居ます。森林ワームが6、先行します」
「あは、行ってこーい!」
森林ワームは主に魔族領域の森林地帯に住む大型の芋虫だ。その体長は最大10mにも達する。
雑食性で何でも食べ繁殖力が高く、放っておくと近隣の集落に多大な被害をもたらす。
冒険者と呼ばれるフリーの何でも屋が退治を請け負うことがあるが、こういった大型種は軍による定期的な駆除が一般的である。
エリサの操作に合わせ、俺も魔導銃を構え戦闘態勢を取る。
チセ大尉とマシュロ中尉も無駄口を止めそれぞれ魔導砲と魔導銃を構える。
配属後初実戦だ。
さっそくエリサの新人訓練の成果を拝見させていただくか。
先行したアン少佐から2匹仕留め、4匹がこちらに向ったという連絡が入る。
「行くッス、せんぱい。改良後のお手並み拝見さあせてもらうッス」
「おう、超絶魔導殲滅機ルイン・リミテッド出撃だ」
「あは、なにそれ大層な異名やね」
出現したのは体長4~5m程度の森林ワームが4匹。
まず射程内に入ってきた一匹を魔導銃で撃ち抜いた。
有効射程ギリギリからでもエリサは当てられる。それを俺が補正し急所をぶち抜き一撃で仕留める。
カリナの重装型ディガスも魔導銃の一撃で仕留めている。魔導コア補正能力の低いディガスでやってのけるとは、エースの称号は伊達ではない。
続いて接近してくるのが2体。
「エリサは近接戦用意、マシュロは周囲を警戒して待機、チセは支援準備して待機やね」
カリナは手早く指示を出すと自分は重装型特有の武器、近接戦用の槍に持ちかえる。
俺も指示に従い手早く剣に換装する。
「あは、!持ち替えすっごく早い、タイムレスやね」
楽しそうに褒めながら、踏み込んで槍を一閃、ワームの急所を貫き仕留める。
訓練で鍛えられたエリサの操作は想像以上に迅速正確で、俺が補正することで無駄な動きを一切なくし近づいたワームを両断し一撃で仕留めた。
「あは、上出来上出来、エリサやるねぇ。これなら戦力として十分やね」
「っと、早い」
「ほぅ、後衛は何もやることなかっただね」
「くふふ、あの一瞬の換装速度、そして急所を撃ち抜き斬り裂く補正の正確さ、新兵として尋常ではないよ」
技術屋も兼ねるチセは、俺の高性能ぶりに感心している。
今後は俺の整備補修も彼女が担当するのだから、時間があれば色々話しておかなくてはならないだろう。
「あは、快調!サックサク行くやね」
「っと、先行します」
再度陣形を組んで前進する。
「っと、森林ワーム8体と遭遇、支援お願いします」
さすがに数が多いようなので、足を速めてアンに追いつく。
前方ではアンの高機動ディガスがすでに接敵している。
高機動ディガスは近づいたら短剣で急所を狙い撃ちにし、間合いが空いたら小銃に換装し、連射を叩むといった、素早さと正確さで仕留める。
「あは、どうよ、ウチの副隊長は。天才ちゃんやね」
旧型魔導コアの補正はそれほど正確ではない。
しかしアンは本人の操縦技能でをれを補い、俺のように高速換装と正確な攻撃を繰り出せる。
瞬く間に3匹の屍を積み上げる。
「くふふ、ようやく私の出番よの。計算しようこの射程なら命中率100%よね」
「ほぅ、骨占いの結果、今日の射撃は外れないだね」
チセの支援ディガスが肩の魔導砲と、両手に構えた魔導砲を同時に放ち2匹同時に仕留める。
マシュロも魔導銃を構え一撃で一匹仕留める。
この両名の射撃技術もかなり高いようだ。
「あは、エリサ、私らも仕事するやね」
「了解ッス、おまかせッス」
「了解、そろそろ出力上げていくぞ。エリサ、こけるなよ!」
エリサの操作を意識し呼吸を合わせる。
駆け出し、そのまま魔導銃を放つ、まず一匹仕留める。
走りながら接敵までに剣に換装、足を止めずそのまま斬り裂く、これで二匹。
最後の一匹、ジャンプして間合いを詰め、そのまま剣を振り下ろし両断する。
「あは、動きすごっ、高起動型並みに動いてる……それで何%くらいやね?」
「70%といった所かな、改修後の全力はまだ出していなので、もっと上乗せできるかもしれんが」
「どッスか隊長、せんぱいすごいッスよね」
「あは、うんうん、さっすがエリサご自慢の大好きな先輩やね、これは想像以上やね」
「はうあ、自分そこまで言ってないッスよ」
顔を真っ赤にして訂正するエリサ。
どうやら俺が到着するまでの間、隊員たちに俺の噂話をいろいろと吹き込んでいたらしい。
通りで隊長や隊員たちが親しげな訳だ。
そうして無駄話を交えながら、任務を続行する。
そして切り上げ用とした時に、チセが告げる。
「くふふ、数のわりに成体種が見当たらず、小型群生と多数遭遇。これは女王種がいる可能性が高いですよ」




