叶うなら望むのは彼女とのサイカイ
目の前に立ちはだかるテロリスト、カキータの機体は通常の魔導兵器が所持する片手剣ではなく、両手で扱う大剣を装備している。
威力、間合い共に現行魔導兵器の使う近接武器としては最強の部類に入る。
しかし、その大きさと重さで動きが鈍く、ぶっちゃけ超速を誇る俺との相性は最悪だ。
俺は二刀でカキータのモヒカンヘッド中隊長機ルインの大剣を受け止め、そのまま弾く。
モヒカンは大剣を振り回し牽制するが、そんな大振り攻撃は当たらない。
背後に残っていた2機の砲持ちも、一緒に玉砕するつもりでいるのか突進してくる。
「エリサ、時間がない一息で削ってしまえ!」
「おまかせッス。この二刀流すごいッスね、魔導兵器にこんな動きができるなんて新発見ッス」
大剣の一撃を左手の剣で受け流し、右手の剣を本体に突き立てる。
後ろに残っていた2機の砲持ちルインが接近してきている。
左右の剣でモヒカン機を十字に斬り裂き、砲撃ルインに向き直る。
もう一度、例のダッシュで間合いを詰める。
「卑屈っ」
「雌豹ッス」
いよいよ警告灯の光が大きくなる、魔導水残量が限界に近づいてきている。
ダッシュの勢いのままに右手の剣で1機、そしてもう1機は左手の剣で斬り捨てる。
「やったッス!?」
「いや、そのセリフが出るときは大抵やれてない」
案の定、背後に倒れていたモヒカン機が動き出した。
頭をこちらに向け、そのモヒカンを俺の背面に向けて発射する。
「死にくされアホウが!モヒカッター!!」
エリサはその攻撃に意表を突かれ、一瞬反応が遅れる。
だが、俺はその攻撃があることは最初から分かっていた。
「エリサ、背面から来る。躱すな、剣で受けろ」
俺の声に反応し、振り返り両手の剣を胸の前で交差させ、飛んできたモヒカッターを受け止める。
「躱したら、ブーメランのように戻ってきて背面から、ガッってやつだろ」
今のが最後の悪あがきだったんだろう、モヒカン機はもう動かない。
魔導水残量を確認する、もうダッシュもできない。
「俺のいた世界じゃな、モヒカンみたいなパーツがブーメランのように飛んでくるのは常識なんだよ!!」
そのまま跳び上がりモヒカン機の上に着地、いや跳び蹴りをぶつける。
今度こそモヒカン機が活動を停止する。
同時に俺の魔導機関も動きを止める。
ガス欠。
「終わったッス?」
「ああ、これで敵戦力は全滅伏兵の姿は無し。初陣、単騎で1個中隊殲滅だ。帝国軍エースもビックリの戦果だ、よくやったなエリサ」
「アザッス、全部せんぱいのおかげッス」
と、同時に俺の意識が急激に薄れていく。
「目前の危機は去ったんッスよね?いったん研究所に戻るッスよ。博士達が心配ッス」
通常であれば最低限の機能維持のための水は残るはずなのだが、今回は水漏れさせてしまっている。
俺の意識を維持する分も残っていないようだ。
「いやー、もうダメかと思いましたッスけど、どうにかなるもんッスね」
エリサに返事をしなければ、だめだ頭が重くなり何も考えられなくなる。
「せーんぱいっ、どうしたんッスかお返事してくださいッス」
そして俺は徹夜で格ゲーをした日の朝のように、意識を手放し眠りに落ちた。
「せんぱい、できればこれからもずっと…………せんぱい?」
その後の話。
復活した技術士官が都市まで走り、帝国軍を引き連れて研究所に戻り後始末が行われた。
テロリストは壊滅、何人かいた生き残り兵は負傷者を連れて逃走、主犯のカキータは死亡が確認された。
今回の襲撃の黒幕に、有力帝国貴族の支援があったらしくこれは今も調査中、うかつには手出しできない相手らしい。
そういう事情があり、今回の事件は公にされることはなく、機密事項扱いとなった。
エディナ様と技術士官は帝都で新型コア搭載機の開発を始める為、この研究所は放棄されることになった。
わずかな間とはいえ、暮らしていた場所がなくなるのは寂しいものだ。
エリサは実力を認められ、正式に軍務につくことになった。
本人は引き続き俺に搭載する事、テストパイロットを続ける事を希望していたらしいが、1時間足らずの間に単騎で一撃も食らわず1個中隊殲滅、という戦果がそれを許さなかった。
将来のエース候補、期待の実力者として前線に配置されるのだろう。
俺の意識が戻った時、全てが終わりエリサは既に立ち去っていた。
「オハヨ、敵にもらったダメージより、自分でつけた傷の方が大きいってどういうことなの、バカなの?」
目覚めた俺が聞いたのは、エディナ様の罵声だった。
あれから1か月以上の時が経っていた。
俺が自分でやった水漏れと、機関への浸水は想像以上にひどかったらしく、修復し目が覚めるまで1か月以上もかかってしまっていた。
無理はそこだけではなく各部関節や、無理に動かしたフレーム、飛び蹴りをした脚部など、ボディのいたる所に損傷という形で出てしまっており、完全に動けるようになるには、もうしばらくかかるらしい。
「使い道のない試験機がここまでひどく壊れたのよ、本来なら廃棄もんよ」
しかしエリサとエディナ様、それに技術士官達が、俺の高性能ぶりを訴え、廃棄を免れたらしい。
皆に感謝、だな。
俺はさらなる各部の強化、燃費の改善と、魔導水容量の増加など改修を受けることになった。
今回の実戦で明らかになった欠点を改善されれば、前線に送られるらしい。
エリサに別れを言えなかったのは残念だが、お互い生きていれば会う機会もあるだろう。
願わくば、その時にはもう一度彼女に乗ってもらいたい。
完成まで眠るか。
意識を落とす前に各部をチェックしていると、コクピット内の書類入れに白い封筒が挟んであるのに気が付く。
『せんぱいへ』
俺をこう呼ぶのはエリサしかいない。
間違いなく俺当ての手紙だが、俺の手でコクピットの中の手紙を取り出して読むことなどできない。
バカな子。
感情が高ぶってくる、もし俺が魔導兵器じゃなかったら涙を流していたところだぜ。
どうせしばらく動けないんだ、手紙を読むのは次に目覚めた時の楽しみに取っておこう。
そして俺は再び眠りについた。




