稼働時間をモタセタイ
研究所を脱出し、立ちはだかる2個小隊を瞬く間に撃破した。
しかし調子に乗っていた俺たちは、逃走用の魔導水を消費してしまい、さらに機関もオーバーヒート寸前になり身動きが取れなくなってしまう。
排熱は裏技でどうにかできるので、脱出は諦め敵の殲滅へ方向性を変更する。
俺たちは排熱の細工を終えると研究所へと引き返す。
まだ大して時間は経ってないし、研究所は落ちていないはずだ。
岩陰に隠れ様子を伺うと、案の定敵軍は格納庫の閉じられた扉を破壊しようとしている最中だった。
その数はルイン5機、ディガス4機、計2個小隊だ。
「よし、間に合った。今なら背面から奇襲をかけられる」
「せんぱい、あれで全機なんッスかね?隠れた伏兵とかいるかもしれないッスよ?」
「いや、おそらくこれで全機だ」
「マジッスか?何で分かるんッス?」
「カラーリングを変えてアンテナが追加されてるやつが2機、これは小隊長仕様だ。そして、頭にモヒカンみたいなパーツ付けてるやつがいる、間違いなくカキータの中隊長機だ」
「あ、マジッスね。なんであんな目立つ装備してるんッスか?」
「モヒカン族にとって、乗機にモヒカンつけるのはロマンなんだよ」
「スンマセン、全く理解できないッス」
まず射撃で仕留める。
俺は敵機から鹵獲した魔導砲を両手で構え、背面を向ける小隊長機ルインに向かって発射する。
エリサの射撃能力だけなら命中率は限りなく低い。しかし俺が補正してやれば有効射程ギリギリからでも背面首元の急所に正確に命中させる事ができる。
「うまいっ、やた!」
「パネッス!こんな距離で当てたの初めてッス!」
敵軍が反応する前にもう一撃、一瞬で計2機の小隊長機撃破。
大型の魔導砲は魔導水の消耗が銃より大きいが、動かない分近接戦闘より消耗は少ない。
こちらの存在に気付いた敵軍が一斉に動き出す。
もう一射、正面を向いたディガスの頭部を粉砕する。
これで計3機。
敵の量産型ルインの砲持ちが2機反撃してくるが、この距離ではそうは当たらない。
この世界の射撃武器の精度は低い、この距離で急所に正確に命中させられるのは現時点では俺だけだ。
砲持ち以外の機体は中間距離まで接近し、魔導銃を撃ってくる。
小隊長機を失っても指揮系統に混乱はない、はやりモヒカンが直接指揮を執っているのだろう。
さすがにこの距離なら敵の銃撃も当たりやすい、だが数で劣る俺たちが銃撃戦に付き合ってやる義理はない。
「エリサ、接近戦だ、敵が持ちかえる前に獲れ!卑屈ダッシュ」
「ちょ、せんぱい、アレ獲物を狙う雌豹ダッシュって言ったじゃないッスか!」
俺は魔導砲を投げ捨て、敵の射撃を当たりにくくするためクラウチングスタートからの低姿勢ダッシュで全力移動し接敵する。
腰の魔導機関付近から一斉に湯気が吹き出し、視界に橙の警告灯が灯る。
排熱の秘策を仕込んだこの機体がどれだけ持つか。
予想がつかないので、できるだけ手早く決着をつける。
俺が行った排熱の秘策、それは魔導機関付近の管に自分で切れ目を入れ、漏れた魔導水を直接機関にぶっかけ冷やすというもの、言わば強制水冷。
魔導水は魔力の込められた水だ、ガソリンや軽油と違って高熱の機関にぶっかけても、爆発はしない。
機関の防水性は、雨の中でも稼働できるはずなので、この程度で壊れはしまい。
問題は、燃費が悪くなる全力稼働に加えて、水漏れ状態でどれだけ動けるか、それだけだ。
一気に間合いを詰め、その間に剣への持ち替えは完了している。
そのまま前衛のディガスを斬り捨てる、敵機は剣に持ち替えようとするが、それは自殺行為。その隙にもう1機のディガスも斬り捨てる。
後衛の砲持ちルイン2機は、味方が邪魔で撃てないから放置でいい。
残る敵はモヒカンの中隊長機ルインとまだモタモタと武器の持ち替えをしている雑魚ディガス2機。
先にモヒカンをやるか、と思ったら後ろに下がってディガスを盾にしやがった。
「エリサ、先にディガスだ」
「がってんッス」
隙だらけの近いほうのディガスを斬り捨て、返す刃でもう一体の首を跳ね飛ばす。
ついでに剣が痛んできたので、こいつらが持ち替えようとしていた剣を両方いただいてやる。
「バ、バカな、たった数分の間にわが部隊が半壊するだと、オマエはいったい何なんだ!」
モヒカン機の拡声器から声がする、間違いなくカーター大尉改めテロリストのカキータだ。
「俺は、超魔導英雄機ルイン・リミテッドだ!!」
「せんぱい、そんな異名があったんッスか!?」
「今考えた」
ホントはスーパー系なノリは望んでいなかったんだけど、せっかくだからやっておく。
前に考えてた名前あったんだけど、ド忘れしちゃって出てこなかったんだよな。
「カキータさん諦めるッス。今投降するなら命は保証しますッスよ」
「黙れ小娘が!軍に捕まれば死んだほうがマシな拷問にかけられ、かといってこれだけ被害をだして何の成果も得られませんでした、じゃ組織に粛清されるんだよ!俺はもう終わりだからお前らを道連れにしてともに滅びの道を世紀末!」
いかん、カキータの奴壊れやがった。
そして両手持ちの大剣を振り降ろし襲い掛かってくる。
俺は両手に持った剣を交差させ受け止める。
「二刀流ッス、ね」
実のところ魔導水が僅かしか残っていないので、さっさと降伏してもらいたかったんだが。
「仕方ない、エリサこいつは仕留めるぞ」
腰の魔導機関から、さらに湯気が立ち上る。
オーバーヒートは防げているが、魔導水の消耗はばかにならない。
早めに決着をつけなければならない。




