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泊まりがけの仕事ということ


 北門に着いた。


 結構な距離を全力ダッシュしたにもかかわらず息一つ切れてないことに少し驚きだ。やったことないけどフルマラソンとか出れたかもしれない。日々のハードワークで培った耐久力といったところか。


 普段なら、「俺に……こんな力が……!?」とポーズの一つも決めてみるところだが、今急いでんだよ。今度やろう今度。


 ポケットに手を突っ込んでアイテムボックス・アウト。まるでポケットにしまっていたかのように門番の人に定期……じゃなかった、ギルドカードを見せる。


「……よし、いいぞ」


 もはや門番の人の確認もおざなりだ。そりゃ、この通行量で何度も通ってりゃ顔も覚えられますよね。


 ギルドカードをポケットに突っ込んだふりしてアイテムボックス・イン。だいぶ異世界慣れしてきたと言ってもいいんじゃないでしょうか。


「まて」


 そんな自称中級者(異世界生活三日目)ぶりがいけなかったのか、門番の人にお声掛けされる。職質かな? 自慢じゃないが職質なんて何十回と受けたことがある。深夜にお腹減って、よくコンビニまで徘徊するからだ。何故か自転車の登録ナンバーの確認とかされてさ小一時間足止めされることも珍しくない。


 そんな経験豊富な俺にお声掛けだと? どんとこい。


「あのー、……手前がなにか?」


 ここで下手に出るのは仕方ない。だってデカい刃物なんてぶら下げてるんですよ? きちんとした取り調べどころか斬り捨てごめんされそうなイメージがある。昔の日の本だ。異世界こえー。


 揉み手気味に振り返った俺に、眉間に皺を寄せた不機嫌門番が話しだす。


「もうすぐ門を閉める時間だ。門を閉めたら次に開けるのは朝の鐘が鳴ってからだ。その間に街に入りたいと言っても、絶対に門を開けることはない。……ギルド長からの義務は果たしたからな」


 そう語ると後は知らんとばかりに顔を背ける不機嫌門番。


 ……つまり、これはチャンスということか?


 今、門の外に出れば冒険者の追っ手が掛かることはなく、さっさと森の奥に籠もれば襲い来る冒険者を煙に巻けるというわけか!


 いい仕事するねギルド長。誰だギルド長?


 まぁ恐らく灰色ツンツンがギルド長さんとやらに進言してくれたんだろう。


 俺は門番の人に軽く会釈をすると、小走りで門を出て森の中に入っていった。


 森の中は一足早い夜を迎えていた。


 すっかり薄暗くなってしまった森の中を黙々と歩くこと一時間。


 完全に日が落ちたのか、偶に木々の隙間から差していた西日も見えなくなっていた。


 夜の森を歩くのはあぶない。暗いからね。転ぶ。


 しかしスキルのお陰なのか俺の研ぎ澄まされた勘が冴え渡っているのか、木の根や虚に足を取られるような事はなかった。


 ならば進もう。


 今日中に着いた方が朝一から仕事始められるしね。確か……あの、うねうねした枝を左だ。間違いない。木に俺がつけた傷と似たような傷がついてる。


 間違いない。


 ほんとは矢印を掘りたかったんだが、あの灰色犬が歩みを止めてくれなくて……仕方なく横一線の傷になってしまった。


 まぁ、しかしこれが大人の知恵と言うやつだろ? パンくず蒔くような子供とは違うのだよ子供とは。


 薬草が下にある枝を左に、倒れている木の下を通って、赤紫色の斑点キノコを左手に眺めながら、枝からぶら下がる蔦のような蛇がいる木を右に。


 歩くこと三時間。


 そろそろ着いてもおかしくないのだが、おかしいな。


 冒険者連中に追われている恐怖があるせいか歩く速さが二倍。なのに未だ見えない薬草畑。


 体感時間にはかなりの自信があるので間違っていないはず。体に刻まれた技術のなんと役に立つことよ。


 しかし自分の技術を信じるなら自分の記憶を疑わねばならず。行くも退くも失敗が待つならば! 立ち止まろう。そうしよう。


 辺りを確認するように足を止める。


 真っ暗だ。


 見覚えのない景色だ。


 あれだ。昼と夜で違う顔だ。


 そうか。なんだ納得。恐らくかなり近いところまで来てるよ。歩いて五分ぐらいのとこに。


 なら後は明るくなるのを待つかな。ここで下手に動いて迷ってもしゃーない。


 どっこらせと腰を降ろす。俺が腰を降ろすタイミングで少し先の茂みがガサガサガサ。デジャヴ。


 でも暗くて判別がつかないよなー。


 茂みから、のそっと顔を出したのは、灰色の毛を白く発光させる狼。


 違った。灰色犬。


 なんだよ。やっぱり近くまで来てたじゃん。この歳で迷える子羊の略称を授からないで良かった。


 しかしここで異変が。


 灰色犬が小さい。普通の大型犬サイズ。普通の大型犬ってすげー言葉だよね。


 深夜のため、パースが狂ってんのかと思ったら……普通に小さい。


「……偽物か」


 ……どうするかな。本来ならエイヤッとやるのが冒険者。


 しかし俺がだいぶリッチメンに成れたのは、あのデカい灰色犬のおかげだ。もしこの灰色犬コンパクトがあの灰色犬の子供だったり親戚だったりしたら恩を仇で返す形に成りかねない。


 それはマズいね。


 ということで手出し無用でいこうと思うんだが……何故かグルルル唸る灰色犬コンパクト。今にも襲いかからんばかり。


 マズい。非常にマズい事態だ。


 このままでは灰色犬コンパクトが傷ついてしまう。ここ数日付き合った限りだが俺のスキルは鉄壁を体現。正にチート。


 しかしながらこのスキル発動中に襲いかかってきた面々は、自爆といっていいほどのダメージを常に負ってきた。


 厚さ十メートルのコンクリに突っ込まん車とばかりに。


 つまり今ここで灰色犬コンパクトが俺に突っ込んできたら、傷つくが必定。申し訳が立たない。


 じゃあスキルを解除するかといったらそれもないね。


 痛いのはちょっと……。


 さて、どうしたものか。


 そうだ、こうしよう。


「待ちたまえ、そこなウルフ。怒り心頭といった様子が見てとれるが……何が不満なのか聞く準備がこちらにはある!」


 話し合いだ。話し合いで解決。ピースな関係を築くにはまず話し合い。


 幸いなことに灰色犬の知能の高さは推してしるべし。意志の疎通が可能。


 満面の笑みで無抵抗を表すために座る俺。


「ウゥゥゥゥゥッ!」


 しかし何故か灰色犬コンパクトの怒りは覚めやらず。むしろ導火線が短くなった印象がある。


 今更遅いと言われるかもしれないが、逃げよっかなー。


 チラリ、視線は逃げ道を求めて方々へ。


 故に気付いた。


 いつの間にか木の陰からチラホラと別の灰色犬が顔を出してきているではないか。


 てゆうか囲まれた。


 包囲だな。包囲。


 鮮やかな狩りの手際と言わざるをえない。はっきり言って全く分かんなかった。ずるいよー。


 一人が囮になって注意を引き、残りが逃げ道を潰すと、なるほど。学ぶところあるわー。やはり知能が高いんだね。


 現実逃避する時間があるのも、完勝間近だというのに油断せず慎重に距離をつめているからだろう。


 そこでピーン。きた。


 そういえば迂闊な事にスキルの全容を確認していなかったな。この数のラッシュに耐えられるんだろうか?


 回数制限とかあったり、一定のダメージ量を超えると抜けたりとかする可能性もある。


 無限に無効って、一回の攻撃に限りとか? 制限時間あったりとか?


 ……三十匹はいるんですけど。また後日、分けて訪問とかされないですかね? あ、無理。はい分かりました。


 そうこうしてる内に時間切れとなりました。灰色犬コンパクトが飛び交ってきた。


 うわっ、はやっ!? これ避けんのは無理だわ。


 恐らく最初の犠牲者になる灰色犬コンパクト。勝っても負けても、関係の修復は見込めないだろう。


 さよなら灰色犬。


 さよなら薬草畑。


 どこか悟ったような面もちで灰色犬コンパクトの牙を待つ。うぇ、痛そう。


 しかし、ここで飛び交ってきた灰色犬コンパクトを上から降ってきた光がインターセプト。地面に押さえつけられる灰色犬コンパクト。


 なんだどうした。


 灰色犬コンパクトを抑える大きな光。


 元祖灰色犬だ。


 おお、正に救世主。ピンチに助けにきてくれるとかヤバい。俺が雌犬ならヤバかった。アウトだった。なんか後光が差して見えるよ。ああなんだ光ってたな。


「ウォオオオオン!」


 木々が覆い隠す夜空に向かって灰色犬がほうこうを上げる。


 灰色犬の吠え声に空気がビリビリと振動する。スキルを使ってなかったら失神してたかもしれない衝撃。端的に? チビる。


 肉体的なダメージはないかもしれないが、目の前で猛獣が怒り声上げてたらそらビビるよ。なんせ踏みつけられている灰色犬コンパクトなんて震えてるからね。


 ぐっと尿意を耐えていたら、俺を囲んでいた灰色犬ズに変化が。


 包囲を解いて三々五々と散り始めたのだ。中には「キューン」やら「クゥーン」やら言って足早に去っていく犬もいる。


 俺も混ざって逃げ出したい。


 あっという間に他の灰色犬はいなくなり、取り残される灰色犬元祖とコンパクト。ついでにオッサン。


 なんだろう。余所の家庭の説教現場に取り残された感ある。場違い感ハンパない。


 それじゃあ、あっしはこの辺で、とか言ったら、自然にフェードアウトできんもんやろか。


 元祖の視線が踏みつけているコンパクトに向かう。


 コンパクトは最初のウルフ感はどこへやら、尻尾を丸めてブルブルと震えている。


 少し可哀想になってきた。


 元々些細な行き違いみたいなもんだし。灰色犬にとったら人間なんて餌なんだろうから、取ったアクションは当然といってもいい。


 元祖なんて拾い食い感覚で摘んできたしね。自分はどうなのと言いたい。


「……あの、その辺でご勘弁願えればといいますか」


 故に口出しだ。本来なら余所の家の躾に口出しなんてしないもんだが、一因が自分にあるとなると何か言っておかねばと思ってしまうのが心弱き人。


 中途半端に上げた手で灰色犬元祖にストップだ。


 すると灰色犬元祖は曰わく言い難い瞳で俺を見てくる。


 呆れたような、残念なものを見るような。


 犬的尊敬の眼差しだ。


 命を狙われたのに当事者をフォローする俺の器に感心したんだろう。


 フンと軽く鼻息を吐いてコンパクトから足をどける元祖。コンパクトは圧力が無くなったのを理解すると、恐る恐る元祖の顔色を窺う。


「ウォン!」


 元祖が軽く一声吠えるとコンパクトがビビりながらも立ち上がって宵闇の中に去っていく。


 良かった良かった。誰もケガとかないのが一番だよね。


 軽傷ならともかく、長期休養が必要なケガとかされると大変なんだ。穴埋めの人員なんていないから個人の負担が増える。仕事の時間が長くなり、休みが消え、ストレスの捌け口が同じ状況のギリギリな上司なんかにいくんだ。


 悪循環。


 工場なんて特にな。事故自体無かったことにゲフンゲフン。


 それはともかく。


 いいとこで会いにきてくれたね案内人さん。いや案内犬さん。


 ニコニコとしながら灰色犬に近づいていくと、幾分ウンザリした表情をこちらに向けてくる。


 まじかよー、こいつもうよぉー、といったところだが、人間じゃないからね。ドッグブリーダーの才能のない俺には犬が俺に何を伝えたいのか分からない。


 ああ分からない。


 しかし助けてくれた御礼はしなきゃね。媚びてるわけじゃない。接待だ。


 とりあえずいつものように回復魔法を発動。


「少し聞きたいことがあるんですが」


 俺の回復魔法に目を細めている灰色犬に薬草畑の場所を聞いたら、付いて来いと歩き出す灰色犬。


 そのアクションを待っていた。


 まるで灰色犬の付き人のように付き従う俺。


 足元も覚束ない暗闇でも灰色犬がいると便利。転ばない。


 そして歩くこと、四時間……。


 日付変わっちゃったよ……。この前の薬草畑で良かったのだが、灰色犬一族的事情で別の採集場へ連れてかれてます?


 そんなことを考えていたら、目の前が開ける。


 日本じゃちょっと考えられない数の星が広がる夜空が見えた。今気付いたけど月が二つ。


 そんな月明かりに照らされた草原には、薬草がいっぱい。約十分の一は地面が見えているが。


 ははーん、似た場所だな?


 先客が少しずつ採取していったであろう露出した地面に座る。


 俺が腰を降ろすと、灰色犬がヤレヤレと言わんばかりに俺の背中のそばで伏せる。疲れてるのかな?


 アイテムボックスから買っておいたマントを取り出す。


 寒くないんだけど防寒用に買った。


 グルグルとくるまり地面に転がる。


 長年の経験から早く寝ておくべきという結論になった。風呂と飯は明日にしよう。


 もしかして直ぐに寝れないかもしれないと思ったけど速攻で落ちた。…………枕が、欲しい、なぁ……。










 朝だね。


 いつの間にか俺を覆うように灰色犬の尻尾が体に巻きついていた。ふさふさだ。気持ちいいな。


 体を起こすと朝日が昇り始めているのが見えた。


 日の出だ。


 流石に少し早く起き過ぎた気がするが、風呂入って飯を食ってたら丁度いい時間になるだろう。


 なによりあれだ、臭う。


 体臭が厳しくなる年代だから気をつけていたのだが、なにせ異世界。とりあえずの仕事探しの方が重要案件だった。


 仕事に金にと目処がついてきたので、次は風呂だな。


 清潔にするのは最低限のマナー。モテたいとかじゃない。電車で揺られている時に嫌悪感満点の表情を向けられたくないのだ。


 まずはこの何処からかくる不安を解消するために魔力を全放出。灰色犬に回復魔法だ。


 すると灰色犬が目を開けるが、直ぐさま再び気持ち良さげに目を閉じる。


 二度寝だ。


 ここで川や湖に案内して貰おうと思ったが、全開でリラックスしている灰色犬を起こすのも忍びない。


 それによく考えたら仕事するのだ。終わってからの風呂の方がいいだろう。


 じゃあ仕事するか。


 いつも通り、指を痛めないためにスキル発動。エフェクトは無し。畑の端から掘り掘りしていく。



 掘り進めていくこと六時間。



 二千二百二十二本を達成。途中で粉蕗を見つけて鳥肌が立ったのと、遠目からこちらを見つめる知らない灰色犬にビクついた以外は特にトラブルはなかった。


 ご飯食べよう。


 元祖灰色犬が座っている辺りまで戻って腰を降ろすと、アイテムボックスから大皿を取り出す。


 素早く警戒態勢をとる元祖灰色犬。落ち着け。


 大皿に山盛りの焼き鳥を出すようにアイテムボックスに指定。


 パッと現れる焼き鳥。ピクッと身を伏せる灰色犬。


 しまった、串がついたままだ。俺なら問題ないが灰色犬に串を外せといっても無理な話。


 せっせと湯気を上げる焼きたての焼き鳥の串を外していく。一本くわえながらの作業。


 五分と掛からず串を外して灰色犬の前に大皿を推す。


「どうぞ、お土産に買ってきた焼き鳥ですわ。旨いよ?」


 未だ警戒する灰色犬に安全をアピールするため一つ摘んで食べる。おう、旨いな。ほんとに時間経過ないんだな。アイテムボックスが万能過ぎる。


 これさえあれば……コンビニでスイーツ買ったものの、食わずに期限が過ぎてしまうというあの悲劇を回避できるということか。生製品はどうしても躊躇してしまう勇気のない俺。弁当なら一時間ぐらいの遅れでもイケるんだが。


 パクパクと食べる俺に安心したのか釣られたのか、クンクンと匂いをかぎ、とりあえずといった感じで一口食う灰色犬。


 モグモグゴクリ……バクバクバクバク。


 気にいったのかガツガツいきだす灰色犬。深皿を取り出して果実水を注ぐ俺。


 喉詰まらせんなよー。これも飲みなー。


 灰色犬の隣で俺もアイテムボックスから焼き鳥を取り出して口にする。俺は水で喉を潤す。


 しばらく咀嚼音だけが場に響く。


 先に食べ終わり水を飲み干して一息つく。


「……ふぅー」


 さて仕事しよ。










 カラン、と。


 月明かりで仕事をしていたら、そんな音が背後からしたので振り向く。


 白く淡い光を発する灰色犬が、昼に果実水を注いだ深皿を持ってお座りしていた。カキカキと前脚で地面を掻く。


 おい野生。


 しかし気づけば十時間ほどが経過していた。風呂に飯を考えると切り上げるべき時間なのだが……あと八十二本で四千に達するから、切りのいいとこまでいきたい。


 カランカランと深皿をくわえては離し、くわえては離しを繰り返す灰色犬。


 ……まぁ、合計で六千本はクリアしてるからいいか。ノルマは六千にしよう。


 腰を曲げ伸ばし背伸びにストレッチ。くぁっ。


 肩を軽く回しつつ灰色犬に振り返り尋ねる。


「水が溜まってるとこ、ある?」


 この前の水場とかじゃなく湖とか川的な?


 俺の問い掛けに灰色犬がのっそりと歩き出す。もはや何の疑問もなくその後ろに続く。


 歩いて三十分。


 洞窟のような場所の中に入っていく灰色犬。いや、洞窟だね。灰色犬の発光がより鮮やかに。暗いというより黒い、そんな洞窟。


 これは入るべきや……入らぬべきや……。


 俺が洞窟前で足を止めたせいか、灰色犬も洞窟内で足を止め行儀よくお座りして俺を待ってる。


 デッド的なフラグが立っている気がする。大丈夫だろうか?


 しかし焦れた灰色犬の「ウォン!」という一鳴きにより足早に後を追う俺。待たせると焦りが出る俺こと小心者。


 ビクビクとしながら洞窟内を灰色犬を追って進む。


 五分も経たない内に灰色犬が足を止める。


 どうした?


 灰色犬が足を止めた辺りを注視するが、よく分からない。


 灰色犬に近づこうと足を進めると、ボチャンと足の辺りで水音が。


 よーく目を凝らして見ると、足首まで水に浸かっている。


 ……うわぁ、全く感覚がない。


 自分のスキルにドン引きだ。気づかない内に水中とか歩いてそうで怖い。


 奥に広がった空間らしい。落ちていた石を拾い上げて投げたら、ポチャンという水音が返ってきた。


 地底湖だ。マジか異世界。


 水が届かない辺りまで引き返し風呂に入ることに。スキルオフ。水温が少し低い。我慢して体を洗い流し、ついでに着たきりだった服も洗う。


 風邪引かないために焚き火を起こすことにした。えーと、ライターライター。……ライター?


 しまった。ライターは家に置いたままだ。異世界に持ってきてない。


 どうすべ?


 …………はっ! 魔法、魔法かな。魔法でいけるんじゃね?


 しかし覚えられるだろうか?


 まぁ、悩んでても風邪引くしな。


 異世界の服を着用しつつ頭を拭きながら、久しぶりのステータスウィンドウお願いしまーす。




氏名 山中 賢

年齢 35

性別 男性

種族 人族

職業 狙われし者


Lv  3


HP  54/54

MP  31/31


STR 25

VIT 19

DEX 32

AGI 22

INT 123

LUK 15


固有スキル

・言語翻訳

・空間自在 Lv2


スキル

・鑑定

・回復魔法 Lv2


残スキルポイント 4




 あっ、スキルポイント増えてる。でも回復魔法を覚えんのに8ポイント掛かったんだよなー。足りない気がする。


 まぁ、やってみるか。


 火が出る魔法で。


 念じるとステータスウィンドウの画面が更新される。



 火魔法Lv1


必要スキルポイント:3

あなたの残りスキルポイントは4です。

新しいスキルを取得されますか? Y/N




 リーズナブルだな。もしかして魔法ごとに違う感じ?


 とりあえず良かった。じゃあ火魔法お願いします。




 火魔法Lv1を取得しました。




 さてこれでオッケーかな?


 手を翳して火を求める。えらい厨二文になってしまった。ファイヤだファイヤ。


 ボッと拳大ほどの火の玉が浮かび上がる。


 おおー。いよいよ俺も魔法使いか。回復魔法より魔法って気がする。別に回復魔法がみるみる傷を治さなかったことに不満があるわけじゃないけどね。三倍近いポイントだったのになんて全然文句ないけどね。


 火の玉が照らす洞窟内はえらい神秘的だった。


 少し辺りを眺めた後、寝やすそうな場所に寝床の準備を始めたら火が消えた。


 あっ、やっぱりずっとついたままじゃないのね。


 とりあえず焼き鳥の木串をアイテムボックスから取り出してファイヤで着火。今日はこれで。今度、薪を集めて入れとこう。


 パチパチとはぜる火を見ながらウトウトとしていたら、俺の体にデカいフサフサの尻尾が巻きついてきた。


 尻尾の持ち主に目を向けたが、知らんぷりされた。


 この日はこれで落ちた。寝心地は良かった。











 二日目。


 朝起きて薬草を取った。六千四百本。焼き鳥がなくなった。風呂に入って寝た。


 三日目。


 朝起きて薬草を取った。七千二本。ギャグ的に買ったマンガ肉を灰色犬に出す。骨ごとバリバリいっていた。風呂が冷たいから火の玉をぶち込もうとしたが、水蒸気爆発とか怖いから止めた。どこまで科学とか通じるか分からんけど、安全第一だしね。


 四日目。


 朝起きて薬草を取った。七千百六十本。畑も半分ほどまできた。全部毟っていいか灰色犬に聞いてみたが、鼻をフンスと鳴らされただけだった。


 五日目。


 雨が降った。雨が降ろうと台風が来ようと電車が止まらない限り仕事に休みはない。カッパ的なコートっぽいのを着て仕事をしたが、どうやらスキルで遮断できるらしい。コートは防寒用になった。七千七百七十七本。スープ的な料理を食べた。灰色犬が物足りないさそうな顔をしていたのでマンガ肉を出す。銀貨三枚分買ったのでまだあるが、正直ハムみたいに切って食べようと思っていたので、こんなに消費すると思わなかった。仕事が終わるまで保つだろうか。


 六日目。


 朝起きて薬草を取った。薬草を抜いてアイテムボックス、薬草を抜いてアイテムボックス、薬草を抜いてアイテムボックス、薬草を抜いてアイテムボックスああああああああ! 六千本。マンガ肉が意外と旨かった。


 七日目。


 朝起きて薬草を取った。昼に灰色犬が灰色子犬をくわえて連れてきた。生後二ヶ月ぐらいか? めちゃくちゃ可愛い。左脚を怪我していた。灰色犬が薬草がガブガブ食べると灰色子犬の怪我している部分を舐めていた。その後、灰色子犬にも薬草を食べるように促していた。とりあえず二匹まとめて回復魔法を掛けておいた。灰色犬的な畑の薬草の利用法を知ったが……えっ、取り尽くしていいのか? 六千本。子犬と一緒に食事を取り一緒に寝た。


 八日目。


 朝起きて薬草を取った。六千本。明日で終わりそうだ。マンガ肉が終わった。


 九日目。


 朝起きて薬草を取った。五千九百二十六本。畑をキレイにした。いいのか? まぁ、灰色犬は何とも思ってなかったようだが。まだ薬草畑があるのか聞いたら案内しようとしたので止めた。明日は街に戻って違う街に行くとしよう。冒険者はここまで追ってこなかったが、街にいる間中狙われたら堪らない。人は人の集まりに帰属するもんなんだよ。四六時中緊張するより安全な新天地を求めよう。


 諸々の事情を灰色犬に話した。「ウォン」と一鳴きされた。うん、分からん。最後の夜なので酒を出してみたら大層気にいっていた。俺は飲めない。接待用だ。


 ほとぼりが冷めた頃にまたこよう。とりあえず新しい薬草採集できる場所を探してみるかと考えつつ眠りに落ちていった。



基本の属性に掛かるスキルポイントは一律3です。


だいたい魔法はこんな感じ。


基本属性:3

聖闇等特殊属性:5

バフ・デバフ回復等:8


聖属性に回復は含まないので、アンデット系に回復掛けたら回復します。


主人公のスキルは、文字通り火の中水の中、ど・こ・ろ・か! 溶岩の中だろうが深海の底だろうがへいちゃらです。制限と弱点はあります。範囲既に明記してますが、他は追々明かしていきます。まあ無敵。


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