換金するということ
はっ、遅刻!
ブラックアウトからの目覚めに、スマホにセットした目覚まし時計が鳴ってないと不安でしょうがない。そんな働き盛りの三十代、どうも俺です。
……そうだ異世界だ。犬と魔法でファンタジーだった。オッケー大丈夫、まだやれる。
いつもの合い言葉を胸に体を起こす。目覚めは軽く倦怠感もない。なにこれ不安。
そんな不安とは裏腹に、今日も快晴らしく木々の隙間からは木漏れ日が差しチュンチュンと雀の鳴き声が聞こえる。
少し離れた所にはチョロチョロと湧き水が湧く水場が見えた。あれ? 少し場所離れてないかい?
首を傾げつつも疑問に感じる暇がなくなる。なぜかと言えば、日の光に影が差しこみモンスターな鳥がワッサワッサと接近してきたからだ。
体長が二メートルほどですね。おい。
「チュンチュン」
そうか。鳴き声の元は君でしたか。次からは雀の鳴き声が聞こえてきたらダッシュで逃げることを誓おう。俺に、次があれば。
チュンチュンと鳴き声を上げる怪鳥は、どうやら俺を朝ご飯に決めたらしくロックオン。旋回を止めて真っ直ぐ降りてくる。嘴が怖ぇ。
こういう時はあれだ、スキルだ、発動だ。えっと、なんて名前だっけ? ほらほら、何とかかんとか、って一文字も思い出せん。やべぇ、ど忘れした。もしかしたら発動してるかもしれんが、エフェクトがないから分からない。不便。とりあえずステータスを呼び出して、運営に抗議をあああああ鳥がぁ。
猛スピードで突っ込んでくる鷹に似たモンスターに涙を浮かべ、こら逝ったと思った瞬間、横合いから飛び出した影が鷹モンスターをかっさらっていった。
ズダンと響き渡る着地音に目を引き寄せられると、灰色犬が鷹モンスターの首をくわえてこちらを見ていた。酷く残念そうな視線に見えるのは被害妄想だろう。多分寝起きはあんな視線なんだよ。
ピクピクと動いていた鷹モンスターだが、灰色犬が首を捻るような動きを見せるとボギンッと鈍い音を響かせてその動きを止める。閻魔によろしく。
朝飯にするつもりが朝飯にされてしまったらしい。朝からディープな自然の摂理を見てしまった。そのまま食事に移行した灰色犬に感謝の意を込めて回復魔法をかけた。グロ耐性そんなないから、ちょっと食事止めて貰えんかね?
いつも通りダルくなるまで回復魔法をかける。きたきた。これぞ仕事前って感じが出てきた。
ただ最初に回復魔法をかけた時より灰色犬が淡い緑色の光に包まれる時間が長くなっている気がするが、あの時は気絶寸前だったということもある。気のせいだろう。
深く考えないことが長く仕事を続けるコツだと思う。
今日も元気に薬草を採るために仕事場に向かいたいのだが、右を見渡しても森、左を見渡しても森だ。どっちだっけ?
流石に今日は換金して食事と風呂に入りたいため、仕事は午前中に切り上げることにしよう。過労で死ぬとか最悪だよね。
たしか……水場があそこだから、あっちじゃね?
「ウォン!」
俺が歩きだそうとしたら、灰色犬が吠えた。
なんだろう、いってらっしゃいかな?
「いってきまーす」
灰色犬の声に応えて仕事場に向けて足を踏み出そうとしたら、灰色犬が食事を途中で切り上げてついてきた。口の周りが血で真っ赤だ。怖い。
しかしどうしてついて来たのか。もしかして道に迷うとでも思われたのだろうか。はっ、そんなまさか。これでも記憶力は人一倍だと自負している。薬草のある草原は近いって分かってるし、あの時は灰色犬を追って真っ直ぐ歩いてきたのだから、真っ直ぐだ!
俺が真っ直ぐ歩いていると、灰色犬がそっちじゃないとでも言うかのように体を当てて俺の進路を変更してくる。
「え、あっちなの?」
俺がその行為にイマイチ納得がいかないと首を捻ると、灰色犬は仕方ないと言わんばかりに先行しだした。人間だったら溜め息を吐き出すような挙作で。きっとこの犬種特有の癖なんだろう。
はたして灰色犬の後についていって大丈夫だろうか。結果は直ぐについたのだが。
右にいったり左にいったりウネウネ歩いていたが、トータルすると真っ直ぐで良かったと思うんだ。別に自分の非を認めたくないわけじゃないんだけどね。
「ありがとな。じゃあ採ってくるわ」
犬に話し掛けてる寂しい三十代というわけじゃない。絵面はそうかもしれないが違うんだ。いやほんと違うって、マジマジ。灰色犬の知能が高いため話し掛けてるだけなんだ。
非常時の時のための言い訳も完璧な俺は、今日も薬草採取という高給取りな仕事に励むことにした。薬草このやろう。
太陽が中天に差し掛かった辺りで腰を上げる。腰を伸ばす。あー、きっつ。
今日はしっかり数えた。二千本でフィニッシュだ。除草剤欲が少しばかり芽生え始めたところだ。大体これぐらいで休憩を入れるのがいいだろう。ぶっ倒れるまでやるとか馬鹿のすることだ。俺は賢い。賢者を名乗ろかな。いや名前だよ? 自分を褒めてる訳じゃなく。
大体、草原のギモヨ草を十分の一程採取しただろうか。単純計算で一日半だから十五日程で刈れるな。全部刈ったら一日休みを取ろうかな。いや、連休いっちゃう? 二日だ!
うーん、でもそうなるともっと効率を求めたいな。バッファとりたい。ここに来るまでに四時間ぐらいかかるのもネックだ。朝を起きてここまで歩いて八時間労働して街へ帰る。大体二日で十六時間。多分昨日と今日の合計労働時間と同じだから計算が狂いそうだな、二十日になっちまう。となると、この片道四時間を削りたいなぁ。そうだ、泊まり込もう。アイテムボックスに必需品を山のように詰め込めばいけるんじゃね? 前の仕事でも退勤通さずに残業、徹夜、仮眠、朝から仕事なんてよくあったしな。なんてナイスアイデアなんだ。これが知識チートってやつか。
俺は脳を高速回転させて今後の仕事プランをひねり出した。僅か五分。
そうと決まれば街に帰ろう。換金して必需品買わなきゃ。街はあっちだな。
日が登り沈む方向で大体の東西南北に見当はついてる。後は四時間歩くだけ。
しかし薬草の草原を出ようとしたら、再び吠える灰色犬。
なんだよ? 一々吠えなくても少し呼び掛けて貰えば分かりますよ? なんか吠える声に迫力があるんだよ。一々ビクッてなるんだよ。
タタッとこちらに駆けてくると再び一吠え。
「ウォン!」
どこぞの通貨かな?
何が言いたいかイマイチはっきりしないが、そこは犬、仕方ない。
しかしこちらの言うことは通じているようなので、街に帰ることを告げてみる。
「今日はこれで切り上げて街に帰るよ。また来るから」
そう言うと、理解したのかしてないのか明後日の方向にのっしのっしと歩き出す。帰るのかな?
じゃあ俺も街へと歩き出そうとしたら再び「ウォン!」日本語で頼むよ。
振り向くと灰色犬が前脚をカキカキしている。ついて来いってか? 弱ったな。街に帰りたいんだが……。
まぁ、今日はもう仕事も切り上げてるしな。いざとなったら睡眠時間を削る方向で。
次の日が休みの上司に呑みに誘われるケースと同じパターンで対処した。迸る有能さが止まらない。だだ漏れ。誰か止めて。
再び灰色犬の案内の下ついていく。しかし異世界ってもっとモンスターがウジャウジャしてるイメージあったけど、意外と少ないな。今のところ四種四匹にしか会っていない。
きっと治安がいいんだなー。
そんなことを考えながらのんびりと歩く。仕事上がりの余裕と開放感もあって、こんな寄り道も苦にならない。
しかしそれも三時間。
流石に帰りの時間を考えると、これ以上つき合うと明日に響く。ここらでお暇させてもらえないかと思っていたら、森を抜けた。
またどこぞの薬草畑かと思えば見覚えあるような気がすることもない外壁が見える。一昨日ぶり。
「あー、あれってさぁ……」
もはや自然に灰色犬に話し掛けていたのだが、当の本犬はあとは御自由にと言わんばかりに森の中へ駆けていってしまう。
どうやら街への近道を案内してくれたらしい。賢い犬だな。
さて予定より早く帰ってこれたが、やることはまだある。換金だな換金。正直言うと、まだこの草が金になるということを少し疑っている。だって草だよ草。何万本と生えていたのだ。二、三本抜いたら一食買えちゃうよ?
あんなに青々と茂っていたのも怪しい。地元の人はみんな知ってるのに俺以外採ってる奴なんていなかったもんな。どうしてだろう? もっと美味しい仕事があるんだろうか。
まぁそこは疑問もあるが今は置いとこう。重要なのは薬草の換金だからな。正直、一銭も持ってないから換金できるかどうかに生死が掛かってると言っても過言じゃない。
そして、換金できたとして、一遍に換金することは得策だろうか?
買いたたかれたりしない? 常時依頼が出てるらしいので、大量に流出されて相場が値崩れする等の対策はされているだろうが……安心は出来ない。
だから小分けにすることにした。
少しずつ売っていこう。一本銅貨五枚とのことなので、百本も売ったら当分の食料やら着替えやらは買えるんじゃないかな? 銀貨五枚、五万円。
おお、いいな。ついでに最初からズタ袋に入れていこう。カウンターの前で虚空から薬草取り出したら在らぬ疑いを掛けられるかもしれないしね。なんせ異世界。魔法で盗んだなんて言われたくないしね。そうだよ。情報が金に変わることもあるからな。スキルは秘して置いた方がいいんじゃないか? なんせ閻魔様直々のもんだしね。なんてこった……そのためのズタ袋ということか。いや、そうだ……俺は恐らく薄っっっっすらとその事に気づいてズタ袋を購入したんじゃないのか? ああ、そういえばそんな気がしてたな。あるある。二つ買ったのは一方が駄目になった時のため用だ。買い置きだ。歩いてコンビニに行った帰り道、袋の底が破けてうなだれたことが誰しもあるだろう。そんな時、困った時、ズタ袋があればもう安心! いつ破けても平気です! 的な。
そんなズタ袋を一つアイテムボックスから取り出す。
さて薬草を詰めようか、となった段階でふと思う。
アイテムの呼び出しって手元だけなんだろうか?
さすがに一個一個呼び出して袋に詰めていくには時間が掛かるからね。ほら、あれだ、範囲指定? 的な便利機能ついてないだろうか?
例えば……アイテムボックスさん、ズタ袋の中をパンパンにするくらい薬草を出して、とか。
ボンッ!
一瞬で膨れ上がるズタ袋。袋口の所から薬草の葉が見えている。
……わーお、便利。でも突然はびっくりするから勘弁して頂きたい。あと勢いも結構凄いものがある。薬草大丈夫だろうか?
恐る恐るズタ袋を覗いてみたが、パッと見た限り折れたり曲がったりした奴はなかった。丁寧に重ねられている。
アイテムボックスさん、すげー。マジぱないっス。
大体五十本ぐらいだろうか? 目標の百本まであと一袋分。俺はどこまで見越していたというのか……!?
再び同じようにズタ袋を取り出して薬草をボン。口を紐で絞って肩に担ぐ。げげっ、意外と重い。しかも肩に紐が食い込んで痛い。
うーむ、どうしたものか。なんか肩当てになるようなものないかな? まず十本程薬草を売って肩当てを買ってから、いや手間だな。余計な出費になるしね。本数を減らすかな? あー、スキル使ってみるか。効果があるか分からんが。
守れ空間自在Lv1! 次元断層! なんつって。
相変わらずエフェクトはなし。発動してるかも定かじゃないが、別に命の危険があるわけじゃないので構わない。どっこいしょぉお!
…………あり? 紐切れたかな? 恐ろしく軽いんだけど。
紐はピンと張ってるものの肩に食い込むこともなく、しかし荷物の重さも感じない。
チラッと後ろを肩越しに見ると、紐は切れておらず、ズタ袋がブラブラとぶら下がっていた。
深く考えないことが仕事を長く続けるコツなのだ。
軽いならいいか。重いよりいいしな。
ズタ袋を二つ担いで街の出入り口を目指す。相も変わらずやる気無さそうな門番の人が見えた。
「すみませーん。これでお願いします」
ポケットからギルドカードを取り出して掲げるように見せた。定期感覚。
……………………………………あるぇ? 反応がないぞ。ただの屍かな? ねりの方かな?
ギルドカードをプラプラと振ると、漸く反応が返ってきた。何故かひどく驚いていたようだ。久々の客に驚いてるのかね。そんなに交通量少ないのここ?
「あっ、よ、よし、いいぞ。かく、確認した。よし、いいぞ、通っていいぞ」
この狼狽えようは……俺の予測が間違っていなければ、こいつ、寝てたな?
ハードに続く仕事に削られる睡眠時間、どうしても睡魔に勝てない時がくる。コーヒー飲もうとガム噛もうと目の下に薬を塗ろうと、抵抗は無意味とばかりに奴らは侵食してくるのだ。休憩時間の僅かな間が逆に危ない。少しの気の緩みをついて陥落してしまう。
今の反応はそんな時に揺り起こされて起きる俺に似ている。まず間違いあるまい。
未だ俺の顔を凝視しているハードワークなご同類に俺は優しい笑顔を返した。
「お疲れ様です」
仕事してる人の合い言葉だ。電話の終わりとかに思わずつけてしまう。
頑張ってる奴の多い街だな。
もしかしたら就職事情が厳しいのかもしれない。よく考えたら失業保険なんてないだろうしなぁ。そんなことを考えながらギルドの扉をくぐる。
一斉に集まる視線。なにこの視線ってデフォなの? 敷居が高いな冒険者。
前回と同じように俺を捉えようとする視線と目を合わせないようにカウンターへ、
「おいオッサン!」
行こうとしたんですよ。
世紀末な方々が通せんぼ。相違点は肩のトゲトゲがないくらい。
なんだろう? オヤジ狩りかな? モンスターが少ないために目につくオヤジを一狩りいこうぜ! ってねー。
次元断層次元断層次元断層次元断層次元断層次元断層次元断層次元断層次元断層次元断層。
相変わらずの無反応に本格的に運営に抗議を入れたい。大丈夫? これほんと今いける?
代表なのだろう。スキンヘッドに無精ひげを生やした目の下にクマがある熊がズイっと前に出てくる。笑顔が怖い。
俺をもはや一刀の間合いに入れたその熊は、上から下までをジロジロと眺め聞いてきた。
「怪我はねぇか?」
「はい?」
「だから、怪我してねぇかって聞いてんだよ」
怪我って怪我だよね? 誤訳とかじゃなく?
俺がどう反応を返していいか少し戸惑っていると、目の前のスキンヘッド熊は短気なのか、傍目にイライラしだしたので慌てて返信。
「あ、ないです。全然大丈夫です」
「少しもか? 掠り傷一つなし?」
スキンヘッド熊の後ろから頬がこけた小悪党顔がこちらに念押しだ。
「あ、はい。掠り傷一つないです」
そもそも危ないことしてないんだが。
何故オッサンの傷の心配をしているのかは分からないが、俺の答えと同時に、俺の周りを囲んだ冒険者とギルドに設置されているテーブルの奥の方に座っている冒険者が歓声を上げた。
オッサンに気軽に声を掛けたり、オッサンの傷を心配したり、随分ハートフルな職場だな。いい奴多いな冒険者。
しかしオッサンの精神は削られたよ。善意なんだろうけど、全く知らない奴に話し掛けられるのってキツいもんがある。妙に馴れ馴れしかったり言葉選んでなかったりするんだ。仕事慣れだして職場の配置換えで来た若い奴とかに多い。話し掛けてきたくせにバッサリ斬る奴とかね。
会話をする気はないのか聞きたいことは聞いたとばかりに引き上げる俺を囲む冒険者。コミュニケーション単発。ならほっといて欲しかった。
「よっしゃ!」「トニどこいった!」「なんだ1かよ! まんまじゃねぇか!」「俺十枚だぜ!」「かぁーっ、ケチって一枚にするんじゃなかった」とワイワイ言い合いながら奥のテーブルへ。
ともあれ通行止めが解除されたのでカウンターへ。また二つ埋まっていたので端の一つに。よく見たら女性職員さん口説いてない? 受付って暇なのかな?
そう思っても口に出したり列に割り込んだりはできない。波風が立ってないならいいのだ。わざわざ揉めなくとも一つ空いてるしね。いつか並べばいいのだ。
ガラガラのカウンターに座っていたのは灰色ツンツン。カウンターで暇そうにしている。
なんだろう。この光景見たことあるな。これがデジャヴってやつか。
「あの、すいません」
「あっ?」
顔を上げる灰色ツンツンにお伺い。薬草は物持ってきゃ後付けでも依頼扱いと聞いたが、なんて言えばいいのやら……。
「薬草の買取を」
「ああ、薬草採取か。……って、この前の奴じゃねぇか。薬草採ってくるにしては時間かかったな」
「ええ。探すのが大変で」
「だろうな。まぁ、最低ランクなら雑用系でも時間かけるのなんか普通か。兼業の奴もいるしな。で、物は?」
「ああ、はい」
サクサクと進めてくれる灰色ツンツン優秀。他のカウンターの進み具合を考えると、意外と仕事が速いため列が出来てないんだろうか。仕事の後はこのカウンター使う方が時間効率はいいかもしんない。
灰色ツンツンが依頼用紙を書き出している間に、肩に下げていたズタ袋を二つカウンターの上に乗せる。ちょっとドキドキしてきた。
「………………おい」
「はい?」
何やってんだ的な目でこちらを見てくる灰色ツンツン。なんだろう? またしても言われた通りにしてるんだが。
「なんで道具だか装備だか知らんが袋ごと置いてんだよ。薬草だけ取り出せよ」
「あ、これ全部そうでして」
「……全部だと? 袋二つともか?」
「二つともです」
疑わしげな灰色ツンツンにコクコクと頷き返す俺。
ズタ袋を一つ開いて中身を確認する灰色ツンツン。
「シェーラっ!」
かと思えば突然叫び出す。しかも意味が分からない。翻訳さん仕事ですよ。
が、その叫びに奥の机にいた猫耳つけた女性職員さんが反応。「はーい」と応えて近寄ってくる。あ、シェーラって名前ですか。スラングかと。
「これ二つとも薬草だと。鑑定してこい。状態がかなりいいから適当こくなよ」
「うぇ。これって全部……うわっ、ぎっしり。……あの、あたし書類整理がー」
「ああっ? 嘘ついてんじゃねぇぞ新入り。てめーに回した書類なんて四日も前の奴じゃねぇか。まさか、また終わってねぇとか抜かす気か?」
「い、いえ! じゃあ奥の解体場の方で! ラグさんと一緒に! いってきます!」
袋を抱えてサッと奥へ逃げてく猫耳さん。あの袋、結構重かった気がするんだが、片手で二つとも抱えていったな。そっか……、いや、俺だって軽々と持ってたし? 軽々担いで入ってきたから? 男の尊厳的にはセーフだろう?
俺が猫耳さんを目で見送っていると、同じく猫耳さんを目で追っていた灰色ツンツンが舌打ちを一つしてこちらに向き直る。
「わりぃけど少し時間掛かるぞ」
「あ、それは全然別に、はい。大丈夫です」
「じゃあ依頼達成の処理を先にやるか。あの薬草、全部で何本か分かるか?」
「……いや、ちょっと」
多分百本ぐらいだと思うが、正確な本数って言われると分からない。
「ああ、だろうな。ま、本数はこっちで当然確認するが、あんだけ多いとチョロまかす奴もいるからな。自分で把握しといた方がいいぞ?」
「はい。気をつけます。ありがとうございます」
なるほど。言われてみると確かに。今度は本数指定できるかやってみとこう。しかし細かいところに気づいてくれたり、待ち時間に書類処理したりと、優秀だな灰色ツンツン。
俺が頭を下げるのを手を振って「かまわん」と止める灰色ツンツン。
薬草の鑑定が終わるまで、ギルドカードを提出したり、依頼を十回成功させると上のランクにいけると説明を受けたりした。薬草採取は十本提出で一回分の依頼達成になるらしく、恐らく今回の持ち込みでランクが上がるとのこと。
別にランク上げを目的とはしてないが、実際に上がると言われると嬉しいものがあるな。仕事が認められた気がして。これからも薬草採取ってこう。まぁ、ランクFになってランクGの依頼をこなしてもランク上がったりしないらしいが。
なかなか有意義な時間を見せるイケメンとのトーク。女子が切望するのも頷ける。カウンターに列が出来るわけも分かるというものだ。
例のアレには載ってなかった細かい事を灰色ツンツンと話していると、激しい音を立てて奥の扉が開かれる。
「カムさん!」
叫び声と共に現れたのは、先程同じ扉から出て行った猫耳娘カムバック。確かシェーラさん。
「職場では静かにしろと何度も何度も……」
イライラと振り返る灰色ツンツン。気のせいか青筋が幻想できる。灰色ツンツンの説法が届かなかったのか聞いてないのか、大声を上げながら接近してくるシェーラさん。後でじっくり怒られるパターンだ。
「コフキですよ! コフキ! さっきの薬草の中にコフキが混じってたんですよ! これ」
「シェーラッ!!」
灰色ツンツン、一喝。
先程の説法はなんだったのかと言うほどの大声でシェーラを怒鳴りつける灰色ツンツン。他の人の手前でそういうことしないタイプに見えたんだが。
灰色ツンツンの怒喝に静まり返るギルド内。まぁな。あれはビクッとなるよな。
怒鳴られた本人は目を見開いてフリーズ。目尻に涙が浮かんでいる。
「あ、あの」
「俺がいいと言うまで資料室に行ってギルド規則読んでろ」
「え、でも」
「いけ」
「は、はひっ!」
振り向いている灰色ツンツンの表情は俺には見えないが、正面に立っていたシェーラさんは何をみたのか汗が噴き出していた。先程確認出来なかった尻尾もピンと毛羽立っている。どっから出した?
少し前には風のように奥の扉から出て行ったのに、今はギクシャクと固い動きで前とは違う扉から出て行った。右手と右足を同時に出す人とか初めて見たよ。
未だ静まり返るギルド内。いつもは寂しいカウンターが注目の的だ。居心地悪っ!
灰色ツンツンもそう思ったのか、しかめ面して俺の後ろをチラッと気にした素振りを見せる。
あー分かる分かる。冷静になるとやっちまったって思うことあるよね。その後でいつも通りに振る舞うのって厳しいしね。
俺がどうしたものかと考えていたら、灰色ツンツンが立ち上がった。まさかの職場放棄だろうか? 若さがほとばしってるが換金を終えてからにしてほしい。
「ちょっと付いて来い」
おぅ。どうやら居たたまれなくなって場所を変えるようだ。でもその選択はありがたい。気のせいか視線の圧力が凄かったからね。
灰色ツンツンに付いて行き案内されたのは、お偉方が商談とかしそうな個室。両脇を本棚が固め窓際には校長とか座っていそうな机。その手前に木製のテーブルと革張りのソファーが三脚。二人掛けのものが二つ、一人掛けのものが一つだ。
「適当に座れ」
そう促した灰色ツンツンは一度室内から出て行った。
上司の命令に従うのが平社員。派遣で条件に合う仕事を探しまくって二ヶ月程何もしなかった俺に選択を任すなんて豪気な奴だな灰色ツンツン。
一人掛けのものをチョイス。
いやだって、隣に誰かが腰掛けることを考えたら自然とね。適当って言ってたし。
待つこと数分。
灰色ツンツンが戻って来た。なんか狸面のデカい人連れて。
やばい。ボコボコパターンじゃね? てめぇうちの職員泣かせてタダで帰れると思うなよ? そんなバカな。泣かせたのはあなたですけど……。うるせぇ! バキッ、ふぐっ!?(毒があります)
っていうやつだ。
「そこ座ったのかよ……」
俺が内心戦々恐々としていると、呆れたように灰色ツンツンが言った。
「ほらよ」
灰色ツンツンが手に持っていたコップを俺の前に置き右隣に座る。
「こいつか? コフキ見つけたっていう奴は。ラッキーだったなぁ、てめぇ」
一緒に入ってきた狸面は俺を見ながら左隣に座った。
挟み撃ちだ。なんて巧妙かつ心理の隙をついた罠なんだ。撃たれてあっぱれと言わざるをえない。
「まぁ、とりあえず言っとくことがあるわな」
言い残す事はないか的な?
「そうだな」
狸面のその言葉に灰色ツンツンが頷くと、真剣な顔で、
「すまなかった」
「悪かった」
頭を下げてきた。
……俺の目が確かなら謝罪しているように見える。
「うちの職員が迷惑かけたな」
「許してやってくれと言われても、無理だわなぁ」
狸面の言い方が感に触ったのか、灰色ツンツンが鋭い視線を狸面に向ける。
「大体てめーが止めてりゃ良かったんだろうが、あれがかなりアホなのは分かってただろ」
「まさかシェルの嬢ちゃんが大声で宣伝するとは思ってもみねぇよ。こっちまで聞こえてきたぜ、アッハッハ!」
笑う狸面、疲れた顔の灰色ツンツン。
よく意味が分からない?
顔に出したつもりはないが雰囲気で察したのだろう灰色ツンツンが話し掛けてくる。
「あー、よく分からないって面してるな?」
そんな馬鹿な!?
「……知らねぇんじゃねぇか?」
狸面の言葉を受けて灰色ツンツンが確認してくるように聞いてくる。
「コフキって分かるか?」
「知りません」
知らないことを知らないっていうのは大事。流して仕事が始まってしまうと惨事になる恐れがある。いや、素人歓迎って書いてあったじゃん! ズブだよ! ズブズブの素人に専門用語連発して教えた気になられても困るわ! 聞いたら聞いたで面倒くさそうな顔されるけどね。それがアットホームな職場。あれ圧倒的にホームの人が強いって意味だから。むしろ素人アウェイだから。
しかし灰色ツンツンはそんな投げやり上司とは違いちゃんと説明してくれる。
「コフキってのは薬草の一種というか……薬草に付属している状態だな」
「見せた方が早ぇよ」
そう言った狸面がテーブルの上に何かをドンと置く。
薬草の一輪挿しだ。将来家に飾ろうと思ってたやつ。
狸面がその薬草の一枚の葉の裏を捲る。ん? なんか黄色くね?
顔を寄せてよく見てみると、小さな粒々が葉の裏にギッシリと詰まっているのが分かった。なんだこれ?
「モンスターの卵だ」
ウネウネと動いている。
「気持ちわるっ!」
鳥肌だよっ!? なんてもの見せるんだ! ここが訴訟大国なら即法廷だぞ! 異世界で良かったな!
ガッハッハと笑う狸面。溜め息を吐き出す灰色ツンツン。なんだ失敬だな君達。
「これがコフキだ」
「へー、なるほどー」
薬草採取を考え直しちまう光景だよ。全く。
「……全く事態を理解してねーな」
「登録したばかりなんだろ? じゃあ知らねぇのも……いや、コフキぐらい有名だと冒険者以外でも知ってる奴はいるがな」
「これが問題なんですか?」
なんだろう? 話が見えてこないな。モンスターの卵を持ち込むのが犯罪とかかな? もしくは酷い病原菌だったりして。アッハッハッハッ、いや笑えない。
「いや、問題っていうかな?」
「めちゃくちゃ高いんだよ、コレ。冒険者ギルドでも金貨五枚で買い取ってる。てめぇが持ち込んだのは状態が最高だ。このまま買取ってんなら買取上限の金貨十枚ってとこだな」
what?
"ぎ"の発音がおかしいよ。もしくは誤訳だな。金貨って聞こえたもん。
「銀貨十枚ですか。そいつはラッキーですね」
「あ? 銀貨じゃねぇよ、金貨だよ。こっちの字だ。というか発音が全然違うじゃねぇか……どうやったら聞き間違うんだよ」
狸面がテーブルに指で『金貨』とミミズ文字を書く。
よし驚くぞ。
「でぃええええええええええっ!? きききき金貨じゅじゅじゅじゅ十枚!? おぅぅうううううううううう、おえっ」
少し気持ち悪くなった。
「……大丈夫か?」
気遣ってくれる灰色ツンツンに惚れそう。しかしビーがエルする展開なんて腐ったやつらしか喜ばない。ノーマルな方々を喜ばせるよう灰色ツンツンには女体化してもらわねば。ノーマル?
「大丈夫です。酷く驚きましたが」
「おう、こっちも驚いた」
ですよね。吐き出したらそれじゃ済まなかったかもしれない。
「なんせ持ち込んだ薬草は見たこともないくらい良い状態な上に根ごと持って来てるから保存も楽だ」
「おいおいカム」
ここに来て初めて狸面が困ったような顔をする。しかし灰色ツンツンはそんなの関係ないとばかりに狸面の言葉を無視して続ける。
「お前が持ち込んだ薬草は普通の薬草の二倍の大きさがある。これだけ良いもんだと冒険者ギルドとしては最高額の一本銅貨十枚で買取たいと思ってる」
しかも一本で二本分の買取額ですか。時給が倍。見つけてしまった天職。俺、国に帰ったら薬草御殿を建てるんだ。
しかし俺の気持ちとは裏腹に難しい顔の狸面。シリアスな灰色ツンツン。なにかマズいんだろうか? やっぱり大量に買取れないとか?
「だが」
灰色ツンツンの言葉にピクリと反応する狸面。
「これは冒険者ギルドでの買取価格だ。俺が見たとこ薬師ギルドなら薬草は一本銅貨十二枚、粉蕗に至っては金貨十五枚の値がつくだろうぜ。オークションに掛けたら金貨二十枚はいくかもしれん」
「だがカム、一度はうちに買取に出したもんだぞ? それなら」
「知識無しの奴から毟るような真似すんな。規則では最初は査定、合意で買取が流れだ。素材をそのまま売る奴が多いからって勘違いしてんなよ」
灰色ツンツンの厳しい言葉に狸面も口を閉じる。どうやら灰色ツンツンの方が立場が上らしい。
それにしても正直だな灰色ツンツン。最初の本数を数えとけ発言といい状態良いから余所のが高く買取ってくれるよ発言といい、損する性格だな。
んー、そうだなー。
「どうする?」
灰色ツンツンが問うてくる。
この「どうする?」は買取を止めとくかということだろう。
その前に気になった事を聞いておく。
「買取価格が余所と違うということは、差額で儲けられたりするんじゃないですかね?」
値段の違いがあるということは、冒険者ギルドで卸している薬草を銅貨十枚で買って、さっき言ってた薬師ギルドって所で薬草が高騰している時に銅貨十二枚で売れば、あっちからこっちで銅貨二枚の儲けが出たりするんじゃねーの?
俺の言いたいことが分かったのか、灰色ツンツンが頷いて答える。
「そういうことは滅多に起きないようになってる。冒険者ギルドは基本一定の買取価格しか出さない。他のギルドはその情報を拾って買取価格の上限を考慮するから、よっぽどの事がない限り差額で儲かるなんてことは無理だな」
「まぁ、だから万年品薄なんだがなぁ。上限の融通もきかねぇしよ」
狸面が残念そうにそう口にする。もう買取が流れたと思っているんだろう。
ふむふむ。分かった。
「じゃあそれで買取をお願いします」
「……は?」
「……話聞いてたのかよ全く」
俺の返事に狸面がポカーンと口を開き、灰色ツンツンは頭が痛そうにコメカミを押さえた。
こちらの世界の知識は皆無に等しい俺だ。鋭い頭脳と培ってきた経験で今のところ騙されるような事態には陥っていないが、いつ世界が俺に牙を向くかも分からない。
そこで大切になるのが信用だ。
灰色ツンツンの話を鵜呑みにするのも良い訳ではなかろうが、話している内容にギルドや自分に得はなく、嘘をついていたとしても直ぐにバレるようなものだ。確認はとるべきだと思うが、まず大丈夫だろう。まだ五千本以上薬草が残ってるというのも理由の一つだけどね。大量に流しても値崩れしないのもいい。
結論。灰色ツンツンマジぱねぇ。
「よ、よし! じゃあ早速金持ってくらぁ!」
「待て座れラグ。話はまだ終わってねー」
「ばっ、お前なぁ。相手が売るつってんだから、気の変わらねぇ内にだな」
「そっちじゃねーよ」
ハァと深い息を吐き出す灰色ツンツン。
「まぁ、とりあえず。ギルドで買取でいいんだな?」
「お願いします」
「……まぁ、いいってんならいいか。お前が持ち込んだ薬草は全部で二百十六本だ」
目分量仕事しねぇな。小匙少々で超酸っぱい味噌汁作った黒歴史が蘇るぜ。料理男子に、俺は成れなかった。いいんだコンビニマスターの称号を得たから。
「内訳は、粉蕗が金貨十枚。残りの薬草が全部で銀貨二十一枚と銅貨五十枚だ。書類は出来てんだが、まさか買取すると思わなかったからな。ラグ、ギルドカードと金持ってこい」
「おうともさ!」
喜び勇んで出て行く狸面。
「ランクはFに上がるしお前の評価も良いだろうよ。なんせ粉蕗だ。しかし粉蕗は依頼がない上にランクB以上になるからな。評価が良くなるってだけだ」
いいな嬉しいな。もっと褒めろ。
「買取はこれでいいんだが……」
そこで灰色ツンツンがしかめ面で切り出してくる。
「問題はギルドに居た奴らに聞かれてたって事だ」
ドヤ顔自慢からのお姉さんが寄ってきちゃう展開アダルディーかな?
「あー、なんつーか……ここのギルドの野郎共はクズが多い」
……ん? はい?
「恐らくてめーが粉蕗持ちって分かった以上、何らかのちょっかいを掛けてくるだろうな」
「ちょっかいを?」
「まぁぶっちゃけ襲ってくる可能性もある、多分な。……ほんと、うちの奴がすまん」
ええええええ!? なんだよそれ! 警察機能してねーのかよ!?
あの時のシーンとした雰囲気の中心は灰色ツンツンじゃなく俺でしたか。獲物を見定める的な?
「ど、どうにかなんないんですかね?」
「まぁ、流石に物取りなんてしたらギルドの登録抹消に指名手配は確実だが……なんせ単細胞が多い街でよ。街の外で襲ったら何とかなるとか思ってやがるからなー」
他人事な気配!?
「こう、街を守ってる兵士さんのところに駆け込むとか!?」
「兵士の詰め所か? まだ何もされてないのにか?」
事件後しか動いてくれない治安機構はどこも同じだな!
「とりあえず宿はここに泊まれ。あとは路地裏や夜間の外歩きに気を配って、……んー、街を離れる時は一度ギルドに来い。俺が馬車の手配やらしてやるよ」
今話した内容を紙に書き込んで手渡してくる灰色ツンツンマジイケメン。ちょっと落ち着こう。
「え、街って離れた方がいいんですかね?」
「うーん。ギルド員としちゃ、上質な薬草を短期間に大量に持ってくる冒険者を手放したかないが、俺個人の意見なら、お前はこの街に合ってねーな。ホームは他に作った方がいい」
おぅ、マジか。俺の薬草パラダイスが。やはりそんなに旨い話なんて早々ないということか。しかし薬草草原はまだ九割を残しているぞ。なんとかならんもんか。
「えっと、直ぐにですか? 少し仕事を残してまして……」
「しばらくは俺も睨みを効かせとくが、どうしても目がいかねー時がくる。早い方がいいだろな」
シット! なんてことだ風呂入ってベッドに飛び込んでる場合じゃねぇ! 残業だ! 仕事が残ってたら仕事は終わらないんだよ!
「持ってきたぞ。ギルドカードと買取代金」
ナイスタイミングで狸面。テーブルに置かれる布袋とギルドカード。ギルドカードは梵字がGからFに変更になっていた。冒険者ギルドのシステム的にこれ以上上がることはないだろうけど、自分の仕事を高く評価されてるみたいで少し嬉しい。
「ここで数えていけよ」
灰色ツンツンが布袋を指差して忠告してくる。その通りだな。なんせ銀行振込と違ってニコニコ現金払いだ。履歴なんて残らねぇ。
銅貨と銀貨を数える。問題無し。金貨を手にとる。ふぉっ、ちょっと重いな。金貨なんて初めてみるから感動。至る所にファンタジー。意味なくかじってみる。偽物でも分からんがな。
ガリッといった。金貨が欠けた。
「……何やってんだ、てめぇ?」
「いや、自分でもよく……」
「……言っとくが、交換なんて聞かねーぞ」
あ、ですよね。あ、ちょっと待って。意外とショックデカいな。これ百万円だよ。うわぁ……はしゃぐ気にもなれない。
金貨は綺麗なやつが九枚と欠けたやつが一枚で十枚キチンとあった。純金は意外と柔らかかった。
「これって使えないですよね?」
硬貨を全部布袋に直しつつ灰色ツンツンにご質問。
「いや、使えんことないぞ。溶かしてくっつけたらな。ただ悪銭扱いだろうが」
なんだよ悪銭。知らん通貨単位きたよ。
俺の疑問に気づいたのか灰色ツンツンが補足を入れてくれる。
「悪銭は形が悪かったり混ぜ物が入ってたりする通貨だ。大抵は元の通貨の半値で取引されるな。お前のその金貨は銀貨五十枚分ってとこか?」
「金の含有量計ってくれるとこならもちっとマシになるぞ。それでも最高で八割ぐらいの値だがなぁ」
狸面も慰めを口にしてくれる。一かじり五十万とか俺のセレブリティがハンパない。……まじかよぉ。
ギルドカードをポケットに入れて硬貨の入った布袋を手に立ち上がる。あれ? そういや布袋の代金っていいのか?
「この硬貨袋ってもらっていいんですかね?」
銅貨五枚は?
「あ? なんでだ? いいだろ別に」
「おっと、忘れるとこだった。ほれ、てめぇが薬草入れてきた袋だ」
狸面が腰に結んでいたズタ袋を二つ差し出してくるのを受け取る。
なるほど。冒険者ギルド特典というやつだな。ありがたく頂戴しておこう。なんせ門番の人に売ってもらった物より綺麗だ。
「それじゃあ、ありがとうございました。またよろしくお願いします」
部屋を出る前に一礼する。
「おう」
「ガッハッハ、変な奴だなてめぇ! また頼むぞ!」
少し困った顔の灰色ツンツンと豪快に笑う狸面を部屋に残して、俺は初めての換金を終えた。
主人公の攻撃
次元断層:噛みつき!
金貨に致命的な一撃っ!
金貨は欠けた
主人公の精神に多大なダメージ
因みに小蕗のつく条件ですが、元々、小蕗の基になっているモンスターが恐ろしく弱いので、外敵の少ない人里離れた薬草に卵を産みます。しかも栄養を多く含んだ薬草限定なので、直射日光に当たり雨が多い、もしくは空気が乾燥しない程度に湿度もありとわけの分からない条件になります。人工不可。
主人公の見つけた薬草草原(畑)は正にピタリ。大体千本に一本の割合で小蕗がついてます。