表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/32

異世界に行くということ


 広い草原だった。


 柔らかく暖かいそよ風が頬をなでる。遥か遠くに見える山の稜線と青々と生い茂る森が視界の端の方に入ってくる。


 よく晴れた一日だ。ピクニックしたい。


 ふと見上げた空に雲は一つもなかった。ただバッサバッサと翼を広げた爬虫類が山の方に飛んでいくのが見えた。ちくしょう。


 視界を下に戻すと、少し離れたところに牛とバッファローを足して二で割った茶色い四足歩行の生物が草を食べているのが見えた。畜生。


 とりあえず、あれだ。ステータスを確認するか。『異世界の歩き方』を読んで頭に入ってきた情報だと、それが俺の基礎的な能力らしいからな。コンテニューとかないから、自分の力量の確認って、すげー大事。


 念じるだけでいけるらしい。いってみよう。


 ステータスさん、ステータスさん。よろしければ出てきてください。


 ヴン、という電子音っぽい音と共に、恒例となった青い半透明のスクリーンが俺の前に出現。やべ、ハマる。今俺かっこいいんじゃなかろうか?


 思わずにやけつつステータスを確認。




氏名 山中 賢

年齢 35

性別 男性

種族 人間

職業 元幽霊


Lv  1


HP  21/21

MP  9/9


STR 11

VIT 8

DEX 14

AGI 10

INT 33

LUC 7


個有スキル

・言語翻訳

・空間自在 Lv1


スキル

・鑑定


残スキルポイント 10




 なるほど。こんな感じか……どんな感じだ?


 いいのか悪いのか分からない。しかもスキルの使い方も分からない。


 『異世界の歩き方』には、ステータスを確認してみよう! 心の中で念じるだけで出てくるよ? 自分の強さを過信せず、強い相手からは逃げるようにしよう! 閻魔様との約束だ!


 とかなんとか書いてあっただけで。質問タイムもなかったからね。


 いかん早々に詰む。第二の人生なるべく長く紡いでいくつもりなのに。


 なんか危険を感じたら鑑定してみようとかも書いてあったな。


 鑑定鑑定……鑑定な? どう使うの?



 草:どこにでも生えている雑草。正式名称・アタラ草。


 [詳細]



 首を傾げていたら、そんな情報が頭の中に流れこんできた。『異世界の歩き方』と同じ感じ。凄い便利。


 この詳細も、なんなのか気になるところだけど……草の詳細とかいらない。となると。


 少し離れたところでモサモサ草を食ってる牛もどきを調べてみよう。ちょっと緊張。


 よし、鑑定。



 アダラ牛:非常に温厚な牛系モンスター。しかし触れられるのをひどく嫌がり、自分の領域に入ってきた動物を攻撃する。


 [詳細]



 なにそれ怖い。温厚はなんだったのか。


 ついでに詳細も確認しておこう。




氏名 アークテック

年齢 1

性別 メス

職業 自由牛

種族 アダラ牛


LV  5


HP  128/128

MP  0/0


STR 55

VIT 67

DEX 2

AGI 25

INT 0

LUK 12


・体の硬さを生かした突進をしてくる。横からの攻撃に弱い。




 おう。こいつはステータスさんじゃないか。そして勝てる気はしない。正直、HPとMPは分かるけど他の要素がイミフ。初心者にもわかりやすく頼む。


 まぁ、俺が瞬殺されるであろうことは分かった。大変危険。


 固有スキルとやらの使い方も分からない現状、早めに移動したほうがいいだろう。冴えてる。どうやら俺の武器はこの頭脳だったようだ。頭突き的な意味じゃなく。


 しかし、どうしたものか?


 現在地も分からなければ街の場所も分からない。スキルの使い方も分からない。お金も食べ物も装備もない。強いて言うなら布の服。ふはは、死ぬ。


 折角蘇らせてもらったところ悪いんだが、これじゃ嫌がらせにしか思えない。二分でエンドロールだぜ。


 牛から距離を置きつつ、かろうじて見えていた川に向かって歩くことにした。川沿いに歩けば文明があるんじゃなかろうか? そんな軽さで。


 歩くこと、体感で四時間ぐらい。


 土を踏み固めただけの道を発見。川に平行に沿ってる。


 喉が渇いたので川の水をゴクゴク。さて、あちらの道を歩くか。腹具合から考えて……できるだけ早く第一村人発見しないと死ぬな。水だけで三日いけるとか嘘だよ。だってもうフラフラしてるもん。


 フラフラしている内に街が見えてきた。


 とってもファンタジーな街だ。外壁が石造り。中世かな? 中世だね。


 大きな門の前で人が列を成している。出たり入ったり。あそこが入り口らしい。もち、俺も並ぶよ。ちなみに、外壁は勝手に近づいてこなかった。


 しかしここで問題が。


 列が進むにつれて見えてきたんだけど、みんな門番の人に板状の何かを見せたり硬貨を支払ったりしてる。ヒヤッときたね。伊達じゃない。


 当然ながらお金なんて持ってないし、あの板っぽいのもない。


 しかし通貨価値はわかる。例のあれで頭に流れこんできた。


 銅貨一枚が1ドル。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚だそうです。なんでドル表記だったのか知らない。他にも転生した方がいるそうなので、グローバルなあれがそれで英語になったんじゃないのかな?


 まぁ、銅貨一枚百円だね。


「身分証か銅貨五枚だ」


 つまり五百円だね。


 俺の番が回ってきた。門番の人が手を出してきてる。握手かな?


 俺は頷くとポケットをゴソゴソ。これはポーズだ。あ、いけな〜い。財布忘れちゃったー。とか言って自然に列から離れよう。ふふふ、なんて策士。入街料金が分かっただけ進歩だろう。


 しかし、何も入っていないはずのポケットから何か出てきた。


 五百円玉だ。日本通貨の。


 そういえば入れてた気がするが、この服って俺が死んだ時のなの? コピーして再現したとかじゃなく?


 なんとなく流れで門番の人の手に乗せる。


「なんだこりゃ? どこの銀貨だ」


 門番の人は五百円玉を銀貨と見たのかマジマジと見てる。


「俺の国のです」


「俺の国って……お前どこ出身だ? 少なくとも俺は初めて見たぞ。こんな銀貨」


「東方にある小さな島国ですね。ここからはめちゃくちゃ離れてます」


 嘘は言ってないよなー。


 門番の人の視線が俺に突き刺さる。近くにいた別の門番の人も近寄ってきて五百円玉を眺める。


「別にいいんじゃないか。普通の銀貨よりも大きめだし。贋金にしては凝ってる」


「しかし服装も見たことないものを着てるぞ。遠いところから来たと言う割には軽装だ」


「異国の服なら見慣れないものだろ? まぁ、確かに軽装だし、怪しいっちゃ怪しいが、冒険者の連中に比べれば……なぁ?」


「……まぁ、そうだな。考え過ぎか」


 近寄って来た門番の人が元々居た門番の人の肩を軽く叩いて元の位置に戻るのを見送ると、元々居る門番の人が布袋から銅貨を五枚取り出して布袋を俺に渡してくる。


「硬貨袋持ってるか?」


「あ、持ってないです」


「いるか?」


「お願いします」


 門番の人は俺の返事に頷くと、更に五枚銅貨を取り出して布袋を渡してくる。


「釣りは銅貨九十枚だ。ここで数えていかなければ、後で足りないと言っても取り合わないぞ」


 おう。ズッシリ重い。


 後ろがつかえてきたので、急いで数えた。ピッタリ。


 価値的には同じ値段のはずなのに、所持金が九千円ほど増えた。マジか。稀代の錬金術師として後世に名を残しちゃうかもしれない。


 ついでに食事処の場所も聞いておいた。


 もうね。限界なんです。


 そそくさと入街。ようこそ! まるまるの街へ! 的な掛け声はなかった。むしろ少しつっかえて迷惑そうな視線だけいただきました。


 ファンタジーな街並みを歩く。意外と賑わってる、なんて都会からハネ休めに田舎にきたサラリーマンのような上から思想がむっくり。……いや待て合ってる。


 視線をキョロキョロとさまよわせる。挙動不審だ。だって道が合ってるか分からないもん。露天から流れてくる匂いに釣られそうだ。いかん。ダメ。日本ならそのまま購入、食べ歩きの流れに身を任せるが、今の自分は全財産が九千円。十円玉っぽい銅貨が九十枚しかない。物価も定かではない現状、無駄遣いはさけるべき「一本ください」


「あいよ! 銅貨五枚だ!」


 二の腕剥き出しの威勢のいい海の男風の店主が、ニカッと笑いながら何かの肉を焼いて串に差したものを差し出してくる。笑顔が怖い。しかしタレのいい匂いに負けて銅貨を取り出す。


「まいどあり!」


「どうも」


 そのままパクパクと串焼き肉を頬張りながら通りを歩く。串の長さは三十センチくらい。これで五百円はどうなのかな? まぁ、脳に栄養がいってない状態であの匂いを嗅いだからの無駄遣いだろう。もう大丈夫。明日から頑張る。


 串を舐るように舐める。あれだ、ケーキのセロハンを舐める精神だ。もう一本いかないための努力だ。


 とりあえず腹拵えはこれで万全だろう。ゴミ箱はどこかな?


 再びキョロキョロしてみたが見つからない。仕方ないのでポキポキ折ってコンパクトにしてポケットへ。


 これで食事処へは行かなくてもよくなったが、宿屋も兼業しているとのことなので、行ってみる。今って実際ホームレスで間違いないだろうか。コツコツと積み立ててきた貯金も十年住んだアパートも無くしてしまった。死ぬって嫌だなぁ。


 少し厭世的な気分になってしまった。蘇ったばかりだというのに。よし、一からやり直すつもりで始めよう。


 木造建築の二階建ての建物に入る。多分合ってる。看板が宿屋風だった。あと、英語の筆記体みたいな字で『宿』って書いてあった。読めてしまった。読めるんかい。嘘ですごめんなさい。この年からの英単語マスターとかしんどいです。


 宿屋入ってすぐ右手にカウンター。恰幅のいいおばさんが何やら仕事中のようだ、手元の紙にメモメモしてる。


「いらっしゃい」


 顔も上げない。声も機械的だ。コンビニかな?


 それでも新生活の第一歩と決めたのだ。意を決しておばさんに近づく。ここで帰ったら只の冷やかしだしね。


「飯、宿?」


 そろそろと目の前まで移動したら、漸くおばさんは迷惑そうに顔を上げて聞いてきた。お仕事中すみませんっ! 迫力がヤバい。怖い。


「あ、えーと、一泊いくらになりますか?」


 おずおずと切り出す。コンビニじゃないようだ。


「一泊二食で銀貨一枚。飯は朝晩。夜は十時までならお湯が一杯付いてくるが別料金」


 一歩目から躓いてしまった。新生活って大体そう。



ボラれてます。気づいたりしません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ