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続・おかしな冒険者さん

過去最長。



大体チュートリアル終わりです。




閑話はさんで二章、いや一章かな? に移ります。


 とっても怪しい人は、ちょっとおかしな人でもあった。


 おかしな人の名前はヤマナカさんというらしい。


 ヤマナカさんは冒険者だ。


 本人が自信満々にギルドカードを見せつつ薬草を採取していると豪語していたので間違いない。


 でも……それって結構普通の事なんじゃ?


 冒険者ギルドには犯罪歴がなければ、結構誰でも無料で登録できる。登録していると何かと便利なので、街に行った際に登録することが、村人のあいだではよくある。


 街にタダで入れるし出れるので、帰りは外門でお金を払わなくてもいいしね。


 お父さんにお母さんも登録している。お父さんはEランクまで昇格したギルドカードを持っていた。


 冒険者ギルドにはランクが存在していて、特SランクからGランクまでのランクで区分されている。


 このうち、G・Fのランクは雑用(モブ)と呼ばれていて、誰でもなれるから冒険者扱いされる事はあまりない。


 一般的な冒険者と呼ばれるランクはEからで、新人(ルーキー)と呼称されている。C・Dが玄人(ベテラン)、Bが専門(プロ)、Aからは二つ名がついていたりするんだけど……Aランクになれる人なんて、それこそ国に一人といるかいないかなので、詳しい説明はされないのが常識だ。


 あたしはお父さんから聞いた。……お父さん、目をキラキラさせながら説明してくれたけど、あんまり興味は湧かなかったなぁ。


 冒険者を自称するヤマナカさんのランクはF。お母さんと同じ。


 でも、どんなに才能ある人でもGランクからだし……始めたばかりなら……でも、ヤマナカさんの年齢はどう考えてもお母さんより上な気がする……冒険者の登録なんて誰でもするし……その年齢までFランクかぁ……。


 あたしは精いっぱいの笑顔で「頑張ってください」と答えておいた。


 大丈夫。ヤマナカさんは冒険者。


 余談だが、冒険者ギルドは独立していて全世界にある。国ごとに冒険者ギルドと提携して国民の管理を簡単にしていると教えてもらった事がある。誰でも登録するから、どこに誰が、というのが分かりやすくなるそうだ。街に出入りするのにお金を払わなくてもいいというのが効いている。


 そんな普通に冒険者の、おかしな人ことヤマナカさんは、今日もとっても怪しい行動をとっている。


 七泊もされるとは思っていなかったので、絶対に他の村人にその存在を隠し通せるわけがないと、半ば諦観を決め込んでいたんだけど……ヤマナカさんの方から人目を避けてくれた。くれたんだけど……。


 あ、怪し過ぎる……。


 初日は食事も断られて家に籠もってしまったので、じゃあ何もしないのもあれだからと、洗濯と掃除を提案したら、これを快諾された。


 洗濯は順調にこなしたんだけど……掃除する時にヤマナカさんも手伝い始めてしまった。


 流石に止めた。お金をあれだけ貰っているのに、お客様に働いてもらうわけにはいかない! と言ったのに……。


「いーのいーの。どうせ暇な時はいつも掃除してたからね。自分が寝るとこなんだから自分でやるのが普通だよ。ありがとう」


 それは自分の家の時の掃除の理屈じゃないかなぁ……。ヤマナカさん、お客様なんだけど……。


 そんなヤマナカさんは扉がガタッとなっただけで過敏に反応していた。あたしが目を向けた時には、ベッドの陰に入りきらないのに体を縮め込めていた。


 ……ヤマナカさん。


 その日の夜、隣の家に灯りは灯っていなかった。疲れて直ぐに寝てしまったんだろうか?


 甘い、とてつもなく甘い考えだった。あたしはおかしい人というのを甘く見ていた。


 次の日の朝。


 だいぶ早い時間帯に目を覚ました。この時のあたしは、まだ、どうやってヤマナカさんの存在を隠そうか困っていたので、とりあえず他の村人に見られないように早朝に料理の支度をと、井戸から水を汲んでヤマナカさんの家に行こうと考えていた。


 木桶に水を入れて戻る最中。まだ日も登っていない時間なのに、村の中に怪しい人影が。


 つまりヤマナカさんが。


 もう、あたしの中では、怪しいという字を牽いたら、ヤマナカ、と出るくらいになっていた。ヤマナカさん、なにしてるんだろう? やっぱり悪い人だったのかな?


 ヤマナカさんは薄暗い中を、腰を低くしながらキョロキョロと辺りを見回しつつ、村に戻ってきていた(・・・・・・・)。


 そう、ボアが蔓延る森から村の入り口を通って、隠す気があるのか分からないぐらい堂々と、それでいてとっても怪しく、あたしが貸し出した家に戻っていく。つまり今、帰り?


 ………………。


 …………。


 さて、お料理しなきゃ。


 あたしは何食わぬ顔でヤマナカさんに貸した家に挨拶をしながら入っていくと、過敏にビクッと反応したヤマナカさんが、たった今起きたところだよという素人の演技で挨拶を返してきた。


 ああ、こうやって汚いところに目を瞑って大人になるんだなぁ……。ヤマナカさんに汚されてしまった。


 そんなヤマナカさんにジュラの実を溶かした野菜入りのスープを作って出した。ヤマナカさんは「おおぅ!? 味噌汁じゃん! どうやって異世界にきた味噌汁!?」と激しく過剰に喜んでいたが、あたしはニコニコと微笑むばかり。大人になってしまったあたしは強いのだ。ヤマナカさんのおかしな言動は流してしまおう。


 ヤマナカさんが調理法を知りたがったので、ジュラの実を見せて中のドロッとした部分を溶かすだけの簡単なものだと説明した。代金にしたら、一杯銅貨一枚? ……ううん、取りすぎだ。スープだけなのに……。三食で銅貨二枚といったところだろう。……ほんとはお金を取っていいものじゃないけど。


 少し気落ちしたあたしに、ヤマナカさんはあせあせと焦りながら食事を進めてきた。どうやら食事を見せつけてしまったと思ったらしい。


 このスープはほとんどヤマナカさんとお母さんの食料だ。あたしは一日一杯飲むだけで我慢しないと、材料が足りなくなってしまう。


 でも確かに、ヤマナカさんが余りにも美味しそうにジュラの実のスープを飲むので、あたしもヤマナカさんと食事をとることにした。


 すると、ここでまたもやヤマナカさんがおかしなことをした。


 ヤマナカさんが腰に下げている、ぺった……平らなボロボロの布袋から、大皿に乗った湯気を上げる串焼きを取り出したのだ。


 ……いやいやいやいや、ありえないでしょ?


 しかしヤマナカさんは袋から出てくるなら変じゃないとばかりに、次々と、焼きたての黒パンに水気が弾けるサラダに水筒代わりにしている竹筒にコップと、明らかに布袋の許容量を超えてそうな物を取り出し続けた。…………いや、仮に入ったとしても湯気が上がっているのもグチャグチャになってないのもおかしいでしょ!?


 訂正。笑って流すなんて無理!


 あっという間に豪勢な食卓に早変わりしてしまったボロボロのテーブルの上。思わず生唾を飲み込む。…………はっ!? いけない。人の物だというのに。あたしはせめてジュラスープで我慢しなきゃ。


 あたしがジュラスープをチビチビと啜っていると、ヤマナカさんが首を傾げて聞いてきた。


「食べないの? なんか嫌いな物でもある?」


 え? だって……これはヤマナカさんの物で……とボソボソと顔を赤くして返したら、ヤマナカさんは、お皿をあたしの方に寄せてきて、


「どうぞ。まだいっぱいあるから。足りなくなったら言いなねー」


 と気軽に笑い掛けてきた。


 ……うぅ……。あたしはやっぱりまだ子供みたいだ。こんな時に遠慮が出来ない。誘惑に負けてしまった。ヤマナカさんは実に巧みだ。


 黙々と食べ始めたあたしに、ヤマナカさんはどこからか果実水が入った樽を取り出し、コックからコップに注いで渡してきた。


 いくらなんでも……それは言い訳できないと思うの。


 ……しかしよく考えてみると、昨日もポケットから硬貨を取り出していた。変なことじゃないと思っていたが、あれだけの硬貨をポケットに入れていたのに、音が鳴らないのは絶対おかしい。ヤマナカさんと一緒に、しばらく村の中を歩いたのに、そんな音は一切聞こえてこなかった。


 受け取った果実水をコクコクと飲みながら、ヤマナカさんをジッと見る。


 ジーーーーー。


「……な、なななにかな?」


 喜々としてジュラスープばかりを飲み続けていたヤマナカさんだが、あっという間にあたしの視線に負けて問い掛けてきた。


 動揺がすごい。とっても怪しい。


「…………ヤマナカさんって、魔法が使えるの?」


「え、ええぇええ!? ま、ままままさかぁ! う、う〜ん、ががが学術的な興味からなんだけど、なんでそう思ったのかなぁ?」


 とってもとっても怪しい。というか、おかしいでしょ。


 あたしは無言だったけどテーブルの上の料理の数々を眺めることで、答えを返したつもりでいた。だが、ヤマナカさんは料理に目がいったと思ったのか、あれもこれも美味しいと必死になって進めてきた。


 ごまかせてないけど、これ以上は聞かないことにした。隠したいみたいだし。


 優秀な冒険者は手の内を隠したりするらしい。ヤマナカさんが魔法を使えるのなら、手ぶらで危険な街道を歩いてきたというのも納得できるけど……。


 魔法ってそんなに便利なものだったかなぁ……。


 以前、魔法を使える冒険者にみんなで群がって見せてもらった時に聞いたのだけど、魔力が無くなると気絶してしまう上に、目覚めてからも心臓や全身が痛く、場合によっては死んでしまうと言っていた。しかも魔法の相性や難解な物によっては覚えるのが難しく万能ではないらしい。


 でもヤマナカさんの魔法は、あたしが思い描いていた、正に魔法といったものだ。イトリは魔法と言ったら火の玉や氷の矢で敵を攻撃するものだと言っていたが、ほーらやっぱり! あたしが思っていた魔法も存在するんだ。


 あたしはもうヤマナカさんの魔法の事を聞かないことに決めたのだが、ヤマナカさんは色々と話を変えてごまかしを続行している。まだ薄暗いのにいい天気って言われても……。


 仕方ないので、あたしの方から話題を変えた。重要なことだ。言っておかなくては。


「ヤマナカさんが入ってきた方の森だけど……ボアが出て危険なの。あんまり入らない方がいいよ」


 魔法が使えても。


 ヤマナカさんは昨日の事だと思っているようだが、あたしが言ったのはつい先程の事だ。遠回しに見たことを告げたつもりなのだが……。


 それでも意味は通じたと思う。通じたはずだ。通じたんだろうか……。ヤマナカさんは「ふーん」と意に介してない風に呟いて串焼きを頬張った。


 しかしすぐにピタッと動きを止めて汗を掻き始める。


 ああ良かった、ようやく通じみたい。


 しかしヤマナカさんが危機を感じた内容は、あたしが思っていたものと少し違っていたみたいだ。


(ボア)って、この村の食料になってたりする? つまりその……固定産業じゃないけど、名産的な……こう、乱獲禁止っていうか……」


 ヤマナカさんの言っていることは所々分からなかったけど、つまり狩猟の獲物になっているかということだろうか? お肉を期待的な?


「ううん。害獣だよ」


 上手く殺せたら、お肉を食べられるし、基本的には獲物だけど、作物を荒らすし人間を攻撃するから、この村じゃ厄介な害獣として見ている。実際それで、村の財政や食料はピンチだし。


 危険だということを殊更強調したつもりで首を横に振ったが、ヤマナカさんは「そっか」と安心したように息を吐き出していた。いまいち伝わってない気がする。


 お腹がいっぱいになるまで話を続けたが、ヤマナカさんは生返事を繰り返していた。もう!


「ごちそうさまでした」


「……え? あ、はい」


 ヤマナカさんもそう言ってスプーンを置いていた。貴族様がする食前の祈りみたいだったけど、食後だし、随分と短い祝詞だったし、あたしに向かって言っていたし……なんだろう、おかしな人って、みんなこんなにおかしいのかな?


 たぶん、食べ終わりを意味してるんだよね? 随分余ってるけど……。


 ヤマナカさんが大食らいなのかと思っていたんだけど、ヤマナカさんはあたしより食べてない。ジュラスープばかり飲んでいた。他の料理に比べるとジュラスープを出したのがひどく恥ずかしく思えるのに、ヤマナカさんが幸せそうに味わって飲んでいるのを見て、少し嬉しくなった。


 残りはまた昼か夜食べるのかな?


「良かったら持って帰る?」


 お母さんにも食べさせたいなと、残った料理を見ていたら、ヤマナカさんがそう笑顔で言ってきた。


 ここはほんとに遠慮しなきゃ。……でも、でも、お母さん……お肉やパンを食べたら元気になるかも……。


 あたしが悩んでいる間に、手早く料理を大皿一つ分に纏めたヤマナカさんが、あたしに皿を持たせてくる。


「ああ、あとこれ。今日の分ね?」


 何かを入れた小袋の、紐の部分をあたしの手に結んでくる。


 チャリンチャリンと甲高い音がした。


「いっ! いただけません!」


 今日の分ってなんだ!? 食事代も宿代も貰ってある。なんでお金をくれるの!?


「えっ、やっぱり残りものじゃ嫌かな? 新しいパンとかもあるけど……」


「そうじゃなくて!」


 あたしがアワアワしているのに、ヤマナカさんはマイペースだ。欠伸なんかしてる。


「うん。じゃあ、そろそろ寝るから」


 両手の塞がっているあたしの背中を推して家の外に出し、ヤマナカさんは扉を閉めた。


 唖然とするしかなかった。


 あたしの手には豪勢な料理が盛られた大皿と、後で確認したが、銅貨の入った小袋。


 ……ああ、どうしよう。違う意味でヤマナカさんに家をこっそり貸したのは間違いだったのかもしれない。


 あたしは罪悪感で肩を重くしながら、トボトボと自分の家に入っていった。


 ヤマナカさんは日中は外に出てこなかった。


 それが、もう四日も前のこと。


 あたしの目は虚ろだ。


 この五日間は、あたしの生きてきた人生の中で、もっともタップリと食事している期間だろう。毎朝毎朝お腹いっぱいになるまでヤマナカさんと一緒に食事をして、大量に余る残りの料理を昼と夜に食べる生活が続く。少しゲッソリしていたあたしの顔に、赤身が差すようになってきていた。


 そして心痛も最大の五日間。


 毎回毎回『ちっぷ』を貰い、余ることを前提に出される料理を断ることが出来ずに貰って帰る毎日。


 ヤマナカさんは遠慮しなくていいと毎回言うが、ヤマナカさんはお客様で、あたしは悪い事をしてお金を稼いでいるのに……。


 お母さんの体調が良くならないのも拍車を掛けている気がする。お母さんの食事は一日一回になってきている。


 お肉やお魚を毎回貰って帰っているけど……食べる量がだいぶ少ない。スープを吸う方が楽だからとあまり口にしてくれない。顔色もどんどん悪くなっている気がするし……もしかしたら疲れちゃっただけじゃないのかも……。


 あたしは今日の『ちっぷ』を水瓶の陰の隙間に隠しながら、お母さんは病気なんじゃ? という考えが頭によぎった。


 そうだったとしても、ヤマナカさんがくれたお金をまとめて使えば、偶に薬を売りにくる行商人の人からいい物が買える。


 ……お金、ほんとに使っていいんだろうか?


 ここ数日のことを考えてみると、むしろお金を払わなきゃいけないぐらいの食料を貰っている。宿代だって、元々ここはあたしの家じゃない。食事代を引くもなにも、引きようがない。なのに毎日『ちっぷ』をくれる。


 言いようのない不安と悪い事をしてるという罪悪感がキリキリと胸を締め付ける。


「……お洗濯しなきゃ」


 立ち上がるとあたしの家の洗濯物とヤマナカさんが出した洗濯物を籠にまとめて家を出た。お母さんは最近、食事時以外は起きてこなくなってしまったので、あたしが外に行くのも、洗濯物の量が多いのにも気づかない。


 あたしだけが元気だ。それが悪い事のように思えてくる。


 とぼとぼと井戸に向かって歩く。あたしの家の周りはもちろん、その更に周りの家も村人がいなくなってしまった。村の入り口近くの家は最初に犠牲になってしまうだろうから、それも分からないわけじゃない。村人の数が少なくなってきたので、井戸までは誰かとすれ違うことも少ない。


「……から! ……だろ?」


「まだ早いと言ってるだけだ! いずれはそうしなきゃならんだろうが、待てっ!」


 なのに、誰かが話しあう声が聞こえてきたので、誰だろうと何気なく近寄ったら、建物の陰に寄りかかっていた村長とその息子がこちらに視線を向けてきた。


 あたしはそれにビクッとなってしまった。


 だって、村長の目は血走っていて充血気味だったし、村長の息子の目は……なんか嫌な感じだ。人を人と見てないというか、酷薄で見下したような視線の中にドロッとした感情が混じっているようで、好きじゃない。いつもそういう目を向けてくるが、今日のは更に寒気を抱かせるように冷たかった。


「ああ、ハンナかい。洗濯か? 随分溜め込んでいたんだねぇ?」


「は、はい」


 ヤマナカさんの洗濯物と、お母さんの汗を拭いたり着替えさせたりで、一日の洗濯物の量が増えていた。最近は晴れ間も続いているので、洗濯物を溜め込んだりはしないだろう。この量は少し怪しまれるかもしれない。


「お、お母さんがちょっと体調が悪くて、着替えとかで」


 とっさに、本当のことを言えばヤマナカさんのことは隠せるだろうと、洗濯物が増えている理由の半分を説明した。


「へぇ、カルミナがかい。そいつは可哀想に……」


 全然残念がっていない村長の声に、何か含む物を感じたが、それ以上会話を続けてボロを出したくなかったので、適当な理由をつけて軽く会釈をしてその場を後にした。


「お大事に」


 村長の息子の声があとを追って聞こえたけれど、気づかない振りをして井戸に向かった。










 その日の夜。


 乾いた洗濯物を畳みながら、これからどうするかを考えていた。


 明後日にはヤマナカさんも出ていってしまう。ヤマナカさんが魔法を使える冒険者だというのなら、街までの護衛を頼んでみようかな? きっと断られないと思うし、どちらにしろ街を出るなら早い方がいい。うちはむしろ遅いくらいだ。未だ村がボアに襲われないのも不思議なぐらいだ。


 ヤマナカさんが出て行く時が一番キリがよく思える。それに、ヤマナカさんと一緒だと安心できる気がする。


 でも……お母さんは反対するだろうな。お金が掛かるって言うだろうし、お母さんは知らない男の冒険者の人と同道するのは危ないって思ってる。


 まぁ、それも分かる。襲われちゃう可能性もあるだろうし、信用がない冒険者の人だと、魔物が強いと分かると身代わりよろしく同道している人を時間稼ぎに突き出すこともあると聞いたことがある。怖い職業だ。


 でもヤマナカさんがそんな事をする想像は思い浮かばない。なんていうか……こう、魔物が出ても淡々としてそう? 逆に夜這いしたら激しく動揺しそうだし……いや、あたしが考えつかないような、なんか突拍子もないことしそう。


 想像出来ない想像に含み笑いを漏らしながら、畳んだ洗濯物を手に直ぐ隣の家に向かう。


 ヤマナカさんは夜遅くに森に入って薬草を取っているらしく、何をしているのか聞いたら、隠すこともなく教えてくれた。じゃあ、なんで人目につかないようにしているのか聞いたら「べ、べべべ別にぃ? 人目さけっ避けてるわけじゃないしぃ? ただ夜勤だから昼寝て夜仕事って普通、うん普通」と目を泳がせながら答えてくれた。


 まぁ、ヤマナカさん、ちょっとおかしいしなぁ……しょうがないか。


 明らか怪しかったけど深く詮索はしなかった。悪い人じゃないと思うし。


 ただ、ボアが出るから他の森にした方がいいって言ってるのに、聞く耳を持たない。今までは偶々、ボアに見つかってないか、夜だからボアも寝ているだけかのどちらかだと言ってるのに。


「ヤマナカさん、ヤマナカさーん?」


 コンコンと扉をノックしてヤマナカさんを呼ぶ。すると、いつも通りにちょっと扉が開いてヤマナカさんの目がこちらを見てくる。


 怪しい、けど、もうだいぶ慣れた。


「ああ、ハンナちゃん。こんばんは。洗濯物かな?」


「はい。それと今日も夜ご飯は?」


「ああ、うん。なしでいいよ。ハンナちゃんが食べるなら出すけど?」


「だ、大丈夫です! 朝貰った分もまだ残ってますから!」


 もう……どちらがお世話しなきゃいけないのか分かってるのかな?


 ヤマナカさんが招き入れてくれるので家に入る。洗濯物をテーブルの上に置くと、ジュラスープが入っていた鍋を回収する。


 今日も空だ。作るスープは何人分とあるはずなのに、ヤマナカさんは毎日これだけは飲みきる。大食いなのか小食なのかよく分からない。ほんとなら、あたしたちの食事込みで作ってたんだけど、それ以上に豪勢な食事をくれるので、作ったスープは、お母さんの分を外して全部ヤマナカさんに渡している。


「じゃあ明日また来ますね」


「うん。おやすみ」


「おやすみなさい」


 ヤマナカさんに手を振って別れる。といっても、直ぐ隣の家なのだが。


「ただいまー」


「……おかえり……こんな遅くに……どこ行ってたの? ……」


 お母さんがキツそうにしながらも体を起こしていた。


「お母さん! 大丈夫? お腹減ってない? お水飲む?」


「……そうね、お水をちょうだい」


 水瓶から水をコップに汲んでお母さんに渡す。


「……ふぅ。……ありがとう」


「今、スープ作るね。今日はお肉も入ってるから、ちゃんと食べてね」


 竈にとって返し、鍋に水を入れジュラの実を溶かし、ヤマナカさんから貰った野菜や肉を放り込み火を点ける。


「……そんな食料どうしたの? だって今は……」


「もう、心配しなくても大丈夫だよ。お母さんは早く体を治すことだけ考えててよ。村を出るんでしょ?」


「……そうね。……ごめんね……直ぐ良くなるから」


 お母さんはそう言うと、体を起こしているのがキツくなったのか横になった。やっぱり具合が悪化しているように思える。


「……ほんとに大丈夫? なんか酷くなってない?」


「大丈夫よ。すこーしばかり長引いてるけど、ハンナのご飯食べたら、直ぐ元気になるわ」


 あたしが心配そうな顔をしたせいか、お母さんはあたしに向かって笑顔を見せてくれた。


 ……やっぱりお薬は買おう。街まで行って神官さまに診てもらう程にお母さんの体力は残ってないだろうし。浮いたお金で食料を買って、お母さんが元気になってから村を出るようにしよう。ヤマナカさんに護衛は頼めないかもしれないけど、お母さんの体調が治らないと出ていけないもん。


 出来上がったジュラスープをお碗に盛り付けてお母さんのところに持っていく。若干多めによそったのを気づかれないように、あたしの分も多めだ。


 ドンドンドンドン


 お母さんと二人で遅い夕飯を食べていたら、扉を激しく叩かれる。


 なんだろう? ……こんな時間に。


「夜分遅くすまない。村のことで話したいことがあるんだが」


 聞こえてきた声は、村長の息子の声だ。少し困ったような焦ったような声色に聞こえた。


「……まぁ。きっと魔物についてね……」


「いいよお母さん。あたしが出るから」


 体を起こして扉へ向かおうとするお母さんを手で制して、あたしが扉に向かう。


 少しホッとしていた。もしかしたらヤマナカさんのことかと思ったから。


 掛けてあった閂を外して、扉を開ける。


 激しい衝撃。痛み。頭がフラフラして上下がよく分からない。お母さんがなんか言ってるのが、すごい遠くに聞こえる。視界がチカチカと明滅する。


 殴られて地面を転がったのだと気づく前に、髪を掴まれて喉元に何かを押し付けられる。


「動くなっ!」


「……ハンナ! 止めて! お願い止めて!」


 お母さん泣いてるの?


 大声が出せないほど体力が落ちたお母さんが、それでも必死になって声を出している。


 あ、なに? どうしたの?


「おい!」


 そのまま髪を引っ張られ、無理やり背中が反るほど上を向かせられる。そこには昼に見たドロドロとした冷たい瞳を持つ村長の息子の顔があった。


「死にたくなかったら動くんなよ? こっちも別に殺したいわけじゃねーんだ」


 あたしの顔の前でギラリと刃物が光る。理解が追いついてくるにつれて、体を寒気が覆う。


 襲われている……村の人に?


 黙りこんだあたしの両手両足を何かで結ぶ音が酷く遠くに聞こえる。お母さんは体を動かす事ががツラいという顔をしながらも、こちらに這ってでも近づこうとしている。這ってでも近づこうとしている。


「お、お母……むぐっ!?」


 口に布のような物を突っ込まれ、その上で喋れないように縄を無理やり噛まされ結ばれる。


「まぁ大声出しても、周りの奴らはみーんな逃げちまってるから、残ってる馬鹿どもには聞こえねーと思うけどな」


 せせら笑いながら村長の息子は、動けないお母さんにも同様に縄で縛ろうとする。


 お母さんが弱々しくも抵抗しようとすると、乾いた破裂音が響いた。お母さんの頬が赤くなる。破裂音は一回で収まらず、二回、三回、四回……。


「むぐぅ! むぅむぐぅ!」


 お母さんが死んじゃう!


 ようやく収まった時にはお母さんの顔は真っ赤で、誰とも分からないほど変形していた。


 グッタリしているお母さんを今度こそ村長の息子が縄で縛っていく。


 それが終わると踵を返して入り口に戻ってくる。その視界に入るだけで体が強張ってしまう。


 外に置いておいたであろうランプを手にすると、村長の息子はそのまま家捜しを始めた。


「お、あったあった。結構あんな」


 水瓶をひっくり返して底の窪みに入れておいたお金の入った布袋を取り出すと、ぞっとするような笑みを浮かべた。


 あたしの視線に気づいた村長の息子が、見下すようなあの視線を投げかけ、嘲るように口を開く。


「ああほら。この村もう駄目だろ? 食いもんもねーし、金も実はねーんだわ。親父と俺で村の積み立てはほぼ使っちまっててさ。仕方ねーから冒険者ども騙そうかと思ったんだが、なかなか引っかかっらねーだろ? だから逃げることにしたんだけどさ、ほら、行き掛けの駄賃がいるだろ? せっかくだから街で遊びてーし。だーから残ってる村人の中で一番旨そうな(・・・・)家を狙うことにしたんだわ。で、保護者が体調不良で男親がいない上に周りにも気づかれる心配のない家があってな? ははは。あーなにビックリしてんだ? そうそう、全部お前せいだから。諦めろ、な?」


 村長の息子は喋りながらも家捜しを続け、棚の皿やら鍋やらを落として隠しておいた布袋を見つける。


 あたしの頬を涙が伝い、体がおこりのように震える。


 やっぱり、悪い事したからバチが当たったんだ。悪い事してたから、お母さんの病気も治らないし、お金も盗られるんだ。お母さんごめんなさい。ヤマナカさんごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………。


「あーあー、泣くんじゃねーよ。大丈夫大丈夫」


 村長の息子があたしが泣いているのを見て近寄ってくると、ポンポンと軽く頭を叩いてくる。


「親父は直ぐに売っ払うつもりなんだが、俺はお前らに飽きるまでは使ってやるからよ。本当は直ぐにじっくり楽しみたいんだがよ? 時間がねーからな。用意した夜逃げの馬車の中までは我慢しとくぜー。特にお前は俺を避けてたからな。ん? 気づいてないとでも思ってたのか? ぷっ、くくく、ひでー面。ま、だから泣くのは後にとっとけ。嫌ってほど鳴かせてやっから、な?」


 ………………ほんとに同じ人間なんだろうか? そんなことになるくらいならボアの群れに突っ込んでいく方がマシだ。


 村長の息子は笑い声を上げながら家捜しを再開する。


 あたしは忘れていた。


 周りの家に村人がいなくなったとしても、隣の、あたしが貸した家に、冒険者が住んでいることを。


 あたしは気づいていなかった。


 お母さんが夜までに薬草を取り終えていたのは、魔物は夜に活動するものが多く、ボアも夜行性だからということに。


 救いの手は、あたしのちょっとしたミスから差し伸べられた。


「ハンナちゃん、起きてる? 洗濯物に知らない……」


 時間が凍ってしまったかのように止まる。


 迂闊にも開けっ放しだった扉から、いつものは訪ねて来たりしないヤマナカさんが、あたしの肌着を持ったまま中を覗いてきて、そのまま固まってしまった。


 少し間が抜けているように見える。


 いち早く動いたのが、村長の息子。


 持っていた短刀をヤマナカさん目掛けて投げつける。


「むぐぅ!」


 ヤマナカさん!


 ほんの一瞬でヤマナカさんの眉間目掛けて到達する短刀。金属が割れるような音が続き、地面にバラバラになった刀身が散らばり、カシャッと音を鳴らして柄の部分が遅れて落ちる。


 ………………あれ?


 思っていた光景と違う。だいぶ、おかしい。


 ヤマナカさんは、固まった姿勢ままだし、不意を突かれて間違いなく眉間に当たった。


 ……当たった、よね?


 ヤマナカさんが無事なのは嬉しいけど、目の前の事態に理解が追いつかない。


 ヤマナカさんのおかしさは、現実もねじ曲げてしまうんだろうか?


「――てめぇ! 動くんじゃねぇ!」


 村長の息子がお母さんを引っ掴むと、新しい短刀を抜き喉に当てる。


 お母さん!?


「……えーと、お父さん? か、お兄さん? じゃ、ないよね?」


 ヤマナカさん!


「いいから動くな! 喉カッきるぞ!」


 お母さんはもはや抵抗する体力も残ってないのだろう。もしかしたら今の状況も見えてないのかもしれない。


「え、えーと、とりあえず、それは無理だ」


「ああ!? ナメてんのか!」


 ヤマナカさんのしどろもどろした発言に、村長の息子がグイッと短刀をお母さんの喉にめり込ませる。


 パキッ


 乾いた音が響く。


 めり込んだと思った短刀に罅が入り欠ける。


「ちょっ、ちょっと事情を聞くあいだ寝てて。違ってたら後で謝るから」


 ヤマナカさんのその言葉が終わる前に、村長の息子がバシッという音と共に弾かれ壁に叩きつけられる。


 ………………。


「だ、大丈夫ハンナちゃん? どうなって、こうなったん? 直ぐ縄を解くから…………あれ、結構固い。ふんっ……ああ、そうだ」


 あたしの口縄を解こうとしていたヤマナカさんが、立ち上がりお母さんに近寄っていく。しかし近寄るだけで、村長の息子が落とした短刀を拾い上げると戻ってきた。


 直ぐさま縄を切ってくれるかと思ったんだけど、ヤマナカさんは慎重にギコギコとあたしの縄を切っていった。


 ヤマナカさん!













「お母さん!」


 ヤマナカさんがあたしとお母さんの縄を切ってくれた後、お母さんに泣きながら飛びついた。


「お母さん? お母さん! ひっく、おがあさんっ!」


 お母さんはゼヒーゼヒーと小さく息をするだけで、あたしに気づいているかも怪しかった。


 もうどうしようもないのかもしれない、理不尽で駄々をコネているだけなのかもしれない、そんな義理もなければ無理を聞く必要もないと分かってても、それでも、他に縋る人がいなかった。


 あたしは卑しくて浅ましい。


 騙していた人に救いを求めるなんて。


 涙をボロボロこぼしながら、オロオロと動揺しているヤマナカさんを振り返り、言った。


「お、おがあざん、たず、だずげてぇ」


 あたしはやっぱり子供だ。声を上げて泣き、無理を言うことしかできない。


 ワンワンと泣き喚くあたしの頭を、恐る恐るヤマナカさんが手を乗せてくる。


 とっても、あったかい。唸るような安堵感が体を包む。しゃくり上げながらも涙を止める。


「あー、いいよ。助けます」


 ヤマナカさんは特に気負うこともなく、笑顔を浮かべてそう言うと、もう片方の手をお母さんに向けた。


 途端に、あたしとお母さんは淡い緑色の光に包まれる。


 ……気持ちいいな、これ。


 張り詰めていた緊張が途切れたせいか、体を覆う光のせいか、目を閉じれば眠ってしまいそうな心地よさが身を包む。殴られた左頬から段々と痛みが引き、体を重くしていた疲労感も無くなっていく。


 ふと光が終わり目を開ける。お母さんの腫れ上がった顔も元に戻っていたが、呼吸は浅くまだ目を覚まさない。


「鑑定。あー、ねー? じゃ、ちょっと無理だなー」


 その言葉に涙の跡が残る顔を不安そうにヤマナカさんに向ける。


 やっぱり、やっぱり、お母さんはもう……。


 しかしあたしを安心させるように、ヤマナカさんはポンとあたしの頭に一度手を置くと、なにやら虚空をつつき出した。


 もうおかしくてもいいよ。お母さんを治してくれるなら。


(ボア)狩っておいたのが良かったなぁ。レベル上がってるわ。あいつら話し掛けても襲ってくるし、怪我治しても襲ってくんだもん。正当防衛だよね? さてと」


 再びヤマナカさんがお母さんに手を向けると、今度は青白い光がお母さんを包みこむ。なんでかヤマナカさんは「おおぅ!?」と驚いていた。


 お母さんの呼吸が落ち着いてきて、青白かった顔に赤身が差した。瞼が震えたと思ったら、ゆっくりと開いていく。


「…………ハンナ……どうしたの?」


「お、おがあざん!」


 止まっていた涙がまた溢れ出した。お母さんに必死に抱きつくと、お母さんは困ったようにあたしの頭を撫でてきた。


「まったく……何がそんなに悲しかったの? …………あら?」


「あ、初めまして。ヤマナカと申します」


 もう! お母さん! ヤマナカさんも!















「なるほどー……いやー、この村ってそんなに大変なことになってたんだなぁ……気づかなかった」


「す、すみません! 娘がとんだ失礼を! お、お金はもちろんお返ししますし、何かお礼も」


「あ、だ、大丈夫です。とりあえず座ってください。まだ病み上がりなんだから、急に動くとよくないですよ」


 あたしがこの村の現状と、今まで騙してお金を貰っていたことと、ついさっき襲われた経緯を、ヤマナカさんとお母さんに話し終えた後の会話だ。


 あたしは何か罰を受けるんだろうなぁ、と思いながらも、気分はスッキリしていた。


「じゃあ、とりあえず……お腹減ってませんか? 食事も碌に取ってないんですよね?」


「そ、そんな! あたしは全然大丈夫で……」


 グゥウウ


 タイミング良くお母さんのお腹が鳴る。お母さんは真っ赤になって俯いてしまうが、しょうがないと思う。十日も碌に食べてないのだ。元気になった証拠だよ。


「ハンナちゃんも一緒しようか。一人で食べるよりみんなで食べた方が、あれだ、気まずくないしね……」


 美味しい、じゃなくて?


「……あの……あたしのこと、怒ってないんですか?」


 早速いつものようにボロボロの布袋から湯気の立つ料理を取り出しているヤマナカさんと、それを声も出せないほど驚いて見ているお母さんをチラチラ見ながら、躊躇いがちに聞いてみた。


「え、全然」


 魔法を隠す気があるのかないのか、果実水が入っているであろう樽を、もはや布袋関係なく取り出してコップに注ぎながら、ヤマナカさんは何でそんなことを聞くのか分からないといった風に眉を寄せ首を傾げる。


「は、ハンナ。ま、幻かしら? 食事が……どこからか」……」


 クイクイと服を引っ張ってくるお母さん。気持ちは分かるけど、今はヤマナカさんに謝る方が先だ。謝って、お母さんを治してもらったお礼をして、それから……。


「気にしなくていいよ?」


 コップをお母さんとあたしの前に置きながら、ヤマナカさんそう言った。どこに持っていたのかナイフを取り出し、大きな丸焼き肉を切り分けながら続ける。


「実際、洗濯に掃除にやってもらったし、家も借りたしね? どこで何に使われてるか分からない税金より、自分のお世話してくれた人に使われるって分かってるだけマシだって。正規のルートだったら、あの寝こけてる奴に回ったんだべ? 正当な報酬だよ。貰っておきなー」


「も、もらうのは……ちょっと」


「そうね、ハンナ。……ヤマナカさん、ここまで色々と助けられて、その上お金まで頂くわけにはいきません。お金はお返しします。あとは……少ないですが、お礼も」


「あ、待って待って待って! いや無理無理無理無理! こんだけ事情理解して金貰うとか無理だから! 鬼ですか、俺」


 お母さんが貯めていた硬貨からお礼を払おうとするのをヤマナカさんがひどく焦った表情で押し留める。


「でも、なにか……」


「じゃあ、とりあえず食事しませんか? ほら、冷めると美味しくないし? あ、ああ。あれがあっても美味しくないですよね?」


 ヤマナカさんは、なにか話題を逸らしたい時に視線があちこちに飛ぶ。今回もあちこちに飛んだ視線が、目と鼻から血が流れ出しピンクの泡を吹きながら白目を向いて痙攣している村長の息子に止まった。


 ……トドメを刺すんだろうか。酷いことされたけど、そうなると後味が悪い気持ちが湧いてくる。


「……ヤ、ヤマナ」


 思わず止めようとしたが、ヤマナカさんは、どこにそんな力があるのか片手で村長の息子をヒョイと持ち上げ、そのまま扉から外に放り投げると扉を閉めた。


 …………。


「じゃあ、いただきましょうか?」


 ……そういえば、ヤマナカさん、冒険者だっけ……。


 こちらが遠慮しないようにか、ヤマナカさんは率先して料理に口をつけていた。あたしとお母さんも顔を見合わせ、これ以上断りを入れるのも悪いかと料理に手をつけた。


 これはヤマナカさんの巧みな手だった。


 満腹になったあたしたちに、まだ全快してないからと、例の気持ちよくなる回復魔法を掛けられ、あっという間に眠気に負けてしまった。


 お金は返してないし、お礼の話もまだしてない。


 窓から零れ落ちる日の光に目を覚ますと、慌てて外に出た。


 もしかして、ヤマナカさん行っちゃったんじゃ……。


「ハンナちゃん!」


 家の外に出た途端、大きな声で呼び掛けられ、声の出元に体を向ける。


 よく聞いたことのある馴染みの深い声だ。


「メースさん!? あはっ、メースさん!」


 片手を首に回した布で吊りつつ、豪快な笑みを浮かべる短く刈り込んだアッシュブロンドの髪を持つ蒼い瞳の偉丈夫が、もう片方の手を振っていた。


 戻ってきたんだ!


 走り寄った勢いのままメースさんに飛びつく。


「ハンっっん……な、ちゃん……ちょっ、ちょっと痛い、かなぁ?」


「ご、ごめんなさい。つい、嬉しくて」


 そうだった。メースさんは重傷を負って治療のため街の知り合いのところまで運ばれていたんだった。まだ完治してないのだろう。


 あたしが顔を曇らせると、それを晴らすようにメースさんが笑顔を向けてくる。


「ああ、大丈夫大丈夫。それより……」


 メースさんの視線があたしを通り越してあたしの家の扉辺りをチラチラと窺う。


 まるで誰かが今にも出てこないかなと期待しているような視線だ。


 いつも通りのメースさんの反応に、あたしもつい笑ってしまいそうになる。


 メースさんはお父さんの古い友人で、お父さんが亡くなってからというもの、色々と手助けをしてくれている。まぁ、お目当てがいるようだけど。でもメースさんは、お父さんの事を考えてなのかヘタレなのか、一向にアプローチをしない。しかしそんなメースさんのお陰で、美人のお母さんには悪い虫も寄ってこない。


 想いを伝えるのはいつになるんだろうね?


「メースさんメースさん。話さなくちゃいけないこといっぱいあるよ」


「ん……あ、ああ。そうだ。俺も聞きたいことがあってね。ヤマナカっていう冒険者が言うには……」


「ヤマナカさん? ヤマナカさん……またなんか変なことしてた? あ、あのね悪い人じゃないの。命の恩人なの」


 あたしが必死で説明しようとするのをメースさんは遮り、とりあえずと前置いて確認を取ってくる。


「ヤマナカっていう冒険者と、本当に知り合いなんだな?」


「う、うん」


 コクコクと頷くあたしに、メースさんは苦い表情をしてくる。イトリと森に入ってジュラの実を取ってきた時もこんな表情だったなぁ。


 あんまり怪しい奴に近づくなよという注意を受け、先ほどあったヤマナカという冒険者が何をしたのか説明を受けた。


 なんでも、ヤマナカさんは瀕死の村長の息子をロープでぐるぐる巻きにして村中を引きずり回しながら、村長の家はどこか? と尋ねて回っていたそうだ。


 …………ヤマナカさぁん。


 村の窮地にその責任者の息子を引きずり回しながら、やたらと丁寧な物腰で尋ねてくる見知らぬ冒険者に、村の人は、あの無茶な依頼でとうとう冒険者を怒らせてしまったのでは? と、戦々恐々としながら、ヤマナカさんの質問に、知らないと嘘をついたり村長の息子を解放するよう説得したり、あるいは殴りかかった人もいたそうだ。


 ヤ、ヤマナカさん!


 メースさんが村に戻ってきたのは丁度そんな時。村長の息子と年の近い村人がヤマナカさんに殴りかかって、殴った方が悲鳴を上げてうずくまってるのを見て声を掛けたそうだ。


 メースさんも村長があまり好きではなく、街に貼られていた依頼書から、恐らくボア退治はならないと判断したらしく、知り合いの狩人や冒険者に頭を下げて頼みこみ、その人たちと武器や罠やらを馬車に積み込んで戻ってきたそうだ。


 村の人間に危害を加えている(ように見える)相手に、冒険者の人たちも武器を手に威嚇したらしいんだけど、ヤマナカさんはニコニコと笑顔で事情を説明し出したそうだ。


 うん。ヤマナカさんだ。


「でだ。他の連中は、そのヤマナカとかいう奴と一緒に村長の家に向かわせて、その間に事情が本当かどうか裏付けを取るために、知り合いの俺がハンナちゃんとカルミナさんに話を聞きにきたってわけだ」


「全部ほんとの事なのメースさん。ほんとに村長の息子の……名前忘れちゃったけど、あの人に襲われて、ヤマナカさんに助けてもらったの。傷も治してもらって、ご飯も食べさせてもらって、ヤマナカさんいい人だよ?」


「傷!? どっか怪我してるのか? カルミナは!?」


「ま、待って待って!」


 慌てて駆け出そうとするメースさんの吊っている腕を引っ張って、悲鳴を上げて足を止めたメースさんにヤマナカさんが傷を治してくれた事を話した。


「緑の光? そりゃ……」


「うん。たぶん回復魔法だと思う。あたしも見るのは初めてだから、よく分かんないけど……」


 あたしの言葉をようやく信じてくれたのか、メースさんが安心したように深く息を吐き出す。


「そりゃ良かった。カルミナには起きたらまた話を聞くとして……こりゃあ、早めに戻った方がよさそうだな。正直よ、冒険者連中はヤマナカが嘘ついてて、適当なところで逃げ出すだろうから、そんとき締め上げちまえって考えてんだ」


「あ、あたしも行く! や、ヤマナカさん凄い強いんだよ! そんなことになったらメースさんが連れてきた人たち怪我しちゃうよ!」


「へっ、いやー、ハンナちゃんはあのバカ息子ぶっ飛ばして助けられてるからそう感じたかもしれないけど……やっこさん、ひょろひょろだったぜ?」


 メースさんが笑っている横を、あたしは村長の家に向かって駆け出した。


 メースさんは分かってない。ヤマナカさんはとっても怪しくてとってもおかしい人なんだから!


 村長の家の前は騒ぎになっていた。


 ……あー……ほらぁ。


 理由は聞くまでもなく、村長の家の前に見本市のように広げられた十数匹のボアだろう。


 なにあれ……一頭だけ家の二倍はありそうなんだけど……。


 あたしが走ってる途中で、デンっと突然現れた家の二倍はありそうなボアに嫌な予感はしたんだぁ……。突然、現れる、これだけで誰かさんみたいだもん……。


 他のボアも決して小さいわけじゃない。高さ二メートルは優に越えている。


 あたしが呆然と立ち止まっていると、追いかけてきたメースさんも声を上げる。


「な、なんだ!? どうしてボアが!?」


「おいメーガス! ははっ! 見ろよこれ! 大量だぜ!」


 村人の輪の中から、皮装備をつけた知らない冒険者さんが笑顔で手を振りながら現れた。メーガス?


 メースさんがそれに答える。


「と、どうしたんだこれ? なんで突然村の真ん中に……」


「あの変な野郎よ! くれるんだってよ!」


「は、はあ!? 待て待て! 村長の話を聞きに言ったんじゃなかったのか?」


「あー……、それがよ……」


 苦い顔して話し始める冒険者。


 メースさんと別れた後、ヤマナカさんを囲みながら村長の家に行ったそうだ。そしたら村長の家はもぬけの空。ヤマナカさんの話も信憑性が出てきたもの、それ以上に問題が。


 村に残っていた備蓄やら積み立て金やら家畜やらも、一切合財、村長と一緒に消えてしまったそうだ。


 それに困ったのが、当然この村に住む人。あたしたちみたいに出て行く前提で、お金を貯めたり知り合いのツテをを探したりが出来なかった人たちはひどく動揺したんだそうだ。


 可哀想に思っても、この村に住んでない冒険者や狩人の人はどうにも出来ない。でもその中の一人が励ますように、ボアを狩って肉や毛皮を得れば少しは足しになる、畑も戻る! と元気づけたそうだ。


 確かに。あれだけのボアを狩れば、かなりの金額になるだろう。でも本来なら、ボアは狩った人の所有だし、冒険者の人だって命を掛けているのだから、貰えるとしてもほんの少しになるだろう。


 当たり前だ。本当なら報酬を払わなきゃいけないのに……メースさんはそこを説得して人を集めている。この上、狩った獲物まで譲ってくれとは言えない。むしろ少しでも分けてくれる方向に話がついているのが凄い。


 そんな微妙に気まずい空気の中で、忘れられていたヤマナカさんがあっけらかんと言ったそうだ。


「あ、じゃあ、差し上げます。肉は村の人に、素材を売った費用は半分村に、残りはそちらの方々ということで。解体だけお任せしていいですか?」


 こいつは何を言っているんだと、村人も冒険者も訝しがるような視線をヤマナカさんに集めたらしいんだけど……ヤマナカさんは淡々と腰のボロボロの布袋に、……ああ、もう分かっちゃった……ヤマナカさん……。


「そっからポンポンポンポン、ファングボア出すんだから目を疑ったぜ! ありゃ空間魔法とかいうやつだな! 御伽噺の産物かと思やぁ、実在して、使える奴がいるとは! それに見ろよ! ありゃ、ラーカム・ファングだ! 王種(キング)なんて初めてお目にかかったぜ! やり合ってたら全滅だったな! はははっ! 命拾いした上に、タダで! キングの素材の半分! メーガス、声掛けてくれてありがとよ!」


「……あ、ああ」


 嬉しそうに語って、解体を始めている狩人さんの手伝いに加わりにいく冒険者さん。ボアはまだ生きているらしく、ピクピクと微妙に痙攣したり浅く息を吐いたりしているが、全く起き上がる様子はない。村人も嬉しそうに笑いながら解体を見物している。この村の先行きが立ったからだろう。


 あたしは、あまりの展開にやや付いていけず、ただ呆然と気になったことをメースさんに聞いた。


「……メーガス?」


「あ、ああ、それは……」


 メースさんも考えを放棄していたからか、普段なら答えてくれないような答えだったが教えてくれた。


 あたしがまだよちよち歩きだった頃に、メースさんの事を「めーしゅ!」と呼んだことから、村の中では「今日からメースと呼んでくれ!」と言っていたらしく、村の外の知り合いはそれを知らないのだそうだ。


 ……メースさん……いや、メーガスさんか。


 呆然と解体されるボアを村人の輪から離れて見ていたからか、村人集りも、ボアも、気にならないのかノホホンと手ぶらで歩いてくる人に直ぐに気づいた。


 ヤマナカさんだ。


 何を言っていいのか言葉に詰まる。どんな言葉も今の気持ちをいい表すには足りない、すごくもどかしい。


 あたしが、口を開いては閉じて、また開く。言葉をまとめようと四苦八苦しているのも、ヤマナカさんは気にせず、


「おはようハンナちゃん。朝ご飯にしようか?」


 と笑顔を向けてきた。


 ……ああ、ヤマナカさんだ。
















 その日は夜通し宴を開いた。


 ヤマナカさんが譲ってくれたボアを丸々一頭開いて、村のみんなと来てくれた冒険者と狩人で食べた。


 村の真ん中で篝火を焚いて、村人は音楽を適当に打ち鳴らして踊っている。


 ヤマナカさんは、空間魔法? は使えないと冒険者の人の追求に意味の無い言い訳を続けていたが、回復魔法を使って他の村人やメースさんの怪我をあっという間に治してしまった。


 空間魔法は知られたくないけど、回復魔法は知られてもいいの?


 回復魔法といえば、神官さまの代名詞のようなものなのに。


 その後、あのメースさんの知り合いの冒険者さんに熱心にクランの勧誘を受けていたけれど、「いや、討伐とかはちょっと……薬草専門なんで」と言って断っていた。これにはみんな何を言っているのかと、血抜きをされた巨大なボアとヤマナカさんを交互に見ていた。


 あたしは正直だいぶ慣れた。


「ヤマナカさん!」


「ああ、ハンナちゃん。どうしたの?」


 今回の村の救世主は間違いなくヤマナカさんだ。なのに、何故か村の隅っこであたしが作った(いつのだろう?)ジュラスープを飲みながら、ボアの肉の切れ端を食べている。


「ヤマナカさんは、お酒飲まないの?」


「うん、まぁ、飲めない」


 なんでお酒出したんだろう? 今、村で振る舞われているお酒は、例のごとく、ヤマナカさんがどこかから取り出したものだ。


 あたしはヤマナカさんの隣に腰掛けながら首を傾げたが、気にしてもしょうがないので止めた。


 だってヤマナカさんだし。


「ねぇヤマナカさん。ヤマナカさんは……」


「ああ、やっぱり。そうだよなー、世の中そんなに上手くいかないよなー」


 ヤマナカさんはあたしの言葉を聞いてなかったようで、ガックリとしながらどこかを見つめている。


 ヤマナカさんが見ていた辺りに目を向けると、メースさんがお母さんを強く抱きしめていた。お母さんも、メースさんの背中に手を回している。


 ちょっとムッときた。


 だからヤマナカさんの腕に抱きついたのだが、ヤマナカさんは「ああごめん。なんだっけ?」とガックリした顔のまま返してきた。


 やっぱりペッタンコか。男はお母さんか。あと三年が待てないのか。


「もう! はいこれ!」


 ちゃんとお礼を言って渡そうと思っていたのに、押し付けるように渡してしまった。ヤマナカさんめ。


「なにこれ? 宿代なら……」


「違うよ、依頼料。ボア討伐の。……少ないけど、ヤマナカさん冒険者だし」


 布袋を開いて硬貨を見ていたヤマナカさんが呆気に取られる。依頼料なら受け取ってくれると思ってだ。


 一拍の間を空けて。


「あ、ああ、そうか。冒険者だ。異世界でファンタジーに無双だった。チートで殲滅万歳だった。オケ、僕、冒険者」


「なに言ってるのか、よく分かんない」


 ヤマナカさんはいつも通りだ。


 今なら、なんでか、なんでも話せる気がしたので、気になっていることを聞いた。


「ねぇ、『ちっぷ』ってなに?」


「……え? チップ知らない? ほら、泊まる時とかに従業員に渡したり」


「知らない」


「え、チップってないの?」


「うーん、たぶん。初めて聞いたし……他の冒険者の人も知らないみたいだったから……」


 ヤマナカさんは少しショックを受けたような顔をしていた。


 その日の夜は、ヤマナカさんの奇行と、知っている範囲の常識を話した。何度も驚いていたのが、少し可笑しかった。


 次の日の朝、ヤマナカさんはいなくなった。


 他の村人や冒険者の人が探したけれど、あたしにはもう村にいないのが分かっていた。


 ヤマナカさんなら、たぶん、こう言う。


「え、だって七泊だったから」


 そう思うと、可笑しさ半分悔しさ半分といったところだろうか。


 だって……村に残ってもらえるかどうか、聞けなかったしなぁ。


 来るときも去るときも突然な、あの可笑しな冒険者さんは、きっと今頃、またおかしな事をしている。


 ヤマナカさんの事を思い浮かべると、自然と笑顔が零れた。


 ヤマナカさん、また来てくれるかな?



 ちなみに、灰色ツンツンの反応と合わないように思える『あたしちゃん』の説明ですが、村人は登録する時に「雑用(モブ)で登録したいんですが」や「カード登録だけしたい」という風に言って「冒険者」という言葉を使いません。いわゆる「冒険者」は危険の伴う「職業」ですので、冒険者登録したい、という人は、冒険者としてやっていく、と言っているのと同じ。


 この世界の冒険者ギルドの登録リストから大体の人口や商人や冒険者の行き来を読みとったりするぐらいなので、ギルドカードの作成や雑用(モブ)の理念は常識として広まっています。


 知らない社畜さんは言いました。


「冒険者志願(冒険者[E以上]になって生計を建てよう)でして、出来れば(普通はこんなこと言わない。誰でもカード発行までは無料)」


 と。


 大抵は流れ者の冒険者ですが、本拠地(ホーム)を決めて居着いたり、新人のうちは担当がつきます。生存率を上げたり厄介な依頼を頼んだりと、ギルドにも益があるからです。


 例えば北門にはいくな! とかなんですが、どこぞの社畜さんが途中で雑用うんぬん言わなきゃ色々と灰色ツンツンもアドバイスしてくれたかも。北門からの出街者がいたため、ギルド(マスター)は北門の門番に注意しましたが、基本は自己責任な冒険者な上に出入りに制限などないので、ここから出るよ、と言われれば通します。でも普通の門番なら、出た先が危険な森とかだったら一言つけます。ギルドマスターは次からつけろよと言ったのでしょうね。社畜さんは気遣いをマイナス方面に取りましたが。


アイテムボックスについて。


 アイテムボックスは生来のファンタジーに使われるものの規格を破っています。


 神が与えし空間系スキルなので、生きたまま生物を入れられます。人間可。


 社畜さんは気づいていませんが……


 いかがだったでしょうか? 楽しんでいただけたら幸いです。

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