2、幼馴染みと登校
「こら!大翔君がわざわざ美波のために来てくれてるんだから、そんな態度はないでしょう?」
あの後ドアを閉めた音が思ったよりも大きかったのか、リビングから母が出てきて何故か玄関で、しかもコイツ―――鷹宮大翔の目の前で怒られていた。
「いや、大丈夫ですよ。俺が驚かせたのが悪いので。」
「ほんと、大翔君はいい子よねぇ…こんなのだけど美波のことよろしくね?」
人当たりのいい笑みを浮かべながら大翔が母に話しかけると、ものの見事に母は大翔の外見に騙されていた。
だけど、私は知っている。この笑みの下にあるコイツの本性はとんでもなく性悪なことを…。
「じゃあそろそろ行かないと。おばさん、お騒がせしました。行ってきます。」
「こちらこそ。行ってらっしゃい〜」
大翔は母に挨拶すると、いつの間にか掴まれていた私の腕を引っ張りながら、登校し始めた。
ある程度歩いて私の家が見えなくなった頃、突然大翔が止まった。
……あぁ、スイッチ入れ替わったか。
頭の中でそんな事を考えていると突然頭を叩かれた。
「痛っ!?え、なに?」
「お前、朝からどれだけ人のこと待たせるんだよ。俺のこと待たせるとか何様のつもり?」
叩かれた場所をさすりながら顔を上げると、そこには先程の笑顔はどこに行ったのかと言いたくなる、人を小馬鹿にしたような顔をした幼馴染みが立っていた。
―――そう。これが私の幼馴染み。鷹宮大翔の本性である。
家が隣同士というのもあり、幼稚園に入る前から遊ぶことが多かった私達。最初は私にも優しくて、私もかなり大翔のことを慕っていたと思う。
しかし、小学三年のある日。大翔はいきなり本性を出してきた。いつものように遊んでいたとき、彼は何の前触れもなく私に「美波ってさ、ほんとバカだよね。」といきなり罵られたのだ。一瞬キョトンとした後、悪口を言われたことに気づいた私は小さいながら呆然とした。今まで優しかった男の子がいきなり態度を変えた、あの時の衝撃はすごかった。
その後も彼は、優しかったのは幻だったのでは?と思うほどの豹変した態度で接してきた。私はその様子を母や友達に伝えてみたが、「大翔君がそんなこと言うはずない。」と皆一様に答えたため誰も私の言葉は信じてもらえなかった。
大翔は特定の人の前以外では完璧に猫被っているため、本性を知る人は私を含めた数名しかいないのだ。何故私には本性を見せるのか。理由は全然分からないが、私は大翔が近くにいるせいで中学時代には大変な目にあった。
外見がよく、性格も猫被ってる時はいい大翔は当然のごとくかなりモテていた。しかし大翔はあまり女子と積極的には関わっていなかったため、唯一仲のいい私は女子の目の敵となっていた。彼女達には何度もただの幼馴染みだと説明をしたが、一切聞く耳を持たず一方的に何か言われる日々だった。……しばらくして、いい加減キレた私が思いっきり言い返したせいか、その後はパッタリと呼び出しらしきものはなくなったが、何故か女子達からは恐れられるようになってしまった。その場に居合わせた人いわく、あの時の私は般若のようであったという。
そんなことがあって、中学ではまともな女友達が数人しかできなかった。高校では絶対そんなことしないっ!って決めたばかりなのに……。
大翔は私と同じ高校を受験していた。つまり、結局また同じ学校なのだ。こうして家に迎えに来てくれるのはありがたいが、出来れば高校では目をつけられるため来て欲しくなかったよっ!!
「ねぇ、いつまで突っ立ってるの?早くいくよ。ただでさえ美波は歩くのが遅いんだから。」
私を一瞥したあと、大翔はあっという間にスタスタと歩いていってしまった。
あ、あいつ……だったら何でわざわざ一緒に行かなきゃいけないのよ!
心の中で悪態をつきながらも、大翔を見失わないように後ろを追いかけていった。
……もちろん10mほど離れながら。隣に並んで勘違いされたくないもんね!
大翔はいきなり止まったかと思ったら突然振り返ってきた。
「それさ、ストーカーみたいだけど。」
クスッと笑いながら指摘された言葉はまさしく今の私の状態にぴったりの言葉で。頬にカッと熱が集まり、顔が赤くなるのがわかる。恥ずかしくなった私は大股で大翔の横を通り過ぎて歩いていった。後ろからクスクスと笑う大翔は根っからの性悪野郎だ。
結局一緒に登校することになって、入学式から注目を浴びてしまったのは言うまでもない。
……どうしてこうなるのよっ!