1、新しい朝と従兄弟
窓から射し込む光で目が覚める。
まだ寝ぼけた目を擦りながらベット脇にある目覚ましを見ると、まだ目覚ましの鳴る30分前だった。
「早く起きすぎたなぁ……」
一度起きるとなかなか寝られない体質の私は、諦めて起き上がることにした。
私こと、穂高美波は今日から高校1年生。
楽しみすぎて眠れないとか、小学校の遠足以来かもしれない…。思わず苦笑いしてしまった。
私が通う高校は、私立桜宮学園という学校で全校生徒が1000人を超えるマンモス校。
家から近いことと、制服が可愛いことが決め手となって受験することにした。
偏差値ギリギリだったから危なかったけど、猛勉強して頑張った甲斐があった…!
真新しい制服に身を包み、鏡の前に立ってみると改めて高校生になったことを実感する。
桜宮学園の制服は、白ワイシャツ、赤に黒の斜めストライプがはいったリボン、キャメルのブレザー、紺のプリーツスカートという私の好みどストライクだった。
実際、桜宮校生にも人気らしい。
制服に着替え、肩下まである髪を2つに結ぶ。
中学のときからずっと2つ結びで、高校も相変わらずのスタイルでいこうと思う。
……おい、そこの“幼い”って言った奴誰だ。表出ろや。
別に違うアレンジでもよかったけど、下手にして似合ってないとか言われたら泣くから。ほんとに。
「お母さん、おはよ〜!」
「あら、美波おはよう。制服似合ってるわね。」
1階に降りてリビングに行くと、お母さんが既に朝食の用意をしてくれていた。
「いつもより早く起きてきたのね。緊張してるの?」
「んー、少ししてるかも〜」
母にクスクスと笑われて少し恥ずかしくなってしまった。
私の家は父が私の小さい頃に事故で亡くなったため、母子家庭。母には女手1つでここまで育ててくれて、本当に感謝してる。
家には母と私、そして1つ下の従兄弟がいる。
母の姉の息子だけど、姉夫婦が海外で過ごしているため居候として住んでいる。
もうそろそろ高校生なんだから、一人暮らしでもいいんじゃ…って思ったけど、何かと物騒な世の中で心配らしく結局我が家に来ることになった。
「ん〜、おはようございます。」
まだ寝ぼけたような声を出して入ってきたのが従兄弟。
篠崎雄大。中学三年生。
公立の中学に通っていて容姿端麗、成績優秀、運動は……まぁ触れないでおこう。あと、三年生になってから生徒会長もしていてしっかりしている。
よく母には、雄大君の方がしっかりしてるわね〜。なんて言われる。……そんなこと私が1番分かってるわ。
「美波姉さんも、おはよう。」
「ん、雄大おはよ。」
雄大は私のことを“美波姉さん”と呼ぶ。
私も別段呼ばれ慣れているので嫌ではないが……自分より数十センチ高い相手に“姉さん”と呼ばれるのは複雑である。
三年前くらいまでは、私の方が大きかったのに…くそぉ、成長期が羨ましい。
少し恨みがこもった視線を送ってしまったが、当の本人は何事かと首をかしげている。
…なにその仕草、かわいいんだけど。
「雄大のとこも、今日入学式なの?」
「うん、そうだよ。生徒会長の挨拶するから…一般生徒より早く行かなきゃいけないみたい。」
雄大の言葉につられて時計を見ると、思ったより時間が経過していたことに気づいた。
あぁ!今日は最初だから早めに出ていこうと思ってたのに!
慌てて残りの朝食を食べ終え、身だしなみを整えて、鞄を取ってくる。
「行ってきまーす!雄大、挨拶頑張ってね!」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
「ありがとう。美波姉さんも行ってらっしゃい。」
玄関を出ようとしたときには、ちゃんと予定通りの時間だった。
…よしっ!これなら余裕で間に合うな。
ドアを開けて、いざ、学校へ!と思った瞬間。家の前に誰かいることに気づく。
「やぁ、おはよう美波。」
ドアを開けたまま、固まっている私に微笑んできたのは―――
私の大嫌いな幼馴染みでした。
その後正気に返った私が速攻でドアを閉めたのは、悪くない。
……なんでお前がここにいるっ!?