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「ふむふむ」
信号待ちする街のバス。主に帰宅する高校生たちが乗車する車内で、白いローブを着た少女の姿はひと際目立つ。そのうえ幼女のようにロングシートに膝を乗せ、窓から景色を見ているのだから、行儀の悪さは嫌でも目を引くに違いない。
けれど。
乗客は誰一人として、ローブの少女に注目していなかった。
彼らには姿が見えないのだから、仕方のないことだが。
――少女の名はセリア。人とは違う、情報生命体という概念。長い銀髪が腰に垂れ、中学生にも見える童顔は愛らしさがある。
ある人物に眼差しを送っていた。
対向車線を隔てた先。バス停のベンチに座る通話中の、青い長髪の女子高生に向けて。
「あれがお姉ちゃんか。たしかに似てるね。セリアは知っているけど、君に巡る科学のこころの存在は知らない感じかな。〈.orion〉は知っている辺り、さすがは神代といったところか」
ふむ、とセリアは顎に手を宛がい、
「さてさて、お姉ちゃんをどう使っていこうかな」
悩ましげに呟くと、バスは発進した。