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オリオン・ネットワーク  作者: azakura
3章 《拡張戦線》
22/40

3-6

 扉とともに一歩を踏み入れる蒼穹祢。その荘厳な内装に思わず心を奪われる。


「これが天空の……教会……」


 建物五階分の空間を用いたカトリック教会で、ビルの中とは思えない広々とした間取りだ。荘厳で神々しく、中世がよみがえっていた。奥の祭壇には巨大なパイプオルガンと十字架が掲げられている。営業時間外のため明かりは灯されていない。しかし壁には美麗なステンドグラスが幾枚も並び、月明りと街のネオンが差し込む教会は、ステンドグラスの細工を通して幻想的なスペクタクルを演出する。あまりの美しさに、はからずもため息が出てしまいそうになるほど。天井だって壁画で贅沢に彩られている。


 祭壇側はクリアなガラス張りの壁で、夜の摩天楼を高所から眺められる。そんな見栄えのよさもあって、この教会を式場に選ぶカップルが多いそうだ。ブライダル業界が“天空の式場”としても売り出しているらしい。祭壇に立った花嫁はきっと鳥肌が立つだろう。


(素敵なことを考える人もいるのね。この教会で式を挙げられたらいい思い出になりそう)


 そんなことを思い、フロアを見回しながら蒼穹祢は先を進んでゆく。


「夏目さん……いるの?」


 二階のギャラリースペースも意識しながら探す。しかし、フロアの半ば辺りから並ぶ木製の長椅子に差し掛かっても、彼の姿は見当たらない。聞こえる音も蒼穹祢の足音だけ。


「セリアに……騙された?」


 蒼穹祢が歩みを止めて眉をひそめた、そのとき。

 たんっ、と足音のような単調な音が教会に響く。


「……?」


 音は左サイドのギャラリースペースから。蒼穹祢は見上げた。するとそこには、


「……ッ?」


 一人の人影が、ステンドグラス越しの淡いブルーの光に照らされているのだ。が、露わになるその姿は、明らかに一般人とは違う。

 白を基調としたローブを身にまとい、下は黒いボトムスを着用している。フードで頭を隠し、加えて白い仮面で顔を覆っていた。腕には黒い十字の刺?が入り、手袋の色も黒。首元に施されたルビーの装飾が輝く。パッと見た感じ、RPGゲームにおける魔術師のような衣装といった印象を抱くだろうか。


「まさか……」


 蒼穹祢が疑念を口走ると、その人影の頭上に『Fase4 Area Boss』『白の魔術師』の名とHPゲージが表示された。


 ――フェーズ4(エリアボス)〈白の魔術師〉。


「エネミー……ですって!?」


 蒼穹祢は咄嗟に剣を構えた。

 しかし、疑問が残る。


(なぜこんな場所にエリアボスが? 〈紫の騎士〉みたいに外の通りで待ち構えているのはわかる。けど、こんな教会に来るプレイヤーはいないわよ。それに“エリア”ボスと言うからにはエリアごとに散ってるはずよね? どうして同じエリアに二人いるの?)


 まるで蒼穹祢が来るのを知っているかのようだ。蒼穹祢は“天空の教会”に来る目的があったから。――セリアに誘導されて。

 蒼穹祢は構えた剣を水平に伸ばし、〈白の魔術師〉に剣先を向け、


「あなた、セリアの仲間?」


 敵意を込めて言い放つと、〈白の魔術師〉の肩がわずかに揺れたように見えた。


「……、図星?」


 しかしほんの些細な揺れで、蒼穹祢の気のせいかもしれない。


「……」


 〈白の魔術師〉は言葉を発さない。人型だが、中身はコンピュータなのか、その判断すら難しい。

 ひとまず蒼穹祢は人間と見做して、


「夏目景途に会いに来たわ。彼はここにいるの? それともあなたが夏目さん?」

「……」

「シラを切っているのか、それとも知らないのか……どっちよ。答えなさい」

「……」


 それでも〈白の魔術師〉は答えない。

 代わりに〈白の魔術師〉は、手元に一冊の本を浮かせたのだ。黒の表紙に赤い魔方陣が描かれた、厚みのある魔導書デザインの本。そうして〈白の魔術師〉は、空を切るように右腕を蒼穹祢に振るったのだ。――直後、弾丸のような数多の氷の粒が蒼穹祢に飛来する。


「キャッ!」


 一歩引いて避けようとしたが、数発の氷弾が蒼穹祢の脚にヒットし、残り少ないHPがさらに削られる。


 蒼穹祢は確信した。

 ――目の前の魔術師は敵だと。


「相手するしか……ないのねッ」


 夏目景途の手がかりのため、このエリアボスを相手するしかないだろう。間違いなく強敵だが、勝利したうえで聞き出してみるか、もしくは奥を進むか、それしか手段はない。


 〈白の魔術師〉は柵に足をかけ、蒼穹祢の立つフロアへと軽快に着地。一方の蒼穹祢はメニュー画面から注射マークのアイコンを選択し、HPを全回復させた。アイコンの点灯が消える。ゲームの仕様上、一度きりの回復だ。


(バトルはこれが最後の気持ちで。全力で挑まないと)


 数メートル先にいる相手を注視し、蒼穹祢は剣を構える。


(さっきは氷の攻撃を仕掛けてきた。ということは――……)


 〈白の魔術師〉が装備する武器は〈マジック〉。〈マジック〉は他の武器と異なり、『氷』『雷』『炎』という遠・中・近三種類の魔法を行使できるという大きな特徴がある。チームメンバーの逢坂大地もその特徴に羨んでいたのは記憶に新しい。

(剣と魔法……、射程を考えるとこちらの部が悪い。ただ突っ込んで剣を振るっても返り討ちに遭うだけ。考えて戦う必要がありそうだわ)


 さて、どうする。蒼穹祢が氷のような眼光で敵を睨みながら思考を巡らせていたら、〈白の魔術師〉は躊躇なく仕掛けてきた。腕を伸ばして人差し指を蒼穹祢に向ける。


「……?」


 蒼穹祢は右足のかかとを上げて半歩下がった。〈白の魔術師〉の所作は先の氷弾における前動作とは違う。すると黄金こがね色に光る電流が指の周りにバチッと瞬き、蒼穹祢に飛んできたのだ。

 雷撃の速度にはさすがに反応できず、


「ぐっ!」


 雷撃を浴び、身体に軽い痺れが走る。だが射程は長くないようで、雷撃の先端を掠めた程度でダメージは少ない。〈白の魔術師〉は変わらず人差し指を向け、二発目の雷撃を飛ばしてきた。蒼穹祢は跳んで身を引き、今度は完全に雷撃を避け、剣を放りながら射程外の距離を保つ。


 しかし雷撃は二度に留まらない。


 〈白の魔術師〉は三度目、四度目の雷撃を発射してくる。指の向きで方向を推測した蒼穹祢は、膝を曲げて雷撃を回避した。雷の残光がステンドグラスの美麗な模様をより照らす。


(雷撃一辺倒? なぜ? 氷の魔法もあるし、炎の魔法だってあるはずよね?)


 放たれるたびに蒼穹祢は射程距離を学習し、躱すのは容易になってくる。氷や炎の魔法を繰り出す余裕がないのか? 頭が悪い? ただの初心者?

 それとも、策があっての行動か?

 絶えず雷撃を放ってくるため、蒼穹祢はなかなか踏み込めず、剣を投げて応戦する。だが、投げるにも窮屈な体勢では素早く投げられず、どれも〈白の魔術師〉に躱されてしまう。木製の長椅子に投げて跳ね返りを当てようとするも、狙いどおりにヒットしない。


(膠着状態ね……。強引に仕掛けてみる?)


 ダメージ覚悟で蒼穹祢は大胆に一歩を踏み出そうとした。が、見計らったかのようなタイミングで〈白の魔術師〉は人差し指を引っ込め、右腕を振るったのだ。氷の弾丸が炸裂する。


「――ッ!」


 蒼穹祢は即座に屈んで氷弾を躱す。取り残された青髪に氷弾が掠めたものの、HPに影響はない。腕を振るうという動作は氷の魔法。最初に学習している。


(腕の動きで先読みできたわッ。腕にさえ気をつければ回避できる!)

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