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オリオン・ネットワーク  作者: azakura
2章 "ネットワークの世界"への入門
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2-4

 ハンバーガーショップでレミと食事した蒼穹祢。今は寮に帰宅中。レミはコンビニに用事があるそうで、一人で街を歩いていた。ビルの壁に展開するビジョンには、身体に負担の少ない不妊治療を実現する医療実験の報告映像が流れている。


(医療科学がトレンドなのかしら。例のプロジェクトの失敗がある前は、宇宙科学がトレンドだったけど。あっという間に変わるものね)


 汚点を掘り返されたくない街が、強引にトレンドを変えているのかもしれない。なにせ医療の発展は明るい話題だから。

 その医療科学だって、裏では薄汚れた実験に塗れているというのに。少なくともこの街におけるネットワークの世界の主は、汚れた実験の犠牲者なのだ。


「発展のために、犠牲は必要なの?」


 数多の人々が往来する交差点。くだらない宣伝、絶え間ない雑踏、騒がしい会話、ロボットや車の走行音で濁る街の音。一人の女子高生が囁く叫びは、煌びやかに発展を遂げるこの科学の街で、誰の耳にも届かない。


 届かないことは承知しているのに、寂しい。

 そう思ってしまったのは、神代蒼穹祢の些細なわがまま。


 半年前の夏目景途の葬儀を思い返す。席を外した上層部は『高校生の有人宇宙飛行計画がパァだ。早いとこ挽回せねば多大な損失に繋がりかねない』と影で電話していた。たままたま話を耳にしたときは、怒りよりも失望の色に胸が染まったと思う。

 蒼穹祢が意味のないため息をついた、そのとき。


「電話?」


 ポケットが断続的に震える。スマホを手に取ると、電話の着信だ。しかし『非通知』の表示で、出るのに躊躇したが、


「はい、神代です」


 蒼穹祢は応答するも、相手から返答がない。イタズラ電話? そもそも通じてない? 通話を切ろうと、赤い終了ボタンに触れようとした寸前に、


『――――どうも、はじめまして』


 返答が聞こえた。知らない女の声。大人の声ではなく、幼さの余韻がある音色だ。


「誰、ですか?」


 眉をひそめて蒼穹祢は問う。スマホを握る手に力がこもるが、不審者相手でも問題ないよう、いつでも通話を切れるように心は準備する。

 だが、電話の相手が名乗ったのは意外な名だった。


『私はセリア』

「え、セリア……?」

『そう、セリア。神代一族のキミなら知っているだろう? 加速する科学の不夜城(イマジナリーパート)のネットワークを統べる私のことは?』

「ええ、存在は……知ってるわ。あなたと話すのは……初めてだけど。本物、なの?」

『本物だよ。偽物なんていたらすぐに消してしまうから』


 交差点を渡り切った蒼穹祢はおずおずと振り返る。蒼穹祢に関心を向ける者はいない。見上げてもビルが連なるだけで、視線は感じない。


「私に、用があるの?」

『人恋しくなるときがあってね。同世代の子と話をしたいだけさ』

「あいにく話し相手になれるほどトークは強くないの」


『妹はトークが上手いのにね。まったく、不思議な姉妹だ』

「は? 妹の何を知ってるのよ。……煽ってるの?」

『怖い顔が見えてるよ』

「素で怖いと評判だわ」


 何もかもが見透かされている気がして、蒼穹祢は舌打ちを鳴らした。


「雑談したいだけで、家族や友達でもない人間に電話はかけないでしょ。特にあなたが恨む神代の人間になんてね」

『恨む?』

「詳細はともかく、あなたの過去と神代の関係は聞かされてるわ。『人々に幸せを』って前提なら、あなたのような犠牲を出す一族でもあるってね」

『まあ、それは否定しない。たしかに神代に振り回されてこの身分になったわけだし』

「……」


 言葉の内容とは裏腹に軽い口調のセリアに対し、蒼穹祢は言葉に詰まる。


『それはそうとして』


 蒼穹祢の心情を拾ったのか、セリアは前置きを挟んで、


『雑談したいのは嘘じゃないけど、一つキミに伝えたいことがあってね』

「伝えたいこと?」

『――《拡張戦線》に参加するならキミを待つ。それを伝えたかった』

「《拡張戦線》!? どうして、そのゲームを……?」


『街のネットワークは私の管理下だからね。ネットワークを借りたいなら私の許可が必要になるわけだし。だからゲームの存在は知ってるよ』

「それはどうでもいいわ。私が《拡張戦線》に参加することを知る理由を聞きたいの」

『だって情報生命体だよ? 街のあらゆる情報を監視できるんだ』

「超微細なカメラを空気中に混ぜれば、盗撮や盗聴は今の技術なら可能よね」


『そういうこと。この身体だから装置は操り放題。私はこの街の神だからすべてを知る権利がある……、なんて言ったら怒るかな?』

「怒るわよ。いくら神でもプライベートは見られたくないわ」

『冗談だよ、自分を神とは思ってないし。盗聴は事実だけど。ま、今回は水に流してほしい』

「サラッと言わないでよ」


 セリアとは初の会話だが、掴みどころのない性格だとつくづく思った。


「で、『待つ』ってどういうこと? あなたが待ってるの?」

『いや。キミが会うことを望む夏目景途を――研究エリアの“天空の教会”で待機させる』

「夏目……景途……!?」


 彼の名を聞いた蒼穹祢は、思わず目をカッと開いて、


「ちょっと、夏目さんの居場所を知ってるの!?」

『ああ』

「どうして待機させると私に伝えるの!?」

『妹を想うキミの力になりたい親切心さ』

「どこからその心が湧いてくるわけ!? さっきから怪しいわよ!?」


 しかしセリアはそれ以上答えることなく、


『では、おやすみ』

「ちょっと待ちな――……。なんなのもう!」


 通話を切られてしまった。

 セリアは何が目的か。まったく見当がつかない。


(いったい……何を企んでるの?)

 考えてみてもわからない。ただ、一つ判明したことも事実。

(《拡張戦線》が夏目さんに繋がることは確定ね。あのセリアが言うってことは、きっと何かあるはず)

 だからセリアの誘いに乗ってみるのも手。

「いいわ、待ってなさい。乗ってあげるわ」

 夜の都市を睨み、生来のつり目を鋭く尖らせて決意する蒼穹祢。胸に垂れる十字架のペンダントがネオンを反射した。

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