とある双子姉妹と宇宙にまつわる一つの物語 -Prolog-
便利な時代になったと、つくづく思う。
これから宇宙に旅立とうとする高校生たちを、手に収まるサイズの携帯電話で簡単に見届けることができるのだから。
ディスプレイに映るのは、宇宙服を着た高校生たちの様子。張りつめたように目顔は硬いものの、それでも胸に抱いているのはきっと、未知の天空に対する希望だろう。
彼ら、彼女らにとっての、そして科学都市にとっての夢が、間もなく叶うのだから。
夢を見る者たちと、自らを遮る隔たりに親指を滑らせ――、同じく高校生の少女は奥歯を噛み締めた。ディスプレイが淡く照り返すのは、どこか心残りが滲む表情。
ひとたび風が吹く。巻き上がるように靡いた、青く長い髪。首にかける十字架のペンダントも風に泳ぐ。つられて天を見上げれば、曇る心を嘲笑うかのように、秋の晴天が空いっぱいに広がっていた。
そして天空から視線を戻せば、高台から望む彼方には憧れの、宇宙への飛行船が天に向いている。
少女は配信映像から離れ、一枚の写真を見て懐かしんだ。ほほ笑む自分に、背後から腕を回して密着する赤い髪の少女が写っている。もう、三年も前の写真だ。
顔立ちはそっくりなのに、違う。
「ねえ、どうしてあなたが選ばれたの?」
ふと気づけば、発射まで定刻の一分前。握っていたスマートフォンをポケットに仕舞う。
「……」
祈りを捧げるように手を組み、瞳を閉じた――“姉”。
「緋那子、どうか無事に帰ってきてください」
不思議と悔しさは失せていた。
3、2、1、0――……。心の中でカウントダウンを唱え、右の手首に巻くスマートウォッチの秒針がきっかり『12』を指した瞬間、機体は打ち上げられた。
2025年11月8日午前九時三〇分。
地を離れたそれは、遥か離れたこの場の空気をも震わせてしまう轟音とともに、空高く昇ってゆく。
はずだったのに。
祈る少女の悲鳴がこだましたのは、それから少しの時が経ってからだった。