一週間
一週間が経った。
時間経ちすぎとか言わないで。だって特に紹介するようなこともなかったんだもん。
あ、あのあと晩御飯の時に、家族皆にいろいろな質問したよ。好きなものとか、嫌いなものとか、誕生日とか。
何を今更って笑われたけど、皆ちゃんと答えてくれたよ。やったね!
まあ結果は、皆同じで『分からない』だったけどね。何でなのか不思議なんだよね。私はちゃんと誕生日知ってるし…。
それに、お父さん私の誕生日知らなかったみたい。私は誰から自分の誕生日を教えてもらったんだろう?
あ、あと、皆好きなものとか嫌いなものとか、無いんだって。私はちゃんとあるのにな……?
あとは、ご近所さんと話したり、交流が広がったのが一番の収穫かな。その人その人で話したい話題とか違うみたいで、話していて結構面白い。まあ私も、ポーション作り以外は相づちをうつぐらいしか出来ないんだけど。
でも、必ず皆一回は、異邦人さん達についての話題を出すんだよね。だって、最近では一番大きい変化だし。
それで、その話なんだけど、どの人がどんなことして凄かったとか、困ってる所を助けてもらったとか、いい話ばっかりなんだよ。
たまに迷惑な人もいるって聞くけど、異邦人さん達は結構いい人なのかもね。
「あらナツちゃん。おはよう」
「メイおばさん、おはようございます!」
お店から少し顔を出すと、メイおばさんがいた。丁度買い物に出ていたみたいだ。
メイおばさんは、【始まりの町レクサス】の北側にある宿屋の女将さんで、お父さんとは幼馴染みの仲なんだって。
昔は冒険者として名を馳せていたらしいし、ぶっちゃけお父さんより強い凄腕の女将さんなのだ。
「ナツちゃんは今日もお仕事かい。偉いねえ」
「えへへ、異邦人さん達が沢山買っていくので、頑張らなくちゃって思って」
「ああ、異邦人さん達。私のところにも沢山人がきたね。毎日満室で忙しいったら」
メイおばさんのところにも沢山人来たんだ。やっぱり、どこも忙しさは一緒なのかなあ。
一週間経ったのに、町は一向に静まりかえらない。音の無かった世界が嘘なんじゃないかってぐらい、町はいつでも騒がしい。
それと同じく、私のお店に来る異邦人さん達は後を経たない。そろそろ在庫が無くなりそうなのに、生産スピードが追い付かない。このままだと、売り切れ看板を出さなきゃいけないかも。それはちょっと、期待を裏切ってるような気がして嫌だな……。
「ところで、ナツちゃんのところは大丈夫なのかい?」
「何がですか?」
「いやね、全員が全員って訳でも無いんだけとね。うちの宿屋にいきなりズカズカと入り込んできて、「金はやるから部屋の鍵寄越せ」って言ってきた異邦人がいるんだよ。
そいつは問答無用で宿から叩き出してやったけどね。
ナツちゃんのところは大丈夫かい?」
「あー、私のところにも、そういう人来てました」
うわあ、メイおばさんにそんな口をきく人がいるなんて…。異邦人さん達って、自殺志願者が多いのかなあ?
私のところにも来たけど、宿屋で騒がれると迷惑だよね。
「大丈夫だったかい?!怪我とかしてないかい?!」
「あ、はい。なんか、「金やるからポーション全部寄越せ」って言ってた異邦人さんがいたんですけど、他の異邦人さん達に肩を組まれて、「ちょっと俺らとOHANASIしようか」って、お店から出ていっちゃいました」
「そうかい……」
メイおばさん、なんかほっとしてる。
宿屋の方でいったい何があったんだろう。
お店の外から帰ってきた異邦人さん達も、なんか満面の笑みだったけど、いいことでもあったのかな。
ナツちゃんは俺達が守るんだって言ってる人もいたし…本当に謎だ。いったい、何から守ってくれてたんだろう?
「まあ、ナツちゃんには優秀な護衛さんもいるみたいだし、心配はないね。じゃあ、おばさんは仕事があるから帰るね。くれぐれも変な奴には気を付けるんだよ!」
「はい。おばさんもお仕事頑張ってください!」
…メイおばさんも大変だな。ああいう人達って、人の話全然聞いてくれないし。お店側としてはちょっと心苦しいけど、他のお客さんに迷惑がかかるから、宿から追い出しちゃうしか無いんだよね。
でも、そしたら次は逆ギレしてくるし、前よりもっと営業妨害になっちゃうんだけど……。
まさに、百害あって一利無しってやつかなあ。
「おはようナツちゃん!今日もとびっきり可愛いね!」
「えへへ~。ありがとうございます!」
おっと、お客さんだ。お仕事再開かな。
まあでも、皆が皆悪い人じゃないし、そういう人もいるってことでいいよね。