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其の拾:後ノ余談

 篠崎百合と綾瀬幽刃はこの世から消えた。今回の戦いで犠牲となった者を「輪廻の輪」に導いていったのだ。それが二人が選んだ責任の取り方らしい。

 唐突な別れでもあったが、不思議と悲しくはなかった。三百年前のあの日や三年前のあの日と違って、悲劇的なものではなかったからだろう。晴れ晴れしいとは言えないが、それでも納得はできた。

 それに今回は別れだけでなく再会もあった。優梨の魂はそのまま身体に定着し、本当に優梨自身がこの世で生を謳歌できるようになったのだ。幽刃の蛇に噛まれた左肩だけ少し動かしにくい程度の後遺症が残ったが、それでも自分の意思で自分の身体を自由に動かせる快楽に比べればたいしたことではない。優梨が戦いの後で人知れず嬉しさのあまり泣いていたのは彼女だけが知っている。

 幽刃が負け、「武吏虎」が消えた後、残った「鬼」は速やかにすべて祓われ、全員が「輪廻の輪」に導かれた。その後の処理は篠崎家によって行われ、関わった「祓い人」が外部から詮索を受けることは一度もなかった。





 それから数か月後。とある廃工場で人が人ならざるものと戦いを繰り広げていた。数は三人。

「ちょっとあんた、しっかりしなさい。私が動けない三年間何やってたの? 役立たずじゃ話にならないんだけど」

 罵倒するような声を出したのは綾瀬優梨。正式に綾瀬家の当主となった彼女は左手の後遺症などないのと同じように、一気に戦果を上げていった。三つの式神も本来の主を取り戻して、以前よりその威力が増しているように思える。

「うるさい。黙ってろ。新人に活躍のチャンスを上げるために、まだ本気を出してないだけだ」

 嘘なのが見え見えな反論をしたのは鬼塚幽人。彼は今までどおり、表向きは優梨の式神として扱われているが、実際は自分個人の意思で刀を振るって「鬼」を祓っている。ただし、協会に提出される戦果は立場上優梨のものとなり、火雁がもとの持ち主の許可なしに使えなくなったために「紅緋」が使えなくなったという、今までより少し悪い状況となってしまった。が、本人はそれでも優梨とともにいれるだけマシだと考えている。

「わわわ私はどうすれば……」

 テンパっている残りの一人は矢口珠美。彼女が二人に同行しているのは彼女自身が見習いとして綾瀬家の「祓い人」として修業することになったからだ。前世から持つ特殊な霊力がまだ残っている以上、いつまた狙われるか分からない。そのための自衛手段を作るために、珠美自身が優梨に頼み込んで弟子にしてもらったのだ。まだ未熟だが、実戦を何度か経験していることもあってか、将来が有望だと同い年の優梨に見られている。

 現在の綾瀬家の「祓い人」はこの三人のみ。だが、それでも少しずつ過去以上の栄華を取り戻せればいいと優梨は思っていた。自分達ができるのはその足掛かり程度かもしれない。でもそれでいいとも思っている。その先は未来の人間に引き継げばいい。

 今を生きているものだけが新たな歴史を作れる。そうやって人間は歴史を積み重ねてきたのだ。過去から現在、そして未来へ。

 だから、今はただ目の前の生を楽しめばいい。優梨はそう結論づけて未だ不安定な動きを見せる珠美に指示を飛ばした。


書き上げるまで無駄に長かった……おしまい。

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