出会い×拠点=腹パン?
「神…あのキモブタ野郎のことか?」
「そう、私たちは日々、ここから生きて帰る方法を模索し続けている」
被っている白いベレー帽の位置を直しながら
少女、佐山唯は俺の質問に答えてゆく
さらりと流れるように綺麗な髪を手で流すと
俺の方へと眼を向ける
「で、貴方のことなんだけど、どうする?」
「…どういう意味だ」
「貴方の選択肢は二つ。どこかも分からない世界でたった一人で彷徨い続けるか」
少し間を空け、前者を喋っている時より明るい笑顔で俺に告げる
「私に着いて来て、私の仲間達と共に生きて戦うか、その二つよ」
なんだろう…
一瞬この少女が、某有名RPGによく出てくる
世界の半分か我を倒すかという選択肢を出してくる魔王に見えた
勿論、知らない世界を歩いて周るなんて行為は御免な訳で
現在俺は、唯と行動を共にしている
鬱蒼と生い茂る森を抜けた俺たちは、広大な草原へと出た
草の生えていない一本道があり、そこに繋がっているのは
巨大な都があった
「結構近いんだな」
「あれはサンクキングダム王国よ。でも、私たちが行くのはあそこじゃないわ」
なんか色々誤解を受けそうな名前の国だな
暫く歩き続け、サンクキングダムより離れた場所にある
小さい村の側にある井戸に着いた
「あ~たるかった」
「何よ、全然疲れてなさそうじゃない」
「疲れたよ、何時間歩いたと思ってるんだ」
「あんな距離でへばらないでよ、私なんてあの距離毎日走ったりできるわ」
そんな「ちょっくらコンビニ行って来るわぁ」みたいな感じで言うな
大体、距離で言ったら、森から軽く3、40km近くあるじゃねぇか
森から歩いてきた俺は、正直滅茶苦茶疲れてる
「さあ、行くわよ」
井戸に吊るされてある縄に掴まり、唯はするすると降りていく
見様見真似で縄に掴まり降りると、途中で手の皮が剥がれそうになった
超痛ぇwww
ようやく俺は井戸の地下に辿り着いた
だが、着いた時に唯に「ぐずぐずしてんじゃないわよ!」と怒られた
何を言うか、途中で格好良く飛び降り
背中から固い床に激突してまで時間短縮したんだぞ
…まあ、ホントは余りの高さに俺がびびって
腹を立てた唯が縄を強引に振り回して俺が落ちたんだけどwww
再びスーパーウォーキングタイムに入ると
歩きながら唯から色々な説明を受ける
どうやらここは元々洞窟で、別の場所から繋がっており
偶然見つけた唯は、井戸からここに入って
拠点にしているということらしい
「でもさ、こういう所に魔獣とか出なかったのか?」
「至極最もな質問ね、勿論出たわ」
…なんでそんな所であれこれしようと思ったわけ?
「虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うでしょ」
…滅茶苦茶な理屈だ
「ここが、私達の拠点であるギルドよ」
細くて蝋燭の明かりで灯された一本道が終わると
そこには、巨大な工場のような光景が眼に映った
いや、実際にここは工場なのだろう
あちこちで煙突から煙が上がっていたりしているし
何より、通りかかる人間は皆、作業服のような物を着ている
「あれは?」
俺は適当に、働いている人間を指差して唯に聞く
「NPCよ」
「NPC…ノンプレイヤーキャラクターか」
「意思を持たない世界の住人、彼等は私達が拉致ってきたの」
「…お前」
恐ろしい物を見るような視線を唯に向けていると
悪びれもせずに言い切る唯
「別にいいじゃない、どうせ意思なんて無いんだし、使える道具は有効活用する、ゲームに置いても現実に置いても常識よ」
「ガキ大将理論乙」
「殴るわよ?」
その言葉が俺の耳に届いた頃には
俺は痛む腹を抑えてうずくまっていた
殴った後に言うなとあれほど…