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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

見えない殺人者

作者: あれっくす

 少々下品な表現があります。

 机の隅に伝言を書き掲示板にする遊びが流行った。やり方は簡単で他の人が使うであろう、ホームルーム以外の教室の机にメッセージを書き込むのだ。僕もそれをやってみることにする。数学と英語の授業が移動教室だったのでそこですることにした。

 今日は両方の授業があったが、これを思い立った時すでに英語は睡眠によって消化されていた。もちろん、授業は全て理解した上での行動である。英語は得意科目で、そうでなくても全教科塾でもうすでに勉強し終えているので、学校にいる間はほとんどが睡眠か読書に費される。従って次の数学で実行する。書き込む文章は『三組のトミコちゃんってかわいいね』にしよう。僕は実際そう思っているからだ。委員長である彼女は暴力を許さず、それに対して毅然とした態度で向かっていく。その様は見ていて心地よい。それに何より彼女は美しい。一切傷んでいない艶のある黒髪はそれだけで正義の象徴のようだった。僕は彼女が好きだったし、彼女には僕みたいに賢良方正な男と付き合った方がいいと思う。

 数学の授業が始まった。教員が黒板に式を書き写していく。この範囲はすでに塾で予習していたので、心置き無く書く事ができた。もともと字がキレイな方ではなかったので、普段以上に丁寧に書いた。読まれなかったら面白くない。授業開始から五分で書き終えた。後は適当に授業を流すだけだ。

 途中、教員から解答を求められた。

「誰も解けないのか。――ナリタ。この問題を解いてみろ」

 僕は即答出来た。凡愚共はこんな問題も解けないのか。

 

 オレがその書き込みを見つけたのは英語の授業だった。自分と同じくらいの汚い字だった。

「三組のトミコちゃんってかわいいねだと? 腹立つなァ」

 あの糞アマ、いちいちオレの行動にケチつけやがって。ゴミの分別なんてどうでもいいだろうが。タナカをしばく時だって邪魔してきやがったし。女なんて黙って腰振ってりゃあいいんだよ。それが出来なきゃ死んじまえ。あぁ、腹立ってきた。何か書き込んでやろう。『あんな糞アマ、殺してやりてーよ』でいいな。きたねぇ字だと読めねぇから丁寧に書いてやるか。そう思って、ゆっくりと筆を進めた。

 隣のカトウが話しかけてきた。

「なぁ、ケン。この訳合ってる?」

「しらねーよ」

「わかるんだろ? お前、英語得意だったじゃん」

 無視した。英語が得意だった覚えは無いし、訳を教えてやるほど仲は良くなかった。


 今日も英語は寝てしまった。そして、今は数学。机の隅には新たな書き込みがあった。

「むかつく奴だな」

 机には『あんな糞アマ、殺してやりてーよ』と書いてある。

 下品だ。それでいて教養がない。トミコの良さがわからないなんてどうかしてる。トミコには上品な人間にしかわからない良さがあるんだ。トミコは僕のものだ。ハァハァ。

 何か罵る言葉を書いてやろう。そうだな…… 『このゲス野郎。ケツの穴に手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わしたろか?』でどうだろうか。これではレベルが同じか。なら挑発してはどうだろうか。これはもう数学の時間いっぱい考える必要がありそうだ。なぜならトミコが馬鹿にされているのだから。

 三十分後。方向としては挑発で、適度に汚い言葉を混ぜることにした。『殺せるもんなら殺してみろよ。負け犬は吠えるだけだろ』これならちょうどいい。どうせもう時間は無いのだから書き直しはできない。

 チャイムがなって授業が終わった。教室に戻る途中にトミコを見かけた。だが、もちろん話しかけない。直接話した事はなかったし、話しかけられたことも無かった。話しかけるのも躊躇わられる。それほど崇高な存在なのだ。にもかかわらずそれに刃向かう者がいた。

 遠目では分からないがヤンキー風の男と、何やらいい争っているようだった。近づいてみるとケンジであることが分かった。ケンジは学校でも有名な不良で、進学校であるこの学校では特に目立っていた。奴は普段から頻繁にトミコに注意され、喧嘩になることもしばしばあった。

「ちょっとケンジさん、ここは燃えるゴミのゴミ箱では無くてよ? それとも字も読めないのかしら?」

 この気迫、この傲慢さ、そして正義感。僕の背筋をゾクゾクさせるよ。素直に従えばいいものを、ケンジはいつもどおり言い返す。

「うっせーな。回すぞ!」

「お黙り! 速く正しい方に捨てなさい」

 ケンジは舌打ちをして、珍しくゴミを入れ直しその場をあとにした。流石はトミコだ。どんな悪たれも有無を言わさず従わせる。


 オレは苛立っていた。それは連日連夜の出会い系からのメールにでもなければ、馬鹿みたいに長い校長の講話にでもない。

 英語の授業中、前の書き込みに返事があったのかを確認していた。当たり前のように返事はあった。しかし、内容が気に食わなかった。俺のことを負け犬呼ばわりしやがって……

 殺してやる ――トミコを。

 そうだな。殺すなら公開処刑が良い。この机に書き込みをしてくる奴の目の前で殺してやる。どんな顔するかな。泣くかな。それとも怯え、逃げ出すのかな。どちらにしても、楽しそうだ。そうだ。一緒にそいつも殺そう。

 首を閉めて殺そうか。いや、血が出たほうが、派手でいい。ナイフで殺ろう。まず、みぞおちをひと突き。それから喉だな。後は一本ずつ指を切り落としていく。死ぬまでゆっくりと。

 それが終わればオレも死のう。それはもったいないかな。豚箱暮らしもしてみたい。あとは殺ってから考えるか。おっと、書き込むのを忘れてたぜ。『なめんなよ。 七月二日午後五時トミコ殺す。場所はこの教室。これを読んでるお前、絶対こいよ』


 大変なことになってしまった。

 トミコが殺される。そしてそれは今日なのだ。

 新しい書き込みを見た僕は絶句した。はじめは嘘だと思った。殺人なんて正気の人間の考えることじゃない。だが、日時、場所の指定がある辺り本気と見てまず間違いはないだろう。そして、恐らくこいつは僕もまとめて殺す気だ。

 しかし、僕は今ホームルームの教室でのんびり五時までのカウントダウンをしている。なぜ僕ががここまで冷静かと言うと、もう犯人の目星はついているからだ。僕は今までトミコと対立した人間は一人しか見たことがない。それはずばり…… ケンジである。

 ケンジであれば全て辻褄があう。犯人はまず自分とは違うクラスの人間である。ここに書き込むには僕がここにいない間、つまり他のクラスがこの部屋を使う時間に書き込まなければならない。それにこの汚い言葉使い。あとはトミコと対立する唯一の人間ということだ。普通の人ならあそこまで過剰に反応はしない。

 しまった! こんなバカな推理をしているうちにあと五分しかなくなっている。早くあの教室へいかないと、トミコが殺されてしまう。ひいては僕がいい感じに助けて白馬の王子様的なポジションを得る機会を逃してしまう。そう思って急いで教室を出た。


 寝過ごした! ついうっかり教室で寝過ごしかけてしまった。

 今は四時五十五分。かなりギリギリだ。警戒されないように腰のベルトの裏にナイフを差す。人を殺すのにこんなに真剣になっている自分に嫌気がさした。だがもう後戻りはできない。ナイフを持っているところを人に見られたら計画は失敗に終わる。オレはひたすらあの教室まで走るしかないのだ。


 僕の右手はドアに触れていた。あとは腕に力を入れれば、それでドアは開く。中に死体があったらどうしようか。今まさにケンジが待ち構えているのではないだろうか。そう思いながらドアをひく。

 トミコがいた。もちろん生きている。よかった。間に合った。ドアを閉め、トミコに歩み寄る。

「ナリタくん、どうしたの?」

 君を助けに来たんだよ。そう言おうと思ったときふいに後のドアが開いた。

「おい! ナリタ!」

 教員の声がきこえる。もちろん無視してトミコに近づき続ける。僕が守るんだ。トミコを。

「おい! ナリタケン! そのナイフで何をするつもりだ!」

 ケンとケンジが別人で、ケンは二重人格の設定です。

 お分かりになったでしょうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 発想は面白かったです。 [気になる点] 下品です。 [一言] 結果ミナコチャンは どうなるんですか?
2011/06/06 23:33 ソフトクリームをうまく作る1、5階のおばちゃん
[良い点] オチがいいですね。なるほど! と思いました。 面白かったです。 [気になる点] 確かに、ちょっと下品な表現がありましたね。でも、物語として考えると、仕方がないとも思います。難しいところです…
2011/06/04 18:24 退会済み
管理
[一言] 凄く続きが気になります。 よかったら、続き書いてください。 緊張することが多かったけど、ケンジの抜けてるところとかあって面白かったです。
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