気まぐれ企画 異世界移転組に、チョコを差し入れした結果……
気まぐれ企画です。
今回は、バレンタインデーが近いので、チョコを差し入れました。
……旦那が、何か企んでいたのは、知っていた。
だから、二月十四日以降三日間、実父の方に差し入れをする役を、受け入れていたのだ。
本日、久しぶりにもう片方の異世界転移組の方に向かったセイは、朝だと言うのに焦燥した男女に迎えられた。
「……どこか、具合でも悪いですか?」
珍しいという気持ちで、小柄な男の方に訊いてみたのだが、妙に胡乱な目に見返された。
「?」
「……この間の差し入れのチョコ、誰が作った?」
「あなたの、娘さんですけど」
その答えを聞いた、ミヅキの横に座る女が、小さく声を上げたが、困惑が顔に張り付いていた。
「あの子、お菓子なんか作れたんですか?」
「お菓子と言っても……板チョコを溶かして、型に流し込んだだけ、ですから」
「あ、なる、ほど」
黙り込んでしまった二人に首を傾げながら、セイは少しだけ情報を付け足した。
「あなた方に差し入れるとは言っていないので、追放になったコトホギさんに持っていくという事にして、大目に作ってもらったんですが……何か、問題がありましたか?」
「いや」
珍しく、ミヅキの言葉が少ない。
不思議に思いつつ、男の娘であるミヤビの、調理風景を思い出していた。
バレンタインデーのチョコづくりなので、旦那を巻き込むわけにもいかないと、ミヤビはセイと共に、真剣に調理場に立った。
材料は、板チョコという、シンプルなものだ。
砂糖と間違えて、塩を入れてしまったとか、クリームや牛乳の代わりに、別な調味料を入れてしまったとか、そんなハプニングはなかったと、言い切れた。
溶かした板チョコを、星形の型に流しいれた物を、異世界に追放になった母親に差し入れるべく、大量に作っていた。
それを二つに分け、セイの旦那であるレンが、ミヅキたちとコトホギたちに差し入れた、と聞いていたのだが……。
「その、チョコだが……包む前に、何か振りかけなかったか?」
「いえ? そのまま包装しましたが……」
「……そうか、矢張り、あいつの仕業か」
ミヅキが、盛大な溜息を吐いた。
そして、重い口をお開く。
「……あらかた、殲滅は終わったから、コトホギとこいつ、早急に現世に戻せ」
唐突な切り出しに、目を瞬いたセイは、困ったように空を仰ぐつくしと、珍しいほどに硬い表情のミヅキを、交互に見た。
少し考え、頭に浮かんだ疑いを口に出す。
「もしかして、ミヤビが作ったチョコに、媚薬が振りかけられていましたか?」
「……」
あ、当たった。
世にも珍しい動きをするミヅキを見下ろしながら、セイはその予想の延長線上にある、とんでもない事態まで思い当たった。
同時に、レンがこの三日間、この人の方に、自分を近づけなかった理由も、分かった。
十四日当日は、別な理由で近づかせなかったのだろうが、他の日の理由は明らかにこれだ。
完全に騙し討ち的な状況で、薬を盛られてしまったと知ったミヅキが、八つ当たりでいくつもの里を滅ぼし始めてしまったため、大事をとって妻を遠ざけたのだろう。
八つ当たりもあるが、女を早急に、元の世界に戻してやろうという、男なりの優しさも見える行動だ。
セイは、ついつい感慨深い気持ちで、溜息を吐いてしまった。
「そうですか。とうとう、ミヤビたちに、完全に血のつながった兄弟が、出来てしまったんですね。おめでとうございます」
「っ。可笑しいだろう、何でっ。生前はその機能がなくなっていたのに、死んだあと少し肉をつけただけの状態にっ?」
先程から、ミヅキは頭を抱え込んでいた。
そうなのだ。
現状でこれは可笑しい。
だが、身ごもったつくし自身にも男にも分かるほど、心音が強くなっているのだろうと思うと、奇跡を疑うのは野暮だろう。
「私が作り出したのは、今のあなたが覚えている、生前の体ですから。現代の世を生きたあなたではなく、昔の記憶が鮮明だったのならば、有り得る話です」
「有り得る、のですね。ええ、それは、身をもって分かりましたけども……どうしましょう? 私としては、ミヤビさんとサギリ君にもリツさんにも、申し訳ない事態なので、悩んでいるんですけども……」
悩ましいことにコトホギも、同じ状況になっていると、つくしは言った。
「また、同じ時期になってしまいました」
「こんな、医療の行き届いていない場所で、出産させるのは、心配だ。こいつは、初産に近いんだ。殲滅がまだ残っているのなら、いくらでも暴れてやるから、こいつとコトホギは、あちらに戻してくれ」
懇願に近い男の言い分に、セイは無感情に首を振った。
「逆に、安定期まではここにいた方が、いいかもしれません。日にち的に、着床してすぐですから、人だったら、気づかぬうちに流す方もいる時期です」
「……」
「つくしさんは一度、カスミに着床直後の卵子を、抜き取られているんですよね? それが、流産しやすくしてしまっている可能性も、ありますから」
ミヅキが、盛大に舌打ちした。
「あの孫も孫だが、祖父も大概だったのを、忘れていたなっ」
レンの祖父の名を出されて、つくしも少しだけ顔をしかめ、セイの言い分に頷く。
「産み落とせる自信はありませんが、流すのも心配です。ただ、ミヅキと一緒にいては、お腹の子にも……」
「ああ、それは、心配ないです。もう、終わりました」
殺伐とした作業をする男の傍にい続ける不安を口にする女に、セイはあっさりと告げた。
これを伝えて現世に送り届けるつもりで、今回はこちらにやってきたのだ。
そう言うと、女は驚きつつも頷いた。
ミヅキは優しい顔立ちを険しくしたまま、問う。
「あの旦那は、もう帰るのか?」
「はい。あ、そうだ。昨日までの記録で、あなたと小父さんの、里及び村のせん滅数が、並びました」
「……」
嬉しくない、というより、それどころではないと思っていそうだが、取りあえず結果は報告しておいた。
予定を変更し、父親の方に向かったセイは、一度父親とレンを連れて元の世界に戻って、再び差し入れと共にミヅキたちの元へと向かった。
その時には、レンの片割れの方を同行させたが、それは妊娠を確認させるためだ。
「……成程、諸悪の二組に、嫌がらせしたんだね、レンは」
事情を聞いてつくしとコトホギを診たトキが、驚きもせず頷いた。
「……理由は? 分かりますか?」
そう、セイは不思議に思っていた。
何故、先の転移騒動には巻き込まれなかったレンが、諸悪の二組に嫌がらせをもくろむほど、怒ってしまったのか。
「え? 分からないの? セイちゃんを泣かせた元凶たちを、ちょっと困らせたいって、悪い顔で言ってたよ?」
「……」
聞かなきゃよかった、そう思った。
最愛の旦那は時に、忘れたい思い出を、いつまでも持ち続ける生き物だった。
何というか、異世界の皆さんが今後、平穏に暮らしていければ、いいですね。
殲滅は終わりましたが、諸事情で暫く男女が居残りすることになりました。
戻る時期は、未定であります。




