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軽薄公爵のお気に入り  作者: 宝月 蓮


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6/12

薬学サロンにて

(一応ルーヴェン公爵閣下へのハンカチのお礼や色々なお詫びも兼ねて小物入れに刺繍をしたけれど……)

 ある日の昼下がり。

 ゼーラント伯爵家の王都の屋敷(タウンハウス)の自室にて、ソファに座っているイリスは白い無地のハンカチとハーブの刺繍が入った無地の小物入れを凝視している。

(……中々ルーヴェン公爵閣下とお会いする機会はないのよね)

 イリスは軽くため息をついた。


 ヤンにお礼とお詫びの品を贈ろうと決めたイリスだが、夜会、晩餐会、サロン、お茶会等でヤンと会う機会がなかった。

 姉のリンデにもヤンのことは秘密にしているので、ヤンに会おうとしても誰にも相談出来ない状況である。

 一応いつでもヤンに渡せるように、イリスはハンカチと小物入れは常に大切に持ち歩いていた。

(とりあえず、今日のサロンにも持って行きましょう)

 イリスはスッとソファから立ち上がり、ハンカチと小物入れを丁寧に包むのであった。


(それにしても、今日のヘーケレン侯爵家主催のサロンは楽しみだわ。薬学サロンなのだもの!)

 薬草や薬学に興味があるイリスはワクワクと心躍らせていた。

 アメジストの目もいつもよりキラキラと輝いている。

 イリスはルンルンと鼻歌を歌いながらヘーケレン侯爵家主催のサロンへ向かう準備をしていた。


 その時、イリスの部屋の扉がノックされる。

 リンデである。

「まあ、リンデお姉様」

 リンデが部屋に入って来たので、イリスはニコリ笑う。

「イリス、今日は一人でへーケレン侯爵家のサロンでしょ」

「はい。薬学サロン、とても楽しみにしておりました」

 イリスはワクワクとした様子を隠さず、表情も明るい。

 そんなイリスに、リンデはクスッと優しく笑う。

「そうね。イリスは薬学が好きだものね。だけど、心配だわ」

 そう言ってリンデは眉を八の字にした。

「マナーなどは気を付けます。ゼーラント伯爵家の恥にならないように」

 イリスは気を引き締めた。


 今までの夜会や晩餐会やサロンなどの社交界行事は姉のリンデや両親達と参加していた。

 しかし今回はイリス一人での参加なのだ。


(何かあれば、お父様やお母様、それからこの先ゼーラント伯爵家を継ぐリンデお姉様に迷惑がかかるものね)

 浮かれたせいでへーケレン侯爵家の者達やサロンの参加者に何か失礼なことをすれば、両親や姉への評判にも響いてしまう。自分のせいで両親や姉が悪く言われるのだけは絶対に避けたいと思うイリスであった。

 しかしリンデは眉を八の字にしたまま柔らかい表情で首を横に振る。

「そうではないの。イリスのマナーは問題ないし、へーケレン侯爵家の方々やサロンの参加者に絶対に失礼なことはしないでしょう。それよりも、イリスが変な相手に絡まれないかが心配なのよ」

 リンデは憂いを帯びた表情でため息をついた。

 そのアメジストの目からは、心の底からイリスを案じてくれていることが感じられる。

「お姉様……」

 イリスはリンデが自分のことを心配してくれていることに、嬉しく思と同時に申し訳なくも思っていた。

「もしもイリスが変な奴に絡まれたらと思と、心配でいても立ってもいられないわ。今日は私が守ることも出来ないし……」

 すると、イリスはリンデの手をそっと握る。

「お姉様、私のことを考えてくれてありがとうございます。でも、大丈夫です。私も社交界で何かあった場合、一人で対応出来るようになりたいので」

 いつまでもリンデに守ってもらえるわけではない。イリスは自分一人でも社交界でやっていけるようになりたいと思うのであった。

 イリスはリンデを安心させるようにふわりと微笑んだ。

「イリス……」

 リンデは少しだけ表情を和らげる。

「そうね。でも、もし今日のサロンで変な奴に絡まれたり、嫌なことを言われたりしたら、きちんと私に報告してちょうだい。イリスに嫌な思いをさせる奴らはこの私が懲らしめてあげるわ」

 頼もしく強い笑みのリンデ。

 イリスはそんなリンデに思わずクスッと笑った。

「ありがとうございます、リンデお姉様」






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 イリスは少し緊張しながら薬学サロンが開催されるへーケレン侯爵家の王都の屋敷(タウンハウス)にやって来た。

(わあ……! 珍しいハーブまであるわ……!)

 緊張で少し硬い表情ではあるが、珍しいハーブを前にしてイリスのアメジストの目は輝いていた。

「まあ、イリス様はこれらのハーブにご興味がおありで?」

 サロン参加者にそう声をかけられ、イリスは「はい」と頷いた。

「実際に薬用ハーブなどを煎じて薬も作ってみたいところです」

「そう。私もよ。ハーブや薬草は奥が深いわよね」

 イリスは同じサロン参加者と会話したことで、少しだけ緊張が解れていた。

 表情も先程まではやや硬かったが、今は柔らかく自然な表情だ。肩の力も程良く抜けている。

(私、お姉様がいなくても、一人でやっていけているかしら?)

 ほんの少しだけ自信を持つイリスである。

(いえ、ここで少し出来るからといって調子に乗ると何か予期しないトラブルがあるかもしれないわ。お父様、お母様、お姉様には迷惑をかけないようにしないと)

 イリスは改めて気を引き締めるのであった。


 その後イリスは薬学サロンを主催しているへーケレン侯爵家の者達やサロン参加者と談笑したり議論をし、有意義な時間を過ごしていた。

 その時、サロンに遅れてやって来た者がいた。

「遅れて申し訳ありません。領地でトラブルがあったと連絡を受けていまして」

(あ……!)

 イリスはその人物を見た瞬間、アメジストの目を大きく見開いた。

 サロンに遅れてやって来た者は、ヤンだったのだ。

(まさかルーヴェン公爵閣下がこのサロンに参加なさるなんて……!)

 ここでヤンと会うとは全く思っていなかったイリスである。


「まあ、領地で。大変でしたわね」

 へーケレン侯爵夫人は眉を八の字にして微笑んでいる。

「何とか領地まで戻らず対応出来る案件ではありましたが」

 ヤンはフッと苦笑していた。

 周囲からの噂通り、軽薄そうな雰囲気を醸し出している。

「まあ、そうでしたの。ルーヴェン公爵閣下もお座りになられたらどうです?」

「ええ、ありがとうございます」

 ヤンはへーケレン侯爵夫人に言われ、用意された席に座るのであった。

 その時、イリスはヤンと目が合った。

 するとヤンは一瞬エメラルドの目を見開くも、すぐにニッとイリスに微笑みかけた。

(目が合ったわ……)

 イリスは少しぎこちない笑みをヤンに向けることしか出来なかった。

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