職権乱用
僕は一人の少女に会いに来た。
病室のベッドの上で悲痛な表情。
大いに結構。
どうせ、助かる見込みのない病気なのだ。
好きに過ごしたらいい。
だけど。
「あの最後の葉っぱが落ちたなら私は――」
未だに居るんだな。
こういうやつ。
それが最初の感想だった。
窓から見える枯れ木にくっついた一枚の葉っぱ。
風に揺られて今にも落ちそうだ。
「アニメ。漫画。ドラマ。ゲーム。小説……まぁ、何でもいいや。どっちにしろ、人生ってのはそんなに面白く出来てねえって」
僕はそう言って少女の隣に座る。
「いいか。お前はあの葉っぱが落ちようが落ちまいが死ぬんだよ。予定通りに」
少女はじっと葉っぱを見つめたままだ。
「考えてもみろよ。あの葉っぱの行末でお前の人生が決まるんなら葉っぱに接着剤でもつけてやりゃいい。だけど、お前はそれをしない。誰も聞いてくれないって分かっているから。それに。本当にやってくれたところで何の意味もないって分かっているんだろう?」
こちらを一瞥もしない。
文字通り、独り言だ。
「どうせならさ。楽しいことや嬉しいことを求めて生きりゃ良かったのに」
そう呟いた。
腕時計をちらりと見る。
あと一分か。
「まったく」
僕は自分という存在が嫌いだった。
こんなことをしなければならないという役目も嫌いだった。
だけど、一つだけ良かったなと思うことがある。
指を鳴らす。
「えっ?」
一分を切った寿命の少女の顔が間抜けなものになる。
人間は心底驚いた時、本当に馬鹿面を晒す。
「なんで?」
枯れ木が満開の花を咲かす光景。
なんで?
まだ冬だ。
ありえない。
そもそも先ほどまで枯れ木だったはず。
そんな当たり前の思考さえも一つ一つ確認をしてしまう。
そんな不意打ちの中で僕は聞こえないと知りながら少女に種明かしをする。
「生と死を司る神様だ。これくらい出来るさ。職権乱用気味だけどね」
驚愕が動揺へ変わり、やがて歓喜へ繋がる。
歓喜の先にあるのは冷静な思考だ。
だけど、幸いなことに彼女の命は歓喜で止まる。
「次の人生では幸せになりな」
そう言って僕は季節外れの光景にはしゃぐ少女を眺めた。




