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赤龍亭と天井桟敷の人々  作者: now here man


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8/19

中年狩人、不慣れな尾行を開始する。

俺は、自分の部屋のベッドで目を覚ました。窓の隙間から日の光が差し込んでいる。大体10時くらいであろうか。

家具はベッドと粗末なテーブル。着替えの類は大きめの旅行鞄に詰め込めるだけ。

以前は冒険者達で賑わっていた宿屋の2階の部屋を間借りさせてもらっている。現在は週払いの下宿になっている。

この部屋に住むようになって10年ほど経つが、基本的には山で狩りをしているため、たまに寝に帰るだけの部屋だ。

軋む窓を開けて、通りを見下す。

いつも通りの活気のある光景。様々な人々が行き交っている。商売熱心な商人達と女性や子供達の声や笑い声が聞こえてくる。すっかり平和な光景だ。

魔王が討伐された後、変わった事といえば、ヒューマン以外をほとんど見かけなったことくらいか。エルフ・ドワーフ・ハーフリングなどヒューマンと近しい種族こそ街中でたまに見かけるが、それ以外の種族はそれぞれの国へ帰っていき、滅多に見かけることはない。


さて、今日の予定だがマスターからの頼まれごとをどうやって片付けようか。

いやその前に、まず腹ごしらえだ。階下の定食屋で何か食べよう。身支度を整え階段を降りる。

「まだ何か食べるものある?」

この下宿兼定食屋、止まり木亭の店主は40代くらいの赤髪の恰幅の良い女性だ。確か子供が二人ほどいたはずだ。亭主は昼間、街ハズレの鍛冶屋で働いているらしい。

「昼の仕込み中だから大したものはないけど、パンと残り物のシチューでいいかい?」

「充分だ。」

俺は、勝手知ったる止まり木亭のカウンターで水差しからコップへ水を注ぎ、いつもの椅子に腰掛けて料理が出来上がるのを待つ。

赤龍亭のマスターの娘は、昼頃には市場へ出て細々とした食材の買い出しを行い、そのまま酒場へ出勤。店が閉まる頃まで店にいて、その後は真っ直ぐ家に帰る規則正しい生活をしているとの事だ。

まずは、市場でマスターの娘の様子を見ながら聞き込みでもしてみるか。

腹ごしらえを済ませて、止まり木亭を後にする。


街はすっかり秋めいて来て、肌寒さを感じる。上着のボタンを留め、足早に通りを横切る。

宿の通りから二つ通りを横切ると、一段と大きな通りにあるのが目的の市場だ。市場の中でも一際賑わっている八百屋が彼女の行きつけの八百屋だそうだ。

人混みを通り抜け、目的の八百屋を目指す。


この通りの店の中でも、特に大きな木造の店が目的の八百屋だ。今年の秋は豊作で、八百屋の軒先には葡萄や梨に林檎や栗など秋の果物や、さつまいもにかぼちゃやキノコ類などが山積みになっている。この店の店主はハーフリングでまだ子供に見えるが、ハーフリングとしては壮年で、商売熱心で一代でここまで店を大きくしたとの事だ。

「おすすめは何だい?」

「おすすめは林檎だな。今年はなかなか出来が良いよ。」

俺は林檎をいくつか見繕ってもらい、店主が袋に詰めている間に話しかける。

「赤龍亭のルーシーって知ってる?」

「ああ、うちのお得意さんだね。ほとんど毎日来てくれてるよ。」

「最近何か変わったことはあるかい?」

「いや、いつも通りさ。大体今くらいの時間にやって来て、しっかりといいものを選んで買ってくれるよ。毎回値切られるけどね。何かあったのかい?」

「いや。林檎ありがとよ。」

店主に代金を支払い、林檎を受け取る。

林檎の袋を抱えたまま、近くの店を眺めるともなく眺めながらゆっくりと歩く。ルーシーが来るまでは、しばらくここら辺で時間を潰すか。


近くのアクセサリー店を冷やかしていると、雑踏の中からルーシーが現れる。いつもの質素な布の服に赤いストールを肩にかけている。すでに何店か見て来たようで、小さな包みを小脇に抱えている。件の八百屋で熱心に野菜や果物を見て回っている。

しばらくして、大きな包みを持った彼女が店から出てくるのを確認して、俺は見失わない程度に距離を取り後を尾け始めた。


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