エルフの店主と謎の少年。
魔法具店の店主と少年の出会い。
「この店で1番強い酒を持って来い!」
「今飲んでるのが1番強い酒だよ。」
「い〜から、持ってこい!」
「そんな強い酒を飲めるのは、お貴族様だけだよ。こんな場末の安酒場に置いてあるわけないだろ!」
「全く、つまらん酒場だ。」
「ため息なんかつきやがって。こっちがため息をつきたいよ。」
「なんでじゃ?」
「ちょっと前に、突然ふらっとドレスを着た綺麗なお人形みたいな女の子が迷い込んできたかと思ったら、酒ヤクザのロリババァだったなんてな!」
「誰がロリババァだ!エルフ族で100歳はまだ美少女だ!」
「初めはフードで見えなかったけど、しっかりエルフの耳してやがる。俺はあの時エルフなんて初めて会ったよ。全く夢を壊さないでほしいね。」
「お主はエルフにどんな幻想を抱いとるんじゃ。」
「しかもその喋り。」
「うるさい、おばあちゃん子のゴシックロリータ好きのエルフに文句あるんか!」
「いやー、もうどうでもいいわ。」
「ところで、今日わしの店に妙なヤツが来てな。」
ヒゲのマスターは、金髪のまだ10代の女の子にしか見えないエルフのグラスに葡萄酒を並々と注いだ。
あれは、昼過ぎごろだ。軽めのランチを食べながら、カウンターで先日手に入れたばかりの魔法書を読んでいた時だった。
珍しく、店のドアが開く。
「何か面白いものはありますか?」
フードを目深に被った10代半ばの少年が問いかけた。
「ここは魔法の道具を扱っているからな。君が見たこともないような珍しいものが沢山あるぞ。」
実際、街の市場や普通の道具屋では扱っていないモノばかりだ。
ゼンマイ式の置き時計や自動着火式のランプ。常に北を指し示すコンパスに貴重なガラスのレンズを使った望遠鏡などの骨董品。これらが埃くさい店内に所狭しと、乱雑に置かれている。
そういえば、最後に掃除をしたのはいつだったか…。
「珍しいものが沢山あるけど、値段がかいていないよ?」
「全部時価じゃ。気になるものがあったら言ってくれ。」
よく商売っ気がないと言われるが、元々冒険者だった店主がこの店を譲り受けた、いや押し付けられたのは20年ほど前。親戚のおばさんが長年営んでいたこの魔法の道具屋をやめることになり、ちょうど冒険者引退を考えていた彼女にお鉢が回ってきたという寸法だ。
それからずっと、店主は生まれ故郷を離れてこの城下町の片隅にあるこの店を営んでいる。
正直、冒険者の頃にたんまり溜め込んだダンジョンのお宝やギルドの討伐報酬などでひと財産を築いた彼女は、暇つぶしでこの店を開けているようなもので、店が空いているか閉まっているかは運次第である。
「見たところ魔法の道具なんて置いてないみたいだけど、ただの珍しいモノ屋さんなの?」
鋭い少年からの問い。
実は、この店には看板通りの魔法の道具は店頭には並べていない。実際魔法の品はかなり希少で、あまり出回っていない。あったとしてもかなりの値がつき、一般人が買えるような値段ではない。
「良くわかったの。本当の魔法の道具はお店には並べていないし、普通の人が買えるような値段じゃないんだよ。」
店主はぬるくなったハーブティーを一口飲み、続ける。
「たとえば、火の魔法を使える魔法使いなんて千人に一人くらいじゃろ。大きな爆発を起こしたかったら、火薬を使った方が早いし、誰でもできるし効果は同じじゃ。一見、魔法のような不思議な事を起こす方法はいくらでもある。だったら無駄に高い金を払わずに目的にあった道具を買った方が良いじゃろ。」
「おかしいな。確かにこの店から魔力を感じたんだけど。」
どうやらこの少年は本気で言っているらしい。
「君は世界でも稀な、千人に一人の魔法を使える珍しい人なのかい?」
「いや。魔法なんて使えないよ。」
魔法は空気中に漂うマナと呼ばれる不思議な力を使うための手段だ。マナを感じることができるのであれば、相応の修練を積むことで、魔法を使うことができる。まだ、魔王がいた頃は魔法使いを目指す者も多く、王国の魔法学院生が街の中を闊歩していたが、今では魔法使いを目指す者も少なくなった。
「君は、こんなところで何をしてるんだい?この店に客が来るなんて久しぶりだよ。」
「人を探してるんだ。ずっと南の方から来た。」
「よし。暇じゃし、たまには占いでもしてみるか。」
店主は、カウンターの下の引き出しをゴソゴソと漁り小さな箱から小さな水晶を取り出す。
「お主、名前は?生まれた日も教えてくれ。」
「名前はヨシュア。ヨシュア・クリストス。生まれた日は覚えてないんだ。僕は1年以上前の記憶がない。記憶喪失なんだ。」
「そうか。悪いことを聞いたな。」
店主は気を取り直して、水晶に向かってブツブツと何やら唱え始める。
「お主の言うとおり1年ほど前に、何か大きな出来事があったようじゃな。その前のことは水晶でもみることができない。」
一つ息を吸い込んで店主は続ける。
「過去のことを見れないなんて初めてじゃ。自信をなくすのう。」
店主は少年の目を見ながら話を続ける。
「お主に向いている仕事は、羊飼いじゃな。今、仕事を探しているなら知り合いを紹介してあげることもできるぞ。」
「そんなことより、探してる人がいるんだ。その人がどこにいるかを探すことは出来る?」
「ちょっと待っとれ。どれどれ・・・。お主が探している人物は女じゃな。しかもエルフ。火のようなものに包まれておる。これがイメージじゃな。ちゃんと生きておるし、なんならこの近くにいるみたいじゃぞ。」
「どこにいるの?」
「その前に、何でそのエルフを探しているんじゃ?」
「夢で見たんだ。夢の中で光に包まれた人が現れて、爆炎の魔法使いを探すように言われたんだ。」
「そうか。この街に居ればいつか会えるかもしれんな。」
「だったら、羊飼いの仕事を紹介してもらえるかな。この町でその人を探してみようと思う。」
「わかった。ちょっと待っておれ。」
店主は乱雑なカウンターの上を掻き分け、便箋とペンを見つけ出し、筆を走らせる。
「これをもって街の東側にあるギルドに行くが良い。羊飼いの仕事を紹介するように、ギルドマスター宛に紹介状を書いた。」
「ありがとう。」
少年は紹介状を受け取り、革の鞄に仕舞い込む。
「ヨシュアと言ったか、たまにはこの店に顔を出すんじゃぞ。探し人が見つかったかどうかは教えてくれ。」
「わかった。占いしてくれてありがとう。」
「どうせ大した金も持ってなかろう。何か買っていけとは言わんが、次来た時には酒の一つでももってきてくれていいんじゃぞ。」
「ありがとう、この店が開いていない時はどうしたらいい?」
「その時は大抵、赤竜の翼亭におるからそっちを覗いてみてくれ。この店と同じ通りにあるからすぐわかる。」
「わかった。」
少年はニコリと微笑み、店を後にした。
店主はその姿を見送る。
「マスターよ、今日知り合ったヨシュアという少年が、わしを訪ねてこの店に来ることがあるかもしれん。わしがおらんかったらその時はよろしくな。」
「わかった。」
オーダーが入ったようで、マスターは厨房に姿を消す。
「さて困ったの。あの少年、わしを探しに来たようじゃがちーっとも心当たりがないのぉ」
店主は、グラスに残った葡萄酒を飲み干しカウンターの上に小銭を放り投げた。
続く。




