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赤龍亭と天井桟敷の人々  作者: now here man


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4/19

中年狩人、ドラゴンと遭遇し命の危険を感じる。

気が付けば、太陽は中天を過ぎている、午後3時ころであろうか。固まった体を少しづつ伸ばしていく。さすがに3日目、体も少し疲れてきていることを実感する。年は取りたくないものだ。


川辺で水浴びをしていた小鳥が一斉に飛び立つ。しばらく間をおいて、ヘラジカが現れる。

まずはこの群れのリーダーである大きな角の雄のヘラジカ。今回のターゲットである。周囲の様子を確認して異常がないことを確認しているようだ。ひとしきり周囲を確認したリーダーは後ろを振り返り短い声を出す。群れの3頭の雌もゆっくりと姿を現した。ヘラジカの群れはそれぞれ思い思いに水を飲んだり、川の周辺の草・背の低い木の葉などを食べ始める。


さて、ここからが勝負だ。このタイミングを逃せば、次のタイミングは明日の朝になってしまう。大きく息を吸い込み、ボウガンの狙いを定める。幸い無風である。小さな鋼鉄の飛翔体で的を狙うにしても長距離の射撃であればそれなりに、風・重力の影響を受ける。

狙撃はしっかりと両目で狙いをつける、ボウガンがぶれないようにすること、そして風と重力の影響を考慮して的を狙うことが必要だ。俺が大型のボウガンを相棒にしているのは、バイポッドを使って本体を地面に固定できるため、かなり高めの弓力でもブレを最小限に抑えられること。そして、通常の矢を使わないため、発射後の矢のブレがないこと。弱点はリカーブボウのため、発射時に音が大きいことくらいか。


ターゲットのヘラジカのリーダーに狙いを合わせる。一発撃ったら逃げられてしまう可能性が高いため、一撃必殺。肩甲骨の中心あたりの脊椎を狙う。行動不能になったところで、とどめを刺す。もちろん1トン以上の巨体なのでそれなりに危険を伴うのだが。


呼吸のリズムを一定にし、ターゲットを注視する。ターゲットがこちらに背を向けて、水を飲み始める。

水を飲み終わって頭を上げるところがチャンスだ。全神経を引き金に添えた指に集中し、その瞬間を待つ。

今だ!引き金を引く。ボウガンの弓が高い音を発する。鋼鉄の飛翔体がターゲットの急所を貫く。

ヘラジカはその巨体で地面を揺らす。倒れたヘラジカは四肢を痙攣させ、首を起こそうともがいている。何が起こったか理解できずにいるようだ。しかし群れの仲間たちは、危険を察知し、一斉に走り出し木立の中へと走り去る。


狙撃した獲物をそのままにしておくのは非人道的だ。愛用のマシェットナイフを持ち、はじめは小走りに、そして崖を滑り下り、倒れたヘラジカへ向かう。木の枝が顔を打つがそんなことを気にしている場合ではない。

息を切らしながら駆けつけた時、ヘラジカはすでに息絶えていた。あまり苦しませることがなかったようで良かった。


このままではこの巨体を運べないので、この場で解体することにする。まずは血抜きからだがさて、どうしようか。頭の中でざっくり手順を考えていると、大きな影が太陽をさえぎる。


頭上を見上げると、そこには見慣れないもの。

もの凄いスピードで下降してくるのは、初めて見るドラゴン。


思わず走り出す。降りてくるドラゴンの翼が起こす風圧を全身に感じる。振り返る余裕はない。少しでもドラゴンから離れようとがむしゃらに走る。


地面が揺れる衝撃を感じる。足が宙を蹴る。思わずバランスを崩し俺は倒れこむ。


体を起こしながら、振り返る。


地面を揺らしヘラジカのところに着地したドラゴンと目が合う。

全長10メートルほどの圧倒的重量感の巨体は緑青の鱗を全身にまとった、グリーンドラゴン。視線を合わせてとたんに伝わってくる、明確な殺意と人間をも上回るであろう知性。まともにやりあって敵う相手とは到底思えない。


ドラゴンは大きく息を吸い込み、こちらに向かって威嚇するように咆哮を上げる。腹の底から震え上がるほどの咆哮。山全体を揺らすほどだ。


視線をそらさないように倒れたままの体を引きずりながら、後ずさりをする。


ドラゴンがこちらに体を向ける。

人間風情に獲物を渡すつもりは一切ないようだ。


当然逃げの一手だ。

人生で一番早かったであろう速度で起き上がった俺は、脱兎のごとく駆け出す。

背後から迫ってくる地面を揺らすようなドラゴンの地を蹴る音。


息を切らして走る俺に徐々に近づいてくる。

このままでは追い付かれる!


『川に飛び込んで』

先程の少年の声が聞こえた。いや、声が聞こえた気がした。


俺は、走りながら周りを確認した。前方右側に大きな岩が見える。確かその辺りで川幅が狭くなり、川の流れが早くなっていたはずだ。ここで川に飛び込めば、川の流れに乗って一気にドラゴンとの距離を取れるはずだが、溺れる危険も高い。


迷っている暇はない。一か八かで、走っている勢いのまま川へ飛び込む。


やはりというか、かなりの水勢に押し流される。

顔に大量の水を浴び、体も上手く浮いたままの状態を保つことができない。このままでは溺れる。いや、この勢いでは岩に叩きつけられてしまう。

確かこの先で川は大きくカーブを描いていたはずだ。カーブを描いている場所では外側の流れの方が流れが勢いよくなっているはずだ。その分、川底も削られて深くなっている。

そして「水底では勢いが弱まりながらカーブの内側へ向けての流れが発生している」と聞いたことがある。実際に自分で試すことになるなんて思いもしなかった。


俺はなんとか水面に顔を出し、思い切り息を吸い込む。覚悟を決めて、潜る。


そのまま息が続く限りギリギリまで、川底近くを潜水のまま泳ぐ。


限界まで泳いだ後、川底を蹴り一気に水面まで浮上。思い切り空気を吸い込む。


追いかけてきたドラゴンの方を振り返ると、もはやこちらには興味を失ったようだ。

奴はヘラジカの上にかがみこんで、無心に喰っている。骨を噛み砕く音がここまで聞こえてきそうだ。

「畜生!豪勢な飯にありつきやがって!」

俺は、ボヤキながら一人笑う。


「その後しばらくを川を下って、流れが穏やかなところで岸に上がり着の身着のまま逃げてきたってところだよ。」

言いながら、俺はマスターが注いでくれた葡萄酒の残りを一気に飲み干した。

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