星は目を背けている。
赤龍亭は、いつも通りだった。
夕刻を過ぎ、店内には煮込みの匂いが満ちている。
店内には俺とカティとヨシュアの3人だけ。仕事帰りの客が来るにはまだ早い時間だ。
ジョニーは、入口に近い席に腰を下ろしている。
向かいにはヨシュア。
少し背伸びをして椅子に座っている。
カティは、二人から少し離れた席。
葡萄酒を一杯、静かに飲んでいる。
昨日の夜の話は、最初から出なかった。
しばらくして、ヨシュアが口を開く。
「……あの人、捕まえなかったね。」
ジョニーは答えない。
鍋の音を聞いている。
「また、やるかもしれないのに。」
それも、事実だ。
だが、誰も否定しない。
カティが、葡萄酒を置く音だけが響く。
「それでも、終わった、…じゃろ。」
淡々とした声だった。
「終わった、ということにした。」
ジョニーは葡萄酒を一口飲む。
ヨシュアが眉をひそめる。
「それって……。」
「それ以上でも、それ以下でもない。」
マスターが、鍋の火を少しだけ弱める。
「ここは、結果を並べる場所じゃない。」
初めて、マスターが言葉を発した。
「ここは腹が減った者が来て、食って、帰る。それだけだ。」
ジョニーは、皿に視線を落とす。
昨日、路地で殴った感触を思い出していた。
正義かどうかは、どうでもよかった。
ただ、殴った。
それだけだ。
「罰は?」
ヨシュアが、食い下がる。
マスターは、肩をすくめる。
「与えなかったんですか?」
「俺は与える立場じゃない。」
沈黙が流れる。
外で何があったとしても、ここでは無関係だ。
戸が開き、別の客が入ってくる。
夜の空気が一瞬、店内に流れ込む。
しばらくして、俺たちは店を出る。
空の星は消えていた。
俺たちは、それぞれの帰路へ歩き出した。




