深夜の追跡
俺は自分が置かれた状況を把握しようと、痛みを堪えて周囲を観察する。先程の路上だ。
対峙していた男と別の男の後頭部への一撃で気を失った俺をそのまま放置して、早々に退散したらしい。
焦る気持ちを抑えて状況の把握を行う。
あれからどれくらい時間が経ったんだ?
月の位置から見て、それほど長く気を失っていたわけではないらしい。
夜霧とともに俺の頭にかかっていた霧も晴れたきたようだ。偉いぞ俺。ちゃんと冷静に状況の把握ができている。
体の方はといえば、後頭部には鋭い痛み。その他、全身もれなく痛いのだが。
気を失った後に追い討ち攻撃しやがったな畜生!
幸い骨折はしていないようだ、痛いが体は動く。あたりに襲撃者の痕跡がないかと視線を走らせる。
夜露に濡れた土の上には、馬車の轍に紛れてまだ新しい足跡。どうやら追跡はできそうだ。
気がつけば、気温もだいぶ下がってきている。冷え切った空気が肌を刺す。
悲鳴を上げる体に鞭を打ち、無理矢理立ち上がる。呻き声を必死に抑え、呼吸を整える。
「狩の仕方を教えてやる。」
一人呟き、俺は闇夜に紛れて追跡を開始した。
足跡は二人分、一人は若くて大柄で健康な男。もう一人は小柄で年嵩の男。歩幅と足跡の強弱である程度判断できる。
はやる気持ちを抑えながら、残された痕跡を辿る。
足跡は路地を曲がったところで、急に足跡が一人分になった。
「どういうことだ?」
困惑しながら一人呟く。
改めて足跡を見直してみると若い男の足跡の中に年嵩の男の足跡の跡が重なっている。
追跡を警戒して、足跡の欺瞞を行っている。一筋縄では行かない相手のようだ。
闇夜に紛れて、スパイシーさを含んだ甘い香りを嗅いだ気がした。全身を包む緊張感。
犯人との距離はかなり近い。
赤龍亭の屋根の上に、月明かりを背中に受ける影が一つ。
「あやつ、獲物を見つけた猟犬みたいな顔しやがって。」
カティはフードの中で不敵な笑みを浮かべ、闇夜に姿を消す。
月明かりに照らされた足跡はそのまま裏路地へと続く。周囲へ最大限の注意を払い、ゆっくりと路地を曲がった。




