花束を持った男
小春日和とでも言うのだろうか?冬も終わりに近づき、柔らかい日差しと、まだ少し冷たいが心地よい風が吹き抜ける。
こんな陽気の日に部屋で一人でくさっているのも勿体ないと思い、取り立てて用もないのに大通りを散策している。
少し肌寒いので、上着とコートにマフラーはもちろん身につけている。大通りの人々もまだ冬の装いだが、気のせいか表情も明るい。
いつもの八百屋に精肉店、冷やかしで寄った土産物屋に流行りの服を扱う仕立て屋など、いつもと変わらない街の風景。
少し先の方から人々の笑い声と拍手が聞こえてくる。何事かと人混みを掻き分け進む。人混みの先には男がいる。花束を抱え、陽気な歌を歌い、踊りながら花を子供や女性に配っている。
浅黒い肌に引き締まった長身。派手な赤いゆったりとしたスーツ、シワひとつない白いシャツに花柄のモチーフの派手な赤いネクタイという出立ち。ピカピカに磨かれた黒い革靴で軽快なステップを刻んでいる。きちんとセットされた黒髪に彫りの深い顔立ちはここらではあまり見かけない、異国の出身のようだ。
何の目的かはわからないが、少なくともこの周りにいる人たちに、笑顔と元気を与えてくれている。
この冬の間は狩にもでず、頼まれた雑用(主にカティ)をこなし、何とか特注のクロスボウを鍛冶屋に頼むことができた。先日、8割方出来上がったから最終調整に来てくれと鍛冶屋の丁稚が伝えに来たので、少しソワソワしながら、鍛冶屋へ向かう。
最終調整で1週間ほどかかるとのことで、鍛冶屋を後にした時はすっかり日が傾いていた。いつものように赤龍亭へと向かうことにする。
赤龍亭はいつもと変わらず、活気のある店内。いつものカウンターの席へと腰を下ろす。
「マスター、今日のおすすめは?」
「ローストしたラム肉があるぞ。そろそろ春野菜が出てきているから、サラダもつけといてやる。」
選択の余地なしである。
最近のマイブームであるエールをちびちびと飲みながら店内を見渡す。商人や日雇い労働者、旅人に以前酔っ払って連れに迷惑をかけていた聖職者などて賑わっているのだが、見知った顔は一つもない。
「お待たせしました。」
ルーシーが湯気の立った料理を運んでくる。ひと段落して店内も落ち着いてきたようで、ルーシーは俺の横の椅子に座る。どうやら惚気話でも聞かされるようだ。
例の彼氏は、仕事終わりには足繁くこの店に通い、休日にマスターに料理を教えてもらったりして、すっかり馴染んでいるようだ。先日はルーシーを置いて男二人で釣りに出掛けてしまい一悶着あったとのこと。上手く行っているようで何よりだ。
「そういえば、昼間大通りで花を配っている男を見かけたよ。」
「最近話題になってるわよ。サプールね。」
なけなしの生活費を切り詰めて貯めたお金で、最高級の一張羅のスーツを仕立て、陽気な歌と踊りで街を練り歩く者達がいるとのことである。
彼らはここアスクレウス王国の北方に位置するアキダリア教皇国からの移民や留学生で、内乱で荒れた国内で平和主義、博愛精神をアピールし「おしゃれで優雅な紳士協会」として知られているそうだ。毎週日曜日のミサの後に街を練り歩くとの事である。そういえば今日は日曜日だった。
長い間大きな三つの国家、アスクレウス王国、北方のアキダリア教皇国と西方のヘラス公国が均衡を保っているため、国家間の民間での交流も盛んである。
留学生や行商人移民などを通じて文化の交流も当然あるのである。
サプールみたいな文化の交流は是非とも盛んになってほしいもんだ。




