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赤龍亭と天井桟敷の人々  作者: now here man


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13/19

中年狩人、大人な対応をする。

「お坊ちゃん、ドレ様は可哀想な方なんです。」

白髪混じりの初老の女性が話を続ける。

「幼い頃から裕福な家庭で何不自由なく育ってきたドレ様が18歳の時に、先代のご主人様を流行病で亡くされ、若くしてマックスウェル家の当主を継がれました。年が離れた妹のシルヴィア様はまだ5歳。誰にも頼ることができず、領地の小作人達の生活を守るために寝食を惜しんで働かれておりました。」

その後なんとか領地の経営が軌道に乗り、貴族の娘との婚姻が決まり、子供も授かり幸せな日々が続くと思われた時。またしても流行病がこの国を襲い、妻とまだ幼かった子供を同時に亡くしたドレは、落馬により足を痛めたこともあり、それ以後必要最小限の世間との関わり以外は全てを絶って屋敷に引き篭もるようになってしまったとのことだ。

シルヴィアはといえば、兄の庇護のもと何不自由なく天真爛漫に育ち、成人した後も心配した兄が持ってきた縁談も断り続け、気ままに羊飼いとしての仕事だけをしていたそうだ。

「最近シルヴィア様が、若い男性を連れてお屋敷を訪れたことがありました。その日を境にドレ様はますます自分の殻に閉じこもるようになってしまったのです。」

初老の女性はハンカチで目元を押さえながら話を終え、俺たちは礼を言い屋敷を後にした。


もと来た道を戻りながら、俺は口を開く

「ドレって奴は、シルヴィアに嫌がらせをする動機はあるな。自分は不幸なのに妹は自由気ままに生き、私生活も幸せそうだ。嫉妬は何かを起こすきっかけにはなる。」

「しかし、具体的に何をどうやったのかはわからないのぅ。」

「もしドレさんが羊を攫ったとしたら、その羊はどこにいるのかな?」

「ドレが持っていた杖は新しいものじゃったな。最近替えたばかりのようじゃったが、もしかしてヨシュアが拾った杖は、ドレの杖かもしれんな。」

「確かに杖にはDMって名前が書いてあるね。」

「あとは羊がいる場所がわかればってところだが。」

俺は3人で調べたら目立ってしまうから、1人で屋敷の周辺を調べてみることにする。カティとヨシュアには今晩の一泊の準備をするために、今朝行商人におろしてもらった場所の近くに戻ってもらうことにする。


先程通った綺麗な道は目立ってしまう為、途中から迂回することにする。

馬車などで踏みならされた道を外れ、草が生い茂った道ではないところを進むのはなかなか骨が折れる。

小一時間ほどかけて屋敷の裏手へ辿り着くことができた。柵で囲われた裏庭から羊達の鳴き声が聞こえてくる。柵の中を覗くと十匹ほどの羊達がいるが、攫われた羊はどうやって見分ければ良いのだろう?特徴など聞いておけばよかったと後悔しながら、柵の周りをウロウロしていると、背後から声をかけられる。

「ジョニーさん、何でこんなところでコソ泥みたいなことしてるんですか?」

驚いて振り返るとドレが立っている。

俺は基本的に回りくどいことが苦手である。ここは単刀直入に聞いてみる。

「ドレさん、何でシルヴィアさんの羊を隠すなんて嫌がらせをしたんだ?」

しばしの沈黙の後、ドレが口を開く。

「全てお見通しですか。」

「ああ、現場にあんたの杖も落ちていたしな。」

ドレは観念したように話し始めた。ハッタリ効くもんだな。

おおよそは予想通りであった。自分は不幸のどん底なのにシルヴィアは思い人と結ばれることになり、周囲からも祝福されている。年の離れた兄としては妹のめでたい話なので祝ってあげたい気持ちもあったが、嫉妬心や妹を独占したいという気持ちを抑えきれなかったとのことだ。


シルヴィアの野営する場所はいつも一緒であるため、屋敷の老夫婦が寝静まった夜中にそっと家を出て、馬に乗って野営地に向かいシルヴィアが眠っているのを確認した上で羊を一匹連れ帰ったそうだ。

元々持ち主なので、羊も警戒心を抱かず大人しく着いてきたとのこと。

「なるほどね。せっかく妹さんのめでたい話なんだ。年の離れた兄として祝ってあげなきゃな。もちろんその前に羊の件は、謝らなからばならないが。結婚しても妹は妹、縁が切れるわけじゃないから相手も一緒に祝福してやってくれ」

しばしの沈黙。

「わかりました。早速使いを出して今晩にでも一緒に食事をしたいと思います。良かったらジョニーさん達もご一緒にいかがですか?良ければその後泊まれるように用意しておきます。」

俺は頷き、カティとヨシュアを迎えに行くことにした。


「何じゃ、たいして面白い話じゃなかったのぅ。」

カティは不服そうに言う。

「でも、シルヴィアさんの羊が戻ってきてお兄さんも2人の結婚を祝福してくれるのなら、それはそれでいいんじゃない。」

ごもっともである。

途中までとなっていた野営の準備を片付け、ドレの屋敷へ向かって歩き出す。今日の移動距離はなかなかのものである。


約束の夕刻にドレの屋敷へと到着し、豪華な夕餉を振る舞われることになった。もちろんシルヴィアと婚約者も一緒だ。

シルヴィアはドレとは違い綺麗な艶やかな金髪に、幸せそうな笑顔。ハーパーと名乗った婚約者の若い男、日に焼けた健康的な肌に爽やかな笑顔の小柄な男とお似合いである。

ドレも謝罪して初めは気まずそうにしていたが、ホストとしての役割をしっかりと果たし、和やかな雰囲気で食事を終えることが出来た。


食事の後、テラスで夜風に当たっているとカティが後からやってきた。

「何にせよ、ドレもしっかり謝ったし、若い2人もたいして気にしている様子もなかったからこれからのことはあまり心配しなくてよさそうだな。」

「うむ。」

カティは何やら考え込んでいる。

「シルヴィアの件はこれで解決じゃな。しかし、他の行方不明の羊達は?」

確かにそうだ。シルヴィアの件は解決したが、今までに他の羊飼いの羊が消えた件は解決してはいない。

「せっかくじゃし、2人で夜の散歩に出掛けてみようかの。」

夜風が二人の間をすり抜けた。

…やれやれだぜ。

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