中年狩人、魔法の才能がないと言われる。
秋晴れの雲ひとつない空の下、ガタガタと馬車に揺られながら、目的地へと向かう。
羊が行方不明になった件で現場まで3人で向かことになったときは、歩いて目的地まで向かうつもりだったが、カティの知り合いの行商人が途中まで乗せてくれることになった為、楽をさせてもらっている。
「羊が行方不明になる原因で何か思い当たることはあるかい?」
俺はカティに問いかける。
「そうじゃの。まず考えられるのは、野犬や熊、魔物に襲われる。というところかの。もしくは悪天候で視界が悪くなり迷った。大きな音や雷でパニックを起こし逃げ出した。夜間に群れとはぐれたとかが考えられるな。」
「その日は天気も良かったし、夜中はマックスウェルさんが羊達をまとめていたから、何かに襲われたってことかな?」
ヨシュアが腕を組んで考え込む。
「羊じゃったら好奇心で群れから離れたり、餌を探して勝手に移動したり、出産が近い羊が独りになろうとしたとかも考えられるが、これもないんじゃろ?」
「そうだね。夜中に群れから離れるような羊はまずいないし、出産近くの羊は連れ出さずに柵の中で見てもらってるらしいよ。」
「だったら、崖から落ちたり、草や木に引っかかって動けなくなったりもなさそうだな。」
「何にせよ、実際にいなくなったところを見ないと何とも言えんなぁ。」
「ところで万が一なんだが、野生動物や魔物に襲われたらどうするんだ?」
「僕はスリング(投石紐)だったら使えるよ。教えてもらって結構練習したから、まずまずの命中率だよ。野犬の群れだったら追い払う事はできると思う。」
「俺は本職は大型のクロスボウなんだが、今は持ってないんだよな。何とか普通のボウガンは買ったが、まだ実戦で試した事はない。」
後衛が3人じゃ冒険は出来なさそうだ。
「カティさんは魔法が使えるんだろ?何かあったら大魔法で周り全部をぶっ飛ばす感じでいけるんじゃないの?」
「アホか。そんな面倒くさい事するか。全く男2人いて2人とも後衛とは使えんの。」
「まぁ、ダンジョン探索するわけじゃないし、危なくなったら逃げたらいい。」
「安心しろ、わしクラスの魔法使いになったら、接近戦もお手のものじゃ。普段から魔法障壁、物理障壁は展開したままじゃ。戦うときは、筋力強化魔法や高速思考魔法なんかも使うから1人でも問題なしじゃ。いわゆる魔法拳士じゃな。」
「僕も教えてもらったら魔法って使えるの?」
「そうじゃの、素質があって根気よく修行したら使えるかもしれん。ちょっと待っとれ。」
カティは持ってきた革の鞄の中をゴソゴソと何かを探している。
「俺も魔法使えたりする?」
「ちょっと待っとれ。」
カティは振り返りもせずに言う。
「これじゃ、これ!」
鞄から霞んだ、シルバーの十字架を取り出す。
「これは魔法の道具で、魔法の残量がわかるアイテムじゃ。お主達は魔法を使っているわけじゃないから、魔力があれば、反応があるはずじゃ。」
「どうやって使うの?」
「握って精神を集中してみれば良い。魔力があれば光るはずじゃ。」
ヨシュアは十字架を受け取り、真剣な表情で十字架を握りしめる。
しばらくして、十字架が微かに黄色く光出す。
「おや、魔法の適正があるようじゃな。機会があったらわしが魔法を教えてあげるぞ。」
「ほんとに!ありがとう!」
「さて次はジョニーの番じゃな。」
俺はヨシュアから十字架を受け取り、精神を集中する。十字架に変化はない。
俺は馬車の中で座り直し、目を閉じて精神を集中する。
「うーむ。」
「どうだ?光ったか?」
「お主には魔法の才能が全くないようじゃな。光るには光ったが、黄色ではなくて、青じゃ。」
「青だったら魔法は使えないのか?」
「魔法の才能は全くないな!」
「俺はそもそも狩人だし、魔法なんて使えなくても問題ない!」
「魔法は駄目じゃな。才能があるとしたら、『気』を使う方じゃな。」
予想外の答えが返ってきた。
「カティさんは『気』も教えられるのかい?」
「それは無理じゃ。そもそも魔法と気の違いは知っておるか?」
「いや、どっちも専門外だな。」
「魔法は、この世界のいたる所にある魔力を使って不思議な現象を起こすことができる力で、強い精神力が必要じゃ。対して『気』は、自分自身の中にある生命エネルギーを使って大きな力を出す。こっちは体力勝負みたいなもんじゃな。ま、どちらもある程度鍛えれば大きな岩を割ったりできる。何を使って岩を割るかだけの話じゃ。」
わかったような、わからなかったような話だ。とりあえず、野生動物に襲われたりした場合は、何とかなりそうな気がする。
そんな話をしている間に、馬車は目的地に着いたようだ。行商人は目的地の地方都市まで行き一泊して、城下町へ戻るとの事で、帰りに拾ってもらえることになった。
さて、まずは一泊するためのテントの設営をするか。




