表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】どうやら私は悪役のようですね。それで?【第二部完結】  作者: 重田いの
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/75

大きくなりたい【12/21追記】

 


 南の商業国、ファーテバ。ここにフュルストは小さな家を一軒、持っていた。屋敷と呼べるほどのものではない。彼のような駆け出しの若い商人にも手が届く、山の中腹にある古びた閑静な家。


 一行がそこに落ち着いたのは、ガイガリオン伯爵家から逃げ延びて二週間後のことだった。追っ手を警戒し街道沿いの宿を避け、ひそかに医者にかかり、双子に乳をくれる乳母を手配し。リュイスを出国した直後、関所に新しい人探しの告知が張り出されたと聞いてアレクシアはぞっとしたものだった。


 ガイガリオン伯爵が王を説得したのだろう。あの王にも諸国への外聞を気にする知恵はあるから、寵臣とはいえ一個人の探し人に国家の力をかけるわけにはいかないと言い合いになって……。だが最終的に、ガイガリオン伯爵の言い分が通った。きっとそんなところに違いない。


「くそったれの王と家臣」


 ぼそり、アレクシアは呟く。骨折した手の指がじんと痛んだ気がした。治療魔法をかけられ、添え木つきで固定されて真っ白な包帯が巻かれている。はためく白。惨殺された白猫のミミの色。


 小さな家の小さな庭。菜園と呼んだ方がふさわしい、野菜や薬草を育てる畑だった。白い外壁の家の壁にもたれて、忙しい大人の邪魔をせずいい子にしている。時折、家の中から双子の泣き声が聞こえると駆けていって、乳母と一緒にあやしたりもする。


 母ルクレツィアの体調はいまだ思わしくない。フュルストはそっちにつきっきりである。小さな家には彼が雇った新しい使用人が出入りするようになった。乳の出なくなった母の代わりに双子を育てる役目の乳母以外、皆通いの使用人である。フュルストとしては安全が確信できるまで他人を入れたくないのだろうが、病人と子供三人分の家事まで面倒を見るなんて不可能だ。賢明な判断だろう。


 幸い、彼の商売は好調で、財産は相当なものだったはずだ。アレクシアは小説の設定を順繰りに思い出していった。前世で読んだ記憶はもうずいぶんと遠い。タイトルは忘れたが、あらすじと印象的なシーンは覚えている。


 主人公は異母弟ザイオスだ。父親はガイガリオン伯爵。母親はその妾エイナ。

 ザイオスは伯爵の正妻ルクレツィア、つまりアレクシアの母親が亡き後、母と妹ペルアとともに本邸に引き取られるが、そこにはいじわるな異母姉アレクシアがいて――というところから始まる物語。


 彼と妹は残忍なアレクシアにいじめられながら育つ。何にも悪いことをしてない、可哀そうなザイオスくん。やがて十代になった異母弟ザイオスはアレクシアの仕打ちに耐えきれず、家出。名の知れた傭兵になる。リュイス王国に戻ってきて、異母姉アレクシアを断罪し家から追い出す。アレクシアがそのあと確か……辺境に追放されて、死ぬ。


「それで?」

 アレクシアは呟いた。菜園にチョウが舞っている。なんの野菜だろう、ナスっぽい実をぶら下げた苗にはまだ白い花があって、チョウはその蜜がほしいのだ。


「だから、何? 私は悪役だから、お母様は悪女だから、虐げられてろって?」

 踏み台になってろって? クソったれめ。


 あの小説。読んでいる最中は全部他人事だから、へえ、と流していたけれど。アレクシアの立場になって思い返せば、世界じゅうがザイオスに都合よく動きすぎだった。


 ああちくしょう、そもそも自分たちを憎むアレクシアの元に母と妹と置き去りにしたザイオスのどこが善人だ。何が主人公だ。ちくしょう。


 エイナもまるで聖女のように描かれていたけれど、実態はただの妾だ。ルクレツィアの後釜に就こうとノコノコ貴族家に上がり込んだ時点で反発があることくらい想定していろ。妹ペルアも若い美少女で男勝りに勇敢で惚れっぽい一面もあって、と八面六臂の大活躍で、それに対してアレクシアは卑屈で卑怯で生まれを鼻にかけた陰険な女、父親には愛されないし、母は悪女でどうしようもないと貶されていた。


 何が、何が。悪役だ!


 夏の海のように濃い青い目がぎらぎら光って、唸り声は虎のよう。七歳とも思えない声でアレクシアは唸る。こんな人生を押し付けた誰かを憎む。人生そのものを恨む。


「反吐が出るわ。ふざけんじゃねえぞ」

 ケッ、と七歳らしくなく毒づくと、乳歯がグラグラして血の味がした。気にしない。どうせまた生える。鉄臭さは復讐の餌にさえ思えた。


 母の呻き声が途切れ途切れに聞こえ、立てた膝に顔を伏せる。自分と自分が――小説の知識を持つ人と七歳のアレクシアが、一体化しているのを感じる。

 世界が、思考がクリアになる。この肉体に自我らしい自我が芽生えたのがいつかと問われれば、それは今だと答えるだろう。小説の知識はどこから来たのか? それを読んでいた人は誰だ。アレクシアの前世なのか?――関係ない。アレクシアはアレクシアである。


 ここにいるアレクシアはすでに小説のアレクシアと似て非なる存在である。

 ここが小説通りの世界ならアレクシアは……まだ七歳だ。妾と異母弟妹の存在を知らない。ガイガリオン伯爵が、妾に与えた別邸に入り浸っていることも知らない。それでも愛してくれない父を父として、慕っている。 あんな男を。


 だってそれしか知らないのだから。フュルスト卿が消え、双子がいなくなり、母と二人っきり。寄り添って、守り合って生きていたのだから。

 そして母ルクレツィアが毒と共に薔薇と炎の向こうに消えてしまったその日。父ガイガリオン伯爵が平民の妾と、アレクシアと同年代の子供を家に連れてきたそのとき、その信頼も砕けるわけだ。だが憎しみはまだ情の残る父ではなく、異母弟妹に向く。


 女の子だ、とアレクシアは思う。あまりにも女の子だ。彼女のするいじめの陰湿さも諦めの悪さも何もかも、女の恨みつらみそのものだ。結果として主人公ザイオスの幼少期は、アレクシアから妹を守ることに費やされる。


 だが、そんなの大人がしっかりしていなかったのが悪いんじゃないか? ザイオスの母エイナは大変存在感が薄いキャラクターだった。どうして彼女は血の繋がらない娘から我が子たちを守らなかった? それさえアレクシアを悪役にするための設定なのか? ザイオスをいじめたから、はいあなたは悪役ですって? そういうこと? ねえ、小説? 作者ー?


 チョウの群れがぱあっと舞い上がる。顔を上げたアレクシアの目に、菜園の強烈な色彩が焼き付く。


「女王になるわ」

 小さく、毒づくように呟く。

 王は彼女を救ってくれなかった。だから彼女はあんな王にはならない。もっと違う、もっとよい王になる。


「少なくとも『女王』を掴んで放り投げたり、見捨てたりはしないでしょう?」


 女王にならなければ。女王にさえなれば、この煮えたぎる屈辱も憎悪も消えるに違いない。逆に、なれなければ一生をこの熱に苛まれて生きることになる。一生、煉獄にいるような思いで。生き延びたことをただ感謝するだけの、蹲った一生を。

「それはいや」

 アレクシアはそんな自分を許さない。


「アレクシア、いるかい?」

 とヘンリー・フュルストが、父が呼ぶので、ぱっと駆け寄った。

「ルクレツィアが呼んでるんだ。顔を見せてあげておくれ」

「うん、お父様」


 フュルストはちょっと多めに瞬きをする。その横をすり抜け、アレクシアは家の最奥にあるルクレツィアの病床へ。小さな真四角の部屋だったが、清潔でよく整えられていた。ルクレツィアの枕元にゆりかごがあり、乳母はいない。サイドテーブルには心ばかりの細い花瓶に野の花が生けられていた。


「アレクシア」

「お母様あ」


 ベッドの上に身を起こしたルクレツィへ、アレクシアは抱き着いた。コトコト、心臓の音がする。生きている。ぎゅっと腕の力を強くして、母を見上げる。うつくしい人である。また、赤の記憶がよみがえる。


「痛くない、お母様? お医者さんは何て言ってたの?」

「どこももう痛くないわよ。ちょっと疲れちゃってね。それで寝ているの」


 と笑う、母はいつも通りに見えてそうではない。全体的に疲れているし、やつれている。記憶の中の赤は、一度ではなかった気がする。そう、何度も何度も寝込んだ母を見舞った記憶がある。まだ七歳だけれど。ずきり、頭が痛む。ぐわんぐわんがまた来そう。


 母ルクレツィアはこの世で一番うつくしい人である。


 ベッドのふちに腰かけて、アレクシアは見つけた菜園の話をした。さも、新しい家の散策を楽しみ気を取られている子供ぶって。ゆりかごの中ですうすう眠る双子の息遣い、静かに入室してきたフュルストが、何か尊いものでも見るかのように母子を見守る視線を感じる。

 ガイガリオン伯爵がこんな目でアレクシアを見たことは、一度もない。


 アレクシアはガイガリオン伯爵夫妻の結婚六年目に生まれた子供だった。六年間、母は苦しんだ。子供を産めない貴婦人というのは、貴族社会に居場所がない。愛人を持つことが許されるのは子供を産んでからのことである。その間、恋人のフュルスト卿はその父クラシュフ侯爵によって他国に追いやられていた。彼女はたった一人で、世間、社交界、使用人、そして支えてくれない夫と戦った。


 六年のうちに死産は一回。流産が二回起こった年さえあったという。不可抗力的なものだったのか、あるいは夫かそれ以外の敵が手を回したのか。それさえわからないほど自然なものだった。そして血を吐くような努力の果てにようやく、アレクシアが生まれた。


 だから母ルクレツィアにとってアレクシアは宝物である。自分の居場所を守ってくれ、夫がベッドを訪れないようにしてくれた娘なのだから。母がガイガリオン伯爵家への義理を果たした証。


 とりとめのないおしゃべりを続けるうち、ルクレツィアの瞼はだんだん重たくなっていった。背後から近づいたフュルストが、ひょいとアレクシアの脇を掴んで身体を持ち上げる。


「さあルクレツィア、そろそろ眠って。双子のためにも早く回復しなきゃ」

「……ええ。そうね、ヘンリー。アレクシア、話せて嬉しかったわ」

「私も、お母様。早く元気になってね。いっぱい寝てね」


 母は頷いた。手を振り合ってアレクシアはその部屋から出た。直後、ゆりかごを抱えたフュルストが後に続く。


「さあアレクシア、もう少し時間はあるからお庭を見てきてごらん。お髭のおじいちゃんと頭巾をかぶったおばあちゃんがいるだろう? 僕の留守中あの二人にこの家の面倒を見ていてもらったんだ。ここに一番詳しいのは二人だから面白いものがないか聞いて……」


「お父様、お願いがあるの」

 短い廊下はすぐに終わり、子供部屋のまんなかにゆりかごを置いてフュルストはアレクシアに向き直る。


「リュイスについて教えて。私の知っていることと知らないことを整理したいわ。もしガイガリオン伯爵が追ってきた場合、あなたが彼をやっつけてる間、お母様を連れて逃げる役目は私でしょ?」


 アレクシアとルクレツィアがガイガリオン伯爵家から逃げ出せた以上、事態はすでに小説の筋書きから脱却している。ここからどうなるのか。いわゆる強制力とやらが働いて、強引に連れ戻されるのか、それとも? いずれにせよ、必要なのは知識である。あと武力。


 フュルストは珍妙な小動物でも見るかのようにアレクシアを眺めていたが、やがてくすっと笑って肩をすくめた。

「やれやれ、まったく。君は本当にアレクシアかい? 一気に十歳年を取ったみたいだね」

「そりゃ、こんなことがあればね。もう二度と同じことはいやなの。私、早く大人に、強くならなけりゃいけないのよ」


 緑色の目に憐れみと、それ以上に何か大きな感情が蠢く。フュルストはゆりかごの傍らに座り込んだ。それにしても双子は静かである。抱き合って眠る弟たちは、星座の図案の絵画にも見える。


「すまなかった。二度目は、ない。起こさない」

「わかってるわ。でも、教えて? 私は知りたい」


 そうしてフュルストは静かに、教えてくれた。おおまかにはアレクシアの知る小説と同じ、けれど知らなかったこともある知識を。リュイスという国で何が起こっていたのかについて。


 リュイス王国には二院制の議会がある。上流貴族院と庶民院で構成され、王の宣言によって開催される民主装置である。

 貴族を主とする議員たちが王の決定に異議を唱えることを許される唯一の機関であり、王権を抑え、国の権力均衡を保つ役目を果たす。その役目を疎んじたのが、現王タリオンだった。彼は議会勢力こそが王の『正しい』政治を妨害する目の上のたん瘤と思い込み、その権威を削ぐことに力を注いできた。王にのみ権力と兵力が集中する、専制国家を造り上げたかったのだ。


 タリオン王の治世の下、特権を廃止され不遇をかこつ貴族は多い。代々議長を務めるブレインフィールド伯爵家。ドレフ帝国との交易路を独占するモルディナ男爵家。多くの高位聖職者を輩出するランドリオ侯爵家。そして……かつては辺境伯を務め、城塞や砦およびそこへ至る街道を所有し、数々の傭兵団や私兵集団を抱えるレイヴンクール公爵家。


「アラリック・レイヴンクール公爵……君のおじい様、ルクレツィアのお父上のおうちもまた、タリオン王によって権利を制限された。王陛下は特に、レイヴンクール家の騎士団を警戒している。彼らは六百年近く続く武門の名家だからね。独特の気風と、王ではなくレイヴンクール家そのものに忠誠心を抱いているから」


「有力な貴族の私兵集団ということね。そりゃ、目障りよね」

「……アレクシア、念のため聞くけど本当に七歳かい?」

 フュルストは呆れ気味に言った。喉が疲れたらしく、壁の棚からクリスタルのカラフォンを持ち上げ、グラスに水を注ぐ。


「ちょうだいー」

「はいはい」

 もう一個のグラスをもらったアレクシアは当然のごとくごくごく中身を飲み干した。フュルストはじっとそれを見つめ、見た目は七歳なんだけどなと呟く。


 話は続く。

 自前の権利を制限されたのはレイヴンクール公爵家ばかりではなく、あらゆる貴族がそうだった。貴族の持つ生得権は官僚たちに移行された。国の権利と監視の下、すみやかに、つつがなく。


 規模や爵位に関わらず、領主裁判権は一律廃止。都アリネスの中央裁判所に一元化。徴税権は国の代官へ譲渡され、故郷の実りは国王および国家が直接管理することになった。代々にわたって受け継がれてきた、土地や住民の文化に根差した独自のおおらかな慣習法もまた廃止された。その土地の土を踏んだこともない代官たちが、都アリネスの立法官僚が一律に定めた厳格で強権的な法律を元に勝手気ままに民を裁いた。


「誰もいやって言わなかったの?」

「貴族が反抗しなかったわけではないよ。抗議文や決意表明は何度も行われた。だがそれはあくまで『意見』であって、王をお諫めするという名目上のことだから」

「強制力はないわけね」


「そう。それと、王陛下もまた賢くあられる。あちこちの傭兵だの領主に疎まれて仕事もない騎士の次男坊三男坊だのに声をかけて、自前の近衛騎士団を作ってしまわれた。さっき言ったとおり、私兵集団というわけだね。それから国じゅうの貴族をアリネスに集めて、領地から切り離した。領民たちの声が届かないように。おのおのの貴族を優遇したり反対に冷遇したり、団結しないよう、うまく分裂させた。もしも今、反乱を起こす貴族がいても誰も追随しないだろう。絶妙なバランスで成り立つ現状を壊しても、今はまだ王の力が強いからね」

「何かもう一手、必要だってことね」


 アレクシアはグラスをぐるぐる回した。武力なり経済の均衡が崩れるなり、王の絶対性を突き崩す何かが必要なのだ。だが貴族は動けない。動けば敵や味方に後ろから切られる、そんな関係性が作られている。


 フュルストが何気なさを装った声で言う。

「おじい様とおばあ様が黙ったままなのを、どう思ってる?」

「仕方ないことだってわかってる。恨んでないわ」


 レイヴンクールはその血の義務を果たしただけだ。王家に仕え、国を守る。その王家が腐っていようが王が滅茶苦茶だろうが、義務は義務である。唐突に、ミミの毛並みの記憶がよみがえった。双子を抱きしめたかった。


「でも、……私、お母様の夫はあなたがよかった」

 途端にたどたどしく、舌がもつれた。アレクシアはゆりかごを見つめる。双子が羨ましいと思ったことは、正直、ある。少しだけ。だってアレクシアだけ、色が違うんだもの……。


 フュルストがそっと両腕を広げたので、ぎゅっと抱き着く。

「ごめんな、アレクシア。いっぱい、ごめんな」

「ううん」

 アレクシアはふるふると首を横に振った。


 タリオン王が貴族への支配力を強め、保持するため生み出した戦法の一つに婚姻政策があった。息子であれ娘であれ、子供によい結婚相手を見つけてやるのが親の義務である、というのがリュイスの価値観だ。相手はそのときどきの地方ごとの慣習法であった婚姻法を、タリオン王は無理やりひとまとめに改定した。仲の良い二家が派閥を組めないよう引き裂き、あるいは対立する二家を無理やり結び合わせた。嫁入り、婿入りした当人がどんな目に遭わされるかなど、当然、王の思慮の外だった。


 王の政策は、つまりはこういうことを謳った。

 今後リュイスにおいて王家には貴族の結婚を取りまとめる権利と義務があるとする。議会の同意は必要ないものとする。拒否権は、よほどの理由がない限り認められない。

 そして母ルクレツィアは恋人と引き離され、ガイガリオン伯爵と結婚させられた。王のお気に入りの寵臣。絶対専制君主を支えるために必要な、官僚のうちの一人。


 離婚は、できなかった。それは王に逆らうということだから。


 すでにタリオン王は、反逆罪の乱用を始めていた。少しでも彼の気に障ることをした貴族が、どれほど古い家系図を持とうとも、どれほど深く国を愛し忠誠を誓う様子と実績を示そうとも、打ち砕かれ滅んでいった。それができるだけの権力の均衡差が、王家と貴族家の間にはあった。ドレフ人で形成された王の近衛騎士団もまた、威嚇として十分以上に役立った。


 フュルストはぽんぽんとアレクシアの背中を優しく叩いた。


「リュイスでは長い間、王が勝手に法律を停止できなかった。議会を開いて、みんなの賛成を得ないとやっちゃダメだったんだ。だがタリオン王陛下は議会そのものを開かなくなってしまった。だから君のおじい様を始め貴族たちは、意見を言う場さえなくした」

「強い者はどんどん強く、弱い者はその反対というわけね」

 アレクシアは身を起こした。

「ところで、お父様って呼んでいい?」

「さっき呼んでくれたときから猛烈に感動してるよ 。どうぞご自由に、そう呼んでおくれ」


 うふふ、と息を漏らして。少女は牙を隠しそこねた虎のように笑う。

「私を強くして。もう踏まれる側はいやだから」


 フュルストは痛ましいものを見る目でアレクシアの青い目を覗き込んだが、そこにあったのは彼の思ったような色ではなかったらしい。やがてゆりかごの双子が身じろいで、夢から浮上するときの細い声で泣いた。白猫のミミに似た声だった。


「わかった」

 短く、一言。


「全霊をかけて。厳しく仕込んでやろう。――我が娘、アレクシア」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ