真っ白で出口のない部屋に閉じ込められたけど、肝心の指令文が謎文字で読めない件
気が付くと、腐れ縁の幼馴染と二人、真っ白で窓も扉もない部屋に閉じ込められていた。
あるのは紙が1枚。
筆っぽい何かで日本語が書かれている。達筆すぎるのか悪筆過ぎるのか読みづらいが、大部分は解読できそうだ。
この部屋は■■■しないと出られない部屋です
いや、そこが肝心だろ。なんでそこだけ読めないんだよ。
「これは人間業じゃない。つまり宇宙人か神と呼ばれるような超常の存在によって引き起こされた可能性が高い」
「MMRかよ! お前、オカルト趣味な奴だったか? こども園からの腐れ縁なのに知らなかったぞ」
「酸素が減るから叫ぶのはやめたほうがいい可能性がある。俺は現実を見ているだけだ。こんな継ぎ目のない部屋、現代の技術で作れると思うか? しかも木でも石でも金属でもプラスチックでもないんだぞ」
「まじで?」
「叩いてみろ」
コーン……
聞いたこともない音が響く。確かに金属でもプラスチックでも木でも石でもなさそうだ。
「…………」
「納得したか」
「おう」
「スマホの電波も入らないしな」
「まじで圏外? 今時? 俺、人工衛星通信使えるんだけど。a●でよかった。!! まさか、衛星通信が使えないだと……!」
「衛星通信は基本的に遮蔽物がない場所でないと使えないぞ。ちなみに俺も●uだ」
「お前もかよ。早く言えよ。まさかの同機種色違い?! ホラーかよ」
幼馴染の目が、女子かお前と言っている! オレは賢者タイムに突入した!
「外部と連絡を取れず、出入り口どころか継ぎ目も見えない以上、この謎の文章に従うしか手立てがない」
「そうみたいだな。でも肝心なところが読めないんだけど、ここ何語?」
「知らん。英語でもフランス語でもスペイン語でもロシア語でもラテン語でも中国語でもアラビア語でも楔型文字でも亀甲文字でも神聖文字でもない」
「知識自慢か」
「ネットや教科書で見たことあるだろ。違う事はお前だってわかるだろうが」
「それもそうだ」
「そこで宇宙人説だ」
「オカルトに戻った」
「地球でもマイナー言語の日本語であるにも関わらず、他の部分は流暢な日本語でここだけ謎言語。つまり、自動翻訳したが適切な日本語がなかった可能性が高い」
「ただの文字化けじゃないか?」
「翻訳ソフトの文字化けなら地球にある記号が出るだけだからな。これは飾り文字でも記号文字でもない」
「ネット中毒のお前が言うんだから確かなんだろうな。で、この謎文字はなんて書いてあるんだ?」
「知らん。わかるわけがないだろう」
「知らんのかい! 今までのご高説はなんだったんだよ?」
「現状把握は大切だろう。むしろ他に出来る事があるか? 俺は3分以上立ってられないのに、椅子もベッドもないんだぞ」
「カップヌードルかよ」
「せめて象形文字なら形から推測することも可能だったろうが、明らかに違うしな。いや待てよ、文化や生態が違い過ぎて実は象形文字なのに理解できてない可能性も」
「その辺でやめとけ。宇宙のかなたに行くな」
「とにかく長引けば餓死、いやその前に脱水で死んでしまう可能性が高い。幸い酸素は足りているようだが、機密性によってはそちらが先に尽きるかもな」
「おい、やめろよ」
「この状況で救助隊が助けに来ると思うか。通信圏外で衛星通信も使えないのに。連絡が取れたところで救助隊がこの謎物質を壊せない可能性もあるし、下手すると地球上でない可能性もあるんだぞ」
「どうすりゃいいんだよ」
「とにかく何かをすれば出られると書いてあるんだ。だめもとで何でもいいからやってみよう」
「わかった」
腕立て伏せ
腹筋
背筋
反復横跳び
「その辺で辞めとけ脳筋」
「なんだとこの野郎! お前が何でもいいからやってみようって言ったんじゃないか」
「酸素が尽きる可能性があるとも言ったよな」
「……酸素透過性の壁だったりしねえ?」
「コンタクトレンズ程度の性能はあってほしいな」
汗だくになったオレは真っ白の地面に座り込んだ。とりあえず床が冷たくてよかった。熱中症での死者が珍しくなくなったご時世だが、この部屋が炎天下にあって蒸し焼きになるというオチはなさそうだ。
「腹減った」
「無駄に運動するからだ」
「お前が言うな」
「リソースは限られているんだぞ。試すにしてもせめて腹筋と背筋はどちらかでよかったろうが」
「わかってたんならもっと早く止めろよ」
「よし、酸素をあまり消費せず、腹も減らない何でもを試そう」
暗記
暗算
しりとり
朗読
演説
「うるせえよ! 朗読と演説はどっちかでいいだろうが!」
「そうだった。俺としたことがお前みたいなミスを」
「言っとくけど、オレの後で同じミスしているお前のほうが酷いからな」
何時間経ったのか。1時間も経っていないのか。わからないが気力が先に尽きた。
もう試すことも思いつかない。腹が減って喉も乾いて死にそうだ。酸素まで薄くなった気がする。頭が痛い。謎空間で運動したせいか関節も痛い。動けない。
「息苦しい」
「精神的な問題か本当に酸素が消費されて二酸化炭素濃度があがっていっているのか不明だが確かにな。でも問題はそれだけじゃない」
「ああ」
トイレがやばい。
この何もない真っ白の空間で、おむつの頃からの昔馴染みの目の前で排泄とかどんな高度プレイだよ。
「立ちションまではいい。並びションでもいい。俺はやらないがお前は慣れているだろうし」
「さりげなく自分だけ上品ぶるなよ。一緒に神社の裏で立ちションして近所のぬらりひょんじじいに追いまわされたろうが」
「だが大便はきつい。振ればいい小便と違ってふく紙もない。この世には神も仏もいないのだ」
「紙と神をかけるなよ。失礼だろ」
「オカルトか」
「ちげーよ。切羽詰まってたとはいえ神社で小便はなかったわ。しかも連れション。子どもだったけど思い出すと恥ずかしい」
「まあな、自分んちの庭に他人が小便していたらその場で切り落として万が一にも接続手術ができないように目玉も焼ける殺人光線であぶりたくなるからな」
「夏の日光は確かに人も殺せるが殺意高過ぎだろお前。玉ヒュンで涼しくなったわ」
「そうだな、もう先も長くないし、最期にお稲荷様に謝っておこうか」
「おう。俺も謝るわ」
話しているうちにどんどん力尽き、床に大の字に伏せていたオレたちは這う這うの体で座り込んで地面に頭を付けた。
「お稲荷様、子どものとき、神社の裏で立ちションして申し訳ありませんでした」
「生まれ変わったら境内をお掃除しておいなりを奉納します。あの時はごめんなさい」
ふと気が付くと、殺されそうな日差しの中、オレたちは汗だくになって神社の境内で土下座していた。
掃除、夜でもいいかな。
かゆ
うま
この作品はフィクションであり、実在のお稲荷様とはなんの関係もございません。
この作品は神社を大切にしようという啓発を目的としています。
お稲荷様、申し訳ございませんでしたorz
あと、実在のa●とか★リンクとも関係ございません。
2025/08/03 最後の4文字追加。