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ウーバーリアリティ  作者: アラベ幻灯


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6/6

この人間版プロメテウスは、火を扱う際には注意が必要だ。

これがこの物語の最新エピソードです。楽しんでいただけたら嬉しいです。

モハメド・スミスは、ザヒーラから渡されたノートを机の上に広げていた。

ページ54。


そこには、人間でも作れる魔術薬のレシピがびっしりと書かれていた。


「ふむ……本当に人間でも作れるのか?」


彼は眼鏡をかけ直しながら読み進める。


その中でも、彼の目を引いたのは一つの項目だった。


「すべての魔女から魔力を奪う香薬」


「これだ……!」


レシピを読むと、材料は奇妙だった。


しかし――


驚くほど入手しやすかった。


インターネット通販で、ほとんど全部そろったのだ。


材料の一部はこうだった。


ペルーの花 カントゥータ(Cantua buxifolia)


メキシコの イヌワシ(Aquila chrysaetos)の無精卵


ブラックマンバの毒液


アルビノ人間の髪


フグの毒抜き肉


「すごい時代だな……全部オンラインで買えるじゃないか」


モハメドは小さく感心した。


レシピの説明文も興味深かった。


この薬は、ヨーロッパの魔法ではない。


遥か昔、ヨーロッパ人がアメリカ大陸に到達するよりはるか前。


アメリカ大陸全体に広がっていた、古代シャーマンの円環が作り出した秘薬だという。


「ふむ……なるほど。

魔女対策の知恵は、昔からあったってわけか」


彼は腕まくりした。


魔女封じの香薬


作り方はこうだ。


まず、カントゥータの花びらをすり潰す。


次に、イヌワシの卵殻を粉末にする。


それをミキサーに入れ、花びらと一緒に液化する。


卵は別にして、


卵白


卵黄


をそれぞれ混ぜる。


最後にすべてを合わせる。


すると――


奇妙な液体ができた。


それは香水のようだった。


しかし、その香りは言葉で説明できない。


甘いようで、鋭いようで、冷たいようで、遠い記憶のような匂い。


「……なんだこの匂い」


モハメドは首をかしげた。


ノートには最後の説明があった。


「この薬を家の窓と扉に塗布せよ。」


そうすれば――


魔女がその家に入ろうとした瞬間、


魔力を失い、激しく衰弱する。


効果は一週間。


「よし……完璧だ」


ただし問題が一つあった。


この効果は――


すべての魔女に作用する。


つまり。


「キャロラインが外に出たら……

戻ってきた瞬間、魔力が消える」


モハメドは顎に手を当てた。


だが、すぐに笑った。


「まあ、大丈夫だろう」


キャロラインは基本的に家から出ない。


外出はほとんど――


スーパーで食料品を買うときだけ。


夫の作戦


朝。


モハメドは優しく言った。


「キャロライン、今週の買い物は僕がやるよ」


「え? 本当?」


「君は家でゆっくり休んでくれ」


キャロラインは少し驚いたが、嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう、モハメド」


こうして彼は買い物へ出かけた。


その直後。


電話が鳴る。


「もしもし?」


ザヒーラだった。


「キャロラインさん、近くのカフェに行きませんか?」


「いいわね!」


キャロラインはコートを着て外へ出た。


そして――


数歩歩いた瞬間。


「……あれ?」


急に強烈な眠気が襲った。


まぶたが重い。


体がふわふわする。


「な、なにこれ……」


それでも彼女はふらふらしながらカフェへ向かった。


カフェ


キャロラインは席に座った瞬間、


完全に眠った。


三時間。


ずっと。


ザヒーラはコーヒーを飲みながら待った。


「……」


三時間後。


キャロラインが目を覚ました。


「ごめんなさい……私、寝てた?」


「ええ、ぐっすり」


「最近ちょっと体調が変なのよね……」


彼女は首を傾げた。


もちろん。


魔力を失っているとはわかっていない。


二人はしばらく雑談した。


長い人生の話。


昔の世界の話。


千年前の都市。


消えた王国。


古い戦争。


そんな話をしていると――


ザヒーラが空を見た。


「……あれ?」


太陽が。


一瞬、点滅した。


ザヒーラは目を細めた。


「キャロラインさん、今見えました?」


キャロラインも空を見る。


そして――


「あ……」


同じ現象。


太陽が、ちらつく。


二人は同時に言った。


「まさか……」


「今日って……」


時空地震の日。


千年に一度。


時間の連続性が破綻する。


本来、宇宙のすべての瞬間は独立して存在している。


しかし人間の知覚が、それを時間の流れとして錯覚しているだけ。


だが――


千年に一度。


異なる瞬間同士が衝突する。


それが


時空地震。


ザヒーラは立ち上がった。


「家に戻りましょう!」


地震


その頃。


モハメドはスーパーで買い物していた。


突然。


世界が揺れた。


ゴゴゴゴゴゴゴ!!


棚が倒れた。


商品が転がる。


「うわああ!?」


モハメドは顔を青くした。


「まさか……!」


最悪の想像が頭に浮かぶ。


もしキャロラインが外出していたら。


帰宅した瞬間。


魔力を失い。


その状態で地震に巻き込まれたら――


「まずい!!」


彼は買い物袋を掴み、全力で走った。


崩壊した家


家の前に着いたとき。


モハメドは凍りついた。


家は――


完全に崩れていた。


周囲の家もいくつか倒壊している。


「キャロライン!!!」


彼は瓦礫を掘り始めた。


(キャロラインが魔力なしでここにいたら……!)


彼は必死に掘る。


潜る。


這う。


すると――


瓦礫の内部は。


無限の迷路だった。


曲がる通路。


折れた梁。


瓦礫のトンネル。


どこへ行っても出口がない。


「キャロラインー!!」


彼は叫びながら彷徨った。


一年。


十年。


二十年。


三十年。


四十年。


五十年。


五十年後


キャロラインとザヒーラが現場に到着した。


「……あら?」


キャロラインは首を傾げた。


瓦礫の中から声がする。


「キャロラインー!!」


「……モハメド?」


彼女は軽く呪文を唱えた。


瓦礫が静かに動き、


迷路の通路が開く。


そこには――


五十歳老けたモハメド。


「キャロライン!!」


キャロラインはため息をついた。


そして指を鳴らす。


魔法が発動する。


彼女はまるで彫刻家のように、


モハメドの細胞を一つ一つ揉み、整え、彫刻する。


老化が逆流する。


しわが消える。


髪が戻る。


体が若返る。


数秒後。


モハメドは元の姿に戻った。


「……助かった」


彼は咳払いした。


そして観念したように言った。


「実は……魔女を弱体化させる薬を作って……」


キャロラインは首を傾げた。


「なんで?」


「君のお母さん対策だ」


キャロラインは少し沈黙した。


そして言った。


「……言ってなかった?」


「何を?」


「お母様、今週はアヌシーでバカンス中よ」


「え?」


「国際芸術祭があるの。

一週間帰ってこないわ」


モハメドは固まった。


つまり。


彼の作戦は――


完全に無意味だった。


ザヒーラはコーヒーを飲みながら言った。


「人間って、時々すごい遠回りをしますね」


モハメドは空を見上げた。


「……本当に五十年も迷ってたのか?」


キャロラインは肩をすくめた。


「ええ、多分ね」


遠くで太陽が、また一度だけ点滅した。

このエピソードを楽しんでいただけたなら幸いです。次のエピソードも近いうちにアップロードします。

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