老冒険者の最後の冒険
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただけたら嬉しいです。
ユリシーズは慎重に周囲を見回し、ザヒーラにだけ聞こえる声で囁いた。
「ザヒーラ……頼みがある。
叔父さんに、人生最後の“大冒険”を味わわせてやれないか?」
ザヒーラは瞬きをした。
「最後……の?」
「うん。叔父さんは若い頃は世界中を飛び回った冒険家なんだ。
でも歳をとって、もうそんなに遠くへ行けない。
だからせめて……心に残る、かつてない冒険を」
ザヒーラは静かに頷いた。
(……ならば、職人としての“贈り物”を)
◆老鉱山への道
三人は、アメリカの荒野に眠る朽ちた鉱山へ向かった。
砂と風の匂い、かすかな油の残り香。
ディエゴ叔父さんは目を細める。
「懐かしい匂いだなあ……昔はこういう場所ばかり歩き回ったもんだ」
ユリシーズはザヒーラを見る。
ザヒーラは軽く頷き、そっと足元の大地に触れた。
(——目覚めて。
あなたの“主”が来たのだから)
◆埋もれた金属音
カン……ッ
鉄の固い響きが土中から返ってきた。
「お、おい……これは……?」
ディエゴ叔父さんは興奮気味に岩を払いのける。
土の下から出てきたのは、巨大な真鍮製の頭部。
その形は、まるでモグラ。
歯車は複雑に噛み合い、鋲と蒸気管が曲線を描く。
十九世紀工業革命の匂いと、見たこともない曲線美が同居していた。
「これは……!」
叔父さんは震える声で続けた。
「誰かの……20世紀初頭の超絶技巧だ!
どんな富豪がこんなものを作ったのか……!」
もちろん、作ったのはザヒーラだ。
だが彼女は何も言わない。
その指先だけが、わずかに誇らしげに震えていた。
◆ザヒーラの魔工芸
――“職人”という祈り
数時間前——
ザヒーラは工房で、真鍮を煮込み、鉄を曲げ、魔力で分子の層を整えた。
「金属よ、あなたの本来の姿を見せて。」
魔法で強制的に形を作るのではない。
素材と対話し、素材の意志を聴く。
“素材が望む形”を形にする。
モグラ形の掘削機は、まさにその結晶だった。
◆甦る蒸気獣
叔父さんは配管を調べ、内部機構を覗き込み、目を輝かせた。
「むむむ……この構造、まだ動くかもしれんぞ!」
レバーを引く。
――ボウウウウウッ!
蒸気が吹き上がり、歯車が回転し、巨大なモグラの目が赤く灯った。
「おおおおお! 生き返った!」
「叔父さん、乗りましょう!」
「もちろんだとも、ユリシーズ!」
ザヒーラは静かに微笑んだ。
(ここまでは予定通り……)
◆地底へ
機械は鉱山の奥へ進み、震えながら掘り下げていく。
古風なスチームパンク機械特有の、
**“ぎこちない効率の悪さ”**が逆に愛おしい。
叔父さんは楽しそうに叫ぶ。
「これだよ……! 若い頃のオレが求めていたのは、まさにこれだ!!」
その瞬間、ザヒーラはそっと目を閉じる。
(では……あなたに、人生最大の冒険を)
◆ザヒーラの秘術:
“直通地核孔”
叔父さんが前方に集中している間、
ザヒーラは指先をわずかに震わせ、地面へ囁く。
「地よ、あなたの中心まで、道を。」
魔力が螺旋を描き、
二十メートル地下から一気に、
地球の中心まで一直線に貫く巨大な空洞が生まれた。
円筒は鏡のように滑らかで、
古代ローマの浴場柱のように均整が取れている。
まさに魔工芸の大工事。
次の瞬間——
ガコンッ!
掘削モグラは空洞に出て、
三人を乗せたまま真っ逆さまに落下した。
「うわあああああああ!?」
「叔父さん、しっかり掴まって!!」
◆地球中心:黄金の海
光が広がり、三人は見た。
――眩い黄金の大地。
――天井も壁も底もない、無限に広がる黄金の大陸。
――太陽のない世界に、金だけが輝く。
ディエゴ叔父さんは息を呑み、震えた。
「こ……これは……!!
21世紀最大の発見だ……!!
オレは……生きててよかった……!」
彼はピッケルを取り出し、黄金の岩へ打ち込む。
カン……ッ
黄金片がはじけ飛び、彼の掌へ落ちた。
「本物の……金だ……!」
その時——
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
地鳴りが響き、金の大地が波打つ。
地殻変動が始まったのだ。
「まずい! このままでは出口の穴が塞がる!」
ユリシーズが叫ぶ。
「しっかり掴まれぇぇぇぇっ!!!」
叔父さんは掘削機を急発進させ、
垂直の“地核孔”を駆け上がり始めた。
蒸気が悲鳴を上げる。
ザヒーラは静かに手を置いた。
(あなたの力を、もう少しだけ貸してあげて)
その瞬間、機械の蒸気流が整い、
歯車の摩擦が減り、出力が二倍に跳ね上がった。
もちろん叔父さんは気づかない。
ただ必死にレバーを握っている。
「行けぇぇぇぇぇぇ!!」
◆帰還
地上が近づいた瞬間、
背後で地殻が激しく閉じ、
轟音とともにトンネルが潰れた。
――ギリギリだった。
三人は荒野に帰り着き、
夕日に照らされながら息を整えた。
叔父さんはワハハと笑い、
ザヒーラとユリシーズの肩を抱いた。
「ありがとうよ、二人とも……
オレは……もう、十分だ。
これ以上の冒険は、さすがにもう要らん。
残りの人生は……ゆっくり休むとしよう」
ザヒーラは微笑む。
その目には、ほんの少し涙が光った。
(おじさん……これが“あなたのための工芸”です)
夕日が三人を照らす。
風が静かに吹き抜ける。
こうして、ディエゴ叔父さんの最後にして最大の冒険は幕を閉じた。
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