魔女、ジーニー、そして地球の中心の秘密
これはこの物語の新しいエピソードです。皆さんに気に入っていただければ幸いです。
その日の午後、ザヒーラはキャロラインの家を訪れた。何やら朝から隣の家が騒がしかったことが気になっていたのだ。
「こんにちは、キャロラインさん。なにかあったのかしら?」
キャロラインはザヒーラの訪問に驚き、そして喜んだ。
「ちょうどよかったわ、ザヒーラ。今夜、夕食にあなたとユリシーズをご招待したいの。母が来るのよ。」
キャロラインの母、アビゲイルは今夜ニューヨークにやって来るというのだ。ヨーロッパの王宮や美術館を優雅に巡る、典型的なスノッブな貴族系の魔女。見た目はまるでキャロラインの姉のようだが、それは彼女が魔法で老化をほとんど止めているからである。
しかし、アビゲイルは「娘が人間の世界に紛れて暮らしている」ことを快く思っておらず、彼女にふさわしい環境を常に求めていた。だからこそ、キャロラインはザヒーラが「魔法を使える友人」であることを見せれば、母の機嫌も多少は良くなるのではと期待していた。
ザヒーラは少し戸惑ったものの、承諾した。
夜になり、アビゲイルが到着した。彼女はヨーロッパで仕立てられたという豪華な衣装に身を包み、まさに「上流魔女」といった佇まいだった。
「おかえりなさいませ、お母様。」
キャロラインは丁寧に迎え入れる。
食卓では、モハメドが渋々座っていた。心の中ではこの訪問者に対する嫌悪感を必死に抑えていたのだ。
――過去にアビゲイルから散々な目に遭わされてきたからである。
たとえば、単細胞生物に変えられたこと。
十万年後の未来に一人だけ転送されたこと。
彼の存在を完全に模倣したクローンが現れ、人生を乗っ取ろうとしたこと。
挙げ句の果てには、邪悪な幽霊に「食べられそう」になったことまである。
モハメドは、もうキャロラインとアビゲイルについて口論する気力もなくなっており、ただ耐えていた。
そこにユリシーズとザヒーラがやって来た。
「……ふむ。自己紹介は不要のようね。」
アビゲイルはザヒーラを一目見ただけで、その正体を見抜いた。
「ジーニー……こんな存在を見るのは、もう1000年ぶりかしら。」
その発言にユリシーズとモハメドはそれらの言葉の意味はわからなかった。
「どういう意味ですか?」
キャロラインとザヒーラは目を合わせて、やれやれという表情。
「説明すると長くなるわ」と、キャロライン。
アビゲイルは語り始めた。
「昔――十字軍の時代、キリスト教の王たちは魔女と魔術師たちの助けを受け、イスラムの指導者たちはジーニーの力を借りていた。あの時代、ジーニーと魔法使いたちは互いに甚大な被害を与えたのよ。」
キャロラインはその話を途中で遮るように微笑んだ。
「でも、もう千年も前の話でしょう、お母様。」
「ええ、でも私はジーニーって種族があまり好きじゃないの。」
そう言って、アビゲイルは皮肉な笑みを浮かべた。
「私の時代では、使用人がご主人様と一緒に食卓を囲むなんて、考えられなかったわ。」
ザヒーラの眉がピクリと動いた。ジーニー=人間に仕える存在、という考え方にイラついたのだ。
だが、ユリシーズが優しく「ありがとう、ザヒーラ。君がいてくれて嬉しいよ」と声をかけると、ザヒーラの怒りは少し収まった。
夕食が終わった頃、アビゲイルが口を開いた。
「私は決めたわ。どう考えても、あなたの夫はあなたにふさわしくないわ、キャロライン。だから、これから私はこの隣に引っ越して、あなたの面倒を見ることにするわ。」
「なっ……ダメだ、それは認めない!」と、モハメド。
「他人の家に勝手に住む気か!?」
「違うわよ。もう買ったの。あの家。」
モハメドは叫んだ。
「お前、絶対にどこかのカジノで魔法を使って不正して金を作ったんだろ!」
アビゲイルは肩をすくめた。
「失礼ね。支払いはすべて金塊よ。」
「じゃあ、その金はどこから!? 政府の鉱山から盗んだのか!?」
「その金は、技術的に言えば誰の所有物でもないわ。人間のものでも、国家のものでもない。地球の核に眠る金よ。」
「……どういう意味だ?」と、ユリシーズ。
アビゲイルは小さく笑った。
「地球の中心部は、純金でできているのよ。人類はその事実すら知らないくせに、宇宙を目指してばかり。」
全員が言葉を失ったまま、夜は更けていった。
家を出る直前、ザヒーラはモハメドに一冊のノートを手渡した。
「……これ、何だ?」
「ページ54を見て。全部書いてあるから。」
不思議に思いながらも、モハメドは後でそのページを開いた。
そこには――
「魔女と魔術師を弱体化させる方法」
人間にも可能な、さまざまな禁呪と秘薬のレシピがずらりと並んでいた。
モハメドの口元に、悪だくみのような笑みが浮かぶ。
「……へへへ。」
つづく。
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