危険です、お母さんが来ます!
これは次の章です。楽しんでいただければ幸いです。
ある朝、キャロラインは夫モハメドのために、彼の大好物である朝食を作ることにした。
愛情たっぷりにお世話して甘やかすつもりだった。
その理由?
――重大なニュースを告げるための、前フリである。
「私のお母様が今晩、ディナーに来るの。」
そう、キャロラインの母・アビゲイルが来訪するのだ。
アビゲイルは年齢を重ねているにもかかわらず、その姿はまるでキャロラインの姉。
というのも、彼女は魔法の力で老化を最小限に抑えていたからである。
アビゲイルはとびきりスノッブなお嬢様系魔女!
ヨーロッパの宮殿や美術館を巡り、時折インドや東京にふらりと旅立つ。
古典文学にも精通しており、ホメロスやヴァージルとは昔ちょこっと知り合いだったらしい(生きてた頃の話)。
ただ――
彼女は、モハメドのことがあまり好きじゃない。
「うちの娘にふさわしくない!」と、陰でプンスカ文句を言っているらしい。
そんなニュスを知らないモハメドが、朝食の香りに誘われてキッチンに降りてきた。
「おおっ!? スピナッチ・パフだ! 僕の大好物!」
彼は目を輝かせながら歓声をあげた。
ちなみに、キャロラインはスピナッチ・パフが大嫌いである。
「ありがとう、キャロライン。今日は何か特別な日だったっけ?」
「別に? ただ、愛する夫を甘やかしたかっただけよ。」
モハメドは怪訝な顔をしつつ、テーブルの花瓶に目をやった。
「ん? ……あれ? 肥後椿?」
「そうよ。」
「わあ……懐かしいな! 最後に見たのは、たしか……キミのママが来たとき……」
その瞬間、モハメドの表情がフリーズした。
「……まさか、君。椿を飾った理由って……」
キャロラインは何も言わずにそっと背を向けた。
「キャロライン! 僕に相談もなしにあなたのお母さんを呼ぶなんて、どういうこと!?」
「ごめんなさい……でも、お母様っていつも突然来るでしょ? 一応、前日にメッセージくれただけマシなのよ。」
二人はしばらく言い争いを始めた。
その声は、なんと隣の家まで届いてしまったのだ。
――ぴくっ。
ザヒーラは窓辺で耳をそばだてた。
「ふむふむ……どうやらご近所さんがもめてるみたいね。」
すると、背後からユリシーズの声。
「こら、ザヒーラ。隣を覗き見るのはよくないぞ。」
「だって気になるじゃない、ご主人様。問題発生の匂いがするわ。」
ご近所ドラマ、開幕の予感――。
この章を楽しんでいただければ幸いです。次の章もすぐにアップロードする予定です。