邂逅
扉を開けると、そこには男がいた。
男は半裸だった。
どうやら着替えの最中のようだった。細身だが、筋肉質な肉体が月の光に照らされていた。その一部分──左の肋骨のあたりには、大きなアザがあった。
……って、何をまじまじと見てるんだ。
「あ、あの、ごめんなさい……」
急いで扉を閉めようとした時、大きな手がわたしの手首を掴んだ。固くて、ごつごつとしている。男の子の指。顔は陰になっていてよく見えない。
「失礼ですが、お名前は」
「え、えっと『のあ』です。沓澤乃愛」
「ノア様──」
様!? と思ったのもつかの間。握った手首をそのままに、青年は大きな身体をかがめて膝をついた。まるでプリンセス映画のように、わたしにかしずいてみせたのだ。
ひざまずいた彼は、なんと──わたしの手の甲に、キスをしてみせた。甘い口づけの温度がほのかに残っている。その温もりには、なぜか覚えがあった。
隠れていた顔が月の光に照らされて、あらわになった。
「貴女のことをずっとお待ちしておりました。我が主君。親愛なるマイレディ。どうぞなんなりと……このラインハルトにご命令ください」
驚きで、声も出なかった。
金髪、そしてサファイアに似た碧い瞳は日本人離れしている。しかしそれを差し引いても、酷似、いや、『完全に一致』していた。長めのまつ毛や、骨ばった手。さざなみのような声までも、本人にそっくりだった。
ラインハルトと名乗る青年。
彼は、わたしの恋人『三上陽斗』の姿をしていた。
「はると……?」
それが、わたしと彼の出会いだった。