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ハルノヒ  作者: ロック
1/1

間違えて連載にしてしまった。ごめん

春日ナオトは、窓際に目を向けた。

青い空を授業という拷問によく似た退屈な時間をしのぐため、ずっと見つめていた。

後ろから数えて2番目、窓際から数えて、2つ目の席にナオトはいた。

そして、窓際にいる少女アスネと彼の目があった。

小さなときめきを覚えたナオト。

2年になって、2ヶ月。

ナオトがひとりのクラスメートを女として意識した瞬間だった。


こうしてひとりの"女"を意識していると、ランチタイムに突入していた。

ナオトの妄想癖は、時間を忘れさせる。

彼の唯一の強みはたとえ、現実が伴っていなくても、妄想だけでお腹を膨らませることができることだ。


もし、アスネと…何かあったら。

そんなことを思いながら、ソーセージマフィンを口にしながら、フランスの本である「Voyage merveilleux du prince Fan-Férédin dans la Romanci」を引き出しから取り出す。

ロマンシアと呼ばれるPC88で発売されたゲームの元ネタとなった小説。

日本語訳はされてないから自力でスマートフォン片手に翻訳作業を行なっていた。


「ええっと……

ええっと?F神の恵みによるルイ

フランス王とナバラ:

私たちの魂に

Cours de Parlemcns、マイエ

ホテルの終わりに……?なんだこれは…読めない!!!」

Amazonで買ったこの小説。

多分このゲームの作者でさえも読めてなかったと推測できる。

ただ、ファンタジー小説図鑑のようなもので、タイトルだけ知って、そのまま「ロマンシア」になったのだろうと推測できる。


…しかし、じれったい。完全に機能しない翻訳サイトに苛立ちを感じる。

ナオトはなんとかして、読んでみようと、試行錯誤してると、アスネが彼の肩をポンを叩く。


「よっ、天才児くん…ってわけじゃないか。

どれかしてみ?」

彼女は、ナオトから本を奪い、ペラペラとVoyage merveilleux du prince Fan-Férédin dans la Romanciを読み上げる…フリをしていた。


「ごめん、やっぱわかんないや」と、ナオトの机に置く。

彼女はナオト興味を示したようで様々な質問をした。


「ねえ、なんでこんな分厚いフランス語の小説を読んでるの?」

ナオトはこの回答がたとえ正しくなくても偽る必要がないので答えた。


「1986年にPC88で発売されたロマンシアというゲームが好きでねぇ。

まぁ、その後のソーサリアンもイースもドラゴンスレイヤー英雄伝説もやったんだけどさ、BGMに暖かみがあるのは、ロマンシアでして、そのロマンシアの」

すると、アスネが口を挟んだ。

「うわっオタクかよキッモwマジねえわwワロタw陰キャ乙」

「じゃあほっといてくれよいじめに来たのかよバーカバーカ」


すると、クラスの男子三浦がアスネに声をかける。

「なぁ、なにこんな奴に構ってんだよw

あっちいこーぜ」

「三浦待てや。」

アスネは三浦の後を追いかける。


また1人になった、ナオト。

気にしない。

ナオトは、次に比較的読みやすい日本語訳された「地下室の手記」を取り出した。

主人公に共感しかできない彼。

僕も彼のようにずっと引きこもれたらなぁ…と理想を描いていた。


ナオトの将来の夢はニートだった。

何もしたくない、人と関わること、交わることの痛みを誰より知ってる彼は、ライトノベルやドラマ、映画などを好まず、分厚い書籍を好んで読んだ。


結果彼の友人は0人。

恋愛経験も0、ついでに童貞でかつ、AVを見たことがなかった。

時間が許すなら、レトロゲームとドイツ、フランス、ロシア文学と聖書とコーランと神話に時間を費やしたかった。

しかし、「何もしないニート」になるという選択肢は彼にはない。

たとえフリーターであっても働かねばならない。

生きていくことは辛いなぁ…と彼は読書を続けた。

ずっとかんな時間が続けばいいのに…彼は独りごちた。


こうしてやってきましたアフタースクール。

彼は寄り道をせず、「指輪物語」を読みながら家路にたどり着くと、アスネがいたわけであります。

「やぁ……君」

僕はアスネに声をかけた。

「うわ、めっちゃインキャっぽ」

「ならなんで俺っちに声をかけたんだよ」

「寂しそうだったから」

ナオトは心の中で(陽キャの発想というやつか。

陰キャは"可哀想なやつ"だという偏見、いや、屈辱だ!私を見下しているのか!この低俗な凡人め!!!!)と呟きながらアスネの顔を見つめた。


あ、可愛い。

ナオトのタイプであったアスネのその顔を彼はまじまじと見つめた。


「何キモいんだけど死ねw」

アスネは逃げるように僕から去っていった。

「そうか、僕はキモいのか」と、ナオトは、スマホのカメラ越しに映る自分の顔を見つめた。

「ああ、不気味だ、私のような化け物がなぜこの世に生まれたのかわからない!世界は絶望に満ちている!!!!!」


彼はスマホで聖書のヨブ記を読みはじめた。


こうして、帰宅後、ナオトはツイッターを開くと、多数の人間からブロックされてることに気づく。しかも全員クラスメートだ…

いわゆるリア垢というやつだ。

そしてめちゃくちゃ「いいね」をしてくれた佐藤浩一郎でさえも彼をブロックしていた。


「いいね」=私の投稿に対する愛だと思っていたが、私の投稿の何が悪い!!!!!

私の投稿は、たしかにニーチェやショウペンハウワーの引用やヨブ記の引用が多めだが、なぜそれがダメなのだ!

私という崇高な人間の価値がなぜわからぬ!やはりクラスメートは、みな豚舎にいる家畜のようにしか思えない!

この低俗なぼぼ凡人め!!!

私ら何一つ間違ったことを言ってない。

それを証明するためには、クラスメート数人に証明してもらう必要がある!!とナオトは、内心を全てツイートし、クラスメート数人に電話をかけるものの繋がらない。

気がつけば、クラスのライングループから退会させられている。


「私は、何一つ悪いことをしてないのにも関わらず貴様らは何もわかってない」

と、彼は愚痴をこぼし、スマホを投げつけた。

彼は自室でカップヌードルをすすっていると、ある人間から着信が来ていた。


神谷アスネ…

彼女はどうやら勝手にナオトのラインを追加していたらしい。

多分、グループから追加したのだろう。

「なんだよアスネ」

「おまwwwほんと嫌われてるよなww

しゃーねぇなぁ、私がそばにいてやるよバーカwww」

ナオトはアスネに少しだけ甘えた。


「アスネ…ごめんね。好き」

「いきなりかよwきっしょ!!」

「ごめんなさいもうしません」

「誠意が伝わって来ねえんだよてめえの謝罪からは」

「ほんとにほんとにごめんなさい」

焦り出すナオトの手が震えだした。

急いで頓服の精神安定剤を手にする。

「うぅ……」泣き出すナオトを通話越しから微笑むアスネ。

「ごめんって冗談だって」

「どうせ、そうやってまた僕をいじめるんだ!低俗な凡人はいつもそうやって僕をいじめることで自身の劣等感を補おうとするんだ!

このやろー!僕は何もしてないのに!」

「あのさ。」とアスネは、重たいトーンで挟んだ。

「なんだよ」

「私をその"低俗な凡人"って呼ぶのやめてもらえないかな。不愉快なんだよね。そりゃああんたがインキャ中のどインキャだからしょうがないんだろうけど、あたし、あいつらと一緒にすんのやめてくれるかな!」

「ごめんなさい」

「ほら、そうやって私が強い口調で言うと、謝ることしかしないじゃん!バカ!!!」


こうして、電話が切れた。

ナオトは、スマホを握り、涙を流した。

「女というのはわからない」


こうしてナオトは、アスネのタイムラインを見つめる。

可愛い顔だなとメディアツイートから彼女の顔を見つけてはいいねをすると、突然ツイートが表示されなくなった。

ブロックされたのだ。


ナオトはその晩泣き明かした。

手元にある、精神安定剤ををオーバードラッグして、なんとか翌朝を迎えた。


彼は病んだいた。魅力のない人間はだ。

彼は、肝臓が悪いのだと思いこんでいた、

しかしである、彼は自分の病気についてちっともわからないし、どこが悪いのやら確かなことは知らない。


彼は医学や医者を尊敬しているとはいえ、彼自身はいままで治療を受けたことがなかった。母親の精神安定剤を盗んでは飲んでいる生活を続けていた。


そのうえ、彼はまた極端なまでに迷信深い。なに、少なくとも医者を尊敬するぐらいだから。彼は迷妄に憑かれぬよう十分教育を受けたのに迷信深いのだ。


ヒステリックな母親から薬を盗み続けた結果、彼は何度も病院に連れて行かされかけたものの、そのたびに彼は母親から逃げ出していた。


彼はもう長いこと生きている。彼は16だ。以前(中学時代)は、友人と迎合することに必死だった。無礼にふるまい、なんとか迎合できているかのように思い込んでいたが彼はいじめのターゲットになった。


彼は迎合をやめた。

こうして自身の殻に閉じこもり、文学とゲームと特撮ばかりに精通していた。

彼の当時のヒーローは「アイアンキング」、「スペクトルマン」、「レインボーマン」、「コンドールマン」、「大鉄人17」に、「電撃戦隊チェンジマン」だ。


その日は、レインボーマンの気分だ。

彼は旧式のiPodでレインボーマンを聴きながら登校していた。

ベーコンと目玉焼きを挟んだ食パンを口にくわえながら(ラピュタパンというやつだ)、彼は登校したのであった。

すると突如、彼の抑うつが始まる。

死にたい死にたい死にたい!!!

地面が歪み始める、それと同時に吐き出した。なんとか、薬を手にしようとバッグのチャックに手をかけようとするが、痙攣でうまく、チャックがつかめない!

こうして、異物を吐き出し、彼は倒れ込んだ。


ナオトが目覚めた時、彼はアスネの家のベッドの上にいた。


「あら、大丈夫?ナオトくん」

そういうのはアスネの母親らしき人間だった。

40代後半だろうが若作りしているようにも思えた。

「アスネがね、倒れてるナオトくんを担いで連れてきてくれたの。

ナオトくん、あとで病院行ってらっしゃい?」

ナオトは答えた。

「医者は嘘つきだ。医者は傲慢だ。

私以外の人間はみな低俗だ、誰1人信じない、あと薬…」

ナオトはリュックサックから精神安定剤を取り出した。

「すみません、おばさん、、、水ください」

アスネの母らしき人は心配そうにナオトの顔を見つめた。

「ナオトくん、もしかして、心療内科に通ってなさるのかしら。」

「いや、母親の薬を持ち出してる。

てか、飲んでないとやってられないんだよクソが。

……辛いんだよ俺は俺なりに」

「あらあら、若いのに大変ねえ」

「私は何一つ間違ったことを言ってない」

「じゃあどうしてみんなから嫌われるんだろうね」

「そうなんだよそれだけが不思議なんだよ!」


こうして、ナオトは学校に行くために立とうとする。

しかし、平衡感覚が歪み、彼は倒れてしまう。

「無理しちゃダメよ!」

そして、ナオトは再度眠りにつき、目覚めると、午後5時であった。

そしてアスネが帰宅する。

「あ、ナオト、目覚めたの?心配してたよ?お母さん、なんで彼病院連れてかないの?」

「だってすごく嫌がるもん」

「私は病人じゃない!!!

私は…崇高な非凡人である!!!」


アスネは、彼の額に手をつけた。

「やだ、熱あるじゃない!」

「えっ!」とアスネの母も、ナオトの額に触れた。

「えー!!!」


こうして、ナオトはアスネに病院に連れて行かされ、治療を受けることになった。


「どうしてここまでしてくれるんだよ」

「だってそりゃ…クラスメートがこんな状態になってたら心配じゃん?」

「アスネ、ありがとう」

「んん、、、」


ナオトは初めてアスネに笑顔を見せた。

「ナオトも可愛いところあるじゃん!」

ナオトはアスネに言った。

「アスネより可愛い人はいないと思ってる」

「バカ照れるじゃん」

「ずっとそばにいて」

「良いよ」


ナオトはアスネに敬愛の意が込められた接吻をした。


それからしばらくは、登下校を共にする仲になった。

しかし、ある日を境に突然アスネが来なくなった。

ナオトは、不安で胸が押しつぶされそうだった。


そして、彼女が学校を休んでから3週間が経った頃あたりにナオトは、アスネの家を訪ねた。


どうやら、アスネは入院しているらしい。

衝撃な事実だった、今までずっと元気だったアスネが入院なんて…

ナオトはアスネの母に、病院の場所を教えてもらった。

どうやら市での総合病院の3階らしい。

ナオトは、急いでチャリを飛ばし、入院しているアスネの元へ向かった。

ベッドの上で横になってる、アスネは優しい瞳でナオトを見つめる。

アスネは完全に痩せ細っていた。

「ナオ…くん。」


寝不足なのだろうか、目元にクマがある。

「アスネ…」

「ごめんね、ナオトくんのそばにいるって決めたのに」


それから病院での生活を聞いた。

治療はどうやら上手くいってるようで回復に向かってるようだ。

あと、4ヶ月ほど入院すれば治る!とアスネは、希望に満ちた笑みを浮かべ、ナオトに語っていた。


しかし、そんなに現実は甘くはなかった。



ナオトがアスネの退院の日を待ち望んでる中アスネは、スマートフォン越しに母と通話していた。


「ねえアスネ、良いの?あんな嘘ついて」

「お母さん、良いの。だって、ナオトくんには、ナオトくんの人生があるの。

これから死んでいく私のことを気にかけて欲しくないの。」

「ねえ、アスネ…」

「お母さん、ごめんね。こんな体に産まれちゃって。迷惑ばっかりかけちゃってごめんね」

「アスネ…謝らないで。アスネは何も悪くないの」

電話越しでアスネは泣き始める。

「お母さん、強がってばかりだけど、本当は怖いの。

死んだらどうなるんだって考えるだけで…

震えが止まらなくなるの。

お母さん小さい頃聞かせてくれた子守唄聞かせてよ…」

通話越しの母の声も涙に潤いが出てきた。


「お母さんまで泣かないでよ」

「だって…アスネ。」

「2学期の終わりまでは生きれるってお医者さんも言ってたんだから…

きっと…大丈夫よ」

「でんでんころりろ

ころりこころり 夜更けのとろりこ とろりこ…

眠りのとろりことろりこ」

「ママ…」

「アスネ…」


翌朝

ナオトはノートに参考書、筆記用具と沢山の本を詰めて学校向かっていた。

道中ラインの通知が響いた。


「7月25日、私とデートしませんか?」


それは、アスネからだった。

ナオトは、喜び、道端で下手くそなダンスをしていた。


ナオトが授業をしたり、最近始めたピアノをしている間、アスネの体調は徐々に悪くなりつつあった。

容態が悪化しないように、リハビリテーションを続けたものの、7月の頭、彼女はついに自力で立てなくなった。


こうして、彼女は車椅子での生活が余儀なくされた。

ナオトは週末に必ずお見舞いに来た。

なるべくアスネは、ナオトに笑顔を振りまいた。

ナオトも彼女の笑みを見つめ、安心感で満たされていた。


こうして、やってきた7月25日のその日。

アスネは一時的な外出が許可され、車椅子で久々の街へと出向いた。

「太陽の光って気持ちいい!」

アスネは伸びをしながら、"どうして、車椅子に乗ってるのか"という言い訳を考えた。

そして、考えた結果"薬の副作用"を言い訳にしようと思った。


こうしてアスネがデートの待ち合わせをした、川ノ島ヶ丘駅へ向かう途中、信号機が青になったのを確認し、交差点を渡ろうとする。

途中彼女の眼前に、猛スピードで突っ込んでくる白い自動車が写った。


その白い自動車のタイヤ部分は、アスネの血で染まった。


その頃ナオトは日が暮れるまでアスネを待った。

何度も電話をしても電話が繋がらない、アスネ宅の固定電話にも…つながらない。


さまざまな不安が頭をよぎった。

翌日、学校を休んだナオトはアスネ宅へ赴き、何度もドアベルを鳴らしたものの、しばらく何の声も聞こえてこなかった。


しかし、何回も押し続けてると、化粧の剥がれた、アスネの母がドアを開けた。

「ナオトくん…」


アスネの母は、ナオトをアスネが入院していた病院に連れて行った。


アスネのベッドには、顔面に打ち覆いのかかったアスネの姿があった。


「おい、アスネ、、、俺だよ?どうしちゃったんだよ!!」

「ナオトくん、ごめんね。」

「アスネ…アスネエエエエエエ!!!

どうして…どうして…!!!」

ナオトはアスネの腕を強く握った。

近くにいたナースは重たい声で呟いた。

「ナオトくんに…会おうとしてる道中でした。それはひとたまりもなく…彼女は、白い自動車に…」

「やめて、看護師さん…」とアスネの母、

そしてアスネの病室付近のベンチには、アスネの父らしき中年男性がいた。


すると、中年男性は、ナオトの襟首をつかんだ。

「お前が!!!!アスネを殺したんだ!!!」ナオトに強く怒鳴った。

すると、医師、ナースが彼を抑えようとするも、振り飛ばされた。

「やめて!お父さん!そんなことしてもアスネは帰ってこないのよ!!」

「うるさい!!!!」

中年男性は、ナオトの頬を強い握り拳で殴った。

「てめぇ!やりやがったな!!!!」

ナオトは、アスネの父の顔めがけてパンチを繰り出す。

「やめて、、、こんな子供に…」

泣き崩れるアスネの母。


その後、乱闘中のナオトとアスネの父に向かってひとりのガタイの良い中年の医師が2人に向かって走った。

そして、最初にアスネの父の鳩尾を蹴り、その後ナオトに投げ技を繰り出す。


「他の患者に迷惑がかかる。

乱闘は外でやってくれ」


こうして2人は気を失った。

目覚めるとナオトは、病室にいた。

「いって…本気でやりやがって…」

アスネの母はナオトに語りかけた。

「ごめんなさい…パパも…その現実を受け入れきれなくて…」

「……すみません、、僕も」

すると、アスネの父が入ってくる。


「おいてめ!」

「すまねえ…」

アスネの父はナオトの前で土下座した。


「俺の愛しの娘が…死んだことが…受け入れられなくて…」

「それは…」

「お父さん……」


落ち着いたところで、先ほどの医師が状況を整理して話し始めた。


それは、75歳の高齢者ドライバーが運転している途中、疲れから不注意になり、猛スピードで走っている最中、ブレーキを踏もうとしたが、その直前に意識を失いそのまま、アスネに衝突し、その後電柱にぶつかり車は大破し、ドライバーも救急搬送されたが、そのまま息を引き取ったらしい。


状況が飲み込めないまま、ナオトは病院を後にする。


こうして、ナオトは、休校することにした。

唯一のモチベーションだったアスネを失ったことで無気力に陥っていた、ナオト。

ナオトは、何度も夢の中でアスネと再会している。


こうして、学校に行かなくなって2週間が経った頃、アスネの父がナオト宅を訪ねる。


「ナオトくん。以前はすまなかった」

「いや、僕も…すみません。」

「少しきてもらいたい場所があるんだ」と、アスネの父はナオトをある場所へ連れ出した。


それはナオトとアスネがよくデートした公園だった。


公園の自動販売機にたどり着くと、父は、「飲みたいもんあるか?」とナオトに尋ねる。

「コーラで」と答えると、父はメッツコーラを2本自動販売機で購入。


そして、ナオトと父はベンチに座り込むと、父はアスネとの思い出を語り始めた。


生まれてから……学校生活が始まる頃に至るまで、さまざまな話をナオトは、聞いた。

「アスネ…小さい頃から勤勉なやつでよ…

もう3歳ぐらいから英語に興味を示していた。小学校に上がる頃には、フランス語やりたいなんていい初めてよ…」

そして、ある程度話し終えた後で、ナオトにアスネから預かった手紙を渡した。

「読んでくれや」


これは遺書だった。


ナオトは恐る恐る封を開いた。


「ナオトくんへ


これを読んでる時には、もう私はこの世にいません。

驚かせてごめんね、まぁ、言ったら言ったで、ナオトくんに迷惑をかけちゃうと思ってさ…

私がいなくなったらさ、心配なことすごくあるんだよ。

ナオトくんめっちゃ暗いじゃん。

人に心を開こうとしないじゃん。

でも、ナオトくんが私に心開いてくれたとき、やればできるじゃんって思ったのよ。


ナオトくん、私以外の人間はきっと信用できないと思うんだけどさ、関わってみると、あのクラス良いやつばっかだよ?ナオくん恵まれてんだよ。


だからさ、私と約束して欲しいの。

まず、登校したらまずクラスメートに挨拶して欲しいの。

無視されることもあるかもしれない。

でもあいさつは基本よ。

それと、どこかしらの部活に入って欲しい。

ナオトくんは、高スペックなんだし、もっと自信持って色んな人と交わって欲しい。


それと、ナオトくん。

……ずっと好きでした。

……一眼見た時からずっと。もっと素直になれば良かったね。ごめん。

でもナオトくん、いつかは、さ、いつかでいいんだけど。

新しい恋して幸せな家庭を築いて欲しいな。

…私のためにさ。

私に尽くそうとした分、新しく出会う誰かに尽くして欲しい。


…長くなってごめんね。

ナオトくん、でもまたいつか会えると思うの。

…その時まで私待ってるから!

私に会いたいからって自殺すんじゃねーぞ!


じゃあな!


アスネより」


ナオトは手紙を強く握り嗚咽した。

「アスネぇ…アスネエエエエエエ!!!」

ナオトは帰ってこない友達のの名を空に向かって叫んだ。


それから、実に30年が経った。

ナオトは、ベストセラー作家になっており、常に締め切りに追われていた。


「ねえあなた、そろそろ寝たら?体壊すわよ」と妻のサオリがナオトの体を気遣った。


「サオリ…もう少しで書き終えるんだ。

僕と…アスネとの全ての思い出が詰まった…この作品が…」


そして、書き上げたそのタイトルは———


「ハルノヒ」



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