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マンホール

 人は夢を見るとき、ぐるぐるとうずを巻くように想像をスライドさせる。そこにはストーリーもあるのだが、飛び飛びであることがほとんどである。しかし納得できてしまうのもまた事実であり、目覚めると下水管へとその想像は流される。


 夢というのは一日の終わりを迎えたときに排出される便のようなものであって、我々は下水管の出口を知らないのだ。



 「ねえ、下水管の出口ってどこなの?」


 ピンク色に塗られた唇を動かしながら、明海(アミ)紅路(モミジ)に呟いた。


 紅路はスターバックスの透明なカップから滴る水を見つめてから、首を斜めに傾けて黙っている。


 「ほら、ネズミがうじゃうじゃいてさ、ワニみたいな動物もいるみたいな。普段私たちのいう川が光属性なら、闇属性みたいな川。その川ってさどこにつながってるのかすごく気になるの」


 ますます困った様子で、紅路は息を多く出しながら答える。


 「きっと、とってもくさーい海だろうね。大腸菌を食べるナマズやらがうじゃうじゃいて、キノコの生えたワニがたくさんいるんだ」


 「素敵、御伽噺みたいね。そこまで暗いのじゃないけど、マンホールの蓋を開けると不思議な世界が広がっていそうな道があったっていう夢なら見たことあるわ。はしごみたいになってる鉄のでっぱりを降りると、濁った川に紫と黄色が混じったコイが泳いでいるの。私が歩くと、コイもスイスイって私に歩幅を合わせて動くのよ。そのコイがおもろしくって、ずっとそればかり見ていたら、20センチくらいの高さの草が生い茂ってて、透き通った川が流れてる紫色の空をしたところにでたの。綺麗だったわ、とてもね。でも目覚まし時計に邪魔されてそれきりよ」


 明海は溜息をついて紅路を見た。


 「下水管が気になるのってその夢を見てから?」


 「そうよ、二ヶ月くらい前だったわね。ずーっと忘れてたんだけど、そのサツマイモのラテを見てたら思い出したわ」


 「マンホールじゃ思い出せないの?」


 「そうね、多分見る機会っていうのはたくさんあったと思うけど、気付いたのは今回が初めてよ」


 紅路は紫色の液体を眺めて少し考えこむ。


 「やっぱり紫色かしらね。スタバのラテの色が一番しっくりくるのよ」


 「下水管を見たときの色って考えると、あまり飲みたくないね」


 「じゃあ、私にくれる?」


 「そういう訳じゃないんだ」と説明しながら、ストローでサツマイモのラテを飲みきると白いスニーカーをパタパタ動かして口を開かずに歩く。ばかばかしいとは感じながらも、僕も似たような夢をみたことあるんだと紅路は考えている。しかしそれは10年も前の話で、ちょうど八歳になるかならないの話だった。けどそれはそのくらいの男の子ならだれでも考えるようなことだろうし、別に不思議なことではないのだが、その夢を思い出そうと必死になっているのだ。


 「やっぱり変な話だった?」


 「少しね」


 「だよね」と明海は気まずそうに返事をし、地下鉄の入口の前で紅路に手を振って彼らは別の方向へと歩き出す。

 

 

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