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魔王が可愛くて仕方ない勇者の話。  作者: 新村 蒼
俺が【魔王】と剣に出会う迄。
9/9

撃退

俺の体は俺から搾り出された魔力で炎が漂っていた。

その炎は俺の背中を俺の詠唱で思い切り加速させる。

「火炎魔法・火炎豪速(フレアドライブ)!!」

茂みから抜け出た俺はそのまま低空飛行を保ちながらジジイの頭を鷲掴みにして遊んでいるふざけたピエロへと一直線で向かう。

「そこをどけえ!!」

俺の纏う炎は俺の魔力を吸ってより一層肥大化する。

そのまま俺は剣身に炎を一気に圧縮させる。

それと同時にピエロに肉薄した俺は足を前に出し、進行方向とは真逆の炎を足の裏から噴出させる。

それを踏み込み足として俺は一気にピエロへと振りかぶる。

「火炎魔法・火炎断剣(フレアブレイド)!!」

ピエロが何か感じ取り、バリトンから手を離し、んひょ?というと俺の方に目を向ける。

それと同時にピエロの姿が空間に溶け込むように消える。

俺の全力の一撃は何本かの木を消し炭にしながら地面へと深く切り刻まれる。

大木が何本も折れて倒れるために森から唸るような音が響き渡った。

どこに?とピエロの姿を探していると背後から強い衝撃を感じた。

その勢いのまま体が先程の斬撃方向へと吹き飛ばされる。

「ぐ、あっ」

先程の斬撃で切り払われているため体は何の抵抗もなくとんで勢いよく遠くの大木に体を打ちつけた。

「なんだ?なーんだ?ハエが一匹。焦げ臭いハエが一匹。オデに勝てると思うその粗末な脳みそに制裁をおお!」

そう叫ぶとピエロは怒鳴るような詠唱をする。

「次元魔法・次元接続門(コネクションゲート)!!!」

ピエロの口から怒号が飛ぶと、俺に大きな影が落ちる。

上を見ると、山の一角でも削り取ったのではないのかと思えるほどの巨岩が浮かんでいた。

いや落ちていた。

「くっそ、が!!」

俺はその巨岩を目に収めると体ごと火炎魔法で吹き飛ばして何とか回避する。

周りを木の破片が飛び交い、土煙が周りを埋め尽くした。

煙が目に入らないように手で遮る。

煙が晴れると、眼前にはピエロがいた。

その巨体は蹴りをしていて…。

「うっごあ!!?」

信じられないほどの圧力を腹に受けながら自身の体が吹き飛ばされる。

何度目かわからない視界の混濁と衝撃が自信を襲う。

かなり遠くまで吹き飛ばされたはずだった。

何本か木を押し飛ばして、俺の体はやっと止まった。

息が吸えない、体が動かない。俺の体は許容できるダメージ量をとっくに超えていた。

一発目の殴りはかなり様子見だったのだろう。

二発目の蹴りに比べれば子供騙しもいいところだった。

「ンフンフンフフン」

あいつの鼻歌が聞こえる。

軽々飛んだ俺の体にすぐさま追いつく様子でわかった。視界にこそ入らないが、あいつは近くにいるだろう。

こいつは時空間を操作することのできる魔法が使える。しかも相当の練度で。

時空間に作用できる魔法は時空魔法と次元魔法だ。

時空魔法を極めたものがたどり着く上位魔法が次元魔法。

基本は時空魔法と大差ないが、操作できる質量の大きさや、操作性が比べ物にならないほど上昇している。

基本的な魔法理論や仕組みは変わらないがその進化とも言える変貌のために、それら二つの魔法は全く同じようなものには見ない。

その上位魔法を使いこなしてる時点で、相当。

俺も火魔法の上位魔法である火炎魔法が使えるが、当たらなければ意味はない。

操作性という部分では相手の方が上だ。火炎魔法だって十分次元魔法に対抗できるが、完全に俺の実力不足だった。

「…火炎魔法なんて、幾年ぶりに見たことか…」

ピエロが先程までの飄々とした感じをかなぐり捨ててしゃべる。

「でもでもでもお、使い手がこれでは…宝、宝の持ち腐れもいいとこお…」

煙の中であいつの姿はまだ見えない。

俺は何とか体を起こそうとして右手を地面に突き立て…

「ぐっ!?…なんだ?」

痛みの走る右手を確認するとそこには赤い裂傷があった。

「…なんだこれ?」

そこには剣があった。 

剣が俺のぶつかった大木の根と交差するように地面に突き立てられていたのだ。

鏡のように光を跳ね返すその銀鏡の如き剣身は俺の顔と、背後のピエロを映し出した。

俺は迷いなく剣を取る。

何かこの状況を打開するものが欲しかった。それが試せるのは今の自分にまだうごえる体力のある今でしかなかった。

剣の使い方は、剣が教えてくれたような気がした。

何か言葉があったわけじゃない。けれど確かに剣がどのようなものなのか俺にはわかった。

だから…

「次元魔法」

ピエロが驚く。自分と同じ次元魔法を使えるわけがない、と。

だがそれは確かに次元魔法だった。

時空断絶(ディア・バルダ)!!」

空間そのものが歪み、絶たれる。

俺が剣を振った方向に4メートル先まで面として次元を歪ませる斬撃の軌跡が瞬く。

ピエロは何とかそれを回避しようとして、次元魔法を使ったが、俺が使うのは相手と同じ次元魔法。

そして俺の次元魔法は、あの相当な操作性を誇るピエロよりも上位だった。

俺の次元を歪ませる斬撃はピエロの逃げる隙すら与えずその丸々とした体を真っ二つに捻り切る。

「グッ!?っがあああああああああああ!!」

ピエロから焦りや怒りの感情をむき出しにした咆哮が発せられる。

俺の斬撃はピエロを紙切れのように切っただけでなく、木々たちまでもをあっという間に切ってしまった。

空間の強制的な歪曲によって生じた摩擦熱によってあたり一帯に焦げ臭い匂いが立ち込める。

木々の断面に目をやると、少し煙が出ているようだった。

しかしピエロもこれでは終わらないようで…

ピエロは徐にガラス瓶をどこからか取り出すと中身を体にふりかけた。

それは学のない俺でも、冒険者ならば知っている有名なものだった。

(最高級のポーション!?あいつあんなの持ってたのかよ!!)

ピエロの断面から飛び散った血は体に戻っていき、ピエロの体からは浄化の光が閃く。

光が収まると、ピエロの体には傷一つも残っていなかった。

「用意周到とはまさにこのこと…」

ピエロのおちゃらけた喋り方は一切そこには残っておらず、少しばかり古風な喋り方になっていた。

「…それは、神剣……?なぜ…?いやしかしその風格は神剣そのもの。これはこれは…」

ピエロは考え込んだように喋らなくなってしまった。

しかし、この隙を逃すほど俺はバカじゃない。

確実に相手を殺せる瞬間を見逃すほど甘くあのジジイに躾けられたわけじゃないんだ。

「次元魔法・強制歪曲ディ・バーダ!!」

この技は対象の時空間内に強制的な歪曲作用を俺が魔力を使って発動させ、時空間内に元の空間に戻ろうとする強烈な弾性エネルギーを保持させる。そしてそれを対象方向に向けて放出すれば、俺以外は認知することすらできない超強力なエネルギー弾が放たれる。

しかし、ピエロは驚きの行動を起こす。

ピエロの手元に向かって今放った魔法がみるみるうちに吸い込まれていき、俺の魔法は不発していた。

ピエロにはいつの間にか手鏡のようなものが握られていた。

「【鏡の魔法庫(エル・ルージュ)】起動。反響リフレクション極光迅雷メテオ・ザララーク

鏡に問いかけピエロが発動させたのは、雷魔法の上位魔法、雷豪魔法の極大魔法だった。

極大魔法とは、その魔法においてレベル10で獲得できる詠唱魔法のことである。

上位魔法の極大魔法その威力は辺り一体の森を消しとばすなんていう生ぬるいものではない。

「…街まで…届く……。」

不意の俺の呟きに答えるかのようにピエロは言う。

「すまない、ここまでやる気はなかった。…がそれは見逃せない。それは我が主人に献上する。」

俺の先ほど拾った剣にひどく執心している様子でピエロは淡々と語った。

つまり、ここ一体を吹き飛ばしてでもこの剣は見逃せないと言うことだった。

まずい。次元魔法には極大魔法はない。

これは次元魔法を使う今よりも前に知識として知っていた。

次元魔法のような特殊な魔法の一部には極大魔法が存在しないものがあると。

でも、できるだけのことをするんだ!!

「次元魔法・時空神召喚エグ・アル・バルーザ!!」

今の俺には確信があった。俺は次元魔法をレベル10まで使える確信が。

それは信用するには足らないかもしれない。けれどここで何もやらないよりは…!

そうして驚きながら俺はレベル10の次元魔法の詠唱をしていた。

詠唱というのは、当の魔法を使える本人にしかわからない。

それがどのようにわかるのかは何とも伝えづらいが、こう直感で理解できるという感じに近い。

一方下位魔法の詠唱は使用人口が多いために知られていることもある。

しかし、特殊魔法の上位魔法系の次元魔法の詠唱となるとほとんど誰も知らないだろう。

ましてレベル10の魔法詠唱なんて。

そうして俺の前方には悍ましい雰囲気と共にここ一帯を歪ませるような異空間の入り口が目の前に開かれる。

その大きな入り口は辺りを白く輝かせていた極大魔法を全て吸い込み、音もなく入り口は極大魔法を吸い込んでなくなる。

ピエロはその様子を見たのだろう。

何か呟いていた。

「…なんだと…?これすらも、か?」

するとピエロは高らかに元の調子を取り戻したかのように叫ぶ。

「オヒョヒョヒョ!ここは仕方なし!!さらばあぁぁ!」

そうすると声ごと吸い込まれるようにそのピエロの姿は跡形もなく消えた。

「くそっ、ここで行かせるか!!」

そう踏み込もうとして、俺は地面を踏み外した。膝に力が入らなかったのだ。

そして、俺は自身の魔力が枯渇していることに気付いたところで意識を失った。

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